1999年10月19日(火)訪問 青山学院(通称:青学)は幼稚園から大学・短大まで備える総合学園で、受験勉強に追われることなく、上級の学校に進むことができること、キリスト教に基づく人間的な教育が展開されていることなどが評価されている人気校である。中学入試では最難関の2教科校で、特に女子の受験生、保護者にとっては「最高の学校」のひとつとして目標とされる。近年は中学入試での進学校への人気が高まり、付属校は軒並み入試の難度が下がっている状況の中でも、その地位は揺るがない。また、2002年から2科4科の選択入試への移行が発表され、今後の動向も注目される。 高中部副部長(中等部校長相当)布施英俊先生、教頭奥津光佑先生にインタビューした
ほくしん 中山秋子

「指導の上では苦労はない」

(中山)
布施先生は青山学院にいらっしゃってから長いのでしょうか。
(布施先生)
もう30年になりますね。
(中山)
先生の目から青山学院の特色を語られるとすれば、どのような点でしょ うか。
(布施先生)
承知のように青山学院は幼稚園から大学・短大までを持った総合学園で す。中等部でも生徒は大学まで進むことを考えて入学してきます。 各段階で独立して、キリスト教の精神に基づいた教育を進めるていること です。中等部でも、ひとりひとりの生徒が何かをつかんで高等部に進んで いけるように努力しています。
(奥津先生)
システムの点でも、中等部の責任者である副部長も、教員の推薦を受 けて学園が任命します。これは独自のものでしょう。
(布施先生)
中等部は付属校ではありません」と言うんです。 付属校の場合、上の学校に進む生徒が多い少ないに関わらず、校長は大学 から来ている場合が多いはずですが、現場をよく知った者が責任者になる のが青山の特徴です。
(中山)
大学との関係はどうなっていますか。
(布施先生)
高中部全体としては、高3から大学に進むときに進学先を決めるときに、 学部からの要望があることぐらいでしょう。 人気のない学部から「良い生徒を送ってほしい」(笑)という希望がある くらいですね。
(中山)
指導の上でのご苦労も多かったのではないかと思いますが。
(布施先生)
不思議と苦労はないですね。平和な学校という印象です。
(中山)
平和な学校というのは、どのようなことが原因なのでしょう。
(布施先生)
キリスト教の精神に基づいた指導が第一に挙げられます。 例えば、 毎日15分間、普通の日も行事の日でも、礼拝をします。最初は反発する 子も、自然と思いやりの心が育ってきます。 また、受験のプレッシャーを感じずに済むことも挙げられます。普通にや っていれば上へ進むことができますから、勉強でも生活でも時間的にゆと りが持てるんです。のんびりしぎて勉強しないというマイナスはあります が(笑)。
(奥津先生)
受験を終え目標を失って精神的に不安定になりやすい時期ですが、不思議 と大きな問題が起こらないのは、生徒の学校に対する満足度が高いからで しょう。ありがたいことだと思います。ただ、ここ数年は心の悩みを抱え る生徒が出てきています。
(中山)
カウンセリングのシステムはいかがですか。
(奥津先生)
20年ほど前から専門のカウンセラーを置いています。生徒が自由に相談 に行け、教師とは異なった視点で生徒に対応できるように、学校との距離 を置いています。直通電話も用意されています。
(中山)
20年も前からカウンセリングの仕組みが整っていたというのは驚きます 。
(奥津先生)
カウンセリングのシステムについて他の私立学校からも質問や相談を受け ることがあります。現代は子どもたちにいろいろな問題が生じているので しょう。

「保護者の意識が大きく変わった」

(中山)
青山学院というと良家の子女が通う学校と言うイメージが相変わらず強く ありますが、実際のところはいかがでしょうか。
(布施先生)
説明会などで「経済的に豊かな家庭の生徒が多いのでしょうか」と いう質問を受けることが多くあります。確かに初めてこの学校に来て家庭 環境を調べたときには、「さすが青山学院!」と思いました(笑)。経済 的に豊かな家庭の生徒が数多くいたましたから。でも、今は随分違います 。もちろん学費が高い学校ですから、それを払える家庭ということにはな りますが、調べてみると他の私立中学と大差はありませんね。
(奥津先生)
以前と比べて中学受験が一般化したからでしょう。都心部では3分の1と か2分の1とかの生徒が中学受験をする学校もあるほどですから、青山に 入学する生徒だけが特別だとは言えないでしょう。
(布施先生)
中等部から入学した生徒の家庭では、学費を支払うために共稼ぎをすると いう家庭もかなりあります。ただし、初等部から入ってきた生徒の場合は やはり状況が異なります。小学校の受験というのは特別な受験のようです。
(中山)
中等部からの入学者と初等部からの進学者とのちがいは大きいと思います が、何か問題になることはありませんか。
(布施先生)
入学直後の1学期の間はお互いにぶつかり合います。中学受験で入ってき た生徒は、家庭で勉強の環境を整えてもらってきました。極端に言えば王 子様、王女様のように守られてきたわけです。反面、下から上がって来た 生徒ははつらつとしていて、はっきりとした言動をする生徒が多いんです 。そのような言動に遇って中等部からの入学者はショックを受けることも 多いようです。
(中山)
新しい環境になじむための準備のような気もしますが。
(布施先生)
そうですね。1学期はぶつかり合いの時期ですから当然だと思っています 。しかし、最近の保護者はマスコミの影響もあって過敏になっていますの で、些細なことでもいじめじゃないかととらえてしまうようです。新しい 環境に慣れるために絶対に必要な時間も待てないのは残念なことです。 信頼して待ってほしいと思うこともあります。
(中山)
保護者の方の教育に対する関心が高いことも関係しているのでしょう。 特に最近、父親の関与が大きいと思いますが。いかがでしょうか?
(奥津先生)
そうですか。私どもでは保護会などでお父さんの姿を見かけることは少な いですねえ。大部分はお母さんです。初等部ではお父さんだけの授業参観 などを実施しているようですが。中等部では特別にはやっていません。た だ、中等部で授業参観を実施したところ、保護者の参加者は大変多かった です。中1では9割以上じゃないでしょうか。学校の教育に対する関心は 高いと感じています。
(中山)
授業参観への保護者の方の反応はいかがでしたか。
(奥津先生)
「授業が一方的ですね」という厳しい指摘もありました(笑)が、「生徒 が生き生きしていて良かった」という評価が多かったように思います。

(中山)
先生方の反応はいかがですか。
(布施先生)
年配の先生方からは反対の意見もありました。でも、世の中の流れですか ら、このような授業参観を実施するのも当然のことでしょう。
(中山) そう思います。

「6年になって2教科受験に集中して努力した生徒もほしい」

(中山)
もう何年も前から、「青山学院は来年から4教科に変わるらしい」などと いううわさが流れていましたが、いよいよ2002年から2科4科の選択入試 になるという発表がありました。どのような方針で入試をされる予定ですか。
(布施先生)
まだ、具体的には何も決まっていない状況です。2000年3月までには大筋のところを決めた いと思います。
(中山)
要項の発表は受験生にとっては早いほどありがたいものです。選抜の方法、出題の内容、教 科別の配点などできる限り早く知りたいと思います。青山学院に入学させたいと考えている 保護者であれば、早い時期から情報集めを始めています。
(布施先生)
そうですか、検討を急がないといけませんね。実は資料を集めるために、今年から2科4科 の選択入試になったある中学校の説明会に行ってきたんです。昨年から理科・社会の試行問 題を配布して準備を進めたそうですね。準備の参考になりました。
(中山)
最近は新設校や入試科目の変更がある学校では、試行問題を準備されるようになっています 。私達が取材した学校でも、新設時には「広く受験生に学校の存在を知ってもらおう」と出 版社から試行問題、模擬問題を発行された学校もありました。また、2000年から2科4科の 選択入試にされる中学校では校長先生が「間に合えば説明会で試行問題を渡したい。それが できなければ出題内容だけでもくわしく伝えたい」とおっしゃっていました。
(布施先生)
そんなに直前になってからでも、試行問題を渡される学校もあるんですね。出題方針・内容 のほかに何が情報として重要だと思われますか。
(中山)
受験生や保護者の関心は配点にも向けられます。4教科均等の配点だと「不得意教科があっ ても見こみがある」、国語、算数への配点が大きいと「まず国語、算数を頑張らなくては」 と考えます。学校選びでもかなり重要な条件になります。
(布施先生) く考えて対処していきましょう。
(中山)
2科・4科の選択入試に変更する目的として、どのような生徒に入って来てほしいと思われ ますか
(布施先生)
一般的には、余裕を持って4教科をこなしてきた生徒が、大学までの勉強を考えると良いと 思います。なんとか2教科に絞りこんで合格した生徒よりもゆとりを持って勉強してきてい るので伸びが大きいはずです。 ただ、小5までスポーツや芸術に取り組んで、小6から受験を志した生徒には、4教科の受 験は難しいのでしょう。そのような生徒は2教科に絞って受験勉強をする場合もあるはずで す。「力はあるが時間的に2教科しかできなかったという生徒にも来てほしいものです。 (奥津先生) 本校の入試問題は、国語・算数とも6年生からでも一生懸命勉強すれば間に合うようになっ ています。広い範囲から偏りなく出題して、70点取れれば確実に合格できるように作問し ています。
(布施先生)
算数の入試問題は評判がいいのですが、国語は「語句の問題が多すぎる」、「記述がないと 実力がわからない」など、評判が良くありません(笑)。 いろいろな意見を聞いてより良い問題にしていこうと思います。

「淵野辺の新校舎で青山学院は変わる」

(中山)
入試の変更以外で大きな変化はありませんか。
(布施先生)
大学のキャンパスが厚木から淵野辺に移転するための交渉を始めております。今までは1・ 2年の間は厚木のキャンパスなので評判が悪かったようです(笑)。3・4年なれば青山に なり自宅から通えるのに、厚木ではアパート暮らしをしなくてはならない、ということもあ るようです。
(中山)
厚木のキャンパスは駅からもかなり遠いですからね。特に女子学生では保護者の心配も大き いようですね。受験しにくく感じていた方も多かったかもしれませんね。
(布施先生)
学院の理事会としても、せっかく大学の評価が上がりつづけていたのに厚木へ移転した途端 に下がってしまったことに頭を悩ませていたようです。
(中山)
新キャンパスはどのようなものになりますか。
  (布施先生)
淵野辺駅前の新日鉄の研究所の跡地約4万坪を購入する交渉を始めております。研究所の建 物はしっかりしたものなので改装して使うことになりますが、後は新しく建設していきます 。厚木からそっくり移る予定です。町田から2駅で、駅のまん前ですから、都心部や埼玉・ 千葉方面からも通いやすくなるはずです。
(中山)
中等部への影響はいかがでしょうか。
(奥津先生)
大学が厚木に移転して以来、中等部でも、厚木に通いにくい埼玉・千葉方面からの入学者の 割合が下がってきたように感じます。逆に神奈川方面の生徒が随分増えました。
(中山)
淵野辺への移転で中等部への入学者の状況にも変化がありそうですね。
(布施先生)
広い範囲から入学する生徒がいるのは良いことだと思います。この学校の場合、大学までそ のまま進む生徒が多いわけですから、移転が良い影響を与えてくれることを期待しています 。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

付記 現場から推薦を受けて中等部の責任者となられた布施副部長は穏やかな口調ではあるが、教 育者としての熱い思いを率直に語られた。奥津教頭もタイプはやや異なるがやはり穏やかな 語り口であった。2年後の入試教科2科4科選択への準備にはに真摯に情報を得ようとする 積極的な意気込みが感じられた。
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