2000年9月6日(水)訪問:跡見学園は「文京区」の名が示すとおりの都心の文教地区にあり、周辺には国立・公立・私立の各種の学校や研究機関などが集中している。日本人が創設した私立の女子校としては最古の伝統校で、2000年に創立125年を迎えた。長い伝統に裏打ちされた教育は多方面から信頼を受けており、併設の大学・短大を持ちながらも他大学志向の強い学校として知られる。近年新興進学校の人気に押されてかつてのパワーが失われていたが、伝統的な教育とあわせ新しい取り組みも進められており「復活」が期待されている。学校長川島宏先生、入試広報室主幹清水敏彦先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「伝統の良さを生かしながら新しい教育を進める」

(中山)
校長先生は今年(2000年)から校長先生に就任なさったのですね。
どのような仕事を経て校長先生になられたのですか。
(川島先生)
跡見には英語の教員として入り、教科の担当とあわせてクラス担任も三十数年やってきました 。その間、学年主任を3年間、生徒指導主任を2年間務めました。
(中山)
指導の現場で生徒と接する時間が長かったわけですね。
(川島先生)
はい。生徒一人一人を大事にする、自主性を尊重するという考えかたで指導してきました。
(中山)
校長への就任はどのようにしてお決まりになったのですか。理事会で選出されるのですか。
(川島先生)
現場からの推薦を受けて理事会で任命するというシステムです。
基本は、教職員の意向や判断によります。私の考えていること、教育観といいますか、それに 賛同できるかどうかを、教職員が判断して推薦するわけです。
(中山)
校長を他の先生方全員で支える体制ができているのですね。
(川島先生)
いろいろな点で協力してくれたり、アドバイスをしてもらっています。
(中山)
長い伝統をお持ちの学校の校長は、いろいろとご苦労もおありだろうと思うのですが、実際は いかがでしょうか。
(川島先生)
今まであまり経験のないもの、例えば学校説明会やきょうのこのようなインタビューなどのよ うな、学校を代表して特色や教育に対する考えを話しすことが増えました。まだ不慣れなこと も多いです。
(中山)
説明会などでは、どのようなお考えを伝えていらっしゃいますか。
(川島先生)
これだけ長い歴史を持つ学校ですから、今までの歴史の中で培われてきた伝統的な、一人一人 を大切に考え育てていく教育を大事にしながら、新しい社会、時代にふさわしい、あるいは生 徒や保護者のニーズに応える、そういう教育をしていきたい、と伝えています。21世紀に向 けて「新しい跡見の教育」を創造し実践していくことが私の与えられた課題だと思っています 。

「TOEFLやTOEICにも対応できる講座も設けている」

(中山)
では、大切にしていく伝統の教育ということについてお伺いします。具体的にはどのようなこ とを大事にしていきたいとお考えですか。
(川島先生)
まず、本物に触れる教育ですね。
本校は学校行事がとても多いのです。中学校から、能・狂言、歌舞伎、雅楽、文楽などの日本 の古典芸能の鑑賞、オペラ、オーケストラなど西洋の芸術の鑑賞をします。これらは今まで通 り力を入れていきたいと思います。
(中山)
芸術・芸能鑑賞以外にも跡見では課外授業が多くあると聞いていますが。
(川島先生)
そうです。いろいろあります。特に自然教室ですね。跡見の生徒には、自然の持つ厳しさや優しさ、あるいは懐の深さを、ぜひ体得して欲しいので す。だから単純な自然観察の教室ではありません。中1は千葉の鵜原での「遠泳」、中2は奥日光で「登山」、中3は北軽井沢での「登山」ですから女子としてはかなりハードではないでしょうか。遠泳はもう何十年も続いている伝統行事です。
(中山)
遠泳や登山など、ふつうに持たれている女子校のイメージとはかなり異なっていますね。
(川島先生)
そうですね。これは跡見の伝統的な教育の一つの姿なのです。
(中山)
次に、伝統を踏まえた新しい教育という点で、具体的な事がらをお話しください。
(川島先生)
跡見では生徒の潜在能力を高めていく教育に努めてきました。
そこで、まず英語の指導を充実させようと考えました。英語はこれからの国際社会における共 通語だという認識をしていますので、今年(2000年)の4月からコミュニケーション能力を高 めるための「課外英会話教室」を設けました。全10コースですが、中には英会話のコース以外に、英検、TOEFLやTOEICといった検定試験や 資格の獲得を目指すコースも設けています。自分は将来、英語を活かした仕事をしたい、あるいは、英語圏で仕事をしたい、というような 生徒も多数いるので、そのような生徒のニーズにも対応できるものにしたいと考えています。
(中山)
どのくらいの人数の生徒が参加できるのですか。
(川島先生)
応募者は全部で330名ほどでしたが、最終的に100名くらいに絞ることになりました。他 に、英語の基礎基本を伸ばすために、「リーディング・マラソン」と称して、サイドリーダー 60冊の読破を含む読解力養成のコースも設けました。生徒の意欲や力量に応じて読解力を伸 ばしていこうという試みです。
文部省によって単語数など、いろいろな内容が削減されていますから、独自の指導をしてなく てはなりません。
(中山)
大学入試も意識されている内容のようですね。
(川島先生)
そうです。大学入試も考えて、基礎基本の徹底的な理解を目指しています。 このような取り組みは英語に限りません。学力の向上を目指して、指導内容の精選や跡見独自の 教材の作成など、いろいろと検討して取り組んでいます。
(中山)
その他の取り組みとしてはどんなことが挙げられますか。
(川島先生)
国際理解教育ということで、外国人留学生の受け入れを始めました。現在、イギリスからの留学 生がいます。自分たちと異なる考え方や行動をする留学生と接することは、異文化の理解という 点で大いに役立つことでしょう。 一人一人に違いがあるからこそ人間なんだ、ということを理解することは重要ですからね。

「生徒がプラス志向を持っている」

(中山)
最近の中学・高校の生徒は以前に比べて大きく変わっているということが話題になりますが、生 徒を間近にご覧になってきてどのように思われますか。
(川島先生)
十年前と比べると確かに変化を感じています。どんどん伸ばしていって欲しい思う面と直して欲 しいなと思う面がありますね。
(中山)
良い面と悪い面があるということかと思いますが、具体的にはどのような点でしょうか。
(川島先生)
はっきりと自己主張や自己表現ができる点は良い点でしょう。外国人講師に対しても物怖じしな いで質問できるように、自分の興味や関心があることには積極的に行動できる点は伸ばしていっ て欲しいものです。逆に、少さな壁でもぶつかるとすぐに諦めてしまう点は直して欲しいものです。苦しいことや嫌なこと、自分の思い通りにならないことがあるとなかなか自力ではクリアできない傾向がありますので。学校生活や勉強に限らず、社会の中で何かを成し遂げていくためにも忍耐力をもっと持って欲しいと思います。ただ、跡見の生徒の場合、プラス志向、未来志向を持っている者が多いので、壁を乗り越えることができると思います。
(中山)
どのようなことから、生徒のプラス志向や未来志向をお感じなりますか。
(川島先生)
例えば、生徒会が掲げた文化祭のテーマは、今年は「挑戦」なんです。「男性だから…女性だから…」という意識から離れて、「自分の夢は自分で実現させるものなんだ」という気持ちが込められているようです。去年は…
(清水先生)
去年は「REVOLUTION」だったんです。端から見ると「もう一息かな」という内容だったかもしれませんが、このようなテーマを掲げて取り組んでいることは大いに評価できることだと思います。
(中山)
以前とは変わった内容や企画としては目立ったものはありますか。
(川島先生)
そうですね。まとまりを示すために「ユニフォームを作って盛り上げよう」という企画が出されましたね。費用の関係もあるので「ハイ、そうしましょう」とは言えなかったんですが(笑)、結局のところ「Tシャツくらいならは良いじゃないか」ということになりました。
(中山)
壁にぶつかって自力でクリアできない生徒への対応も大切だと思いますが、先生たちはどのような対応をされてるのでしょうか。
(川島先生)
具体的にはカウンセリングということなるでしょうね。本校の場合、専門のカウンセラーが2名、カウンセリング担当の教員が2名、生徒の相談にのっています。また、講習会を受けて認定を受けた教員が17、8名います。クラス担任だけでなく、教科の担当者も何か変わったことがあれば対応する体制になっています。一人一人の生徒を大事にする、あるいは、心を育てる、という教育の上ではとても重要なことだと考えて学校全体で取り組んでいます。

「大学受験に向けてのカリキュラムも充実させる」

(中山)
跡見学園は女子大や短大を持たれていますが、生徒、保護者のみなさんの認識は情操教育も重視する進学校であろうと思います。ただ、国・公立大学に弱いという評価もありますが。いかがでしょうか。
(清水先生)
女子大学や短大を敬遠して共学の大学への志向が強くなっていますから、当然、われわれも他大学の進学を考えた指導をしていくことになります。
私立大学に比べて、国・公立大学への進学者が少ないのは事実です。ただ、生徒の自主的な選択を重視した進路指導をしているので、私立大学の方に魅力を感じる生徒が多いようですね。
(中山)
国・公立大学への進学に対応した指導についてはいかがですか。
(清水先生)
カリキュラムの中において、国・公立向けのクラス編成も積極的に行っています。進路の選択についても生徒の自主性を尊重しますので選抜制ではありません。たくさんの生徒が希望してくれれば進学者も増えてくるでしょう。
逆にクラスでの成績から志望の学校が難しい場合でも、クラスの担任や教科担当全員で応援していきますからね。
(川島先生)
たとえば、個人的にセンター試験に対する指導を4月から始める先生もいます。教科担当の先生は、自分が担当する生徒に対して志望校合格のための必要なものを考えて取り組んでいるのです。
(中山)
補習や補講は定期的に実施されているのですか。
(川島先生)
夏休み、冬休みを中心に実施しています。高校でのコース制や中2からの習熟度別の少人数制の英語の授業などによって生徒の進路や学力に応じて対応できる体制をとっています。
(中山)
カリキュラムの面ではいかがでしょう。
(川島先生)
現状のカリキュラムからさらに進学指導を重視したカリキュラムに作り変えていきます。保護者や生徒からのニーズに応えるものにしていきたいと思います。すぐに結果が出てくるものではないのでしょうが、私としてはすぐにも出したいと思っていますね。
(中山)
ぜひそうなっていただきたいと思います。期待しております。
(川島先生)
生徒に対するきめの細かい指導や、情操教育や心の通う教育という面では保護者から高い評価を受けていますから、進学指導の面でもさらに高い評価を得られるようにしていきたいと考えています。

「西の灘か、東の跡見か」

(中山)
入試問題についてお伺いします。易しいものから難しいものまでバランスよく盛り込まれている出題だと思います。ただ、問題量が多すぎるような気がします。
(清水先生)
そうですね。われわれの入試問題に対する姿勢は、小学校の授業をきちんと理解できていることが大切だというものです。その上で「ぜひ跡見に入りたい」という生徒に来て欲しいと思っています。基本的な内容のものが増える分、どうしても量が増えていくということになると思います。
(中山)
算数の問題には基本的な問題が多すぎるように思います。短い問題が多いので解法を知っているか、すぐに出てくるかどうかで得点が決まり、受けにくく思う受験生もいます。
(川島先生)
算数は最初の半分ほど基礎基本をみる問題にしてありますが、最後の3分の1はかなりレベルの高い問題になっています。だから、後半の正答率は低くなります。
(中山)
前半の知識問題で時間をとってしまうと、後半の問題にほとんど手がつけられない生徒が出てくるためだと思います。本当に考えて欲しい問題に取り組んでいない生徒が多いのでしょう。力がある生徒は後半の問題に向かう時間的な余裕がありますが、大部分の受験生にとっては前半の正答率が合否に影響してくる問題構成ですね。
(川島先生)
問題の最後まで取り組めた生徒は力があるわけですね。
入学者の学力差も大きいようですね。
(中山)
前半の基本問題が今より少なくなれば、受験生にとっては「紛れ」が少なくなる、実力が正当に評価されるようになると思います。
(清水先生)
そうですね。試験問題については厳しく反省して、次の出題に反映させていこうと考えています。
(川島先生)
国語の問題はいかがでしょうか。「百人一首」に関する問題のように特殊なものもありますが、漢字や語句、物語文の読解など相当なレベルの出題だと考えていますね。
(中山)
やはり問題の量が多いように感じますが、国語の場合は、文章をたくさん読ませる問題は良いと思いますね。
(川島先生)
問題のレベルも高いので、「西の灘か、東の跡見か」という出題だとわれわれは密かに自負しています。
以上

(学校風景1学校風景2学校風景3)

☆付記☆川島校長は静かな語り口ながら、伝統をふまえた上での新しい跡見の教育を創造していこうという思いが表れていた。新しい試みを実践できるスタッフの力量にも信頼を持たれているようだ。
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