2001年3月22日(木)訪問:普連土学園中学校・高等学校は「三田」にある。大学や大企業のオフィスも多数ある地域で、学生とビジネスマンでにぎわう。学校は周囲の喧噪とは全く異なる閑静な環境の中にある。創立110年を超える伝統を持つプロテスタント(クェーカー)の学校として知られ、奉仕の精神を掲げて独自の教育を展開している。高校からの募集を行わない完全中高一貫体制の下、教科指導の面でもきめ細やかな指導を行っている。大学受験において高い現役合格率(進学率)を誇り、進学校としても評価が高い。学校長畠中ルイザ先生、進路広報部長浜野能男先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「遠いところに行くのなら言葉や文化が全く違うところが良い」

(中山)
校長に就任されるまでの略歴をお聞かせください。
(畠中先生)
30年ほど前、アメリカの大学を卒業して普連土に英語の教師としてやってきました。その後、アメリカの大学院で学びました。結婚して子供を育てたりし普連土から離れた時期もありました。が、普連土で仕事をし続け、3年前に突然「校長になってほしい」という話が来て引き受けたました。今でも自分が校長としてふさわしいのかと思うこともあります。
(中山)
どのような時にそう思われるのですか。
(畠中先生)
やはり、言葉が足りません。他人を説得する時には難しさを感じます。
(中山)
普連土学園はクェーカー教の学校ですが、先生もアメリカのクェーカーの学校で学ばれたのですか。
(畠中先生)
そうです。高校も大学もクェーカーの学校です。大学にいる間に友達はみんな外国へ旅行に出かけていましたが、私は家庭の事情もあって出かけられなかったので、卒業したら外国へ行きたいという思いが強くありました。
(中山)
それで日本にいらっしゃっることになったのでね。
(畠中先生)
実はちがいます(笑)。短い旅行ではなく長い間住んで仕事をしたいと思いました。それに私が出た高校はとても良い学校だと思っていましたので、外国でも同じような教育環境の学校に行きたいと思っていました。申し込んだのは、オーストラリア、パレスチナ、日本でした。
(中山)
その中で日本を選ばれたのはなぜですか。
(畠中先生)
「オーストラリアと日本の学校は良いよ」と言われたのです。せっかく遠いところへ行くのならば、言葉とか文化とかがアメリカと全然違うところに行きたいと思ったのです。
(中山)
そのころから日本語はお分かりだったのですか。
(畠中先生)
いえ、全然(笑)。日本に来ることに決まってから近所に住んでいた日本人の先生に少し教わってきただけでした(笑)。
(中山)
それでは最初は大変だったでしょうね。そのときの普連土学園の印象はいかがでしたか。また、日本にいらして、カルチャーショックのようなことはありませんでしたか。
(畠中先生)
まず、普連土の面接の時、その先生がすごい先生だったのが印象的でした。普連土に45年も関わってきて、戦争で焼けてしまった学校をアメリカでお金を集めて作り直す努力をした先生だったのです。勤め始めた時は、110年以上も前から外国人の先生がいたから慣れていたためでしょうか、最初から信頼されているという印象でしたね。本当にチームのメンバーという感じでしたからカルチャーショックはなかったと思います。
(中山)
お食事はいかかでしたか。
(畠中先生)
日本に来て最初の食事はよく覚えています。暑い8月の夜で冷や奴が出てきたのですが、まだ箸が使えなかったのでたいへんでした(笑)。それに、セミの鳴き声がアメリカと違うのはとても不思議に思いました。アメリカでは「ミーン、ミーン」とあっさりと鳴きますが、日本は「ミウィーン、ミウィーン」とうなるように鳴きますから(笑)。
(中山)
そうなんですか。セミの鳴き方にも日米で違いがあるというのはとても面白いことですね。

「『父親の会』はお父さんの情報交換の場になっている」

(中山)
アメリカで教育を受けられ、日本では教育に携わっていらっしゃる先生は母親として2人のお嬢さんをお育てになったと伺っています。ご主人は日本人でいらっしゃるともうかがいました。ご自身の子育てで印象に残ることはありませんか
(畠中先生)
娘を育てていたその最中には日本の教育にちょっと疑問を感じたことがあります。
(中山)
それはどのようなことですか。
(畠中先生)
日本はとても教育に熱心です。実際、夫も教育パパで(笑)教育方針を決めました。私がそれを実行しました。夫も一生懸命に娘に勉強を教えていましたが、「小6のすごく大事な成長の時期を受験勉強だけに使って良いのかしら」という疑問を持ちました。私の場合は12歳のとき、アメリカで勉強だけではない別の過ごし方をたくさん学ぶ機会をもてていましたから。この普連土に入るにも、みなさん一生懸命に受験勉強をしなくてはならないのが現実ですが。複雑な気持ちになります。
(中山)
それは私たちがいつも突きつられている問題でもあります。受験勉強は苦しいモノだというのではなく、いろいろなことを身に付けることやわかることが、苦しいだけでなく楽しいことだと思えるようにしたいと考えています。それでも最近、ご両親の間でお子さんの教育についての意見のずれが少なくなり、一緒に中学受験に取り組まれる場合が増えてきているように思われます。普連土学園ではいかがでしょうか。
(畠中先生)
そうだと思います。最近、うちの学校では土曜日に「父親の会」を設けて、お父さん方に学校に来ていただけるようにしているのです。前回は75名の参加者がありました。学校との意見交換もありますが、お父さん同士の情報交換の場を設けることがとても大事だと思いましたね。
(中山)
そのようにお考えになったのはなぜですか。
(畠中先生)
最近はひとりっ子の家庭が多いですね。そのようなお父さんは一生の間にたった1回だけの子育ての経験しか持てないので、子どもの様子にとても大きな不安を感じているのです。最初はスクールカウンセラーの話を聞いてもらったのですが、それよりも経験のあるお父さんの話を聞く方が効果的なようです。
(中山)
どのような心配ごとが話題になるのですか。
(畠中先生)
学年によって違います。中1、中2では反抗期ですから、「『お父さんなんて要らない』という子どもにはどう接すれば良いか」ということですね。「この状態がこのままずっと続くのではないか」という心配が出ると、「あと1年もすれば大丈夫だよ」と先輩のお父さんがお話しになりましたね。その他には、「駅のホームで高校生の男の子に声をかけられ時はどうするように娘に教えれば良いだろうか」という発言もありました。社会の変化の中でお嬢さんやお嬢さんを取り巻く状況についての対処のしかたに不安を持たれているようですね。
(中山)
この会はいつからお始めになったのですか。
(浜野先生)
99年度からです。99年度には1回、2000年度には2回行いました。終了後には場所を移して親睦会もあり、私も参加しました。その席ではいろいろな話が出ました。個人的な相談ごとや学校への要望がいろいろと出ます。「自分が参加した国際会議では少しでも発言を躊躇していると先に進んでしまう。そのような場でも通用する英語力を付けて欲しい」という希望などもありました。
(中山)
いろいろなことをお話になれる場というのは、お父様方にとっては貴重な場だと思います。

「奉仕活動は自分を育てるために行うものである」

(中山)
実際にお嬢様をお二人育てられた経験をもとにして、中学から高校時代の女子の教育について何が大切だとお考えですか。
(畠中先生)
自分の考えをしっかり持ち、周りの人のことを考えることができる、つまり他人の立場を考えることができるように育てることが大切だと思います。ごく普通の答だと思いますが、これがなかなか難しいことですね。
(中山)
普連土学園には、他人の立場や適性を考えた行動ができる生徒方が多いと思います。
(畠中先生)
そういわれるのは嬉しいことです。
(中山)
最近の中学生の女子の傾向として、特に学力レベルが高いと言われる学校の生徒に著しいのですが、何でも自分がやらないと気が済まない、あるいは周りがみんな自分に合わせるのが当然だと思う生徒が目立ちます。そのような状況が普連土学園では少ないと思いますし、他人の立場を考えることができる下地づくりが行き届いていると思います。そのために、どのような取り組みをされていますか。
(畠中先生)
うちの学校では「沈黙の礼拝」ということを大切にしています。これは週に1度、みんなが沈黙し自分自身を見つめる時間です。今は生活のペースが速くて時間に追われ、なかなかじっとしている時間を持つことができませんから、学校生活の中で持ってもらおうということで始まったのです。他には、礼拝の時間に先生と生徒が、自分が大事に思っていることや感動したことについて交代で話します。これには、他人の話を聞くことができ、自分が話す前にもいろいろと考える必要があります。自分の考えを持つようになるチャンスになります。
(中山)
なるほど。奉仕活動もとても重視されていますね。これも自分の考えを持つようになる指導の一環なのですね。
(畠中先生)
そうです。奉仕活動は6年間の教育の中で力を入れています。中学校では各学年でテーマを設け、中1は視覚障害、中2は聴覚障害、中3は身体障害というようにして、学校の中で基本的な勉強や体験をした上で施設に出かけます。奉仕をするというより自分を育てることが目的ですね。施設では1日の最後の30分から1時間で復習として、スタッフと話し合いの場を持ち、見たことや考えたことを話しますのでとても充実した体験になります。
(中山)
生徒たちには大きな価値のある体験になりますね。
(畠中先生)
ええ。この体験の中で生徒は実に素直になれますね。お母さんに反発して一言も話さなかった生徒が、重度の知的障害の子どもたちの施設から戻ってくるなり、その様子をお母さんに生き生きと報告したそうです。
(中山)
大きな変化ですね。
(畠中先生)
そうです。その後もずっと会話が続いたそうです。さらに、真剣に進路のことも考えるようになったと、保護者がとても喜んでくださったと聞いています。
(中山)
それらは、普連土学園が高い評価を受けている理由のひとつだと思います。このような奉仕体験のプログラムはどのようにして作られたのですか。
(畠中先生)
卒業生のお陰でこのようなプログラムができたのです。福祉分野に進んだ卒業生が多く、それらの卒業生の協力がとても大きなものでした。
(中山)
この福祉のプログラムは今後もぜひ続けていただきたいと思います。

「大学に入ってから高校時代についた英語の力が下がってしまった」

(中山)
普連土学園が評価されている理由の1つに、キメ細かい指導が挙げられます。実際にはどのような取り組みをされていますか。
(畠中先生)
簡単に言うと、ひとりひとりを見て指導をしている、少人数での指導をしているということでしょう。例えば英語の授業では、週1度、外国人教師と英会話をしながら昼食をとる「English Lunch」、中2・3の山中湖での「English Camp」、成績には直接関係ないのですが「英語日記の作成と添削」など、独自の指導もしています。それに99年度から新しい授業も始めました。アイデイアマンがいますので、色々楽しい企画が実行されます。
(中山)
具体的にはどういうことですか。
(浜野先生)
それは2週で1単位となっています。最初にネイティブの教師や普連土の関係者などに、雑誌や新聞の記事やエッセイを抜き出してもらっておきます。1週目には日本人教師と一緒にその文章を読んで内容を考え、2週目にはそれを選んだ方に来てもらって、そのリードでディスカッションをするという授業です。高3の選択授業で「Cross Cultural Understanding」と呼んでいます。
(畠中先生)
みんな黙ってしまって進まないのではないかと、始める前には心配しましたが、とても良い感じで話しているのでうれしく思いました。来てもらった外国人の方にもとても良い評価を受けました。
(中山)
どのようなテーマが取り上げられたのですか。
(浜野先生)
1回目は「拒食症」でした。他には日本の教育、これはアメリカの新聞記事をもとにしたものです。北朝鮮の問題では実際に活動されている方をお招きました。アメリカで漢字の入れ墨が流行していることや占い、引きこもりの問題なども取り上げました。
(中山)
かなり濃密な内容ですね。その授業を選択した生徒は何人くらいいましたか。
(浜野先生)
99年度は5人の生徒が取りましたが2000年度は9人に増えました。
(畠中先生)
その5人は校内を回って下級生に宣伝してくれました(笑)。大学に入ってから遊びに来たときに、「大学の授業にがっかりした。大学に入って英語の力が落ちてしまった」と言っていました(笑)。
(中山)
普連土学園の英語の授業のレベルがとても高くて面白かったということですね。他に、授業以外の面で重視されていることは何でしょうか。
(畠中先生)
クラブ活動ですね。生徒も熱心に活動しています。学校が小さいため他の学校のように毎日練習できるわけではないので、外部の試合で勝ってくることは少ないのですが。
(中山)
強いクラブや特に人気あるクラブを紹介してください。
(畠中先生)
試合に出て勝ってくるのは剣道部とバレーボール部ですね。他には陶芸部や英語部などが頑張って活動していますし、吹奏楽部は人気が特に高い部です。
(中山)
どの学校でも吹奏楽部の人気は高いようですが、陶芸部や英語部が挙がるというのは珍しいですね。
(畠中先生)
陶芸部は学園祭で作品を展示しますが、とても良いものがたくさん出ています。英語部も英語劇を学園祭で発表するために一生懸命練習しています。クラブ活動は生徒にとってはとても楽しいことですからね。

「学校を中心にした受験準備で合格できる」

(中山)
現役での進学率がとても高いのですが、進路指導に関する基本的な方針はどのようなものですか。
(浜野先生)
基本的には良い大学に何人いれるということを目標にしている訳ではありません。進学の希望はその生徒の将来にとって非常に大切な問題ですから、全面的にバックアップしていきたいと考えています。ただし、進んだことをどんどん教えるのではなく、自分の進路を適性に従って考えようという機会を設けています。
(中山)
具体的にはどのようなことをなさるのですか。
(浜野先生)
仕事をお持ちの保護者の方に登録いただいて、中3の夏休みに職場訪問をしたり、高1・2では学校にお招きして仕事のお話をしていただく機会を設けています。学力の強化という面では補習授業の充実ですね。特に、学園祭やクラブ活動が終わる高2の12月頃から、全力をあげて取り組む体制を作ります。
(中山)
予備校の利用などはいかがでしょう。
(浜野先生)
はっきりしたデータはありませんが、2000年度の高3で1人あたり学校の補習を通年で2.5講座、夏休みには7講座を受講していましたので、学校の授業と補習を中心に受験準備をしていると思います。
(中山)
外部に頼らず受験準備ができるということですね。近年、経済的な状況もあってまた国公立志向が強まっています。私はこちらの合格実績に国公立の割合がもう少し高くなっても良いのではないかと思いますが。いかがでしょう。
(浜野先生)
年によって状況が異なります。99年度は国公立の割合が大きく約5分の1でした。具体的に見ると、理系の生徒はたいてい国公立大が第1志望ですが、文系の場合はそうはなりませんね。例えば、99年は外語大志望が多く上智大志望がが少なかったのですが、2000年はその逆になりました。また、理系でも通学できる大学の関係で薬科や看護は最初から私立が第1志望ですね。
(中山)
女性の職場進出が進んで家庭外で活躍している卒業生が多いそうですが、実際はどのような状況ですか。
(畠中先生)
そうですね。私の娘は8年前の卒業生です。同級生で結婚した人は1名だそうです。編集や福祉、コンピュータ関係の会社勤めや先生が多いそうです。
(中山)
最後に入試についてお伺いします。普連土学園の問題は、身に付けた知識とその場で考える力をバランス良く試す問題で、なかなか良い問題だと思います。気になる点は1次と2次の受験生の学力レベルに差があるので、作問の上で何か違いがあるのではないかということですが、いかがでしょう。
(浜野先生)
特に差は設けていません。同様な方針で作問をしています。結果としては、2次の方が平均点が高くなっています。確かに学力レベルに差があるでしょうが、入学後の成績面での差は最近はなくなり、進学状況も東大合格者は1次の入学者の方が多くなりました。
(中山)
それは学力の高い生徒に普連土学園が第1志望者が増えたという状況に関係があるのでしょう。2次での入学者であっても入ってみると、素晴らしい学校だったと評価してしている保護者も多いようです。
(浜野先生)
昔の2次の入学者には来たくないけど来たという感じもないではなかったようですが、最近はそのように感じる生徒はなくなりました。
(中山)
最後に校長先生から受験生並びに保護者の方々にメッセージをお話下さい。
(畠中先生)
はい。ぜひ学校に来て見てください。土曜の小説明会もありますので、普連土の生徒や先生に話しかけて、何でも質問してください。普連土と親しくなれば勉強もしやすくなると思います。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆畠中校長は「言葉が足らないので校長としてふさわしいのかわからない」と謙遜されるが実に日本語が堪能である。しかも現状を見つめる鋭い観察眼と寛い受容力を持っている。それによって生徒や教職員と心を通じあえる環境がつくられていることが話のいろいろな場面から感じられた。企画力や実行力に溢れたスタッフに支えられ、理想とする教育を向かって前進している。
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