2002年6月25日(火)訪問:富士見中学・高校は練馬区の西武線中村橋駅前の商店街を抜けたところにある。駅前の商業地に近いが校舎内は静かで落ち着いた雰囲気を持つ。旧富士見高等女学校の経営を山種グループが引継いで発展させてきた学校だ。難関・上位私大への現役進学率の高い学校として認められている。特に高校は女子を募集する数少ない進学校として高く評価され、都内ではトップクラスの難度である。中学入試では新興の進学校に比べて地味な印象を与えるが、伝統に裏打ちされた落ち着いた校風にファンも多い。ほぼ毎日更新されるホームページや特色のある進路指導なども注目されている。学校長深町敏夫先生、入試広報部長鈴木健史先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「毎日更新のホームページは担当教師の手作りである」

(中山)
学校からの情報発信についてお考えを伺いたいと思います。富士見中・高のホームページはほとんど毎日の更新で、内容も独特なものですが、これはどのようなお考えのもとになされているのですか。
(深町先生)
「今日の富士見」を知らせたいと考えました。ほぼ毎日更新されるようになったのは、この2・3年でしょうか。できるだけ詳しく学校の情報を伝えることが目的です。学校が日々どのように動いているか、言わば「学校の生の姿」を伝えたいと考えて作っています。
(中山)
他校の場合、要項を基にした内容や要項に載せることができなかった内容をホームページに掲載することが中心です。そうした場合、更新の回数も少ないので業者に注文するということも可能ですが、富士見の場合にはそうはいきませんね。
(深町先生)
そうです。内容を考えると外部に出して制作という訳にはいきません。当然校内で製作することになります。
(中山)
能力は当然のこと、たいへんな労力が必要だと思われます。ホームページ作成専門の担当者を置いて取り組まれているのですか。
(深町先生)
いえいえ、主に英語科の教員がひとりで制作しています。他に若い教員たちなどがサブとしてデジタルカメラで写真を撮ったり、授業やクラブの情報を提供したりしていますが、最後は一人で作業しています。
(中山)
普段の授業もお持ちなのでしょうか。
(深町先生)
そうです。授業の合間をぬいながらという感じですね。ですからとてもよくやってくれていると思います。
(中山)
本当にそう思います。制作に際して基本的な指示は出されるのですか。
(深町先生)
指示というよりは注意しなくてはならない点を伝えています。
(中山)
それはどのようなことでしょう。
(深町先生)
学校としてはお預かりしている生徒を守ることも大切なことです。個人が特定できるような大写しの写真は控えるようにしています。悪用される心配もあります。ですから、角度を変えて斜めから撮った写真を載せるなどの注意をしています。
(中山)
確かに現実的な心配ですね。そのために情報発信の方針を変えるということもお考えなのですか。
(深町先生)
いいえ。できる限りオープンにして、富士見の取り組みや動きをみなさんに理解していただきたいと思っています。
(中山)
受験生や保護者にとっては、ありがたいことだと思います。ホームページの体育祭の写真で、教頭先生以下現場の先生方が生徒と一緒に競技に参加しているのを拝見しました。生徒さんたちも一緒に楽しんでいる様子がとても印象に残りました。
(深町先生)
私は「学校生活は楽しくなくてはならないものだ」と考えています。その基本は人間関係です。生徒どうしの仲が良いこと。生徒と教員の間に信頼関係があること。生徒と教員が一体となってこそ、学校を楽しい雰囲気に築いていくことができると思います。今それができていると思えます。
(中山)
あの写真は生徒さんと先生方の信頼関係を示すものなのですね。学校を楽しくするためにどのようなことに具体的に取り組んでいらっしゃるのですか。
(深町先生)
生徒が中心になった行事をたくさん設けています。生徒を中心にしながら、教員も加わってリードしたり協力したりしながら進めていきます。一体になって取り組んでいるという点が良いと思います。また、クラブ活動も奨励しています。富士見のクラブは規模のわりにとても数が多いのです。
(中山)
ホームページを見てクラブの数の多さには感心しました。力を入れられていることがよくわかりました。
(深町先生)
生徒の参加も多いのですが、教員も全員どこかのクラブに所属して活動に参加しています。勝敗や成績も大切ですが、人間関係を築くことや練習を通して体力や精神力などを養うことも考えて指導しています。
(中山)
先生がみなクラブ活動に参加して指導するというのは難しいことではありませんか。
(深町先生)
その点でも良くやっていると思います。他校などでは、クラブに属していると言っても名目だけという現実もあるようですが、本校の場合は全員が活動します。1つのクラブに2人は担当教員を置きたいと考えています。が、クラブ数が増えすぎて(笑)担当が1人のクラブもあります。

「テニスの顧問時代は全国大会を目指して休みなく練習を指導した」

(中山)
深町先生が富士見にいらっしゃることになった経緯をお話しいただけますか。
(深町先生)
大学を出てすぐですからもう40数年前です。たまたまテニスの指導を頼まれて本校に来たのがきっかけです。そのまま専任となってしまいました(笑)。
(中山)
その頃のことについてもう少し詳しくお話ください。
(深町先生)
そうですね。当時はとにかくテニスの指導に明け暮れていました。ほとんど休みがない(笑)…。休んだのは元日1日だったでしょうか。大晦日も年越しそばをみんなで食べて練習しました(笑)。
(中山)
相当強いクラブだったのでしょう。
(深町先生)
そうでもありませんでした。とにかくクラブ活動を通じて生徒が自信を持てるようにと考えて指導していました。日本一になることを目指して練習しました。その甲斐あって、全国大会には東京都代表で14年連続で出場し、国体では準優勝をしました。
(中山)
それはすごいですね。練習の賜ですね。
(深町先生)
そうですね。生徒はきっと大変だったでしょう(笑)。でも生徒は素直で明るく屈託がなかったですよ。今の生徒もそれは変らないと思います。
(中山)
そうでしたか。今の生徒も昔と変っていないとのお話ですが、現在は女性が元気な時代だと言われています。最近の学校生活でそのことはお感じになりませんか。
(深町先生)
ありますね。先日のサッカーのワールドカップの試合の時に生徒の要望に応えて校内でテレビ観戦を行いました。そのときには特に強く感じました。
(中山)
校内でサッカーのテレビ観戦とはおもしろいですね。
(深町先生)
生徒からの強い要望で「早く帰して自宅で観戦させてやろうか」とも考えたのです。しかし、それは本校の指導方針にも馴染まないので全教員に諮ったところ、「生徒にエネルギーを発散させてやるのも良いことだ」という意見でまとまりました。講堂と学習ホールとに分かれて観戦しました。
(中山)
それは、粋なお計らいですね(笑)。たいへんな盛り上がりだったのでしょうね。
(深町先生)
そうですね。「ニッポン」コールは大変なものでした(笑)。実にまとまった応援でした。「やって良かったなー」と思いました。
(中山)
富士見の生徒はおとなしく、きちんとした印象を受けます。先ほど廊下ですれ違ったときも気持ちの良い挨拶がありました。只今の「ニッポン」コールのお話は新鮮な感じがします。
(深町先生)
いやいや、おとなしいばかりではありません。体育祭の応援などでも大いに盛り上がるのですよ。しかし、サッカー観戦の時はそれを遥かに超えていましたね(笑)。写真に残しましたので、それを後で見直しても同じように感じました。ただ、本校の指導目標である良識ある判断力は発揮してくれたように思います。
(中山)
どのような点でしょうか。
(深町先生)
「絶対に飲食物は持ち込まない」「絶対にゴミは出さない」という約束をしていたのです。それをきちんと守ってくれました。後片付けもきちんとしていました。使った椅子も元通りに戻して帰りました。興奮して応援した後であっても節度を持っていたということでとてもうれしかったですね。
(中山)
きちんと後片付けをすることなど、最近はなかなかできないことのようです。富士見の生活の中で生徒が身につけてきた部分も大きいと思います。生活指導にはどのように取り組まれているのですか。
(深町先生)
最近は家庭それぞれで生活の習慣が違います。「自分のことは自分でやる」は家庭生活の中で身に付いていたことでしたが、今の家庭生活の中では難しいのかもしれません。家庭との連携が重要なので保護者会などを通じて家庭にも協力を求めています。生活指導と言っても構えて行うのではなく、ここぞという要点を押さえて指導していくのが大切です。
(中山)
具体的に指導なさった内容はどんなものがありましたか。
(深町先生)
廊下などでぺたっと座り込んでしまう生徒を見かけました。見苦しいし清潔でもありません。教員が熱心に呼びかけた結果、ほとんどなくなりました。筋を通して言えばそれなりの反応が返ってくるので安心はできますね。
(中山)
生活指導が行き届いているように感じます。他の学校では生活面での指導に対して、「何で」と言って反発することもあると聞きおよびます。
(深町先生)
確かに言いますね(笑)。でも「やってみたいという気持ちもあるかもしれないが、今はもう少し我慢して専念することがあるのじゃないか」と話します。生徒が学校の中に関心を向けてくれることが大切ですから、学校外の生活の影響で「富士見はどんなところか、富士見ではどんなことをするべきなのか」を見失わないようにしていきたいと考えています。
(中山)
話してわかる生徒というのは力がある証拠だと思います。

「少子化や不況には危機感を持っている」

(中山)
深町先生は授業はお持ちなのですか。
(深町先生)
現在は持っていません。校務が忙しく時間的な余裕がないので持てませんが、持ちたいなとは思っています。
(中山)
生徒さんとお話される機会はどのようにして持たれているのですか。
(深町先生)
校長を拝命して2年目ですが、毎朝中・高2人の教頭と交代で正門と東門2つの入り口に立って生徒と挨拶を交わします。もちろん挨拶を奨励するという目的もあります。でも、「生徒が気持ちよく1日の学校生活をスタートできるように」という気持ちを込めて声をかけます。
(中山)
そのようなときにはどのような会話がありますか。
(深町先生)
色々話しかけてきますよ。「年はいくつですか」なども聞かれました(笑)。生徒会の役員たちとは特によく話しますね。例えば「今度の朝礼の話題は何にしようか。要望はないか」と問うと「○○の内容について話してほしい」と返ってきます。今朝もこの次の全校朝礼での話題について話がでました。中学の生徒会長から「今度の朝礼でこの間の話をぜひさせてください」と言ってきました。
(中山)
朝礼で生徒が話をするのですか。
(深町先生)
そうです。単にこちらが訓示するばかりでは良くないですからね。朝礼は自分たちのものという意識を持ってほしいと考えて、そのような機会を設けています。以前に生徒がお世話をした目の不自由な方からの感謝のお手紙を生徒会長に読んでもらったことがありました。とても評判が良かったので、私が読むよりもずっと良い(笑)と考えたのです。
(中山)
すてきな企画ですね。今回のお話の内容というのはどのようなものですか。
(深町先生)
中国から日本にやってきた中1の生徒が「日本語を勉強して成績を上げるのにいかに苦労したか」という話です。昨年の「青年の主張」という弁論大会で賞をいただいたものです。ちょうど期末テストの前になるので、勉強に対する心構えを話すのに良い材料ではないかと提案したのです。
(中山)
そうでしたか。すばらしい取り組みだと思います。いろいろな話がちょっとした立ち話のようにできるのは良いことですね。
(深町先生)
いろいろな情報を伝えて反応を見たり意見を聞いたりすることは大切なことです。今年は正門付近の改修を予定していますが、生徒の意見も聞いて反映させようとしています。2つの業者に計画をたててもらったのですが、どちらが良いかなどを聞いています。
(中山)
予想外の意見が出るのではありませんか。
(深町先生)
確かにそうですね(笑)。「こんなデザインや色が良いのか」と驚きますね。
(中山)
その他に深町先生が取り組まれていることは何かありますか。
(深町先生)
私が校長になったからと言って急に大きく変わったことはありません。富士見には長い伝統がありますから、その伝統を継承・発展させていくことが大切だと思います。しかし、少子化の進行や不況の影響、さらに共学化の波や公立校の改革の進展には危機感を持っています。正直言って何もしないでは生き残れないと思っています。
(中山)
先ほどのホームページの毎日更新ということもその危機感が背景にあるのですね。
(深町先生)
そうです。実力がなくては広報活動の充実ということは無意味なので、前提条件として人間教育の基本を踏まえながら指導の充実を図るということがあります。生徒や保護者に喜んでもらえる学校にするということを絶えず考えています。広報活動については後ほど入試広報の責任者の鈴木から話させましょう。
(中山)
では指導面での内容についてお伺いします。具体的な取り組みとしてはどのようなことが挙げられますか。
(深町先生)
生徒の将来の希望は多岐にわたります。ほとんどが四年制大学への進学を希望しています。資格を得るために大学で専門教育を受けなくてはならない場合が多いためです。その希望に応えるためにカリキュラムの変更やシラバスの作成を行いました。
(中山)
新指導要領との関係はどのようになっているのでしょうか。
(深町先生)
もとの指導要領の補完という方が近いでしょうね。あわせて授業の充実ということで学内での公開授業を行い保護者にアンケート調査を行いました。最終的には学外にも公開する予定です。
(中山)
わかりました。なるべく早い時期に一般に広く公開されることを期待しています。他にはいかがですか。
(深町先生)
伝統的に取り組んでいることとして読書指導や作文指導があります。国語科が熱心に取り組んでくれているのですが、行事があると必ず作文を書かせ、冊子にします。
(中山)
最近特に、生徒たちの国語力の低下が叫ばれています。日常的にそうしたことがされるのはとても望ましいことですね。
(深町先生)
富士見中の生徒はよく書きますよ。昨年は、税に関する作文に中3生が応募をし表彰を受けました。こういうことも刺激になって功を奏していると思います。「文章の読み書きを学習の土台とすること」として、朝の読書も5分から10分たいてい実施しています。
(中山)
当然のこととして、伝統的に行われるのですね。

「等身大の富士見を知ってもらいたい」

(中山)
広報活動の面でも充実を図られていると思います。現時点での計画としてオープンキャンパスのような企画もお考えなのですか。
(鈴木先生)
入試広報部長の鈴木です。その点については私からお話します。イベントとしてのオープンキャンパスはまだ計画していません。ただ、説明会ではメニューを受験生対象のものと保護者対象のものに分けました。受験生には体験授業を用意しています。
(中山)
どのような内容のものですか。
(鈴木先生)
昨年の場合、「おもしろ数学」とか「おもしろ漢字」というもので富士見の普段の授業の一部を体験してもらうものでした。評判も良かったのでどんどん充実させていく予定です。
(中山)
力を入れられているクラブ活動の紹介などもあるのですか。
(鈴木先生)
はい。今年はクラブ見学会を行いました。先日の1回目は宣伝不足(笑)だったので参加者は50組ほどでしたが、参加者にはたいへん好評でした。次の2回目は十分な(笑)宣伝をしたので参加者は増えるだろうと思っています。
(中山)
1回目は何か特別な企画がおありだったのですか。
(鈴木先生)
はい。開会のイベントのひとつとして、参加者に講堂に集まってもらいクラブ説明の後、これからいよいよ活動を見に行こうとするときに、それまではネクタイ背広姿の校長にトレーニングウエアに早変わりをしてもらって(笑)舞台の上から後ろのドアに向かってラケットでボールを5本打ってもらいました。
(中山)
まあ。
(鈴木先生)
ドライブがかかったボールが吸い込まれるようにドアの方に飛んでいきました。
(中山)
それはすごい。
(鈴木先生)
見事でした。
(深町先生)
自分でも驚きました(笑)。急な計画だったので準備もしていませんでした。なにしろラケットを持ったのが10数年ぶりだったので、本当のことを言うと5本中に3本でもうまくいけば良いな(笑)…くらいのものでしたから。
(鈴木先生)
参加者も一瞬息をのむほどでしたね。その後大きな拍手があがりました(笑)。
(深町先生)
楽しくやらせてもらいました。
(中山)
とても良いアピールになりましたね。受験生にとって臨場感のある企画は説得力があります。クラブ活動に力を入れていらっしゃることが実感できたと思います。
(鈴木先生)
校長とは長くいっしょにやってきたので、我々教員もいろいろな話を持ちかけることができます。相談もしやすいですね。そこから生まれた企画です。
(中山)
学校で長く勤めていらっしゃった校長先生ですと、他の先生にとってもやりやすい面が多いのですね。
(鈴木先生)
本当にそうです(笑)。
次回は教頭がバスケットで見事なゴールシーンを演じる予定です(笑)。
(中山)
今後も期待しましょう(笑)。その他の面での広報活動についてはいかがでしょうか。
(鈴木先生)
誇大広告的なものはしないというのは基本です。等身大の富士見を知っていただける機会を増やすために、合同説明会や出版社など主催の説明会にもできるかぎり参加しています。女子校合同の説明会も最初から参加してきたメンバーです。
(中山)
大学進学状況やクラブ活動の様子などはよく調べると立派なものだとわかりますが、それらは積極的に広めないとわかりにくいと感じます。
(深町先生)
富士見はしっかりした生徒が多い学校、落ち着いた校風の学校というイメージで語られるので、他の学校に比べて地味な印象を与えていたと思いますね。
(中山)
ホームページを拝見すると、多数の大学の担当者を大勢招いて説明会を催すなど、他の学校では見られない試みもされているのがわかります。他にも不登校、引きこもりの生徒へのきめの細かい地道な対応があると聞きます。でも、それら諸々の良い点が、受験生の保護者にあまり伝わっていないのは残念なことだと思います。
(鈴木先生)
わかりました。広報活動の参考にしましょう。
(中山)
今後も一層、富士見の良さを積極的にアピールしていただけるよう期待しています。最後に、深町先生から受験生や保護者にメッセージをお願いします。
(深町先生)
勉強は知的な行為です。受験勉強も単に学校に受かるための勉強として考えないで、知らなかったことを知ることが喜びと感じられるようになってほしいと思います。また、勉強自体が楽しいとは思えなくても、クラブ活動と同じように、充実した時が過ごせればそれだけでも幸せな時間となります。そのように感じて目標に向かって取り組んでほしいと思います。
(中山)
本日はありがとうございました。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆深町校長は静かな語り口で富士見の教育を語られた。勉強やクラブの環境を整え、生徒ひとりひとりが充実した時を過せる学校を目指す決意が感じられた。行事などで示される教務スタッフの企画力や行動力も高く、穏やかな中に内に秘めたパワーの大きさを感じる。
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