2001年6月28日(木)訪問:暁星中学・高校は東京都心「千代田区」に位置し、JR、地下鉄など交通の便がとても良い。最寄り駅の周辺は各企業のオフィスに加え、伝統ある大学・短大、高校・中学が建ち並ぶ。学校周辺には日本武道館のある北の丸公園や靖国神社などの緑にも恵まれる。東大などの難関大学への合格率の高い進学校として知られる一方、中学・高校ともサッカーの強豪校、カルタ(百人一首)の強豪校などとしても知られる。英仏2言語を柱とした語学教育など充実した教科指導やクラブ活動に加えて、カトリックの理念に基づく人格教育にも定評がある。学校長烏山助雄先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「先祖は迫害を逃れて五島列島に移った」

(中山)
烏山先生は校長になられて何年になりますか。
(烏山先生)
今年で7年目です。
(中山)
校長になられる前からずっと暁星にいらっしゃるのですか。
(烏山先生)
いえいえ、私たちは神父ですから同じマリア会が営む学校の間で転勤があるのです。大学を卒業して最初に長崎の海星で10年勤めてから、スイスの大学で神学を学びました。その後、札幌の光星で10年、大阪の明星で12年勤めてから暁星にきました。校長としては大阪を含めてもう9年になります。
(中山)
修道士になられるとiいうのは相当なご決心が必要だと思うのですが、先生の場合どのようなきっかけでお決めになったのですか。
(烏山先生)
私は生まれながらのキリスト教徒なのです。先祖もキリスト教徒で迫害を受けて五島列島の小さな島に逃げのびていますからね。両親も敬虔なキリスト教徒ですし、親戚にも司祭やシスターが何人もいます。
(中山)
そうだったのですか。小さいときから将来は神父になるということが自然だったのですね。
(烏山先生)
いえいえ、違いますよ。私がマリア会で神父になることに母親は反対しましたからね。
(中山)
それはなぜだったのでしょうか。
(烏山先生)
まず私が小児喘息で身体が弱かったこと、そして母方の親類に一度マリア会に入ったのだけれど退会をした者がいることで、厳しい修道士としての生活に耐えられないのではないかと心配したのです。でも、最後には自分で選んだ道だから最後まできっちり頑張り通すようにと送り出してくれました。
(中山)
素晴らしいお母様ですね。
(烏山先生)
司祭になっことを一番喜んでくれたのも母親でした。とても感謝しています。九十数歳まで生きました。最期を看取って自分でミサを捧げることができたことは、私にとっても幸せなことでした。
(中山)
先生は司祭でもいらっしゃるのですが、暁星での宗教教育はどのように行われているのですか。
(烏山先生)
生徒たちには毎日の祈りを強要するなどということはありません。入学する生徒がみなキリスト教徒ではありませんし、キリスト教徒にしようという意図はありませんからね。ただ、入学式や卒業式の前に行うミサはとても厳粛なもので生徒には強いインパクトがあるようです。
(中山)
日常的にはどのようなことが行われるのですか。
(烏山先生)
お昼休みには宗教音楽を流しています。聴いて心を高めるいうことも考えていますが、その時間に元気に遊びたい者はどうぞという対応ですね。
(中山)
そうですか。ということは宗教色は強くはありませんですね。その中で先生はどのようなお祈りをされるのですか。
(烏山先生)
毎日、6時の10分前にチャぺルで祈ります。でも、「今日一日何も起こりませんように」とは祈りませんよ。そんな祈りをする時に限って、必ず何か起こりますから(笑)。
(中山)
まあ…。
(烏山先生)
実は、大阪で講演したとき、同じ質問に答えて「生徒たちが今日一日無事でありすようにと祈っています」と言ったところ、ある方に「それは逃げの姿勢です。2100人も生徒がいるのだから、何か起こるのが当たり前でしょう。その時にどう立ち向かっていくのかについて祈る方が良いでしょう」と諭されて以来、止めました(笑)。
(中山)
その質問はどなたがされたのですか。
(烏山先生)
後援会の会長だった人で、ある大会社の社長さんでした。さすがに経営者の考えることは違うなと思いました。
(中山)
それ以後はどのようなお祈りをされるようになったのですか。
(烏山先生)
「一生懸命頑張ります。何か起こったときは私の身体と頭脳の全力を挙げて当たりますので、神様その部分を補ってください」と祈ります。そして、「できることならば、今日一日みんなが笑顔で無事に過ごせますように」とも祈ります。預かっている生徒たちは私の子供だと思っていますから、いつもこのように祈ります。

「高3とは校長室で1対1のセミナーを行う」

(中山)
生徒たちと日常で触れ合う機会をどのように持たれているのですか。
(烏山先生)
毎朝、校門に立ちます。会議などの朝の行事の合間を縫って立つので短い時間になりますが、出張などで学校を留守にしないかぎり必ず立ちます。会える生徒は少ないのですがみんなと挨拶を交わしています。特に最後の学年の高3とは放課後に1対1でセミナーをします。
(中山)
それはどのようなものですか。
(烏山先生)
何か悪いことでもしない限り校長室に来る機会は少ないので、ここに来てもらって語り合います。暁星での6年間で楽しかったことや辛かったこと、進学や将来の夢などについて語り合います。今年は今、2クラスめが終わるところです。もう6年目になります。
(中山)
生徒にとっては貴重な思い出の1つになることでしょう。
(烏山先生)
そうですね。話の内容をメモに残しておくのですが、教育実習などで学校にやってきたときにその話題を持ち出すと、「そんなことを言っていたのか」などと、とても懐かしがりますね。
(中山)
何かおもしろいお話をご紹介ください。
(烏山先生)
おもしろい話かどうかわからないのですが、暁星についてどう思うかと尋ねると、とにかく居心地が良くて、良い学校に違いないと思うのだけれども、言葉では表現できない」というような内容を言う生徒が多いですね。まあ、大学で他の学校から来た学生と接する中で暁星に対するイメージができてくれば良いかなと思いますね(笑)。
(中山)
女子がいれば良かったなどという話はありませんか。
(烏山先生)
不思議と少ないですね。「男ばっかりで気を遣う必要がないのが良い(笑)」と言う生徒が多いですね。私たちの教育方針にもありますが、他者との関わりの深さを学んでくれているようです。「暁星でつかんだ宝物」として永く続く友人関係を作ることができたと言ってくれる生徒が多いと思います。
(中山)
永年、教育に携わっていらっしゃると、生徒のようすの変化についていろいろとお感じになることがあると思われますが。
(烏山先生)
やはり「他者のために」という考え方が少しずつ希薄になっていくのを感じます。兄弟が少なくなっていることもありますから、上級生には「学校には、こんなにたくさんの弟たちがいる」、下の学年には「これだけ多くの兄さんがいる」と話して、兄弟のつもりで楽しくやろうと言います。
(中山)
現実はいかがですか。
(烏山先生)
「上級生が下級生のわがままに手こずっている」という話をよく聞きますね。クラブのキャプテンに「どんな苦労がありましたか」と尋ねると、「下級生が言うことを聞いてくれなくて困りました」と言いますね。
(中山)
そんな時にはその生徒はどのように対応したのでしょう。
(烏山先生)
そのことを尋ねると「下級生のわがままを許しながら説得していった」と答えました。その生徒にとっては良い経験をしたと思います。
(中山)
強豪として知られるサッカー部でも、そのように上級生たちが取り組んでいるからまとまりがでるのでしょうね。
(烏山先生)
お互いに思いやる心があるところが強さの秘密かも知れませんね。レギュラーは他の部員の心の痛みを知っていますね。だから、レギュラーになれなかった生徒も試合では懸命にチームを応援します。去年の全国大会では自分たちで徹夜で応援の準備をして臨んでいました。
(中山)
サッカーがしたいから暁星にという生徒も多いのでお伺いします。サッカー部はどのような練習をしているのですか。
(烏山先生)
好成績を挙げるのですから練習はかなり厳しいというか、密度が濃いと思いますね。時間的にも設備的にも制約が大きいので、監督が頭脳的な練習を組んでいます。朝の練習と放課後の練習が中心です。放課後の練習は交代でグランドを使うのですが、試合前などには他のクラブが譲ってくれるようですね。
(中山)
クラブ活動ではカルタも有名ですね。
(烏山先生)
指導者が名人に挑戦したことがあるほどの実力者ですからね。彼が百人一首に強くなるノウハウを伝授してくれましたので、四段くらいの実力を持つ生徒もいますよ。
(中山)
それはすごい!ですね。

「フランス語を多くの生徒に学んで欲しい」

(中山)
暁星にはフランス語の授業があるということが特色として挙げられます。実際の授業の様子をお話ください。
(烏山先生)
中学から第1外国語としてフランス語を学ぶ生徒は、暁星小学校から来た生徒と中1の間は別クラスで指導します。1年間きちっと面倒を見ていくので中2からは一緒のクラスになります。
(中山)
中学から勉強する生徒にはかなり厳しい面もあるのではないでしょうか。
(烏山先生)
小学校から勉強している生徒は発音も素晴らしいですからね。しかし、第1外国語でフランス語を学ぶ生徒は少ないので密度の濃い授業が展開できます。さらに中3からは習熟度別に分けますから、力を伸ばすことができます。
(中山)
フランス語の選択者はどのくらいいるのですか。
(烏山先生)
全体の1割くらい、だいたい20名ですね。以前は30名を超えたこともありましたが。できるだけ多くの生徒に学んで欲しいと思いますが、現状では仕方がないところもあります。
(中山)
やはり入試科目の問題が大きいのですか。
(烏山先生)
理科系に進む生徒の半数が医科歯科系を志望しているので、国公立大ではフランス語で受験できますが、私立大ではできないことが多いのです。その影響はありますね。他には、今は英語の時代というか、ビジネスやテクノロジーなどの分野では英語が共通語だという時代背景もありますね。
(中山)
大学受験のお話がでましたので伺います。卒業生が少ないことや併設小学校からの入学者が多いことなどを考えると、暁星の大学合格の実績は素晴らしいと思います。どのような方針で指導をされているのですか。
(烏山先生)
その一つは、前倒しの授業でしょう。中2で中3の課程をという気構えでやっています。そうすると授業についていくのが難しい生徒も出てきますので、高校に進む段階では習熟度別にします。特に数学や外国語ではこの方法は有効ですね。弱点を掘り起こして理解度を上げるということができますから。
(中山)
習熟度別にすると評価が難しくなるということを聞きますが、どのような評価方法を採られているのですか。
(烏山先生)
絶対評価です。運動関係で頑張っている生徒には、習熟度別の授業で良い点を取って大学の推薦を狙う者もいますね。ちょっとずる賢いように(笑)思いますが、ある意味で上手に利用しているとも言えますね。
(中山)
確かにそうですね。教材の面ではいかがでしょうか。
(烏山先生)
英語はプログレスなので、かなりレベルが高いでしょう。数学は自主教材なので、こちらもハイレベルですね。
(中山)
進路指導についてはいかがですか。
(烏山先生)
全員が大学進学を希望していますから進学指導と言っています。高2から文系・理系に分かれますので、高1の終わりから本格的に始めます。ある教科が苦手だからというような安易な選び方はさせません。将来の進路を見据えて考えるように指導します。
(中山)
生徒や保護者の希望と現実の成績が一致しない場合にはどのようにされるのですか。
(烏山先生)
理系の教科の点数が取れない生徒が理系を選ぶ場合に、若干調整をすることがあります。それでも「どうしても父の跡を継がなくてはならない」という生徒もいるので、習熟度別で対応することになりますね。担任にとって辛く難しい指導です。
(中山)
生徒たちが実際に大学に出向いて情報を集めるような機会は設けてあるのですか。
(烏山先生)
大学教授をしている者や官公庁での勤務者など、いろいろな分野で活躍しているOBに、研究の内容や仕事の内容などの話を聞く機会を設けています。生徒たちは「うちの先輩たちは頑張っているんだな」と思ってくれます。
(中山)
そのようなお話を進路選びに役立てるわけですね。先生も何かお話しされるのですか
(烏山先生)
そうですね。大阪の明星で校長をしていた時に、東大、京大、早大、慶大など6大学9学部に全部合格した生徒がいました。彼は将来マスコミ関係に就職したいからと早大政経を選んだのです。その話をしたときは生徒は驚いていましたね。
(中山)
受験勉強のさなかにある生徒には理解をするのは難しいのではありませんか。
(烏山先生)
難しいかもしれませんが、自分が本当にやりたいことを考え見据えて大学や学部を選ぶことが大切だということをわかってもらいたいと思っています。

「第一の学校が家庭であり、学校はその補完的な役割しか持たない」

(中山)
生活面での指導についてもお伺いします。暁星の生徒たちは上から縛られるような指導を嫌い、自主的に考え行動することができる能力を身につけているという評価があります。これは現在一般的には難しくなっていることの一つだと思いますが、実際にはどのような指導をなさっているのでしょうか。まず、生活面の指導はどのようなことが基本なのでしょうか。
(烏山先生)
そうですね。まず、家庭と学校が同じ方向で進んでもらうことです。一つの例ですが、「茶髪はダメです」と伝えた時、「何で茶髪が悪いのですか」と母親が担任に文句を言うような家庭では、子どもはしっかりした方向に進まないでしょう。
(中山)
ご家庭が学校の教育方針を理解することは必要ですね。
(烏山先生)
そうです。次に、夫婦が愛し合っていること、信頼しあっていることを子どもに感じさせることです。そうすれば子どもは安心しますね。本校は家庭的にも恵まれた生徒が多いです。第一の学校が家庭であること、学校はその補完的な役割しか持たないことを保護者会の時には必ずお話しして、理解してもらうようにしています。
(中山)
ご家庭が学校に子どもの教育のすべてを任せてしまう場合も見られますね。
(烏山先生)
それも困ります。家庭で手詰まりになりそうな場合、すばやく情報を提供してもらえると家庭と学校が同じ歩調を取ることができます。そうなれることで子どもは必ず一緒に歩めるようになるのです。
(中山)
最近の親御さんは変わってきたように思います。その原因は何だとお考えですか。
(烏山先生)
一般的に言えるかどうかわかりませんが、今の保護者は学校での規則を守りなさいとは言わないことが多いようです。子どもの自主性を重んじるという名目でかなり放任しているように思いますね。
(中山)
暁星の場合は事情がかなり異なるのでしょうか。
(烏山先生)
そうですね。お母さんもミッションスクールの出身者が多いので、生活指導の基本は暁星に任せるという姿勢がありますね。暁星小学校から入ってくる生徒が多いということもありますね。彼らは自然に「このようなことは許されないことだ」と理解できるのですね。けんかしたり、いじめたりすることは少ないと思います。
(中山)
それでも中学生や高校生の年代では、いろいろなことが起こると思います。例えば中学生のいたずらなどはいかがですか。先生方も今年の生徒はどのようないたずらをするか楽しんでいるという場合もあると他の学校で伺ったことがありますが。
(烏山先生)
やはり少し気を抜ける先生とそうはできない先生をきちんと区別して(笑)やっているようですね。ただ本当に困ってしまうようないたずらは聞いたことがないですね。
(中山)
暁星の生徒は紳士的だという評価もありますね。
(烏山先生)
ありがたいことですね。でも現実には、歩道いっぱいに広がって歩いて困るとか、信号無視をして困るとか、いろいろなご注意を受けます。電車内でのマナー違反はOBなどからすぐに連絡や抗議の電話があります。
(中山)
制服からすぐにわかりますね。そういう点では制服というのは自分を律するという点でも意味がありますね。
(烏山先生)
それに関してはこんな話があります。シャツはズボンの中にきちんと入れなくてはならないのですが、入れないでおいたらしいのです。「自分たちは突っ張っているんだぞ」と周りに見せたかったのでしょうね。そういう年頃でもあるでしょうから。でも、他の学校の本当にごっついのが来たらさっさと別の車両に逃げてしまったそうです(笑)。ご覧になっていたお母さんは「暁星の子はいくら突っ張った格好をしていてもたかが知れていますね」とおっしゃいましたね。
(中山)
本当ですね(笑)。最後に入試に関していくつかお伺いします。いくつかの学校で入試日の変更が行われ、2月3日は競合する学校が増えています。入試日程や形式についての変更はお考えではありませんか。
(烏山先生)
本校の強みは小学校からの入学者がいることです。そのため、中学で外部からの入学者を数多く受け入れることができませんが、受験生の増減の影響を受けにくいのです。ただし、志願者の減少には危機感がないわけではありません。指導の一層の充実とこれまで不足していたようにも思える外部に向けてのPRにこれからは力を入れていきます。
(中山)
それでは入試日の変更は当面はないのですね。
(烏山先生)
そうですね。2月3日は動かしません。
(中山)
入試問題についてはいかがでしょうか。算数、国語では記述重視の入試をされています。特に国語の記述、自分の考えを述べる記述はとても良い問題だと思います。これはどのようなお考えで出されるようになったものなのでしょうか。
(烏山先生)
やはり考える力を見たいということですね。国語の教員が1年かがりで自分なりの問題を作って、それらを持ち寄った上で取捨選択をして作るのです。彼らの苦労話は時々聞きますね。
(中山)
そのような問題を作られる学校の話は他に聞きません。言葉で表現できない生徒が増えているので、ぜひ続けていただきたいものです。
(烏山先生)
そうですね。国語の教員にも伝えましょう。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆烏山校長は気さくな語り口でいろいろなお話をされた。暁星の教育や教科指導については自信と確信に満ちていた。理想の学校と家庭の姿を常に念頭に置いて行動されているようだ。入試問題や独自教材などから伺える指導スタッフの力は高い。外部向けのPRで「知る人ぞ知る」学校から一段高い位置へのぼることへの期待が高い。
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