2000年10月17日(火)訪問:法政大学第二中学・高等学校(以下法政二中・高)は3校ある法政大学の付属校のひとつである。法政二中・高は武蔵小杉駅から続く商店街を抜けた住宅密集地の中にあるが、学校として十分な敷地が確保され、中学・高校合わせて3000名近い生徒が学ぶにも十分である。ここ数年、中学入試における付属校人気の低下で入試の難度はやや下がっているが、法政二中には依然として高いレベルの生徒が集まる。併設の二高は充実した施設を活かして全国レベルの体育系のクラブが多数あり、また文化系のクラブの活動も盛んである。進学面の利点だけでなく6年間充実した学校生活が過ごせることでも評価が高い学校である。学校長遠藤節昭先生、広報担当佐藤真生先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「大学までの10年間で人間を育てる」

(中山)
法政二中ではどのような方針で指導を進められているのですか。
(遠藤先生)
中学校の時期は肉体的にも精神的にも急速に成長する時期です。だから彼らの成長を援助するというのが基本です。
(中山)
数多くの生徒への対応は難しいと思いますが。
(遠藤先生)
中学で入って来る子どもたちの場合、体つきだけ見ても小学校3・4年生くらいの者から中学3年くらいの者までさまざまいます。この時期だけで人格形成というと無理な話なのですが、私たちは中学と高校の6年間、あるいは大学までの10年間を通して成長の援助を考えていきます。
(中山)
最近、高校での募集を大きく減らして6年一貫の体制を強化される学校が増えています。そのような中で法政二中・高では、高校での募集が中心です。それは今後も変わらずに行われるのでしょうか。
(遠藤先生)
現在、二中は5クラス、二高は14クラスですから、中学の募集を増やせば一貫教育の体制は取りやすいのかもしれませんが、現時点では考えていません。
(中山)
それはなぜでしょうか。
(遠藤先生)
先ほど述べた中学と高校の6年間を通して生徒の成長を援助するという考え方によります。二中から二高に進んだ生徒を、高校では公立中学で学んだ生徒と一緒にする、もっと強く言えば「ぶつける」ことで、生徒の新しい可能性を見つけることができるのです。これが大切だろうと考えています。
(中山)
二高ではスポーツの面など、いろいろと打ち込める場が数多く用意されていますね。
そのことも関係があるのでしょうね。
(遠藤先生)
そうですね。ただ、二中の生徒が二高の運動部に入ってもレギュラーになるのが難しいのが現実ですね。たとえば野球部などではベンチ入りも本当に難しい(笑)。ジュニアから活躍してきた生徒も多くいますから。
(中山)
二中生は体力の点ではやはり劣る面があるのですか。
(遠藤先生)
私は中学の副校長を8年間やりましたが、そのときに生徒に体力的にたりない部分があることを痛感しました。二中では綿密な体力診断と健康診断を行いますが、全国平均と比べて明らかに足りないところがあるのです。「なんとかしなければならない」と考えて、特別に体力向上の時間を設けました。ただ、文部省によるカリキュラムの改訂の影響などで、残念なことに3年間しかできませんでした。
(中山)
それは残念なことでしたね。二中生の体力不足は一般によく言われる「塾通い」の影響が強いのでしょうか。
(遠藤先生)
早い時期からの塾通いは影響はあると思いますね。
(中山)
そういったなかで、二中でのクラブ活動への取り組みとして特別なことは何かありますか。
(遠藤先生)
中学と高校のクラブをどのようにつなげるかという点でいろいろと検討しています。クラブ活動の現場からも要望があります。これまで二高の場合、指導にあたってくれるOBが多いので、指導者の面では不安は全くないのですが、いろいろな理由から、中学と高校とは別のクラブになっていました。今後は同じ指導者が見る場合も増えてくると思います。

「ニュージーランドでは現地の授業にそのまま参加する」

(中山)
学習指導の体制についてお伺いします。付属高の場合、補習授業などの体制を意図的に取らない学校が多いのですが、二中の場合はいかがですか。
(佐藤先生)
補習は日常的に行っています。
(中山)
それは勉強に遅れがあった場合でしょうか。
(佐藤先生)
そうですね。「全員に法政大学で活躍できるような学力を付けたい」という希望を持っていますので、言葉は悪いのですが、授業についてこれない生徒をつくらないように配慮しています。
(中山)
その他には何か特別な授業などありますか。
(佐藤先生)
補習に関連することでは、夏休みの「英語合宿」、数学の1週間ほどの補習があります。これで後期から同じスタートラインに立てるようにしていますね。
(遠藤先生)
学力が逆転してしまう(笑)ほどの効果があります。英語合宿の場合、1週間缶詰状態で勉強します。朝から晩まで、それこそ12時過ぎまでやりますから。成績が下位の生徒を指名するのですが、少し上のレベルの生徒を上回る学力になりますね。
(中山)
素晴らしい効果ですね。参加した生徒たちも甲斐があったというものですね。
(遠藤先生)
結局のところ、中1や中2の段階では英語の学力は学習習慣の問題になりますからね。
わざわざ合宿にするのはそのリズムをつかませるためなのです。
(中山)
英語合宿はいつ頃から実施されているのですか。
(遠藤先生)
中学創立以来です。場所は変わっていますが、現在は河口湖でやっています。
(中山)
海外での研修もあるとお聞きしていますが。
(遠藤先生)
中学3年の選択授業のところで実施します。海外ではニュージーランドか中国、国内では九州か北海道へ出かけます。ニュージーランドへは夏休みの3週間、向こうは冬ですが、現地の学校にそのまま入ってしまいます。(笑)
(中山)
それは珍しいですね。
(遠藤先生)
もちろん二中の教師も引率していますが、二中生だけの英語の授業を除いて、あとは全部その学校の授業に参加します。
(中山)
生徒の反応はいかがですか。
(遠藤先生)
日本人向けの受け入れ態勢が整っているようなところではありませんので、周りに日本語を話せる人がいないのです(笑)。そのような環境で各家庭に1名か2名でホームステイするので、生徒も最初は戸惑っていますね。でも、途中から子ども同士で友だちになり、そこの家族と一緒に旅行に出かけたりします。日常会話はほとんど問題なくできるようになります。
(中山)
それは素晴らしい。
(佐藤先生)
その他にも、英語と数学では週単位の小テストで定着状況を見ています。「点検テスト」と呼んでいますが、後になって遅れている、分からなくなっていると気づくのではなく、日常的に細かくチェックをしています。
(中山)
先生方はたいへんでしょうね。
(遠藤先生)
そうですね。英語の教師は夏休みなんか取れませんから。

「二中は面倒見が良いが、二高は面倒見が悪い」

(中山)
二中はずいぶんキメの細かい指導をされていますが、そのようなイメージを持たない保護者もいるようです。
(佐藤先生)
スポーツが盛んで荒々しい学校というイメージですね(笑)。確かにそうかもしれませんが、それは二高のイメージでしょう。
(遠藤先生)
二中はとても面倒見の良い学校なんですが、二高は面倒見が悪いんです(笑)。その格差に保護者が愕然とするということはありますね。「もう高校生なのだから面倒見ないよ」というのが基本ですね。青年期の男子には、それが必要ですので。
(佐藤先生)
面倒見が悪いというのは生徒を大人として扱うということですね。中学では勉強のしかた、クラブの運営のしかたなど、教師がいろいろきめ細かく指導しますが、高校ではその実践段階になりますから、自由に取り組ませると言うことです。
(遠藤先生)
単にきめ細かく指導するだけではなくて、先ほどのニュージーランドのホームステイのように大胆に「投げ込んでやる」のも二中の教育でしょう。大学のゼミに参加させたりもしますから。
(佐藤先生)
中学生にはほとんど分からないでしょう。でも、「自分で考えて、実行して、失敗する」というのはたいへん良い体験です。いろいろなものを得ることができるでしょう。
(中山)
大学のゼミに参加できることは付属校の利点ですね。
(遠藤先生)
他の学校出身者に比べて経験が豊富であるということでしょう。大学でも二中・高出身者の評判は実に良いんです。担当の教授に尋ねると「みんなをまとめてくれるから安心できる」ということを言います。
(中山)
ところで、法政大学では学部の増設などいろいろな取り組みがなされていますが、付属校段階では何か変革がないのでしょうか。
(遠藤先生)
男女共学化について検討はしています。これは法政の3つの付属合同で協議中です。現在、男子校2校(注:一中・一高、二中・二高)と女子校1校(注:女子高)の体制ですから、これらの関係をどのようにしていくのかという問題が今後の検討課題です。
(中山)
もし共学化されると大きな変化が起こりますね。法政二高を目指す生徒、特にスポーツを志す生徒にとって法政二高というのは憧れの存在です。男子の間口が狭くなると、クラブ活動の面でも大きな影響が出ると思いますね。

「入試に関して当面は変更の予定はない」

(中山)
入学試験に関してお伺いします。入試が前倒しになる傾向が強まる中、2回目の入試の2月7日というのは随分遅いという印象がありますが。学校側としてはいかがでしょう。
(佐藤先生)
2月7日の2回目の入試日程は今のところ変更の予定はありません。
(中山)
入試の機会が多いのは受験する側にとってはありがたいことなのですが、合格者の選抜にあたってのご苦労がおありではないでしょうか。
(佐藤先生)
特にありません。予定をきちんと組んで受験をしている生徒が多いのでしょう。受験校志向の生徒は始めから受験しませんね。本校が第1志望で2回受験する生徒が中心です。
(中山)
いろいろな私立中学でも少子化という現実をふまえて、「受験しやすさ」ということを考えて、合格発表や納入金の点などの変更が相次いでいます。法政二中ではいかがでしょうか。
(佐藤先生)
併願校の結果が分かってから入学金の納入ができるように、手続き期間を設定しています。受験者にとって親切な方法はどんどん採用していこうと考えています。
(中山)
それはたいへんありがたいことだと思います。次に入試問題についてお伺いします。算数・国語と理科・社会では作問の方針が違うように感じられます。理科・社会は試験時間の制約もあるのでしょうが、基本的な知識事項を問うものが多いという印象を受けます。それはなぜでしょうか。
(佐藤先生)
入学試験に難問奇問を出して選別することはしません。大学の付属校ですから今後の受験を意識しないで、授業の中でいろいろなことに取り組めます。そのぶん幅広い知識が要求されています。実験のことなど基本的なことは是非知っておいて欲しいものですね。
(中山)
実験の考察などの問題が少ないように感じますが。
(佐藤先生)
受験勉強の中ではしたことがない実験も覚えることになります。それは最低限の内容で良いのです。中学では数多く実験をやりますから。それよりも小学校での勉強や受験勉強を通じていろいろな事がらを知っておいて欲しいという思いがあります。社会科でもレポートを書く授業が多いのですが、やはり幅広い知識が必要ですね。
(中山)
問題作成にあたっては校長がチェックをなさるのですか。
(遠藤先生)
実際に試験が行われた後で結果に基づいて分析し評価をしますが、次の年はこのような問題を出そうというという話はしません。担当者が受験生の成長の時期に応じてどのような考え方が必要なのかを議論して作ります。だから特に内容についての指示は不要で、問題も見ていません。
(中山)
先生方がそれぞれ力量をお持ちだということですね。

以上

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☆付記☆遠藤校長からは気さくで親しみやすい話し口ながら、強い意志と強力なリーダーシップが感じられる。学習指導以外の面でも高い力量を持つスタッフを抱えて、「自由と進歩」の学風の中で生徒が個性を伸ばしていける環境が生み出されている。
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