2002年9月30日(月)訪問:鎌倉学園中学・高校は北鎌倉にある。鎌倉旧市街に続く道の両側には数多くの名刹が建ち並んでいる。その中の1つ建長寺が1885年に設けた宗派の子弟教育機関「宗学林」が前身である。1922年に改組され一般生を受け入れ始め、1975年から現校名をとなる。かつてはいわゆる「バンカラ学校」だったが、徐々に中高一貫の指導体制が整い、現在では中堅レベルの進学校として認められている。ここ数年は進学実績は伸び続けているにもかかわらず、入試難度が低下している。再度のレベルアップを目指した取り組みが注目されている。学校長福井安正先生、入試対策部長(教務主任)竹内博之先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「勉強以外にも1つ2つはできることを持ってほしい」

(中山)
福井先生が鎌倉学園にいらっしゃってどのくらいおたちですか。また校長職に就かれてどのくらい経ちますか。
(福井先生)
校長は4年目です。勤めてからはもう37、8年になります。
大学の先輩のひとりがこの学校の教員でした。その先輩から「国語の先生がひとり急に辞めてしまったから、この学校に来ないか」と誘われたのです。
(中山)
では、そのときはあまり鎌倉学園のことはご存じなかったのですね。
(福井先生)
名前も知りませんでした(笑)。当然、仏教系の学校であることも、建長寺の中にある学校だということも知りませんでした(笑)。
(中山)
実際にいらっしゃった時は驚かれたことも多かったでしょう。
(福井先生)
そうですね。知り合いに「鎌倉学園ってどんな学校だい?」と尋ねたところ、「あまり評判が良くない学校だから行かない方が良いよ」(笑)と言われましたね。
(中山)
それでもお勤めになることにされたのですね。
(福井先生)
ええ。当時の校長と会って30分ほど世間話をして、試験も何もなく「それじゃ、やるか」という話になりました。その頃はいい加減だったのです(笑)。
本当は北海道に行きたいと思っていたのですが、周囲から「北海道よりもこっちが良いだろう」と言われて決めました(笑)。
(中山)
そうだったのですか。では、実際に教壇に立たれていかがでしたか。
(福井先生)
たいへんでした(笑)。
言葉で話しても分からないことが多いから、腕力で納得させるほどでした。
(中山)
まあ。
(福井先生)
何とかしたい一心でした。
ただ、生徒は喜んでいた部分もあったようです。同期会などで当時の卒業生に会って話をすると、「先生、昔はよく殴られましたね。懐かしい思い出ですよ。今でもそうですか」などと笑いながら話しかけて来るのが多いですから。「おいおい、今そんなことしたら、すぐクビになっちゃうよ」(苦笑)と答えますが。
(中山)
先生の熱心さがわかっていたのでしょうね。
それでも、現在の子どもたちとは反応の仕方がかなり違いますね。
(福井先生)
昔は相当な豪傑がいましたが、今の子どもたちは小さくまとまっているという感じを受けます。生活水準があがったことも関係しているのでしょう。青少年特有のガツガツしている感じがないですね。
勉強では、もう少しガツガツやれば成績も上がるだろうにと思う場合も少なくないですが。
(中山)
そのような子どもたちに学校としてはどのような姿勢で対応されるのですか。
(福井先生)
本校では、勉強以外にも1つ2つできることを持ってほしいと考え奨励しています。
クラブ活動の参加を奨励しています。大きく成長する中学・高校の時期にはあまり強く「勉強!勉強!」とだけは言いたくないですからね。
(中山)
バランスが取れた状態で成長して欲しいとお考えなのですね。
(福井先生)
そうです。ですから、クラブ活動ばかりに偏って学校生活を送るのも好ましくありません。
「必死に練習して県大会や全国大会で活躍しろ」とは絶対に言いません。それでも野球部など県でベスト8に進出することもあります。
(中山)
せっかく私立中に入学させたのだから「勉強させて欲しい」、「○○部に入りたいから入学したい」という話などは保護者からもよく聞きますが。
(福井先生)
私どもでもよく聞きます。先ほど言ったことは、悪く言えば中途半端かもしれません。が、本校では勉強とその他の活動が学校生活の両輪となって欲しいと考えています。
(中山)
わかりました。
福井先生が校長になられて、特にご苦労されていることとは何でしょう。
(福井先生)
いろいろありますが、最大の悩みは校地が手狭だと言うことですね。この地域は環境を保つために規制が厳しくて大変です。
(中山)
確かに歴史的に貴重な場所ですから保護をする必要がありますものね。
(福井先生)
そうなのです。7、8年前に体育館を建てた時にも、予定地から鎌倉時代の遺跡が出てきたので工事がストップしました。危うく建設が白紙になるところでしたが、保存策を講じることでなんとか完成にこぎ着けました(苦笑)。
(中山)
最近は校舎や施設が、学校選びの重要な要素となっていると思います。
(福井先生)
それはよく分かっています。この校舎も築後30年以上になります。私と同じぐらい古い(笑)のでなんとか建て直したいと考えています。しかし、貴重な遺跡が出てくることは確実なので難しいでしょう。
(中山)
建て替えることは現実的にはできないということですね。
(福井先生)
そうです。ですからせめて教育環境を整えようと内部の改装を進めています。全面的な建て替えとなると、この鎌倉の地を離れる覚悟がないと難しいでしょうからね。

「座禅の体験は在学中に何度か行う程度になった」

(中山)
福井先生は国語がご専門ということでお伺いします。最近の中学生は国語力の低下が著しいという指摘があります。この点についていかがお考えですか。
(福井先生)
確かに感じています。一面では理屈っぽくなっていますが、言葉での表現能力というかコミニュケーションの力というか。そのような面では明らかに落ちてきていると感じます。
(中山)
やはりそうですか。
(福井先生)
入試の際にもはっきり表れているようです。
現在、直接には入試にタッチしていませんが、説明会の際にも「文章を読む方は良いが、書く方は大きく劣っている」と担当者が伝えています。
(中山)
原因は読書量の不足でしょうか。
(福井先生)
そう思います。子供達を取り巻く環境にはいろいろな誘惑が多いから、読書に関心が向かないのも現実かと思います。テレビやゲームなど、彼らにすればもっと楽しいことがあるので仕方がない面もあるでしょう。
(中山)
どのような対策をお採りですか。
(福井先生)
当然、読書指導はやっていますが、昔より少なくなっていると思います。教師がそれぞれで取り組んでいることもあります。
(中山)
読書感想文の指導なども行われていますか。
(福井先生)
ええ。ただ、これは私の指導上の反省なのですが、生徒にとって読書感想文を書くのは面倒で嫌なことだろうと思います。それを強制することで、かえって読書から離れていってしまう面もあると思います。難しいことですが現在の生徒にあった方法を考えていかなくてはならないと思います。
(中山)
例えばどのようなことがありますか。
(福井先生)
今の生徒はパソコンの使用に慣れています。手で文字を書くよりキーボードを打つ方が得意だとも思います。得意なことを活かすのはやる気を出させるでしょう。
(中山)
なるほど。先生はパソコンをよく使用されるのですか。
(福井先生)
ところが、古い人間なのでぜんぜんダメなんです(笑)。実は校舎の改良のひとつとして学内にネットワークが張られ、校長室にもパソコンが入りました。でもまだインターネットに自分で接続できません。わかる教員に頼んで開いてもらっているのが現実です。
(中山)
そうなのですか。国語の先生にインターネットに精通していただくのは、これからの国語の指導の上では重要なことだと思います。
(福井先生)
確かにそうです。若い人が育ってきているので彼らならばきっとできるようになるでしょう。
(中山)
そうおっしゃらずに福井先生から率先していただけると良いと思います。
(福井先生)
はい。若い教員からも同じように言われています。「せっかく名刺にEメールのアドレスを入れたのだから活用しなさい」と急かされています(笑)。
(中山)
同感です。ぜひ新たに取り組んでくださいませ。
さて、話題を宗教教育に変えたいと思います。相談メールなどでは「座禅を必ずするのか」など、宗教との関係についての質問があります。
(福井先生)
そうですか。建長寺の学校なので座禅の体験はします。
ただし、現在は定期的にはやっておりません。
(中山)
それはなぜでしょうか。宗教色が強いと嫌われるということですか。
(福井先生)
そうですね。それもあります。以前の入学案内には座禅の写真がありました。座禅をしている生徒の背後で、お坊さんが警策(けいさく)を持っている姿が映っていました。ところが「こんな怖いことがある学校には行きたくない」(苦笑)という話がいくつも出ました。
(中山)
そうですか。そのお写真は今はどうされたのですか。
(福井先生)
使っていません。仏教はキリスト教に比べて「格好悪い」という印象を与えるようですね。
(中山)
保護者には座禅は良い体験だからという考えもあるのではないでしょうか。
(福井先生)
確かに体験学習的な効果は期待できますし、保護者にも受け入れられるでしょう。他の中学・高校も建長寺で座禅をしています。が、今の子供にとっては定期的にやることは精神修養になるのではなく、つらいばかりになりがちです。保護者も、定期的にやるのはどうも嫌だということはあるでしょう。教員にも負担がかかるので現在は在学中に何度か行うだけです。
(中山)
それは残念な気がします。

「新しい取り組みは若い教師からの提案で生まれた」

(中山)
学校のイメージアップに関わるような新しい試みをいくつかなさっていますが、これらも若い先生方が積極的に取り組まれた結果ですか。
(福井先生)
そうです。長い間、募集や出題など入試や広報活動を担当する部門もなかったのです。
今年(2002年)から新たに設けて取り組んでいます。今、入ってきた竹内がその責任者です。彼は、懸命に取り組んでくれています。率直にいろいろ話してくれるでしょう。
(竹内先生)
入試対策部長の竹内です。
校長の言うとおり、特に広報活動については鎌倉学園は本当に遅れた学校だったと思います。ようやく他の学校を追いかける体制の基礎ができたように思います。
(中山)
塾から見ると進学実績に比べて入試難度が低い学校だ感じています。
(竹内先生)
はい。前校長が塾を嫌っていたことがあって、塾を通しての受験生や保護者への広報活動は遅れていました。福井校長になってようやく始まったという感じです。
(中山)
福井先生は塾を通じての広報活動は必要なことだと思われたのですね。
(竹内先生)
そうだと思います。でも、担当の私としてはまだ不満もあります。もっと積極的に応援してほしいと思います。それで、私はワーワー言っています。(笑)
(福井先生)
前校長の時代には歯がゆさを感じていましたが、校長になってみるとなかなか考えがついていかない面もあります(苦笑)。
(中山)
どのような点でしょう。
(竹内先生)
なんでも遠慮なく言う人間として、私は職員のあいだでも有名(笑)なのです。
今日は良い機会ですので声を大にして言います。世の中の流れを考えるとそろそろ共学校になっても良いのではないかと思います。それを提案していますが、なかなか賛同してもらえないですね(苦笑)。
(福井先生)
内部的にもいろいろと解決しなくてはならない問題が多いのです。
施設の問題も大きいですね。
(竹内先生)
それはよくわかります。が、そろそろ本格的に検討しなくてはならない時期でしょう。
(中山)
なぜそう思われるのですか。
(竹内先生)
大きな理由は募集の面です。鎌倉学園は高校でも募集をしていますが、最近入学者のレベルダウンがあり残念に思っています。原因は生徒が周辺の共学校に流れていることです。
世の中の趨勢として男子校ではなく共学校を選ぶことが多くなりました。
(中山)
高校入試では中学入試以上に共学校への志向が強いですからね。
(竹内先生)
そうです。幸いなことにわが校は進学状況が好調です。保護者の意向が反映されやすい中学入試であれば鎌倉学園を選んでもらえるでしょう。残念ながら、高校入試は在学校の意向や生徒の気持ちで決まるのでそうはいきにくいところがあります。わが校にとっては高校入試のレベルダウンは大学の進学状況にも影響します。
(中山)
竹内先生が言われるように、中学入試の保護者の中でも共学志向が強まってきています。
(竹内先生)
そうです。ですから進学実績だけでいつまでも評価され続けるかどうかも疑問です。早めに動いていきたいと思っています。しかし、なかなか進みませんね。
(福井先生)
学園全体としてまだまとまった意見になっていないのです。
(竹内先生)
校長が陣頭に立って進めてくれるとうれしいのですが。
(中山)
福井先生への期待が大きいようですね。
(福井先生)
そうですね。
(中山)
校長職は多忙でしょうから、難しいのでしょうね。
(福井先生)
忙しいと言うか、雑用が多いのでなかなか思うようにはいきませんね。
(竹内先生)
それはですね、若い者に任せれば良いことを自分でやるから(笑)だと思いますよ。
(福井先生)
前校長の時代からの因習に囚われているかもしれません(苦笑)。
(竹内先生)
早く抜け出してほしいですね(笑)。
(中山)
竹内先生のような率直な先生は学校の活力源ですね。
(福井先生)
その通りです。

「入試改革を積極的に進める」

(中山)
ここで、進められている新しい取り組みについて具体的にお伺いします。
まず指導の面での取り組みについてはいかがでしょうか。
(竹内先生)
授業の充実に併せて補習を整えています。オリジナルテキストを使って0時限と7時限に特別補習を行っています。あとは年3回の特別講習会もあります。
(中山)
週5日制への対応もありますね。
(竹内先生)
土曜日の「鎌学セミナー」ですね。英・数・国を中心に学力強化を図ります。
他に総合的な学習としてのフィールドワークや各種の学校行事に充てます。ただし、鎌学セミナーや総合的な学習の内容については、修正を加えながらより良いものを目指します。
(中山)
わかりました。新しいことを始めるにはその準備がたいへんでしょう。
(竹内先生)
会議が多いとなかなかまとまらず進まない(苦笑)面もありますね。
(中山)
広報活動の面ではいかがでしょうか。
(竹内先生)
入試対策部ができたのが今年からです。今まで塾を通じての広報活動などやったことがほとんどなかったので、最初は不安もありました。今は手ごたえを感じています。こういう取材を受けられたことも良いきっかけになると思っています。
(中山)
生徒や保護者は、インターネットや塾を通して情報を得ることが多いので大変効果的だと思います。
(竹内先生)
そう思います。オープン・キャンパスも今年から始めました。おおむね評判も良かったと思います。ね、校長。
(福井先生)
そうだったね。でも、やはり座禅の体験では「怖いからやめます」というのがありましたね。
(中山)
どうされましたか。
(福井先生)
「怖くないから」と話しました。建長寺のお坊さんにも「このような理由なのであまり怖くないようにお願いします」(笑)と伝えました。次からは内容や紹介の仕方についてももっと検討しなくてはならないでしょう。
(竹内先生)
今年度の最後(2002年12月14日)の説明会では入試のリハーサルを計画しています。
入試と同じ教室を使い模擬問題を解くような機会を設けようと思っています。
(中山)
なかなかユニークな説明会になりますね。
(竹内先生)
最初は単純に入試問題の解説をしようと考えていたのですが、それでは面白くないということで計画をしました。これは他の学校にも真似されるかもしれませんね(笑)。
(中山)
自慢の施設に希望者を集めて授業などを体験するバスツアーを実施した学校もありました。競い合っていろいろな試みをされると良いと思います。
(竹内先生)
期待していてください。
(中山)
入試に関しては2003年から大幅な変更をされますね。
(竹内先生)
そうです。従来の2回の入試を3回に増やして2日・4日・5日に実施することにしました。
(中山)
多くの学校の入試が終わった5日に実施されるのはやはりレベルの高い受験生がほしいというお考えからでしょうか。
(竹内先生)
その通りです。ただし、2004年以降もこの日程で行うかどうかについては検討の余地があります。4日ではなく別の日を検討していましたが2003年はこのような日程になりました。
(中山)
入試問題について伺います。教科によって出題の方針がかなり異なるように思いますが。
(福井先生)
各教科が独自の基準で作成してきましたが、今後は入試対策部で統一した方針を立てて臨むように決めました。
(竹内先生)
今年(2002年)の春の入試について全体で反省することから始まりました。
私がうるさく言うもので担当者は嫌がっていました(笑)。でも方針が統一されていることは大切だと思います。今後はきちんとした問題にします。
(中山)
入試問題の作成に関して現時点で決まっていることがありましたら、お話ください。
(竹内先生)
理科は従来の総合問題の形式では出題されなくなる予定です。題材がなくなった(苦笑)というのが大きな理由です。かなりオーソドックスな出題になるでしょう。
(中山)
ユニークな問題だったのに残念です。
(竹内先生)
「これぞ!鎌倉学園の問題」というのを作り出しますから期待してください。
(中山)
そうですか。それは楽しみです。
このように張り切って取り組んでいる先生がいらっしゃると福井先生も安心ですね。
(福井先生)
はい。試みが良い結果に結びつくことを願っています。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆福井校長は慎重に事を進める一方、若いスタッフの考え方を採用して新たな学校づくりを進めている。校内で学校の将来像について自由に発言できる環境が生まれているようだ。新しい鎌倉学園の姿が出来上がりつつあるように思われる。意欲がどういう形で結実していくか注目したい。
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