2004年7月6日(火)訪問:吉祥女子中学校は2度目の訪問である。西荻窪駅からそう遠くない場所にあるが、周囲は静かな住宅地となっている。2003年最新式の設備を持った新校舎が完成し、新たなスタートが切られた。安定した大学進学実績を示し、進学校としての評価も定着した。芸術コース以外の高校での募集を停止し、完全な中高一貫体制も確立され、一層の飛躍が期待されている。学校長臼井勝先生、広報部長萩原茂先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「新校舎は明るさと重厚さを備えたものにと考えた」

(中山)
今回、素晴らしい校舎を拝見しました。外観だけでなく、内部も実にゆったりとした機能的な校舎だと思います。
(臼井先生)
ありがとうございます(微笑)。
(中山)
前回の取材の際にも校舎改築について話題がでました。ならば改築後に再度お訪ねしようと考えておりましたが、このように全面的に新しくなったのでとても驚きました。
(臼井先生)
いや、その時の話は今回の改築とは違う話だったと思います。今回のような全面的な改築は当時はまだ決まっていませんでした。
(中山)
とおっしゃいますと、急遽決まったということですか。
(臼井先生)
着手できるための条件がうまく整ったのです。確かに以前から校舎の改築は準備されていたのですが、今回のような改築はとても難しいことだったのです。
(中山)
確かに授業を行いながら大きな工事をすることはたいへんですね。
(臼井先生)
早まったのは東京女子大の三鷹の校舎をお借りできることが決まり、中学生はそちらで授業できることになったからです。高校生はここで授業をしましたが、半分の生徒が別の校舎で授業することができるようになったことで、このような全面的な改築が可能になりました。
(中山)
以前から準備していらっしゃったということですが、改築に関する諸々の設計などもかなり前から準備されていたということですね。
(臼井先生)
本校は創立以来小学校、中学校、高等学校と一貫した女子教育を進めようという考えがありました。その準備を進めていたのです。社会情勢の変化で実現できませんでしたが、八王子の校地に小学校をつくる準備をしていました。設計だけでなく費用の面でも準備をしていたのです。
(中山)
それで今がそのチャンスだと思われたのですね。どのような方針で校舎を設計されたのですか。
(臼井先生)
教育の場として素晴らしいものをつくろうと考えていました。明るい校舎でありながら重厚さも兼ね備えているものをつくるというのが大テーマでした。前の校舎と比べると1.5倍ほどに広がりました。その空間に最新の設備はもちろんのこと、広い廊下をつくり普通教室もずいぶん広げました。机も椅子も使いやすい大きなものにして余裕のある学習空間ができました。
(中山)
学習環境が格段に良くなったと、受験生や保護者にもとても評判が良いですね。臼井先生が就任されて、または新しい校舎で教育を進めるにあたって、新たにお考えになったことをお聞かせ下さい。
(臼井先生)
現在は入試のシステムのような点だけではなく、教育の根幹となる事柄もなかなか軸が定まらないようなことがあります。本校は「時代の先取りをするが、時代におもねることはしない」という姿勢を堅持してきました。
(中山)
新校舎の外観や内部にも表れているように感じます。
(臼井先生)
教育は継続が大切です。今までやってきた地道な努力を取りやめて、新しいことばかり追い求めてもいけないのです。創立者は「学校は授業が一番大切である。授業は生徒と教師の格闘のようなものだから全力をかけてやれ」という話をよくしていました。広報活動はとても重要だと思いますが、萩原にも「むやみな宣伝はするな。それならば授業に力を入れろ」と言い続けています。
(中山)
学校の情報を提供する広報活動が単なる宣伝目的では意味がないということですね。
(臼井先生)
ええ。本校では「教育では人間と人間との接触が大切だ」と考えています。コンピュータの活用も専門の部署を置いて研究していますが、それに頼るつもりはありません。授業の主体はあくまでも教師と生徒という人間なのです。
(中山)
コンピュータをツールの1つとして使おうというお考えには賛成です。
(臼井先生)
以前LL教育という語学教育がもてはやされましたが、機械相手の勉強では生徒にとって意欲的に取り組むのは難しいのです。当時、導入について本校でも検討しました。が、「同じ費用をかけるならばネイティブスピーカーの教員を増やして『生』の声で英語を勉強する方が良い」と考え導入しませんでした。
(中山)
最近、保護者が教えられないため、子供がインターネットなどをルールも知らないで使うことなどがいろいろな問題を生み出しています。
(臼井先生)
何かあってからでは遅いと思います。危険性は十分に把握しているつもりですので、コンピュータルームの利用方法は慎重に考えています。操作方法だけでなく最低限のルールやエチケットなどがわかってから使うようにしています。

「高校募集の停止にあたっては受験生に配慮して広報活動を行った」

(中山)
就任されてから高校募集が停止になりました。さらに指導が充実されるだろうと期待しております。これも以前からのご計画に基づいてのことですか。
(臼井先生)
先ほど申したとおり、小学校、中学校、高等学校と一貫で教育を進めていこうという考えがありました。この考えの一環で実施したものです。
(中山)
最近、高校の募集を停止し中高一貫校にされる学校がとても多くなりました。高校の3年間だけでは女子教育は難しいという理由もあるように思われます。
(臼井先生)
本校はそのような考えはしていません。確かに指導の効果を考えると6年一貫の方が良いとは思いますが。今回の募集停止に備えて高校での募集を徐々に減らしていきました。最終的には募集数はとても少なくしました。
(萩原先生)
最終的には1クラス分の募集でした。
(中山)
高校入試への影響は最小限にしたいというお考えだったのですね。
(臼井先生)
そうです。本校はもともと新宿にありましたが、空襲で焼け出されてこの地に移転してきました。私がこの学校に来た頃、中学の募集は停止しており高校募集だけでした。当時から公立中学校にお世話になっているのに、一方的に「今年から高校で生徒を募集しません」では通らないでしょう。
(萩原先生)
実施の2年前に高校募集の停止を発表し、さらに私たち担当者が分担して各中学校を回りご説明もしました。
(中山先生)
きちんと対応されたのですね。以前、いきなり高校募集の停止が発表になり受験生が困ったという例がありました。
(萩原先生)
しかし、「今年から採らないんですか?」という問い合わせはありました。中学校の進路指導の先生が異動になり、引き継ぎがうまくいかない場合もあったようです。
(中山)
理科系大学へ進学する希望を持った女子は、公立高校ではほとんど希望が叶えられないということを知っています。高校から吉祥女子へ行きたいと考えていた生徒には残念なことだったと思います。
(萩原先生)
確かに本校では理科系大学の進学者は増えていますね。その期待もあったのでしょう。
(中山)
臼井先生は現在授業をお持ちなのですか。
(臼井先生)
週に6時間ほど中3の道徳を持っています。もともと英語の教師(笑)なのですが、校長になってからは道徳を受け持っています。道徳の中で英語を使って(笑)授業をしていますよ。
(萩原先生)
生徒は英語の先生だと知っています。英語の問題について質問をしているのを見かけますから(笑)。
(臼井先生)
道徳の時間に英語の話をするもので、生徒は英語の教師だとわかっています。だから担当の教師が見あたらないと質問にやってきます。
(中山)
では生徒たちは気軽に校長室に入ることができるのですか。
(臼井先生)
そうです。「校長先生」なんて呼ばないで、「コーチョー、コーチョー」と呼びながら(笑)やって来ます。これはオフレコかな(哄笑)。
(中山)
いえいえ(笑)、臼井先生のお人なりが感じられる良いお話です。生徒のみなさんは学校外で校長先生を「校長」と呼ぶのは親しみを感じている証拠だと思っているようです。
(臼井先生)
いつもだと困るのですが、生徒達はTPOをちゃんとわきまえています。取材などでここに来るときはノックをし、丁寧な挨拶をし、きちんとした言葉遣いで話します(笑)。
(中山)
吉祥女子の生徒は全体的にお行儀をよくわきまえていると言われています。
(臼井先生)
いや、そうでもないんですよ(苦笑)。毎年、生徒達に「吉祥生は明るくて元気があると言われるが、さらに明るくて元気があって品位もあると言われるようになってほしい」(笑)と私は言っています。
(中山)
品位につきましてはどのようにお話しされるのですか。
(臼井先生)
「品位というのは、今自分がどんな場所にいるのか、そしてどのような振る舞いをしなくてはならないのかをわきまえて行動ができるということですよ」と教えます。「具体的には、バスの中や電車の中のように自分の仲間以外の人たちがいる所で、自分たちしかいないように大騒ぎをしてはいけないのです。他の方に配慮ができるのが品位があるということですよ」と話します。
(中山)
わかりやすいお話ですね。学校によっては「指導をしていてもいろいろな方々からご注意をいただく」ということをうかがいます。
臼井先生)
残念ながら本校でも時々ありますね。そういうことがなくても日常的に話して指導をしていきます。その結果でしょうか、「車内で座席を譲ってもらったが、その譲り方も自然でさわやかに感じられて良かった」というようなお褒めの言葉をいただいたくことも多くあります。

「一人一人が自分の居場所を見つけられる学校にしたい」

(中山)
最近の女子中学生や女子高校生の容姿にはいろいろな心配を感じることがあります。吉祥女子ではいかかでしょうか。
(臼井先生)
本校でもピアスをしたり髪の毛を染めて来る子もいます。もちろん指導をして改めるようにしていきます。ただ、そのような行動は何かのシグナルを発していると考えなくてはなりません。
(中山)
本当にそう思います。
(臼井先生)
家庭や学校での生活の中で問題を抱えた結果であれば、単にやってはいけないと注意して改めるだけでは解決しません。担任や各担当で原因を注意深く探り解決する努力をしていきます。
(中山)
そのような対応がされていることが学校に対する評価を高めてきた要因のひとつでしょう。
(臼井先生)
その他では、危機的な状況にあるのが体力の低下だろうと考えています。大したことでもないのに「疲れた」と言うことに始まり、転びやすいしよく骨も折ります。大小いろいろなケガをしやすいと感じています。体格は良くなったと思いますが、逆に必要な体力が低下していると思います。
(中山)
やはり過保護に育てられてきたからだとお考えですか。
(臼井先生)
そうですね。だからと言って体育の授業の内容など加減をするつもりはありません。体育祭では棒倒しもやります。女子ではとても珍しいでしょう。こちらとしてはケガがないように配慮はしていますが。体は鍛えるべき時に鍛えよという方針です。家でも体を使って手伝いをさせてほしいと保護者にも要望しています。
(中山)
鍛えるということを厭う保護者が増えてきたと思いますがいかがでしょうか。
(臼井先生)
ゴロゴロするのも時には必要でしょう。ただ、絶対にしてほしくないのは携帯電話やパソコンに何時間も向かっていることです。保護者の皆さんにもそう思って欲しいです。
(中山)
先日も携帯電話に依存している女子中・高生が非行に走る割合がとても高いという記事があり心配しています。
(臼井先生)
画面と向かっていては相手の顔を見ることもできないですからね。やはり人間どうしの接触が必要なのです。
(中山)
入学案内などを拝見すると、体を鍛えるための行事が多いと思います。
(臼井先生)
そうでしょう。林間学校では徹底的に歩かせます。中では富士山頂まで登らせます。苦労して山頂をきわめることで成就したときの感動が大きく、学び取ることも多くなります。
(中山)
全く同感です。
(萩原先生)
その成果は2学期の学習面にも表れてきます。積極的に勉強に向かう姿勢が強く感じられるようになります。
(臼井先生)
クラブ活動も奨励しています。お互いにぶつかり合う経験を通じて、折り合いをつけることを学ばせます。いろいろなことに対する耐性を身につけることが社会性を育てる上でとても重要だと思います。
(中山)
おっしゃるとおりだと思います。指導に当たる先生方はとても大変ですね。
(臼井先生)
本校の教員は教科以外の指導でも生徒とともに汗をかくのを厭わない者が多いと思います。これが本校の指導がきめ細かいと評価される理由のひとつでしょう。これは自慢できることだと思います。
(中山)
本当にそう思いますね。これからも是非続けていただきたいと思います。
(臼井先生)
人と人の接触はとても大切ですが、それに加えて一人で机に向かいながらじっくり考える時間も必要だと思います。生徒たちには「静かに本を読むような時間を持つことがいずれ君たちを救うことになるよ」と話しています。
(中山)
公立小学校や中学校ではそうしたことが難しくなっています。本を読む生徒と読まない生徒の2極に分化しているように感じます。読まない生徒が多いときには読む生徒は「暗いヤツだ」という見方しかできなくなってしまいがちです。
(臼井先生)
その点では本校の雰囲気は良いと思います。わりといろいろなものを認めて受け容れる気風があります。生徒たちにもそれははっきり表れています。
(中山)
そういうことがあるので保護者は私学への進学を考えるのだと思います。最近とみに公立では真面目にコツコツ取り組む生徒は仲間はずれになる傾向が見られます。
(臼井先生)
同様なことはいろいろな社会で見られることでしょうが、度が過ぎてしまわないようにしなくてはなりません。それぞれの居場所を見つけられる学校にしたいと思います。
(萩原先生)
すごく混雑している図書館の一角でセル画を熱心に描いている生徒たちがいます。お互いに何も話をしないのですが、コミュニケーションをとりながらやっていると思います。一見静かな生徒どうしにもネットワークがあるので居場所は用意されていると思います。

「生徒が教師を信頼することで授業が効果的になる」

(中山)
生徒たちの授業中の様子はいかがですか。
(臼井先生)
授業態度は良いと思います。どんな学力レベルの高い学校でも授業中に生徒の無駄話をすることが多くなっているという話を聞きますが、本校ではそんなことはないですね。
(萩原先生)
以前は夏休み明けなどには休み中の話題で授業時間の半分を費やすなどということがありましたが、今はそんな雰囲気ではないですね(笑)。そのような話は早々に切り上げて授業の本題に入る感じですね。
(臼井先生)
でもそういう話はしても良いんじゃないかな(笑)。
(萩原先生)
そうですね。ただ、聴く力や集中力という点では大きく伸びているように感じます。
(中山)
なるほど。
(臼井先生)
聴く力という点では我々専任だけではなく、いくつかの学校で授業をしている講師からも評判が良いですね。「吉祥では授業が本当にやりやすい」とよく言われます。
(中山)
秘訣は何でしょうか。
(臼井先生)
何でしょうね。
(萩原先生)
先ほど校長も言ったとおり、授業以外のところで生徒と関わることが多いので信頼が増しているのではないかと思います。「せっかく先生が自分たちのためにしっかり準備して授業をしてくれるのだから、聴かなければ損だ」と思うのかもしれません。
(臼井先生)
そうでしょうね。夏に高校生を対象に行う勉強合宿があります。「祥友ゼミナール」と呼んでいますが、林間学校でも使う富士山の麓の寮で1週間ほどやります。生徒たちは食べて寝て風呂に入る以外は勉強(笑)というくらいの合宿です。
(中山)
朝から晩までがんばるんですね。
(臼井先生)
ええ。短期間なのでそこでつく学力はたかがしれたものです。が、教師との信頼関係を築いていく良い機会になるでしょう。教師は夜中までほとんど寝る間もなく質問に対応します。その後の授業につながるのでしょう。
(中山)
入試についてお伺いします。
以前は理科・社会の出題が国語・算数とはやや異なっていたように思います。最近は国語、算数と同種の出題になっています。
(萩原先生)
確かに身近な題材をもとにした問題や時事的な内容を工夫して使った問題を出していましたね。
(中山)
そうです。それが最近は少し変わっています。以前には難問ではありませんが、とても工夫された面白い問題が出されていました。それがより一般的な問題に変わってきたように思います。
(萩原先生)
国語や算数と同じように勉強した成果が発揮できるように配慮しています。以前は「理科は身近な題材で観察力や考察力を診る」、「社会は時事的な問題を取り上げるので新聞やTVでニュースを見てください」などはっきり伝えていました。それでは受験生の負担が大きくなるということを考えるようになってきました。
(臼井先生)
創立者の守屋先生が最近の問題を見たら「こんな問題出したって仕方がない」と言うでしょうね(苦笑)。大学の入試問題を見て「こんな問題を出すなら、面接と作文で試験をした方がが良い」と言った人でしたから。
(中山)
問題が一般化されてきたことは多少残念なことです。
(萩原先生)
生徒にとって身近な内容の範囲が異なってしまうことや受験勉強の最中に新聞やTVを見るのが負担になると考えました。
(臼井先生)
入試が1年に3度あることも原因ですね。問題の題材がなくなってきたとも言えるでしょう。そこでより一般的な出題になってきた。まさか外注するわけにはいかないので問題作成はとてもたいへんな仕事になります。
(中山)
確かに毎年3種類を作るのは難しいかもしれません。が、敢えて申し上げますが国語・算数でも記述形式の問題をもっと増やしてほしいという希望があります。
(臼井先生)
1年に3回の入試は多すぎるように思います。しかも合格発表が試験当日という制約もあります。採点が遅れるわけにはいきません。毎回の試験では「早く早く」(笑)と採点が終わるのを待っています。良い問題を作るには2回が限度だろうと考えています。
(中山)
受験生にとっては入試が自らを鍛えるハードルにしたいと考えています。しっかり考えて解いていかなくてはならない問題を何問かは出していただきたいと思っております。
(臼井先生)
そうですね。情勢が落ち着いてきたら入試は以前のように2回に減らしたいとは考えています。そうすればより工夫された出題ができると考えます。
(中山)
わかりました。すばらしい問題を期待しております。
本日はありがとうございました。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

付記臼井校長は細心と大胆さをもって学校を運営されている。学校内には問題点を探し出しすばやく対応できる準備が整っていると感じた。それが時代に一歩先んじた学校づくりができてきた理由だろう。教務スタッフが労を厭わず対応する姿勢も学校の評価が高まった要因であると感じた。
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