2000年5月10日(水)訪問:明治大学付属明治中学校・高等学校(以下明大明治)は交通至便な「お茶の水」にある。お茶の水は、明治大、などの大学、予備校、専門学校が立ち並び、学校の街、学生の街だ。明大明治は、明治大学の唯一の直系付属校として、大学までの連続10年間を考えた教育を進めてきた。「硬派」のイメージを持つ男子校と知られる。いろいろな方面で活躍するOBも多い。学校長清水紀夫先生、教務・進路指導主任西村英之先生、生徒指導主任小柴仁美先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「『夢を持って欲しい』と生徒に語りたい」

(中山)
清水先生は校長先生になられてどのくらいになりますか。
(清水先生)
3年目に入ったところです。ただ、その前に教頭を長くやっていました。まず、中学で6年間、その後は高校でも6年間です。
(中山)
教頭先生の期間が長いように思いますが、何か特別な事情がおありだったのでしょうか。
(清水先生)
うちの学校では、稀に明治大学から校長を招聘することはあるのですが、外部から校長を招くことはほとんどありません。私学なので異動がありませんから、永く勤める教員が多いのです。教員の年齢の差がかなり大きくなり、退職した教員が一度にたくさん出たのです。そのため、割りに若い時期から教頭になったというわけです。
(中山)
教頭先生になられて授業はお持ちにならなくなったのですか。
(清水先生)
いいえ、数学の授業を週8時間ほど持っていました。それまでの15、6時間と比べると半分になるので、「何のためにこの学校に来たのかな」と残念に思っていました。さらに校長になると全く授業がありませんので、生徒と接触する機会がなくなりました。 この間、中学生と話をしたとき、「校長先生は全校集会や始業式、終業式に壇上にいる人」というイメージしか持っていないので、本当に残念でした。
(中山)
生徒たちが校長室に自由に出入りするということはないのですか。
(清水先生)
新聞部の生徒が原稿依頼に来る以外にはほとんどありません。 この校長室は事務室の奥にありますから、なかなか入って来られないでしょう。(笑)
(中山)
では、生徒たちが校長先生に接するのは、全校集会などの行事でお話を聞く時になるわけですね。そのときにはどのようなお話をされるのですか。
(清水先生)
中学の卒業式の時には、宇宙飛行士の毛利衛さんが「宇宙へ飛び出したい」という夢を持ったのは中学時代のことで、夢を叶えるまでには長い時間が必要だという話をしました。 その話をした直後に、毛利さんが学会に出席するために近くにいらっしゃるので、うちの生徒に話を聞きに来ないかという誘いが学会から来たのです。是非実現させたいと思い準備を進めて、中2の全員がお話を聞きにいけるようになったのですが、最後のところで実現できませんでした。
(中山)
それは残念なことでしたね。
(清水先生)
結局、私が一人出かけてお話を聞いてきたのですが、そのことは是非話したいと思っています。これからも、「夢を持って欲しい」と生徒に話していきたいと考えています。

「大学生と一緒に研究するクラブもある」

(中山)
明大明治は明治大直系の付属校です。それが指導の上でどのように活かされているのですか。
(清水先生)
うちは「中・高・大10年一貫教育です」と言っています。それほど、大学との関係は密接です。それだけではなく、卒業生とのつながりも深いのです。 大学生のOBや卒業生のOBを招いて、大学の様子や生活、社会の様子や仕事について話してもらいます。 うちの出身者で司法試験や公認会計士試験へのチャレンジが多いのは彼らの影響でしょう。
(中山)
中学・高校の時代にすでにそのように考えているわけですか。
(清水先生)
OBの生の話は教員の話よりずっと身近に感じられるようです。 大学との関係に話を戻しますが、クラブ活動の一貫で、大学へ出かけて実験をしたり講義を受けたりします。教授や院生、学生から指導を受けることもあります。多いに刺激を受けていろいろな成果を挙げています。 そして、その成果を学校内だけに留めておかないで、外へ発信します。それが高い評価を得ることで、一層の励みにもなるわけです。
(西村先生)
うちは付属校なので、中学時代は「基礎をしっかり固める」ということが最も大切だと考えて指導しています。 いろいろなことに興味を持って、自分で積極的にアプローチできるようにしたいと思います。 例えば、あるクラブでは、農学部の教授と連絡をとり、土曜の午後に生田校舎まで出かけ、院生や学生と一緒に研究をし、その結果を大学の論文に使ったり、コンクールに出したりします。今回のコンクールで入賞した研究もこのような取り組みの結果で生まれたものです。
(中山)
その研究はどのような内容だったのですか。
(西村先生)
花粉の発芽に関する研究でした。私は直接の指導教員ではないので、詳しい話はできませんが、担当の教員が笑いながら「夏休みが1日か2日しかなかったよ」と言っていました。
(清水先生)
クラブの中で受け継がれて、さらに研究が進んでいくと思います。指導する側はそれなりの労力がかかりますが、このような取り組みができるのが付属校の利点だと思います。
(西村先生)
本校のOBで、理科系の学部で大学院に進む割合が高いことと、大学時代に研究で表彰されることが多いのは、このような取り組みが効果を生んでいるからだと思えます。
(中山)
それは付属校の良さですね。

「生徒がしっかりしていると言われる」

(中山)
明大明治の生徒には、男っぽい、逞しいというイメージがありますが。日常をご覧になっていらっしゃる先生たちはどのようにお感じでしょうか。
(清水先生)
入学すぐの生徒はそうでもないと思います。体力の上では平均を下回ります。うちで生活をしていく中で、体力的にも人格的にも成長していくのはわかります。
(西村先生)
外部の方から見ると、うちの生徒はしっかりしているように見えるようです。永年、この学校で生徒を見ていると、しっかりしていないことがよくわかりますから(笑)。 ただ、校則などで特別に厳しく指導するわけではないのに、茶髪や金髪に染めている生徒はまずいません。これは生徒の中に受け継がれているものがあるからだと思います。
(中山)
厳しい指導はないということですが、何か取り組まれていることはありませんか。
(清水先生)
中1から高3までのクラブ活動や日々の授業の際には、礼から始まり礼で終わるようにしています。まず形から整えていくわけです。服装も同じです。
(西村先生)
本校の場合、先輩と後輩のつながりが強いのも関係があるのでしょう。 クラブ活動にはOBも参加して、担当教師と連携して指導にあたります。
(中山)
男子校の良さだと思うのですが、よそ行きをわきまえた生徒が多いということを感じます。注意しないでも、きちんとすべきときにはそれらしくできるのではと思います。
(清水先生)
そうですね。うちの生徒は妙にわかっているようです。教員の姿を見ると服装や髪を直していますから(笑)。
(小柴先生)
外面は良いですね(笑)。目的意識を強く持って行動しているからでしょう。 外見だけではなく、生徒会の活動、クラブ活動などを通して自分を高めて、その結果で評価してもらおうという意識が強いからだと思います。茶髪のように、人の目を引くようなうわべの格好つけは必要ないんだと感じるようです。
(中山)
話は変わりますが、中学生や高校生の頃には、強い先生ほどかかっていきたくなる生徒も出てくると思いますが。小柴先生は、お強そうにお見受けしますが、生徒たちから挑戦を受けることなどはありませんか
(小柴先生)
あるでしょうね。特に高校生になる。自分の成長や存在をアピールするために。 どんとんチャレンジして来い(笑)というところです。

「自分で考えられる、表現できる生徒が欲しい」

(中山)
次に入試に関してお聞きします。 試験日が2月3日で受験生がかなりの数になります。国語や算数では、記述など採点に手間がかかる問題が多いのが特徴ですが、この方針が変わることはないのでしょうか。
(西村先生)
本校は面接を止めましたので、問題を通じて考えなどがわかるようにという意図を含んでいます。自分で考えることができ、表現することができる生徒を取りたいと考えています。 ですから、出題の傾向は今後も変わらないと思います。
(中山)
中学入試の場合は連日の受験となります。できるだけ早く結果がわかるほうが受験選びや、手続の無駄をなくす上で受験生にとっては都合が良いのですが、当日発表などのように発表についての変更などはいかがでしょうか。
(西村先生)
早い入試日の場合、受験生の負担を考えると当日発表が良いということはわかりますが、本校は2月3日と遅い試験日なので当日発表の必要ないと思います。 ただ、ご指摘のあった発表時刻を早めることは考えられることです。
(中山)
今後の入試について、変更点が何かありましたらお話ください。
(清水先生)
2001年の入試から、今まで公表していなかった合格者の最低点、平均点、足切り点を公表する予定です。
(中山)
情報が公開されるのは受験生にとってもありがたいですね。 最後に各先生から受験生ならびに保護者の方々にメッセージをいただきたいと思います。
(清水先生)
私たちの教育は、子どもたちをいかに自立させるかにポイントを置いています。 子どもたちの幸せを願っての教育ですから、入学されたなら全て任せていただきたいと思います。ただし、教育は学校だけでできるものではありません。ご家庭と学校の協力がなければできません。この点をご理解いただいて入学される方をお待ちしています。
(西村先生)
中学入試はとりあえずの目標でひとつの通過点です。入学後の6年間、10年間で自分はどのような人間になりたいのか考えて欲しいと思います。夢を持って入学して欲しいと思います。
(小柴先生)
中学高校の6年間、受験勉強にとらわれずにいろいろな活動ができます。自分の可能性を見出し、自分を創り上げる期間です。 要するに男を磨きたい、男らしさを磨きたいと思う子どもたちに来て欲しいと思います。

以上

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☆付記☆校長清水先生は物事の本質を見極め、冷静に対処されている様子がうかがわれる。西村先生、小柴先生など、熱い心を持ったスタッフの長所を引き出しながら学校を運営されている。しなやかさが、男っぽさの底に脈々と流れていると感じた。
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