2001年11月16日(金)訪問:昭和学院秀英中学校は昭和学院(本部:市川市)が幕張新都心につくった学校である。最寄りの京葉線海浜幕張駅の周辺は新都心として大企業の本社ビルが建ち並び、各種の展示会や発表会の会場となる「幕張メッセ」やプロ野球チームの本拠地「千葉マリンスタジアム」がある。また、放送大学、神田外語大学、千葉県立衛生短大などの教育機関、県の教育研究施設などもあり、周囲からライバル校と見なされている渋谷幕張中・高とも隣接している。併設高校は千葉県内では渋谷幕張、東邦大東邦と並ぶトップの私立高として知られ、千葉高など「県立御三家」と競っている。中学入試では独特の第一志望を優先した入試の形態をとっているため、「試し受験」の生徒が少なく前記の私立中2校とは難度の差が大きい。しかし、大学進学状況などに難度の差は感じられない。落ち着いた校風と学力を伸ばす指導で評価が高い進学校である。副校長(校長に相当)中條六雄先生、高校教頭(進路指導も担当)山崎一男先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「表現力を付けるために作文指導が重要だ」

(中山)
まず、学校のシステムについてお伺いします。 中條先生は副校長という職務で昭和学院秀英中学校の責任者という立場なのですね。
(中條先生)
そうです。伊藤学校長は学院長という立場で学院全体を指導しています。重要な学校行事の時以外には本校には参りません。本校は2人の副校長が任されている形です。
(中山)
学校創立は1983年ということですが、それ以来ずっと秀英中学校に関わっていらっしゃるのですか。
(中條先生)
そうです。新しい学校をつくるということで市川の昭和学院からやって参りました。 始めは高校だけで、1学年3クラス135名の学校でした。だから、当時は校舎もこんなに大きくはありませんでした。小さな学校だったのですよ。
(中山)
開校当初はいかがでしたか。何か思い出となるエピソードはありませんか。
(中條先生)
最初の入学式のことは今でもはっきりと思い出されます。完成して間もない建物だったので、式場となる体育館は外だけでなく中までも木くずなどでいっぱい(笑)でした。スタッフ全員で箒で掃いて式場を整え、新入生を迎えたときは感動しました。
(中山)
昭和学院として、この学校を創られるにあたってたてられた方針はどのようなものだったのでしょうか。
(中條先生)
中高6年一貫の体制で、昭和学院の伝統を踏まえて理想的な教育の実践に努めるということです。言葉で表現すると明朗謙虚、勤勉向上という理念ですが、それを掲げて進めてきました。
(中山)
1つ目の明朗謙虚という表現ははじめて聞くものですね。
(中條先生)
明るく健康的で、しかも控えめである。そして勉学に励み、今より優れた自分をつくる。 これを念頭に置いて教育を進めています。確かに前半の内容は独自のものでしょう。
(中山)
指導の上ではどのようなことを実践されているのですか。
(中條先生)
本校は進学校として地域社会から評価をされています。それに応えるための指導、中学校では基礎的な学力をきちんと身につけ、高校では学力をレベルアップして、生徒が希望する大学へ合格させるのが基本でしょう。しかし、それだけではありません。
(中山)
それでは、他にどのようなことがありますか。
(中條先生)
学力を伸ばすことは当然なのですが、そのほかに、総合的な人間を育成する、しかも将来社会に役立つような人間を育成することが大切だと考えています。これは昭和学院の創立者の教育理念なのですが、本校にも根付いています。
(中山)
その理念に基づいてどのような取り組みがなされているのですか。
(中條先生)
1983年に高校が開校され、その2年後に中学は開校されたのですが、当時から、「自分で考えて行動する」という指導上の狙いをもっていました。 その糸口となるものとして作文教育、読書教育に力を入れていました。
(中山)
作文教育について具体的にお伺いしたいと思います。
(中條先生)
年2回、中学、高校の学年ごとにテーマを与えて学校独自の原稿用紙に800字の作文を課します。自分の考えをまとめて書く、高校生になると小論文的な内容に発展します。自分の考えを示すものなのでディベートの形を採るものもあります。 年に1冊、「葦牙(あしかび)」という冊子にまとめます。ご覧ください。
(中山)
「葦牙」という名前はどなたがお付けになったのですか。
(中條先生)
亡くなった初代の副校長です。彼と私、その他に1名の教師で国語科の指導に取り組みました。
(中山)
指導を進められてどのような効果がありましたか。
(中條先生)
教科の学力は平均的でも文章表現力が高いと、別な観点から生徒を評価できる点は良いですね。さらに、読書感想文のコンクールなどで多くの入選作がでています。全国コンクールに進む作品を続けて出しているほど、全体の文章表現力は高まっています。

「学校行事では上級生が下級生を熱心に指導する」

(中山)
その他の取り組みとしては何がありますか。
(中條先生)
音楽、演劇、映画などの鑑賞を通じて情操教育にも努めています。それにボランティア活動にも取り組んでいきたいと考えています。昭和学院中・高ではボランティア活動が盛んで高い評価を受けていますが、本校はまだまだですので今後の課題ですね。
(中山)
直接に大学進学に関係する指導以外にも、いろいろな方面の教育に力を入れられていることがわかりました。
(中條先生)
毎日が勉強、勉強、それだけの進学校にはならないというのが基本の方針にありますから。
(中山)
授業や行事などでの生徒たちはどのような様子なのでしょうか。おもしろい話があればご紹介ください。
(山崎先生)
本校では行事はほとんど中高合同ですから、いろいろな面が見られますよ。特に文化祭は生徒主体の行事なのでおもしろいですね。
(中山)
高3と中1では体力差が大きいので困ることはありませんか。生徒たちはうまくやっていけるのですか。
(中條先生)
そのような心配はほとんどありませんね。やはり上級生は偉い(笑)と思いますね。 クラブ、同好会では下級生を指導してうまくやっています。別に威張って何かをしろという感じではありませんから。
(中山)
文化祭のお話が出たところで何かおもしろいエピソードがあればご紹介ください。
(中條先生)
みんな一生懸命やっているのでいろいろな力作ができます。今年(2001年)の文化祭では高1がつくった「招き猫」のモニュメントが話題になりました。 本来は終わった後に焼却するものなのですが、当日見学に来た昭和学院の先生から「ウチでも使わせてほしい」という話があって向こうに招かれて行きました(笑)。
(中山)
どのようなものだったのですか。
(中條先生)
竹を編んで型を作り針金で補強した上に障子紙をはり、絵を描いたものです。 かなり手の込んだものだったと思います。
(中山)
向こうでも評判になったことでしょう。
(中條先生)
そうですね。文化祭の反省会、これは参加した保護者の方も交えて行うのですが、その席で学院長が「招き猫は素晴しいできばえだった。つくった生徒たちを誉めてやってほしい」という話があったほどのものです。
(中山)
なるほど。クラブ活動はいかがですか。
(山崎先生)
生徒の特性を伸ばすために力は入れているのですが、残念ながら今のところはなかなか目立った成績をあげることができません。
(中條先生)
昭和学院の方はバスケットボールなど全国レベルの活躍をするクラブがいくつかあるので、それを目標にしていますが現実には中高とも千葉市の大会でも勝つのが難しいレベルですね。それでも男子バスケットボールで市大会で優勝して県大会でベスト8になったことがあります。
(中山)
これからの課題のひとつですね。
(中條先生)
運動もできる生徒には運動でも活躍させてやりたいですね。 入学してくる生徒には音楽や美術が得意な生徒もいますので、活躍の場を設けて特性を伸ばしていくことも大切だと考えています。

「補習はいろいろな形で数多く行われる」

(中山)
進学指導についてお伺いします。千葉県の場合、長い間ずっと公立高校のレベルが高いとされてきました。進学指導の面では公立高校を意識されてこられたと思いますが。
(山崎先生)
高校入試では合格者のかなりの数が千葉高や船橋高との併願者で占められ、公立中での進路指導の関係でそちらへ受かると抜けてしまいますからね。
(中條先生)
でも、こういう表現は適切ではないかも知れませんが本校は「お得な学校」だと思います。
公立中学からトップの県立高校、たとえば千葉高や船橋高に進むより確実にレベルが高い大学へ入ることができると思っていますし、その他にも先ほどのような公立では得られない教育にも力を入れていますから。
(中山)
そうでしょうね。ただ、評価の高い公立高がある場合、私立学校はいろいろとご苦労もおありではないかと思います。
(中條先生)
そうですね。中学が開校してから5、6年間は、優秀な生徒のうち何名かが高校で千葉高を受験して移っていったこともありました。
(中山)
とても残念に思われたことでしょう。
(中條先生)
生徒や保護者が決めたことですから仕方がないでしょう。しかし、その時に本校に残った生徒から東大2名、京大2名の現役合格者が出ました。他にも早慶なども何名か現役で入り、国公立大や難関私立大へ合格できる学校だという評価が生まれました。
(中山)
実績を上げることで高い評価を得られたわけですね。
(中條先生)
その通りです。それ以来、優秀な生徒でも外部へ出る者はなくなりました。 中学入試でも大学の入学率はかなり高いと思いますね。
(中山)
大学進学の実績を上げるためには指導スタッフの努力も大きいと思いますが、まず、中学段階の取り組みとしてはどのようなものが上げられますか。
(中條先生)
中1、中2では基礎学力の養成を図ります。入学時にはほとんど同じような学力なのですが、時間が経つにつれて差が開いてきますので、テストなどで成績が芳しくなかった生徒を指名して補習を行います。
(中山)
補習は恒常的に行われるのですか。
(中條先生)
そうです。朝早い時間や放課後を使います。その他にも夏休み、冬休み、春休みにも行います。ただし、中3に限り「この内容を教えてほしい」という生徒のために希望制の補習も行います。当然ですが指名制の補習とは別立てになります。
(中山)
授業時間以外にも細かく対応されるのが学力を伸ばすポイントなのですね。 大学の現役合格率75%はすごいことです。
(中條先生)
よく頑張ってくれたとうれしく思っています。 補習は、生徒たちが学校生活を楽しみ、勉強に身が入らないことから必然的に始まったことですよ(笑)。そのような生徒を高校に送るので心苦しく思っています。
(中山)
中條先生は謙遜されますが、実際のところいかがでしょうか。
(山崎先生)
以前に比べて学力は確実に高くなっています。これはもっと自慢して良いと予備校や塾関係の方に言われていますが、自慢というのはしにくいもので(笑)、ただ、おもしろい生徒が少なくなった気がします。以前は音楽や美術などにも優れた生徒も多かったのですが…。
(中山)
そのような生徒が少なくなったのはよく言われる塾の指導などが原因でしょうか。
(山崎先生)
塾の指導というより、保護者が偏差値だけで学校の良い悪いを決めるからでしょうね。
学校としてはいろいろなタイプの生徒が入ってくれることを希望しています。
(中山)
いろいろな機会を通じて、偏差値だけで学校選びをしないようにと話をしていきたいものです。

「生徒の多くは第1志望で大学に進む」

(中山)
さきほどの、大学受験の高い現役合格率につきましてお尋ねします。具体的にはどのような指導がされているのでしょうか。
(山崎先生)
高校での指導の最大の特色は高2まではコース別にしないことでしょう。芸術教科以外は生徒たちは同じ内容で授業を受けます。高3で初めて文系・理系2コースに分け、入試に合わせた選択も多くしています。
(中山)
進学のための指導としては効率的ではないように思われます。1年間では授業時間が足りないように思われますが。
(山崎先生)
そのような指摘を受けることもありますが、高2からコース別にするには高1で進路を決めなくてはなりません。それではあまりに早すぎると思います。また、文理に関わらず勉強しておいてほしい内容もありますので、現時点では最良の方法だと考えています。
(中山)
確かにそうですが、時間的な無駄も多いのではないでしょうか。特に問題練習の不足に対する対応はいかがでしょうか。
(山崎先生)
授業を効率的に進め、不足分はいろいろな機会に設ける補習などで対応しています。 授業を含めて総合的な時間はかなりのものでしょう。
(中條先生)
高3の担当者は入試が近づくと休みがなくなるほどです。でも、教師はみんな当たり前だと思ってやっています。
(中山)
そのような努力の結果が現役合格率75%という数字につながるわけですね。
(山崎先生)
一部例外もありますが、全員がほぼ第1志望の大学に進んでいます。普段はあまり言いませんが、教師の努力の成果でもありますので自慢しましょう(笑)。
(中山)
本当にそうですね。生徒や保護者からの期待がますます高まってくると思われますが、進学のための指導にさらに力を入れられる計画はありませんか。
(山崎先生)
生徒にはできるかぎり上位の大学に進ませてやりたいと思っています。学校の宣伝を考えると東大や早慶などにもっと多くの生徒を入れると良いのでしょう。しかし、本校はそのような指導はしていません。 あくまでも自分が進みたい学校に進むというのが進路指導の基本です。
(中山)
学力別クラスのクラス編成などは検討されていませんか。
(山崎先生)
そのような予定はありません。確かに特進コースなどを設ければ難関大学の合格者数は増えるでしょうが、本校の指導方針には合いません。個々の生徒が自分の力を最大限に発揮した結果、合格できたという大学に進ませるのが目標です。
(中山)
なるほど。では、次に入試についてお伺いします。 受験生や保護者からは「選抜のしかたが独特でわかりにくい」「1月の入試は募集定員がはっきりしないので受けにくい」という話があります。
(中條先生)
12月の1回目の入試が第1志望生のものですからね。その合格状況で2回目の入試が決まります。それでも2回目の入試には700名以上の受験生が集まります。受けにくいということはないと思いますが。
(中山)
合格の見通しが立てにくいということです。もう一点、入試問題は基本的なものが中心で、競合する学校と比べかなり易しい印象を受けますが。
(中條先生)
それは学院長の方針です。基礎的な学力を身につけている生徒を受け入れたいということです。今後も変えることはないでしょう。その分、合格点が高くなりますからミスをしないことが大切です。
(中山)
合格点の設定はどの程度を目安にされていますか。
(中條先生)
ほぼ70%です。
(中山)
最後に先生方から昭和秀英に入ってきてほしいと望む生徒のタイプについてお伺いします。
(山崎先生)
特にありません。どのような生徒でも良いですよ(笑)。 入ってきたら本校の生徒らしい姿になりますから。
(中條先生)
そうですね。一生懸命に指導しますからね。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆中條副校長、山崎教頭とも普段の授業で生徒と接している。謙虚な話ぶりながら日々の指導の結果に揺るぎない自信が窺える。生徒の日常を掌握できていることと、深く広い思いをかけているゆえだろう。優秀な進学実績を生み出すもとは、地味ではあるがスタッフのたゆまぬ熱意だと感じた。
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