2001年5月18日(金)訪問:湘南白百合学園中学校・高等学校は江ノ島にほど近い高台にある。周囲は閑静な住宅地が広がる。学校は豊かな緑に囲まれているため、静かで四季の変化にも富んだ教育環境が造られている。創立60年を超えるカトリックの学校。フランスで生まれた「シャルトル聖パウロ修道会」により創立された。同じ「白百合学園」の名を持つ学校は全国に幼稚園から大学まで数多くあるが、その中でも東京九段の白百合学園と並んでレベルの高い進学校と知られる。きめ細かい進学指導だけではなく、伝統ある情操教育などでも保護者や受験生の評価が高い。学校長深堀シヅ子先生、広報部長柳宣宏先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「自分の行為が喜ばれるものだとわかればより積極的になれる」

(中山)
校長先生は湘南白百合の卒業生だとお伺いしております。どのような経緯で校長になられたのですか。ずっとこの学校にいらしたのでしょうか。
(深堀先生)
いいえ、修道会の会員には転勤があります。 白百合学園は全国で大学2つ、短大1つ、高校7つ、中学校6つ、小学校5つ、幼稚園8つと数多くの学校を運営していますので、姉妹校で転勤することになります。 私も東京の白百合にいたのが一番長いのですが、若い頃には函嶺白百合や函館白百合にも参りました。 最初に校長となったのは函館白百合で、その後湘南白百合の校長となりました。
(中山)
それでは、校長になられてずいぶん長期間なのでしょうか。
(深堀先生)
函館白百合で12年間務め、この学校でも18年目に入ります。ここに戻ってきたときに「どうも長居をしそうだな」と思っていたらその通りになりましたね(笑)。
(中山)
30年間も校長をなさっているということは、校長としての適性をお持ちだということだと思います。
(深堀先生)
適性があるかどうかはわかりません。白百合学園にある共通の理念、神の前で誠実に生きるということ、そして愛の心をもって人間社会に奉仕できる女性を育成することに努めてきました。ご縁があってお預かりした生徒一人一人を大事に育てていきたいとずっと考えて接してきました。
(中山)
生徒たちにはどのようにお話をされるのですか。
(深堀先生)
校訓に従順、勤勉、愛徳を掲げ、神の前に誠実に生きる、ありのままの自分、ということをいつも話しています。ですから、うちの生徒たちは割とざっくばらんにありのままの自分を表現していますね。教師たちも生徒たちとありのままでつき合う、ともに誠実な生き方をしようという姿勢があります。
(中山)
学園の教育は修道会の活動とも密接に関係していると思いますが、具体的にはどんなことが挙げられるのでしょう。
(深堀先生)
私どもの修道会は3つの仕事をしています。 1つめはこの教育事業、 2つめは恵まれない子どもたちなどの世話をするために養護施設や乳児院などを設ける福祉の仕事です。 3つ目は病める人たちに手を差しのべる医療の仕事です。 特に恵まれない方たちに手を差しのべることが会の方針です。
(中山)
教育の場でもそれらが取り組まれているのですね。
(深堀先生)
そうです。ボランティア活動と申しましょうか。生徒たちにも私たちと同じような気持ちを持って活動できるように指導しています。 私どもの修道会で今一番力を入れている場所の1つにアフリカのカメルーンがあります。そこで活動している日本人のうちの一人がシスター末吉ですが、生徒たちは1年前に彼女にカメルーンのお話を聞いて乾パンやバスタオルなどを送りました。送る費用も生徒たちが募金をしたものです。
品物が途中でなくなってしまうことが多い難しい場所ですのに、運良く届いたと報せがありました。そのことを今朝の朝礼で話したらみんなとても喜んでいました。このような活動にも生徒たちはみんな喜んで取り組んでいます。
(中山)
生徒たちにとって、自分たちの日常からは想像できない生活があるということを知る上でも大切なことですね。
(深堀先生)
そうですね。シスター末吉にお話をしてもらったとき、生徒が一番驚いた話があります。 それは、蛇が重要な蛋白源であること。1匹の蛇が採れると一家で全部食べないで、分けて売るということでした。そして、さらに感動したのは、お昼にトウモロコシ1本持って来た生徒が他の生徒に分けてあげるということでした。 スライドや写真を見ると、自分たちの送ったものが本当に喜ばれていることがわかります。そうすると生徒たちはより積極的に取り組むようになります。
(中山)
自分の行為が他人に喜ばれていることを知る機会が持てるというのは、実に値打ちある素晴らしいことだと思います。

「どのクラブでも時間を賢く使って活動している」

(中山)
先ほど、「うちの生徒たちは割とざっくばらんにありのままの自分を表現している」とおっしゃいましたが、受験して中学から入って来る生徒と併設の小学校から来る生徒とでは何か違いは感じられませんか。
(深堀先生)
特に違いは感じませんね。小学校から上がって来る生徒に比べて奉仕活動などには新鮮な気持ちで順応できていると思います。
(中山)
最近の学校ではいろいろな問題、特に学校に順応できない生徒が増えていますが、湘南白百合ではいかがですか。
(深堀先生)
みんな前向きですね。どの子が中学から入ってきた生徒で、どの子は小学校から上がってきた生徒だということは気になりません。併設の小学校から上がってくる子どもたちも「中学校で新しい友だちを作ろう」と考えています。 小学校とは別の場所にあるので、新鮮な気持ちを持って中学校にやって来ます。その点でどの生徒にも順応しやすい環境が作られていると思います。
(柳先生)
中学校から入ってくる生徒のレベルが高いことにも関係があるでしょう。ガリ勉型の生徒はいない、学校でもいろいろと幅広く活動して、友だちや先生にも評価されているような人間的に成長している生徒が多いと思います。 そのようなお子さんをお持ちの保護者の方がこの学校を選んでくださったとも言えるでしょう。学校にすばやく順応する生徒が多いのはこのような原因もあるでしょう。
ありがたいことですね。
(中山)
いろいろな学校で実際に入学してから学校になじめない生徒も多くいるという話を聞きます。特に第1志望ではなく入った生徒の場合にその傾向が強いと言います。
(深堀先生)
受験の段階ではこの学校が第1志望でなかった生徒がかなりの数になるでしょう。 しかし、入学後にはみんなこの学校が第1志望だと思うようになるようです。だから前向きに取り組めるということでしょう。
(中山)
湘南白百合では生徒がみんな前向きに取り組んでいるというのは素晴らしいことですね。
(深堀先生)
実際には中学から入ってきた生徒はいろいろと苦労をしているかもしれませんが、様子を見ておりますと、とけ込むのが早くてクラスが早い時期からまとまります。
(柳先生)
小学校から上がってきた生徒も中学受験で入ってきた生徒も友だちどうしで競争するという意識はほとんどないですね。 どうやってクラスで団結するかを考える傾向が強いのです。クラスの行事を多く設けることがまとまりが強まることに効果があると思います。意図して増やしています。
(中山)
なるほど。行事以外で重視されていることはありますか。
(深堀先生)
クラブ活動にも力を入れています。6学年の縦のつながりが強くなります。 上級生は下級生を可愛いがりますから。 卒業後もOGとしてやってくる生徒も多くて、後輩たちにいろいろなアドバイスをしていくようです。あの先生はこんな試験問題を出すとか(笑)。
(中山)
どのくらいの生徒が参加しているのですか。
(深堀先生)
中学生は98%、高校生でも90%近くが参加しています。
一番多いのは管弦楽で120人です。全校生徒1050に対する120人ですからとても人気があります。他には茶道の80人、バスケットの60人が多いですね。 どのクラブも人数が多いので賢く時間を使って活動しています。
(中山)
時間を賢く使えるようにさせていくのには何か秘訣があるのですか。
(深堀先生)
時間を長く与えないことでしょうね。活動は週4日に限り、それも下校時刻が4時45分なので実質1時間程度しかないのです。テキパキ準備してテキパキ片付けて帰ります(笑)。 見事なものですね。
(中山)
クラブ活動を重視しているというお話はよく伺いますが、時間的な制約がこれだけある学校というのは初めてです。
(深堀先生)
理由としては、この学校は森の中にあるので暗くなると危ないということが一番です。
そして生徒の通学区域がとても広いということもあります。
(中山)
どのくらい遠方から通学しているのでしょうか。
(深堀先生)
一番遠い生徒は2時間です。1時間30分かかるという生徒は普通です。 それに、早く帰れれば学校以外でもいろいろなことに取り組めることもあります。 学校から早く帰れるのでピアノやバレエなどのレッスンに通う生徒もかなりの数おりますね。

「学校からどんな生徒を送り出していったかを覚えているのは当然である」

(中山)
先生は授業をお持ちなのですか。
(深堀先生)
宗教と倫理に関する授業を中1と高3で持っています。 中1は月に2回、高3は毎週です。始めと終わりが大事ですから。
(中山)
どのようなお話をなさるのですか。
(深堀先生)
前に話したことに関係がありますが、「ありのままで、誠実でありなさい」と伝えています。 何も高ぶることなく、謙虚に自分を表現することを伝えます。 定期試験の前にも頑張って何点を取りなさいとは言わないで、「自分の可能性を精一杯発揮しなさい」と話します。そうすれば充実感を得られるでしょうから。生徒も応えてくれていると思いますね。
(中山)
その話を受け止められる生徒たちのレベルの高さも感じられます。
(柳先生)
授業に関係してのことですが、校長は卒業生の名前と顔が全部一致します。
(中山)
それは素晴らしい。
(深堀先生)
いえいえ、だんだん歳と共に忘れていくことが多いのですよ(笑)。
(柳先生)
おかげで(笑)進路指導や生徒指導の話が短い時間で済みます。情報が頭の中に入っていますから、校長に相談をする方が教えていない教師を交えた職員会議をするよりもずっと早く解決します(笑)。
(中山)
なかなか難しいことですね。
(深堀先生)
この仕事はわたしの生き甲斐です。一生を子どもたちに捧げると決意してシスターになったのですから当然のことだと考えています。 私は白百合の生徒たちの18歳の姿を考えて、そこまでは育って欲しいとみんなに希望しています。実際、進路指導の面でも校長の責任は大きいものです。特に推薦入学では直接関与して生徒を送り出すわけですから、どのような生徒を送り出したかを覚えているのは校長としては当然だと考えています。
(柳先生)
やる気のある教員にとってはとても嬉しいことですね。生徒に対して行っている授業など、いろいろな取り組みを見て正当に評価を受けられますからね。逆にプレッシャーも大きい。校長から「担任の先生どう?」と尋ねられた時に、生徒が「あの先生はだめ」などと言ったら大変じゃないですか(笑)。
(中山)
生徒は意外に軽く言ってしまいますからね。
(柳先生)
そのような反応も教員にとってはありがたいことですが。
(中山)
授業をもたれているお話なども伺いますと、「校長職」とは本当にきつい仕事だと思います。精神的にも体力的にも。
(深堀先生)
歳とともに幸い健康には恵まれるようになりました。若い頃には病気が原因で函館から東京に戻ったことがあります。が、校長になってからは休んだことはないのです。周りからは「身体に気をつけてください」といたわっていただきますが、生徒のためにわたしの1日があると思うと、少々具合が悪くても起き出してくることがありますね。
(中山)
生徒たちにもそれが伝わるのでしょう。

「必要な科目が取れないために悲しく惨めな思いをさせたくない」

(中山)
先ほど、定期試験の前には何点を取りなさいとは言わないというお話がありましたが、学習面で達成が遅れている生徒への対応はどのようになさるのですか。
(深堀先生)
そうですね。赤点と言って30点台の点数を取る生徒も出ます。その生徒は静かに呼んで、生徒の見えないところで補習をしますね。
(中山)
「静かに呼んで」というところに学校の姿勢が表われていますね。
(深堀先生)
補習は中学生の英語と数学を中心にします。どうしても伸び悩む生徒もいますから。
高校では科目の選択制が中心です。選択科目は本当に多岐にわたっています。
(柳先生)
ですからクラスは高3まで理系・文系という分け方もしないし、成績別のクラス分けもしていないのです。
(中山)
選択制についてもう少し詳しくお話しくださいますか。
(深堀先生)
高2で4類型、高3で5類型設けています。
(中山)
類型とは何でしょうか?
(深堀先生)
例えば、私立大の文系に合わせた英・国・社、という選択科目を設定しているものです。 その中から生徒たちは自分の進路に合わせて類型を選びます。 必要な科目が取れなくて悲しく惨めな思いをすることがないようにしていますが、その代り経営的にたいへんです(笑)。
(中山)
そう思います。どのくらいの人数から開講されるのですか。
(深堀先生)
それぞれの教科は習熟度別で、何段階かに分かれていますから、とても少人数になります。だいたい10人程度からとは言っていますが実際は5人でも授業をします。 そのため、高2や高3では自分の類型の時間割に合わせて、まるで「民族大移動」のように(笑)休み時間の10分をかけて教室を移動しています。
(柳先生)
それぞれの類型の中で習熟度別の選択科目を設定しているので、ある時間帯には国語3講座、数学2講座、美術1講座というように、6講座から8講座が同時に行われているのです。
(中山)
そのシステムを円滑にするためには、講座の数に見合うだけの先生が必要になりますね。 そしてそれぞれの先生の授業準備・研究などもたいへんなものになりますね。
(柳先生)
そうですね。時間割が固定してしまい自由に時間割を動かすことができないので、「今日は有給休暇を取りたい」などとは言えませんからね。 何より教員の意識が一致していないと難しいですね。
(中山)
習熟度別の科目選択というシステムがうまく機能しているのは、力量のあるスタッフの層が厚いということに因るのでしょうね。
(柳先生)
専任の層は厚いと思いますね。
(中山)
入試問題についてもお伺いします。出題の基本方針はどのようなものでしょうか。
(深堀先生)
もう10年以上基礎学力を見る問題を作るという方針で作成しています。 小学校の学習内容だけでは作問はできませんが、それでも全く逸脱した問題は避けなくてはならないだろうと考えています。最近の合格点はかなり高いですね。
(中山)
湘南白百合を受ける生徒の学力レベルが上がっているので、自分では合格したと思ったのにもかかわらず不合格になったと残念がる受験生がでてきているようです。 合格点が75%を超えるような試験では特にそのような生徒が出てくると思います。 受験する女子のパワーを考えますと、合格点はかなり高得点になるでしょう。対応をどのようにお考えでしょうか。
(柳先生)
確かに高得点の生徒が多いので合格ラインが高くなっています。合格したと喜んでいた生徒が残念ながら不合格になってしまうのは本意でありません。 基本的な出題方針は変えないで、少し難しくしていこうと考えています。 具体的には国語の記述や算数の計算過程を見る形ですね。
(中山)
合格点の設定目標はどのくらいになさるつもりですか。
(柳先生)
今年(2001年)は70%が合格点になるように作問しました。 このレベルの難度にしていきたいと考えています。
(中山)
わかりました。柳先生も授業を持ちながら広報部長もなさっているわけですから大変ですね。
(柳先生)
大変です。(笑)僕はここ4、5年担当しています。校長から、それまで高2高3の授業を中心にやっていた私に、「広報活動は教務とか授業をわかった者がやるように。出口だけでなく入り口もちゃんとわかってやってこい」と言われましてね。それでやっています。校長の言うとおりだなあと思う毎日です。
(中山)
では、「出口も入口もちゃんと」で、来年はさらに期待が持てるということですね。
(柳先生)
生徒並びに親御さんの期待に応えられるよう頑張っています。
(中山)
最後に校長先生から、ぜひ湘南白百合に入れたいと考えている保護者の方へのメッセージを頂きたいと思います。
(深堀先生)
ご縁があってお預かりしたお子さんをひとりひとり、全教員が一致して大事に育てていきます。ご家庭とコンタクトを取り合って、お子さんが持っている可能性を最大限に引き出していくことができるようにお手伝いをしたいと思っています。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆深堀校長の気さくな話し方の中に、湘南白百合の教育への自信が感じられた。豊かな経験と持ち前のエネルギーでスタッフをリードする姿を伺い知ることができた。校長を信頼して心を合わせるスタッフの力量も随所に見えた。
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