2001年6月26日(火)訪問:東邦大学付属東邦中学校・高等学校(東邦大東邦)は千葉県習志野市にある。隣接地には日本大(生産工学部)や東邦大があり、周辺にもいくつかの大学が建ち並ぶ文教地区とも言える場所にある。東京の駒場東邦と同じく東邦大学の付属校だが、理工系・医歯薬系に強い進学校として定評がある。千葉県はもともと県立御三家(県立千葉高、東葛飾高、県立船橋高)に代表される公立高が優勢で「公立王国」とも言われていた。しかし、近年では私立中高一貫校の人気が急速に上昇している。その千葉県内の私立校の旗頭の1つがこの東邦大東邦である。従来から「理系の東邦」という評価が高いが、近年では文科系への進学者も増え、文系にも強い進学校としての今後が注目される。学校長秋山尚功先生、入検広報室長小野美紀先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「私学は自分たちの努力でいろいろなことができる」

(中山)
秋山先生は校長就任1年目と伺いました。東邦大東邦の校長になられる前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
(秋山先生)
公立高校の教育に、ほぼ40年間携わってきました。 直接、生徒に教えていたのはこの近くの県立船橋高校です。その後、県の教育委員会に入り教育課程について担当しました。その期間を経た後、また現場に戻って県立千葉女子高校の校長になり、それを最後に定年退職しました。退職後は県内の短大で講師を勤めていましたが、縁あってこの学校に招かれたのです。
(中山)
公立高校の時代から東邦大東邦に何か関わりを持たれていたのですか。
(秋山先生)
何もありませんでした(笑)。ただ、県立船橋高校の教員時代京成線を利用して通っていた関係で、生徒の様子などはわかっていたのですが。
(中山)
東邦大東邦の校長にというお話があったときのご感想はいかがでしたか。
(秋山先生)
正直言ってたいへんだなと思いました。 県内ではとても優秀な進学校であるという程度のことしか知らない(笑)わけですからね。 ですから校長は、現場で中心となって教育に携わってきている教員の後ろで、旗振りをするのが役目だろうとまずは考えました(笑)。
(中山)
後ろで旗振りをするというのは、実際のところは大変なことだろうと思いますが、先生が旗を振る上での基本とされていることは何でしょうか。
(秋山先生)
本校の現状を踏まえて質的な発展を目指すということでしょうか。 そう思って取り組んでいます。
(中山)
どのような方法で取り組まれているのですか。
(秋山先生)
創立以来、高校が50年、中学も40年ほど経ちました。その間にそれなりに実績を上げてきたので学校の姿が、広く一般に定着してきました。そこで、これからの社会の中で、学校に対するニーズにどうやって応えていくことができるかを考えています。そして、改めるべき点や継続するべき点をより具体的に再検討することを始めています。
(中山)
具体的にはプロジェクトチームのようなものを設けて取り組むということですか。
(秋山先生)
そうですね。構想としてはありますが、当面は現在の学内組織で取り組むことになります。 今は教員サイドで精力的に取り組むことが大切だと考えています。 4月以降、何度も会議をもっています。スタッフに「前向きで取り組まなくては社会に遅れる」ということを伝えるうちにだんだん後ろから前に出てきた感じですね (笑)。
(中山)
外部の方々の意見を参考にされることはあるのですか。
(秋山先生)
当然あります。学校内だけでは発想にも限界もあるので、外部の方々、例えば県内の受験産業、本校の保護者、東邦大の関係者からも意見を伺い、より良い取り組みをしようと考えています。
(中山)
校長先生のおっしゃった「旗振り」を現場の先生方はどうお感じですか。
(小野先生)
すごいと思います。実際、4月以降だけで懸案だった3つの大きな変革が決まりましたから。われわれの原案が全職員の了解を得られるように持っていってもらったのです。
(中山)
それはすごいですね。支障がないようでしたら、3つの事がらをご紹介くださいませんか。
(小野先生)
1つ目は中学入試の変更。前期、後期の2回入試が決まりました。 2つ目は、高1での修学旅行での選択制の導入。従来の沖縄に加えて、オーストラリアのケアンズ、マレーシアとシンガポールの3方面からの選択になりました。 3つ目は週5日制の導入を当面凍結すること。 一応の準備は終わっていたのですが、生徒の学力増進や進路指導の方法として、他にも何かあるのではないかとさらに突き詰めていくためです。
(中山)
3ヶ月の短時間で大きな決定がなされたわけですから、本当にすごいことだと思います。
(秋山先生)
いや、本当にそうなんでしょうか。私は日々反芻しています。なぜなら、公立の学校では多くの理由から均一性が求められますが、私学というのは、自分たちの努力でかなりのことができるのが良いところだと思うからです。それを大いに活かさなければ私学としての展望は開けないと思います。それを思うとまだまだやれることはあるでしょう。

「教わる側から中高6か年一貫教育のメリットを考える」

(中山)
まだ具体化されていない取り組みはどのようなことでしょうか。
(秋山先生)
本校の中高6か年一貫教育の特質とは何か、本気で考えることでしょうね。 教える教員の側ではなく、教わる生徒の側にとっての中高6か年一貫教育のメリットをはっきりさせなくてはならないでしょう。
(中山)
それはどういうことでしょうか。
(秋山先生)
同じ法人に属する駒場東邦の例を挙げると、6か年の学習内容は5か年で終えて最後の1年は生徒の進路に即して重点的に指導するという形を採っています。 進学校と呼ばれる学校ほとんどがこの形を採っています。 生徒の実態を考えないで闇雲にやれば大きな問題がありますが、選抜されて入ってきた優秀な生徒であれば工夫によってこれは可能になります。
(中山)
では学力を伸ばすための指導を今まで以上に強化するということですか。
(秋山先生)
それも含まれます。教員の立場からは「高校受験がないのだから一歩一歩ゆっくりやれば良い」という考え方もあるでしょう。しかし、生徒があえて私学を選んだ大きな理由は、良いか悪いか別にして、大学進学に有利であることも大きいのです。 それは理解しておかなくてはならないことです。
(中山)
それが社会が発する東邦大東邦に対するニーズとお考えなのですね。
(秋山先生)
そうですね。
数学科では従来よりも進度を速めることを検討し始めています。教科の特性がありますから、一律に全教科がそのスタイルで良いかどうかは検討中ですが、個々の生徒の理解状況を確認しながら進度を考えていきます。
(中山)
習熟度別、能力別クラス編成の導入なども考慮されているのでしょうか。
(秋山先生)
それも検討中ですが、今はもっと基本的な段階が先ですね。
(中山)
東京や神奈川方面では「大学進学を考えれば私学が絶対に有利だ」という認識が一般的です。私学同士の競争の結果、シラバスや授業の公開などが進んできました。東邦大東邦ではシラバスの公開などへの取り組みのお考えはありませんか。
(秋山先生)
シラバスに関しては、すでに4月の初めに数学科のスタッフから検討を始めているという報告が届いています。他の教科も同様にやれるかどうかは別に、6か年で指導内容をどのように位置づけるかを検討しています。もっとアクセルを踏んでもらおうかと思っています。
(中山)
東邦大東邦は「理系に強い進学校」というイメージが一般にあるのですが、それをさらに強く打ち出すこともお考えですか。
(秋山先生)
保護者にはやはり理系への進学志望が強くありますね。「理系の指導をもっと充実させて欲しい」という希望が多くあります。 ただ、最近の傾向からは文系への進学も伸びています。比率はどのくらいでしょうか。
(小野先生)
理系と文系の比率は7:3くらいですね。文系も相当増えました。
(中山)
そうなると今後はオールマイティーな進学校を目指されるということですか。
(秋山先生)
少し違います。 今は選択の時代で、以前と比べてさまざまな選択肢があります。理系と文系とを背反的に考えることもないと思います。学問の中味も多様化していますので、理系でも文系の力も要求されるし逆もあるでしょう。いろいろな勉強で土台を造っておきたいと思います。その上で自分で進路を決めることが大切でしょう。
(中山)
確かにそうですが、結果的に生徒の勉強もハードになりますね。
(秋山先生)
何を基準にハードとするかは難しいことですが、この学校の建学の理念は「自然、生命、人間」という言葉で表現されています。 就任してこの建学理念に向かい合ったとき、心身共に感動と緊張がみなぎりました。 この中にはいくつもの意味が込められていますが、ひとつに「科学は自然界の真理を探究するものだ」という考えがあります。偉大な真理に立ち向かうわけですから、学びの質も量も当然高いものになります。 この建学の理念に基づいて「圧倒的な学習量」というものが出てきます。

「進学指導は『自分探しの旅』の手助けである」

(中山)
「圧倒的な学習量」というお話がありましたが、大学受験に向けての教科指導の面ではどのように取り組まれるのでしょうか。
(秋山先生)
カリキュラムなどの具体的な面になりますね。それは小野からお話しするのが良いでしょう。
(小野先生)
まず、詳細な進路資料を作成します。保護者会に合わせて作成するのですが、高校生だけではなく中学生にも全員配ります。内容は前年の受験生の模試データ、センター試験の結果、合格先を成績順に並べたものです、もちろん名前は伏せてありますが、相当な分量のデータだと自負しています。その他、推薦入試の状況や入試全体の状況の解説なども盛り込んでいます。
(中山)
ずい分、力を入れられた資料ですね。中学生、それも中1から渡すというのは珍しいことです。早い時期から自分の進路に関心を持ってほしいと思われているのですね。
(小野先生)
ええ。我々は本校での生活を「自分探しの旅」という視点で考えています。 「常に真の自分を探し、見つめよう」ということです。 進学指導もその一環として考えています。中1からの進学情報を提供するのは「自分探しの旅」の始まりだからです。
(中山)
その後はどのようなことが行われるのでしょう。
(小野先生)
ホームルームなどの時間を利用して、テーマを設けて進路に関して考えさせていきます。 ただ本格的に指導するのはやはり高校に入ってからですね。 模擬試験が始まり、授業の選択などもありますから、より具体的に進路について考える機会を設けています。
(中山)
進路について考える機会とはどのようなものですか。
いくつか具体的なものを挙げてください。
(小野先生)
まず進学懇談会。これは前年度の卒業生を10数名呼んで、受験のことや大学のことについて話してもらうものです。どのような参考書を使い、どのような勉強をしたのかまで話してもらいます。 あとは独立した進路指導室を設けて、担当の教師を置き、相談に応じることや自由に使えるパソコンで情報集めができるようにしていることなどですね。
(中山)
カリキュラムの面ではいかかがでしょう。
(小野先生)
高2から理系と文系を分けることが多いのですが、それでは生徒は高1の夏休み明けには決めなくてはなりませんね。余裕のあるはずの中高6か年教育を窮屈にしている面があります。本校では高2時点は一部の選択科目で理系と文系の特色が出るだけで大部分は共通科目です。
(中山)
進路決定の上で、どのような利点があって採用された方式なのですか。
(小野先生)
この方法ですと、進路変更が容易なのです。理系から文系に変わる場合もその逆も選択科目の部分だけで可能ですね。高3ではホームルームも理系と文系に分かれるのですが、そのときにも理科の科目選択にだけ制約がありますが、やはり志望変更ができるように配慮されています。
(中山)
高3時点で文系から理系に変わることができるのはとても珍しいですね。
(小野先生)
志望変更が「自分探し」の結果として起こるならば手助けできるようにしなくてはと検討を重ねた結果です。
(中山)
国公立大医学部を志望している生徒も多いと思いますが、理科3科目への対応はいかがですか。
(小野先生)
確かに志望者が多くいます。ですから必要な3科目の授業が必ず受けられるように作られいます。もちろん東大の地理歴史の2科目の選択にも対応できるようになっています。
(中山)
いろいろな工夫が盛り込まれていますが、先ほどの校長先生のお話ではさらに検討が加えられるということですね。
(小野先生)
そうです。校長の「旗振り」がありますから(笑)。これには数値目標も示されています。
(秋山先生)
東大合格者数を2桁にすることが当面の目標です。これならば保護者にも教員にもわかりやすいものですからね。

「入試には東邦大東邦のメッセージが込められている」

(中山)
入試についてお伺いします。最初の3つの変革のお話にもありましたが、なぜ2002年から2回入試をされることになったのですか。
(小野先生)
1月中の入試では本校を第1志望とする生徒が合格しにくい面があります。これはいろいろな方面で言われていることでしょう。確かにそれもありますが、それだけならば合格発表を増やしたり追加合格を出せば良いわけです。 2回の入試科目と配点の違いをご覧いただきたいと思います。
(中山)
前期は4科入試でしかも配点も時間も均等ですね。
(小野先生)
文系と理系のバランスの取れた生徒、いわば骨太の学力を持った生徒が合格しやすいようになっています。これには「文系に強い理系の生徒、理系に強い文系の生徒を育てる」という指導の方向性を伝えているものです。
(中山)
それに対して、後期は算数と理科という理系教科のみの特殊な入試ですね。
(小野先生)
後期の入試は「『理系の学校』としての東邦大東邦に入りたい」という生徒に受けてほしいというメッセージですね。
(中山)
入試は学校側の生徒に対する希望が込められているのものだと思います。今のお話を伺いますと、前期と後期の入試科目にはそれがとても明確に表れていますね。実施にあたってはいろいろな議論がなされたのですね。
(小野先生)
そうです。一般に言われている「理系の学校」というイメージにあった生徒、理系のセンスのある生徒に入ってほしいという考えや、そのことで本校の特色を強く打ち出したいという考えに基づいて議論がありました。それがなければ絶対に踏み切りませんでした。
(中山)
そのような議論はこれまでにはなかったのでしょうか。
(小野先生)
なくはなかったのですが、なかなか時機が来なかったということですね。今回ようやく踏み切ることになったのは、2001年の入試で電話による追加合格を出さなかったことに気を良くした(笑)こともあるのです。「生徒が集まらないから2回入試にした」などとは絶対に誤解されたくないと思っていましたから。
(中山)
志願者が多数いる中で「東邦大東邦に入りたい」と強く思っている生徒に来てほしいということですね。よくわかりました。 次に試験問題についてお伺いします。東邦大東邦の入試問題、今後は前期の問題ということになりますが、とてもオーソドックスな問題で合格点が高くなりすぎると思います。もう少し難しくても良いと考えますが、いかがでしょう。
(小野先生)
問題内容を変える予定は今のところありません。「東邦大東邦の問題はこんな傾向だ」と広く認識され、それに基づいて受験生は準備をして生徒が受けていますからね。
ただし後期の入試は「これが理系の東邦大東邦の問題だ」というものになるでしょう。期待してください。
(中山)
期待しています。もう一点、合否判定についてお伺いします。 1月の学校は地元の生徒の合格点と東京都や神奈川県内の受験生の合格点の間に違いがあるというように言われています。また、第1志望優先の入試をされる学校もありますが、東邦大東邦はいかがですか。
(小野先生)
よく聞かれることですが、本校の場合地元優先ということはありません。居住地の違いや男女の別で合格点を変えてはいませんので、ご安心ください。
(中山)
最後に秋山先生から受験生や保護者にメッセージをお話ください。
(秋山先生)
本校を受験される前に、本校の教育理念とそれがどのような形で実践されているかを総合的に見てください。私たちが求めるのは謙虚に学ぶ姿勢を持った生徒です。あわせて「勉強ができれば良いんだ」ということだけではなく、将来リーダーとしてしっかりしたものを身につけていきたいんだという意欲と品性を大切にしたいと考える受験生を待っています。迎え入れた生徒たちを、本当に良い意味で将来のリーダーとして育てる努力をしていきたいと考えています。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆秋山校長は就任1年目だが、豊富な経験と先見性を持ち、強力なリーダーシップを発揮して意欲的に「新しい東邦大東邦」を生み出そうと努力されている。校長を支えるスタッフの力量も高く、エネルギーがある。今後も新しい展開が見込まれる。
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