2000年9月14日(木)訪問:東京電機大学(略称:TDU)中学校・高等学校は東京の郊外小金井市にある。周辺は武蔵野の面影を残し、住宅と農地が広がる地域である。しかし、近くには法政大工学部、亜細亜大、東京農工大などのいくつかの大学もあり新しい文教地区となりつつある。東京電機大学中学校は、数少ない理科系大学の付属中学校のひとつとして開校して5年目になり、順調にレベルアップを果たしてきた。他大学志向の強い六年一貫生の進学状況によりさらなるレベルアップが予想される。
学校長高久廣毅先生、入試広報担当白川守昭先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「男女比の3:1はバランスがよい」

(中山)
校長になられて何年目でしょうか。
(高久先生)
4年目です。
(中山)
中学校の入試を始められて2年目からの就任ですね。男女共学化や入試科目の変更など、 さまざまな改革に関して陣頭指揮を執られた先生から、その折りのお話を伺いたいと思い ます。特に共学化にあたってどのように準備されたのでしょうか。
(高久先生)
男子校だったので、まず設備の面での変更がありました。女子用の更衣室やお手洗いはす べて新たに作りました。れから女子生徒に関して何か問題が起こった場合を想定して、共 学校の生活指導を担当されている先生を招いてお話を伺ったり、教員全体で勉強会を開た り、といろいろな対応策を練った上で共学に移行しました。
(中山)
概して中学生の頃は男子より女子の勢いが強いという状況が感じられますが、電機大では いかかでしょうか。
(高久先生)
確かにそう言えますね(笑)。女子が入って活発になりました。今まではなかった演劇部 やソフトボール部ができ、にぎやかな感じがします。ただ、本校の場合は男女の人数が3 :1で男子がかなり多いので、女子の勢いが極端に強くなることもないようです。逆に男 子の勢いも極端に強くならない、ちょうどバランスがとれているのではないかと思います ね。
(中山)
学力面ではどうでしょうか。合格者の学力をみると男子の方がかなり高いように思われま すが。
(高久先生)
入学試験では女子の方が合格点が若干低くなっています。しかし、入学後は女子の方が平 均的には上にですね。女子は男子に比べて努力家が多いのでしょう。
(中山)
男子と女子で指導の面で違いはあるのですか。
(高久先生)
体育以外は別の授業はありません。クラス名簿も中学では男女別ですが、高校になると一 緒です。特に男女を区別した教育はしていません。
(中山)
さきほどの共学化への準備にも関係しますが、思春期の生徒たちへの対応として特に準備 されたことはありますか。
(高久先生)
毎年、精神科の先生に思春期の問題に関する講話をしてもらいます。 中学生と保護者が一緒に話を聞いて、その後に保護者だけ残ってもらい質問や相談を受け てもらうようにしています。
(中山)
毎年、同じ先生にですか。
(高久先生)
そうです。その先生も本校が気に入ってくださって、お子さんが高校に入学されました。

「英語のモーニングレッスンではパンと牛乳が出る」

(中山)
電機大が中学受験で注目された理由はいくつか考えらますが、数少ない理科系大学の付属 で、理数系の指導が設備も含めて充実していることが挙げられます。やはり理系に強い子 を育てたいとの意図でしょうね。
(高久先生)
確かに、理科での実験・観察・実習は多いと思います。授業時間数も多くとって、理科に 興味を持たせ、その興味をさらに深くすることを考えていますので、実験・観察・実習は とても重要なのです。でも、理系にばかり力を入れているわけではないのですよ。中学か ら入ってくる生徒の持つ多様な志向に応えることが重要ですから。
(中山)
具体的にはどのような指導システムが採られているのですか。
(高久先生)
まずは生徒の状況をつぶさに見て対応ができるようにと、少人数のクラス編成をしていま す。1クラス平均30人ですから、生徒の気質までわかります。さらに、ネイティブスピ ーカーの先生が担当する英会話の授業ではクラスを2分割して行います。徹底的した少人 数の授業をしているのです。
(中山)
電機大独自の授業があると伺いましたが。
(高久先生)
そうですね。モーニングレッスンという英語の授業があります。週1回、8時に登校して、ネイティブスピーカーと一緒にゲームなどをやりながら英語の基礎を学ぶ授業です。
(白川先生)
モーニングレッスンは中1の授業ですが、みんな楽しんでやっています。朝がちょっと早いので、パンと牛乳も出しています。
(高久先生)
授業ではないのですが、中学3年が1年かけて取り組む卒業研究も独自のものでしょうね 。生徒に教師ひとりがついて、いろいろ指導しながら研究・調査して冊子にまとめます。 卒業式の後に優秀な研究を2つ発表しますが、生徒があげるテーマにはいろいろなものが あっておもしろいですね。
(中山)
先生が特におもしろいと思われたテーマはありますか。
(高久先生)
私よりも本校の理事長が感心していたものにエジプトについての研究があります。「出か ける前にこのレポートを見て、エジプトについてもっと研究しておけば良かったなあ」( 笑)と言っていました。この卒業研究は文部省が言うところの総合学習の先取りだろうと 私は思います。

「通知票に厳しいことを書くと保護者から手紙が来る」

(高久先生)
保護者と科目担当者の懇談会のというのも独自のものだと思います。中1では家庭学習での保護者の関与がかなり大きいものになりますので、特別に年に2回行っています。科目担当者の授業の方針を保護者に理解してもらい、あわせて保護者からの要望を伺うようにしています。
(中山)
クラス担任中心の懇談会は多いのですが、科目担当中心のものは珍しいですね。
(白川先生)
懇談会に加えて、成績表をつける場合にも科目担当が全員にコメントを入れて成績をつけています。
(高久先生)
ふつう通知票は担任が学期ごとに書き入れるものですが、本校の場合には科目別に担当者が書き入れます。だから科目別に1枚の通知票になっていますね。
(中山)
それがきめの細かい授業につながっているのですね。でも、先生方はさぞかし大変なことでしょう。
(高久先生)
大変だと言っております(笑)が、一生懸命やっていますね。
(中山)
平常の授業の中で、生徒の学習状況をつぶさにチェックしておかないと書けないものですね。
(高久先生)
そうだと思います。到達目標に対する達成度、授業態度、授業への意欲などをよく見ています。ノートの使い方なども指導して、よい意味のチェックをしています。
(中山)
保護者からの感想はいかがですか。
(高久先生)
感想というよりも、最近は少し厳しいコメントを書くと保護者からお手紙が届きます。「評価が厳しすぎるのではないか」というものです。
(中山)
対応はどうされるのですか。
(高久先生)
科目担当者に話をして、保護者に電話をかけたり、直接にお話をしたりします。その時点でご理解いただけているようです。同じことを書いても保護者のみなさんからの反応は、以前とは受け取り方が変わってきていると、教科担当者とは話してます。
(中山)
どういう点でしょうか。
(高久先生)
我が子への厳しい評価が書かれていると、それが自分に対してのものだと、保護者が感じられるからではないでしょうか。直接担当者と話すことで解っていただいていますが。

「フェアな態度で行動して欲しい」

(中山)
学校の指導は教科指導と生徒指導の両面がありますが、生活指導の面での特色をお話ください。
(高久先生)
「人間らしく」という教育方針を掲げています。これはフェアな態度で行動できるようになって欲しいという意味なのです。難しいことではありますが、何に対しても公正な態度をとって欲しいものです。いろいろな機会を通じて話し続けています。
(中山)
生徒の反応はいかかですか。
(高久先生)
ある程度わかってくれているのではないかとは思います。しかし、残念ですが高校生では1、2年に1回の割で困ったことの報告を受けることがあります。そのようなことは絶対にさせたくないと思っているのですが。長い休みなど、意識が薄れてしまう可能性がある時期には、特に注意して指導をしています。
(中山)
現在のみなさんの様子から教育方針は理解されていると感じます。電機大の生徒はどのような性格の特徴を持っていると思われますか。
(高久先生)
おとなしい生徒が多いと思います。理系に進む生徒が多いことも影響しているかもしれませんね。あまり羽目をはずさない生徒が多いようです。
(白川先生)
勉強の様子を見ても、コツコツ努力する生徒が多いと思いますね。
(中山)
生活面での指導もしやすいのではないのですか。
(高久先生)
ある意味ではそう言えますね。茶髪やピアスをする生徒は少し増えていると感じていますが、少し指導をすれば直しますから。
(中山)
どのように指導をされるのですか。
(高久先生)
そのようなことをしたいという気持ちはあるだろうが、TPOをわきまえなさい、と話をしています。クラス担任も同様に対応しています。
(中山)
携帯電話の持ち込みが問題になる学校もあるようですが。
(高久先生)
携帯電話については、中学、高校とも特に禁止してはいません。授業中はもちろん切っておくように指導しています。
(白川先生)
遠方からの通学者も多いですし、何か急な連絡も必要になる場合もありますからね。
(高久先生)
むやみに禁止するのではなく、生徒には状況を考えて適切に行動できるようになって欲しいと望んでいます。

「学校の授業だけでも大学入試に対応できる」

(中山)
保護者の関心事に大学受験指導の体制がありますが、その点についてお話ください。
(高久先生)
進路希望に応えるために高2からコース別になります。3つのコースがあって、理系1が電機大進学希望者のコース、理系2が他大学の理系進学希望者のコース、それに文系が他大学の文系進学希望者のコースです。
(中山)
電機大への進学についてはどのようになっていますか。
(白川先生)
もともと本校は高校入試が中心で電機大への進学希望者が入学してきましたので、電機大へ推薦入学を希望する場合は原則として全員が進学できるようになっています。
(中山)
生徒の進学希望はどのようになっていますか。
(高久先生)
一貫生の第1期生は現在高2ですが、高2では全体で理系7割、文系3割ですね。一貫生では特に他大学受験の志向が強いようです。
(中山)
理系の希望者の場合、国・公立大への希望が文系に比べて多いと思いますが、いかがでしょうか。
(白川先生)
一貫生は7、8割が国・公立大の志望者のようです。
(中山)
大学受験に関して予備校の利用はいかがですか。
(高久先生)
学校の授業で十分に受験にも対応できるようにしています。生徒にもそのように話していますが、高3の夏休みあたりから受講する生徒が増えるようです。
(中山)
生徒たちは予備校の持つ情報を利用することも考えているのでしょう。
(白川先生)
小学校や中学校時代に塾へ通っていたことも影響していると思います。生徒よりも保護者が予備校の利用を考えるようですね。
(中山)
電機大の推薦資格を持ったままで他大学を受験するということは可能でしょうか。
(高久先生)
現在のところは実施していません。努力して他大学を狙うわけですから、一生懸命取り組んでほしいと思います。電機大を受験しても十分に合格できる学力はつけていると思いますから、あえて梯子を外した、ということです。

「出題の傾向は当面変えない」

(中山)
今年(2000年)の入試から、2科4科選択に変えられたましたが、入学生徒に昨年までと異なった点はありましたか。
(高久先生)
具体的には変わった点はありません。入学者の学力レベルが下がったというデータもありましたが、授業の様子を見ると過去最高の学力を持った生徒のように思えます。そういう点では4科の入試を始めた影響はあるでしょうね。
(白川先生)
模試の偏差値データの2、3の違いは入学後の勉強の仕方ですぐに変わるものですから。
(中山)
2科4科選択の入試を始められる場合、将来は完全に4科に一本化するというお考えがあるのではないか、と思うのですがいかがでしょうか。また、選抜の男女の比率を見直されるお考えはありませんか。
(高久先生)
入試科目については結論が出ていません。当面は現在の2科4科のままで行います。男女比については、現在の3:1にはこだわらないつもりです。女子が増えてきたらそれでも良いと思います。
(中山)
では、入試問題についてお伺いします。算数では式や考え方を求め、国語でもある程度記述を求める形式が続いていますが、理科、社会に関しても今年の問題の形式を続けられるのでしょうか。
(高久先生)
当面は続けるつもりでいます。特色がありすぎる問題でしたでしょうか。
(中山)
そうですね。理科では4分野の中で2分野だけが大問で、あとは科学史の問題などの小問の集まりでした。工夫されたおもしろい出題だったと思いますが、分野のバランスがとれていなかったと思います。
(高久先生)
出題のバランスは変えない方針でいますが、内容の細かい点までは作問する段階でどうなるかはまだわからないですね。
(白川先生)
問題を作成する場合は、受験生のことを考えてあまり大きく変えないという方針で臨んでいます。
(高久先生)
社会では今年同様に地図関係の問題を必ず出します。本校には地図に関するオーソリティーがおりますから。
(中山)
それは楽しみです。最後にお二人から電機大の受験を考えている生徒と保護者にメッセージをお願いいたします。
(白川先生)
元気の良い生徒、小学校時代に大きな夢を抱いて実現したいという希望を持っている生徒に来て欲しいと思います。
(高久先生)
私たちはいま持っている興味をなくさないように、深くするようにしたいという考えで教育をしています。人間らしく生きることを学ぶ場所として、この学校を選んでもらいたいと思っています。
以上

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☆付記☆高久校長は世界に羽ばたく人材の養成を目指し、さまざまな改革を進めている。校長を支えるスタッフも充実しており独自の教育が進んでいる。今後も注目される。
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