1998年10月15日(木)訪問:ラグビーなど、高校スポーツの強豪校として知られた本郷高校に中学校が併設されたのは昭和63年。以来6年一貫教育のシステムにより、大学進学のための指導を進めてきた。今春の大学入試では東大2名、早慶62名など目覚しい実績を挙げ、さらに今後の伸びが注目されている。校長松平頼武先生、教頭野澤誠先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「文武両道を実践し、社会に役立つ人材を養成したい」

(中山)
本郷中学・高校と言えば、ラグビー、陸上、柔道、剣道など体育系の部活動が盛んで、他の進学校とはかなり異なったイメージを持ちます。これは教育方針とどのように関係しているのかお話ください。
(松平先生)
本校は1923(大正12)年の創立以来、知育、徳育、体育の均衡の取れた人間教育を行い、国家社会に貢献できる良い人材の養成を目指してきました。この方針は、初代教頭だった永井道明先生(日本にデンマーク体操を導入した教育者)の指導に関係があります。体育を積極的に指導に採り入れることで、文武両道に秀でた人材を養成できると考えたわけです。現在でも、その伝統は生きており、体育系の部活動がとても盛んです。また、部活動の中で年齢の異なる生徒とともに活動することは、協調性、社会性を身につける上で重要な意味があることだと思います。ですから、体育系、文化系を問わず、部活動を奨励し、今までは中学生全員に部活動を必修としていました。しかし、各家庭独自のいろいろな教育方針もあるので、少し残念ですが来年度から中1のみの必修に変えました。

「生活指導には厳しく取り組む」

(中山)
その他の面で重要視されていることがらは何ですか。
(松平先生)
大学進学を目指した指導をしていくわけですが、勉強だけにガリガリ取り組むだけではつまらないことで、男子らしいおおらかさと自主性、そして人間的幅を持った生徒に育って欲しいと考えています。そのためには、自分の判断や責任において行動できるように指導していきます。ただ、単なる自分勝手では困りますので社会性を身につけさせたいですね。特に自己を律する力を身につけさせたいと考えています。たとえば、中1では緊張感があって、遅刻、忘れ物などは少ないのですが、中2になった途端に、大幅に増えます。これでは困るので、各先生にお願いして生活指導を厳しく行って、自律の気持ちが身につく手助けをしています。

「単純な習熟度別クラスでは全体的学力アップは難しい」

(中山)
大学進学実績を上げるために、どのように取り組まれていますか。
(松平先生)
昭和63年の中学校の再開以来クラスを徐々に増やして、今春の卒業生から中学5クラス体制となりました。彼らは素晴らしい合格実績を上げてくれました。どこを受けなさいと学校を指定するのではなく、生徒の希望や適性を考えての指導をしてきました。それは単純に習熟度別クラスや少人数指導を採用するだけではできません。各先生の努力によって、上位の生徒を伸ばし、下位の生徒を底上げする指導方法が確立された結果だと思います。
(野澤先生)
試行錯誤を繰り返してきたのですが、一番大きなものは習熟度別クラス編成です。今春の卒業生は、中3・高1年次に数学の習熟度によりクラスを2段階に分け、結果として大成功でした。気を良くして、次年度も継続しましたが、予期しないことがわかりました。上位の生徒を伸ばし下位の生徒のレベルアップもできると自信があったのですが、下位クラスに編成された生徒の意欲をそぎ、彼らの学力の伸びを停滞させる結果となってしまうということでした。そこで、再検討を行い、出た結論が「同時限習熟度別授業展開」という方法です。中学3年次でのホームルームは均等クラスとして、数学の授業のみ他クラスと合同の習熟度別のクラスにする方法です。これにより、上位、下位とも大幅な学力向上が見られました。今後は英語にも拡大していきたいと準備を進めています。この授業形態では生徒の入れ替えが定期的に行われるので、担当教師が他の担当教師の指導のしかたを知っておかなくてはなりません。そのため、教師間の連絡が密になり、相互の研鑚も図れるというプラスもありました。その他、指名制の補習など、大学実績の伸びは先生方の頑張りに負うところが大きいと思います。

「2教科受験生も4教科受験生もどちらも不利にならないよう選抜する」

(中山)
平成11年度から選抜方法を大きく変えられますが、その意図と選抜の方針についてお話ください。
(野澤先生)
本郷中学を志望する受験生に受験の機会を増やすために3回の選抜を実施します。また、他校との併願をしている受験生が「併願作戦」に楽に組むことができるように当日発表としました。1回目(2月2日)、2回目(2月3日)は2教科で勉強してきた受験生にもチャンスを与えるために、2教科と4教科との選択式としました。2教科、4教科いずれで受験しても有利不利にならないように、それぞれ1回目、2回目とも合格発表者の4分の3ほどを2教科で選抜して、その後、2教科で合格したものを除いた4教科受験生から、残りの合格者を選抜する予定です。

「私学の良さを知りながら進学できない生徒には奨学金制度も考えなくては」

(中山)
最後に、他の学校でもお聞きしたことですが、不況の深刻化とともに経済的な事情から、希望があっても私立中学に進んだり、通ったりすることを断念するご家庭が増えてきています。それに対して学校側として何かお考えのことはありませんか。
(松平先生)
本郷中学・高校は創立以来、学費を低く設定してきました。しかし、他校同様に、学校の設備の充実などのために学費は高くなっていくのが現実です。そのため経済的事情で継続することが困難になる生徒も予想されます。本校では厚生育英制度や、必要によっては学費の延納などを認めています。また、中学生には奨学生(授業料半額)を設け、高校生では奨学生に加え、特待生(授業料全額免除)も設けています。さらに、いろいろな奨学金制度を紹介するなど、できる限り援助をしています。これに関連した話ですが、私学全体として、公立学校との負担格差を是正するために各方面に働きかけています。例えば、国や自治体に対しては、学費助成を求めることなどに取り組んでいるところです。しかし、それ以外にも各学校が独自で対策を立てなくてはならない時期に来ているかもしれません。今後、本郷中学・高校としても、独自の奨学金制度などを検討していきたいと思っています。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆学校にとってマイナスの評価につながりかねないクラス編成での問題点まで、隠すことなくお話くださる姿勢には、松平校長の教職員と生徒に対する信頼が感じられた。また、野澤教頭のデータに基づいてのお話も説得力がある。出迎えてくださった宮沢入学対策委員長、授業の合間にあいさつにに見えた高校の池田教頭など、力量を感じさせるスタッフが多いのは学校としては大きな財産となる。今後も注目に値する学校である。
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