「質実厳正、創立当初からの教え」
(中山)
創立が昭和16年ですから太平洋戦争が始まった年ですね。そのような時代に私立学校をつくるのは難しかったと思いますが。
(加藤先生)
本当に大変だったと思いますね。世の中が国のために戦う軍人を育てることが第一だった時代に、創立者である深井鑑一郎は
「一市民を育てる。人間を創る」
という理念を曲げなかったのですから。
(中山)
創立者の深井先生とはどのような方たっだのですか。
(加藤先生)
儒学者です。ですから、儒学に基づいて「質実厳正」という考えを
基本に教育を進めました。それは「飾り気がなく、己に厳しく、他には公正に」
という考えで、他校で言われていた「質実剛健」とは違います。当時の社会情勢では「質実剛健」を唱えることは歓迎されたでしょうがね。
(中山)
創立時の理念について、もう少し、くわしく説明してください。
(加藤先生)
規律正しい生活習慣や礼儀を重んじ、社会に有為なる人間になるために上級学校への進学を目指すことでした。だから城北は創立以来57年の間、ずっと進学校だったんですよ。
「早朝や放課後の補習は担当の教師が決める」
(中山)
進学校としての城北の特色はどのようなものですか。
(加藤先生)
伝統的に、成績が振るわない生徒に対するフォローが特色でしょう。
力のある生徒は放っていても伸びるでしょう。自分の力だけでは壁を乗り越えることができないでいる下位者を伸ばすことこそ大切だと考えてきました。「城北は早稲田に100人以上合格するのに東大が少ないのはなぜか」とよく(笑)言われましたが、生徒がよく努力した結果だと思いますし、そういう伝統を引き継ぎながら、もともと力のある生徒のチャレンジもここ数年目立っています。
(中山)
下位者へのフォローはどのように行われているのですか。
(加藤先生)
まず補習授業が数多く行われていることがあげられます。朝7時か
ら夜の8時まで授業をはさんで補習がやられています。補習は担当の先生が計画したり生徒から希望が出たりと、いろいろな場合がありますね。
(中山)
校長先生や教頭先生の指示があるのですか。
(加藤先生)
いいえ、違います。先生たちが自主的に実施しているものなんです。
担当の先生の判断で行われています。今日も10講座ほどの補習があるようです(笑)。担当の先生も大変でしょう。また、高2や高3にもなると、学校を図書館代りに勉強する生徒も出てきます。朝早く来たり夜遅くまで残っていたりする生徒が多いですよ。ある先生は「門を開けてやるから」と朝5時ころに出勤していました。校長の立場から言うと、朝早いのと夜遅いのはまずい(苦笑)のですが、大目に見ているというところですね。
「なんとなく早慶でいいやでは困る」
(中山)
すごいことですね。さぞかし先生方もたいへんなことでしょうね。その他にも特別な対応があるのでしょうか。
(加藤先生)
他には、生徒の発達度合いに応じて、6年間を3つの時期に分けて対応していることでしょうか。以前は高校から入学する生徒が中心だったせいもあって、3年ずつ2つの時期に分けて指導していました。そのころはそれでも良かったのですが、中学から入学してくる生徒が中心になってくると、それではうまくいかないことも出てきました。
(中山)
それはどのようなことでしょうか。
(加藤先生)
中1や中2の生徒に、将来の大学受験を考えて生活や勉強をさせることは無理でしょう。精神的にも体力的にもたいへん辛くなってしまいます。しかし、高2や高3ともなれば大学受験を具体的に考えることができるし、自分から必要なことを求めることもできるでしょう。そのように考えて2年ずつ3期間に分けて、各時期に最もふさわしい教育をしようとしたわけです。その内容は要項などで見てほしいと思います。
(中山)
ここ数年東大の合格者が10名以上になっています。別の取り組みもさ れていると思いますが。
(加藤先生)
東大など難関国立大学を目指す生徒を対象にした「難関4大学」コ
ースというものを設けて指導しています。経済面での不安が続いているという社会情勢を反映して、国・公立大学を目指す生徒が増えてきました。そのニーズに応えるために設けたわけです。今年の卒業生がその第1期生にあたりました。
(中山)
結果はどうでしたか。
(加藤先生)
正直なところ目覚しい結果というところまではいきません(苦笑)でしたね。ただ一定の成果はありました。そして、「東大に挑戦しよう」という生徒が増えたことには満足しています。本校に限らず「早稲田、慶応でいいや」という生徒が多いのが事実ではないでしょうか?目的を持って早慶を目指すのならいいのですが、大部分の生徒はそうではないんです。情報を持たずに安易に受験校を決めないように、いろいろな場でそれぞれの学校の優れた点を伝えていきます。その上で目指す大学を自分で決めてくれることを望んでいますから。
「生徒どうしで救い合うことが大切である」
(中山)
これだけの敷地があるといろいろなクラブ活動ができますね。
(加藤先生)
同好会を含めると70以上のクラブが活動しているでしょう。本校の場合、レベルの高いクラブが多いのが誇りですね。
(中山)
進学校としては珍しいですね。勉強の妨げにならないかという不安はないのでしょうか。
(加藤先生)
そのように思われる向きも多いでしょう。以前はスポーツも学業も優れていればスポーツ推薦で大学進学を狙うこともありました。しかし今はスポーツ推薦で大学を狙う生徒はほとんどいませんからね。
(中山)
それでもクラブ活動が盛んなわけは、何でしょう?
(加藤先生)
それは後輩が先輩の成功例を見ているからなんですよ。水泳やバス
ケットで夏から秋の全国大会まで活動して、そこから本格的に受験勉強を始めて、結果として東大理Ⅰや国立大学の医学部に現役で合格していますからね。そのような例を見れば、クラブ活動にも熱が入るでしょう。その分、顧問の先生は大変ですよね。特に体育系のクラブの場合、ほとんど毎日活動しているんですから。
(中山)
現役は9月からのがんばり次第で合格できるといういい例ですね。
(加藤先生)
クラブ活動の中で集中力を高めることができた結果、本人の力がとても良い状態で発揮できるのでしょう。クラブ活動に期待しているのはこれだけではありません。最近、いじめや不登校の問題が言われています。本校でもまったくないというわけではありませんが、全国平均よりずっと少ないと思います。
これもクラブ活動が盛んであることに関係があると思っています。
(中山)
それはどのような意味ですか。
(加藤先生)
どの学校でも、特に私学の場合、先生が協力して大きな問題になる前に見つける努力をされているでしょう。また、カウンセラーを置いてケアに努めていると思います。
本校でも学年全体で解決を図ったり、カウンセラーも相談を受けやすいように別棟に置いたりして対応しています。しかし、大人による働きかけには限界があると思います。生徒どうしで救い合える環境をつくることが大切でしょう。
自然とコミュニケーションの場がつくられ、自分の居場所を見つけることができる点で、クラブ活動は効果があると思います。
(中山)
クラブ活動が盛んに行われることについて、保護者の方の反応はいかがでしょうか。
(加藤先生)
理解いただけていると思います。特にお父さんは積極的にすすめて下さるようですね。学力をつけるだけでは社会に出てからは不足だからと、自分の経験から判断されているようです。
「厳しくするとびっくりする生徒や母親が多い」
(中山)
進学校の授業というとかなり厳しい指導も行われるとと思いますが、生徒や保護者の反応はいかがですか。最近の公立小学校ではあまり厳しい指導はされてはいませんから、なかなかなじめない生徒もいるのではないでしょうか。
(加藤先生)
授業中に大きな声で、怒ったように話す先生がいると、生徒はびっ
くりするようですよ。怒られたように思う生徒もいるようです。家に戻ってお母さんに報告することも多いようです。
びっくりしたお母さんから「城北ともあろうものが」とお叱りがくる(苦笑)こともあります。
(中山)
そのような時はどのように対応なさるのですか。
(加藤先生)
その先生の授業の様子を確認してから必要があれば指導します。しかし、私から見ると特に問題はないので実際に指導することはほとんどありませんね。先生の指導スタイルに生徒が慣れていないだけなんです。ですから、1学期が終わるころには、みんな平気な様子です(笑)。保護者の方も城北を信頼して お預けいただければと思いますね。
以上
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