2001年12月7日(金)訪問:女子学院中学校・高等学校は都心千代田区に位置する。周辺は日本を代表するオフィス街だが、上智大学をはじめ多数の私立中学・高校・大学が点在する文教地区でもある。1870年学校創立以来の130年を越える伝統を持ち、日本最初の女子校として、キリスト教(プロテスタント)主義に基づく女子指導を進め、他の学校へも大きな影響を与えてきた。現在でも、自由な校風の女子校、首都圏女子校の最難関校、難関大学への進学校など、いくつかの「顔」を持ち、絶えず注目を浴びる学校である。学院長田中弘志先生、教務主事村瀬きく先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「女子学院の生徒は好奇心が旺盛で探求心が強い」

(中山)
田中先生が学院長に就任されるまでの略歴をお話しください。
(田中先生)
なぜ私が女子学院に誘われたのか、今でもよくわからないのです(笑)。
(中山)
それではずっと女子学院に勤めていらっしゃったわけではないのですか。
(田中先生)
そうです。私は長い間仙台に住んでいました。宮城学院という学校で英語の教員をしてきました。最後の7、8年は教頭や校長という立場で学校の運営に携わってきました。
(中山)
女子学院とはどのようなご縁だったのでしょうか。
(田中先生)
前任の斎藤学院長とはいろいろな折、同じキリスト教の学校なので各種の会合があるのですが、そこでお話しする機会はありました。前学院長が退任する時に「学院長をやってほしい」という声がかかったのです。
(中山)
斎藤先生が、後任として強く押されたのですね。
(田中先生)
その点はわかりませんが、ちょうど宮城学院での校長の任期1期3年を2期務め終える年だったのです。断る理由もなかったので参りました(笑)。
(中山)
お誘いを受けたときはどうお感じになりましたか。
(田中先生)
びっくりしました。全く考えていなかったことですから。私は九州出身なのですが、縁があって東北にやってきたときには宮城学院が勤める最後の学校となるだろうと思っていました。ですからずっと仙台にいるんだろうなと思っていました(笑)。
(中山)
それでは驚かれたでしょうね。
女子学院についてはどのような学校だと思われていましたか。
(田中先生)
名前だけはよく知っていました(笑)。ともかく「すごい学校だ」というくらいですね。もちろんミッション系の女子校であることや中高一貫校であることなど、宮城学院と共通点が多いことは知っていました。このような共通点を持つ学校をいくつか訪ねたことがありますので、その点では安心していました。
(中山)
就任なさって実際にはいかがでしたか。
(田中先生)
やはり似ている点は多いと思います。もちろん違っているところもたくさんあります。
(中山)
似ているところは具体的にはどんなところでしょうか。
(田中先生)
明るい雰囲気ですね。女の子ばかりなのでとても賑やかで活発です。キリスト教の学校、あるいは私立の学校の共通点と言っても良いのかもしれませんが、よく他人の面倒をみる生徒が多いですね。病気やけがで長期欠席の生徒にノートをとってあげるなどということは、自然にできています。
(中山)
では、違っているところは。
(田中先生)
女子学院の生徒はよく勉強しますね。別な言い方をすれば、小学校時代からよく勉強して入学しています。これは地方の私立学校とは大きく異なります。また、女子学院の生徒はとても好奇心が旺盛で、探求心も強いですね。勉強に対する熱意、取り組む気持ちが強いですね。
(中山)
外部から見ていても女子学院の生徒にはそのような印象を受けます。多才な生徒が多いように感じますが、いかがでしょうか。
(田中先生)
その通りで、ずいぶん多才だと思います。私が見ても感心するほどです。子どもたちは本来いろいろなことに関心を持っているものです。この学校にはそれを素直にそのまま発揮できる雰囲気があるのだと感じます。
(中山)
最近の公立学校などでは、一生懸命勉強していることを隠そうとしたり、できていても目立たないようにする傾向が見られると聞きます。
(田中先生)
よくある話ですね。日本の社会は集団志向が強いので、自分が他人とは違っていることを隠したり、自分と違っていることははじき出したりすることが多いと思いますが、この学校にはそれが少ないのでしょう。
(中山)
女子学院の生徒にはてきぱきと物事を片づけていける、面倒なことでもうまくこなしていけるという、いわばフットワークの良さというようなものも感じます。村瀬先生は女子学院の出身と伺いました。いかがお感じになりますか。
(村瀬先生)
そのお話もよく耳にいたします。生徒自身も大学で他校出身の学生と比べると、反省も含めて、「コツコツ真面目に勉強してこなかったな」とか「要領よく勉強してきたな」とか、そのように感じると言っています。
(中山)
能力が高いからだと思います。同時に取り組めることが多いので、一生懸命やってきたという印象が薄いのでしょう。
(村瀬先生)
高2まではクラブ活動が中心で、その後の1年で要領よく勉強する(笑)生徒が多いですね。結果から見ると相当な努力はしているはずでしょうが。
(中山)
ええ。相当な努力だと思います。

「幅広い経験が生徒を成長させる」

(中山)
「要領が良い」ことはあまり良い響きにならないことが一般にあるように思います。女子学院の生徒の場合は資質として「多才さ」を持っていた生徒が集うこともあるとは思いますが、在学してから磨かれる面も強いと思います。そこで、先生が女子学院の教育で具体的に取り組まれている内容についてお伺いします。
(田中先生)
ちょっと過激な言い方をしますと、中学入試で入ってくる生徒の考え方には成績第一主義があるので、それを変えることですね。競争して勝ち抜いて入ってくるわけですから仕方がない面もなくはないでしょうが、いま、打ち壊していくことを大きな課題として取り組んでいます。
(中山)
詳しくお聞かせください。
(田中先生)
成績第一主義だけでは、人間の価値を正しく判断できなくなります。確かに成績やその他の評価というものはついて回るものですが、我々は「人間の価値はそれがすべてではないんだよ」と教えていかなくてはなりません。
(中山)
成績の良いことが大きなステイタスであった生徒たちにとって、それはすぐに受け入れられるでしょうか。
(田中先生)
なかなか難しいです。特に中学生の時期には。でも、高校生になるとだいたいわかってきます。足が速い生徒もいれば遅い生徒もいる、絵を描くのが上手な生徒もいれば下手な生徒もいる。それらはみな個性だから自分の与えられたものに一生懸命取り組めばよいというメッセージを伝えていきます。
(中山)
高校生になればわかるというのは高い受容力だと思いますが、理解できるようになるのはどのようなことが要因でしょうか。
(田中先生)
いろいろな活動を通して学んでいくことができることが大きいでしょう。例えばクラブ活動での経験、学校行事での経験などです。行事には生徒が企画し運営するものが数多くありますから、幅広い経験が積めるのだと思います。
(中山)
女子学院の独自の指導としてはいかがでしょうか。
(田中先生)
今お話した行事に加え、家庭にご協力をお願いしています。中1など低学年の子どもたちに何か体を動かしてやる役割を持たせてもらっています。例えば、お風呂の掃除、お弁当が作れるとなお良いのですが、せめてお弁当箱を洗って片づけるとか、食事の後片づけもそうですね。自分の役割を決めて継続してやるようにしています。
(中山)
ご家庭の反応はいかがですか。
(田中先生)
積極的にご協力いただいています。特にお母さん方からは感謝されているようです。
折に触れて感想が届きます。
(中山)
どのような感想がありますか。
(村瀬先生)
「慣れないことでなかなか大変なようだけれどもよくやっています」「試験の時には崩れたけれども頑張ってやっていました」などですね。中には「最近はあまりやってくれません」(笑)などというのもありますが。
(田中先生)
お母さんも大変なようです。自分がやった方が早いし上手くできるとわかっていても、「これは取り決めだから」とじっと我慢してやらせている、というようなものがあります。
(村瀬先生)
夏休みバージョンというのものもあります。トイレ掃除のやり方やアイロンを上手くかける方法を覚えるようにするなどですね。
(中山)
生徒の反応には興味があります。お話いただけますか。
(村瀬先生)
いろいろ工夫してやっているようですね。さすが女子学院の生徒だと思ったことに、「お風呂掃除はお父さんもやるべきだ」と順番を割り当てた生徒もいましたね(笑)。
(中山)
なかなかのものですね。これは毎年の取り組みなのですか。
(村瀬先生)
最初に取り組んで以来、やる学年が多いのですが、学年の方針でやらないこともあります。
(田中先生)
学年の特性によって効果に差が出るので、別のプログラムを考えてやる学年もあります。
各学年でいろいろな内容のうち最も効果的なものを選んで取り組みます。
(中山)
このような取り組みがうまくいくのは教務スタッフの努力の結果だと思います。失礼な言い方ですが、女子学院でこのような取り組みがされていることは外部にはあまり伝わってきません。これは残念なことです。
(田中先生)
そう思いますね。説明会などで受験生の保護者とお話をしても、女子学院という名前と偏差値は知っていても、教育の内容はほとんど知られていないことを感じて驚きました。
(中山)
それが今年のホームページの開設や今回の取材を受けられたことにつながるのですね。
(田中先生)
そうです。教育内容などは、もっと外部に伝えるべきだと思います。私立学校にとっては、東京は特別な場所で、女子学院は特に恵まれている学校なのです。地方の私立学校ならば生徒集めに学校を回り、教育の方針や内容を伝える努力をしています。それが一般的なことでしょう。情報の開示は必要なことだと考えます。

「生徒を外見で判断してはいけない」

(中山)
話を戻します。いろいろな場面で生徒の自己管理能力を養成されていこうという姿勢も感じられます。女子学院は制服がなく校則も少ない学校で知られていますが、このような努力の裏付けがあるので、生徒の生活の面で不安は少ないのでしょうか。
(田中先生)
そうですね。
ただ、私が最初に女子学院に来たときは驚きました。いろいろな服装や髪の色の生徒がいましたから(笑)。今では慣れてきて、冷静に見ることができます。目立つ生徒はとても少数で、全体としては地味で落ち着いた身だしなみの生徒が多いのです。
(中山)
目立つ生徒にはどのように対応されているのですか。
(田中先生)
正直なところ偏見を持ってしまいます。しかし、きちんとした考えを述べる生徒も多いので、外見では判断してはいけないと改めて学びましたね(苦笑)。
(中山)
自己表現のひとつとして服装や髪の色などを決めているのでしょう。女子学院の生徒はきちんと考えられる基本ができているから、それに任せるということでしょうか。
(田中先生)
基本的にはそうですね。もちろん時と場合にもよります。夏に浴衣を着てきた高校生がいましたが、当然教師から注意を受けました。「それは勉強する格好ではない」と言われると、すぐに納得して着替えていました。
(中山)
女子学院は自由な校風ということで知られていますが、生徒も何でも自由にして良いとは思っていないのですね。
(田中先生)
そうですね。浴衣を着てきた生徒も「学校に来るにはふさわしくない格好だ」とわかっているので、素直に従うことができるのです。もちろん反発もあるでしょうが、その中でいろいろなやりとりがあるわけでしょう。それは教育の良い機会で大切なことだと考えています。
(中山)
具体的にはどのようなやりとりがあるのですか。
(村瀬先生)
中学生では「自由だって言っているのに」というのが特に多いですね。例えば「中学の卒業式には着物なんて着てくるんじゃないよ」と教員が言うと、「何を着てきても自由じゃないか」と言いますね。
(中山)
先生方はそれを受けて指導をされるわけですね。生徒のいろいろな要望にはどのように対処なさるのでしょうか。
(村瀬先生)
生徒指導はこのようなことの連続ですね。「ああしたい、こうしたい」ばかり(笑)ですね。
例えば「学校にビンや缶の飲み物を置いてほしい」という要望はよくあります。
(中山)
どのような対応をされたのですか。
(村瀬先生)
「ではゴミはどうするのか。自分たちできちんと分別できるのか」と考えさせます。 時間をかけて話し合って、「それは無理だ」とあきらめる場合や「きちんと分別できるように下級生を指導していこう」と考える場合もありますね。
(田中先生)
子どもたちは感情にかられてやっていることもありますから、時間をかけて話し合う、考えさせるということは有効だと思います。
(中山)
学校としてこのような体制がつくられているのは、生徒にとって実に良いことですね。
(村瀬先生)
いろいろ言って考えた結果、成長していくと思います。
(田中先生)
いろいろと言って来た子どもたちが高校生になると「自由とは」と後輩に諭すようです。
「何をやっても許されるということではない、やった結果に責任を負うことが大切だ」と。
(中山)
自由の意味が自分なりの言葉で表現できるのは理解した証ですね。
(田中先生)
中学と高校の6か年の生徒が一緒に生活しているのはとても大きな意味を持つと思います。「高校生になると考えるんだ」と中学の入学時点から知ることができるのは大きなメリットでしょう。
(中山)
担任の先生のフォローも大切になるでしょうね。
(田中先生)
ええ。生徒の生活全般に渡った指導は担任が重要な役割を果たします。5クラスの担任がしょっちゅう集まって「このように生徒にやらせよう」とか、「ここではこのように引っ張っていきたい」とか、いろいろな場面で統一して進めていきます。
(中山)
そのような方針や方法論などはどのように継承されていくのですか。
(田中先生)
若い教員がいればベテランの教員もいるという形で進めていきますので受け継がれていきますね。学年によっては年度が始まる前に合宿して方針を決める時もあります。意思統一をしていても予想外の状況が起こることもあるので、その時にはベテラン教員の経験と若い教員の新しい発想で対処していきます。

「わかったことを書いて表してみることを大切に」

(中山)
教科指導の面で、女子学院の指導の特色を示すものをご紹介ください。
(村瀬先生)
そうですね。理科では実験・観察を重視しています。単に実験した、観察した、というだけではなく、わかったことを書いて表してみることを大切にしています。
(中山)
具体的にはどのような形で行われるのですか。
(村瀬先生)
中1の2分野の授業では始めのうちは教科書を使わないで、毎回実物を生徒に与えて観察用紙にスケッチさせています。その場で集めて、次の授業までにコメント、例えば「ここが大きく描けていて良い」とか、「ここはしっかり見ていて良い」とか、いろいろ書いて返していきます。その中で観察のしかたやまとめ方を学んでいきます。
(中山)
まとめたものは発表の機会もあるのですか。
(村瀬先生)
理科室に掲示しています。春の遠足で海や山に出かけていくときには自分の図鑑を作って持っていきます。それを使って観察します。
(中山)
学習の基本となるスキルも指導していくわけですね。
(村瀬先生)
そうですね。中1の担任の大きな仕事に勉強のしかたを指導することも含まれていますから。
(田中先生)
つい最近のことですが、前期の中間テストの時、ある生徒が「今回ほど楽しいテストを受けたことがなかった」と中1の担任に言ったそうです。勉強のしかたが身についてきた証拠だろうと思っています。
(村瀬先生)
自分が勉強してきたことを組み合わせて考えた結果、わかったことがうれしかったのでしょう。各教科とも独自の工夫で授業を進めていますので。
(中山)
先生方も多才だということですね。次に入試に関してお伺いします。4科均等配点で知識の正確さを診る問題を出し続けていらっしゃいますが、出題方針が変わることはあるのでしょうか。
(村瀬先生)
当分変わらないと思います。知識の正確さとその積み上げた知識を使って、問題に適応できるかどうかをみたいと考えています。また、易しくてもパターン化された問題は避けるように配慮しています。
(中山)
女子学院を受ける生徒の学力レベルを考えると、もう少し記述など表現力を診る問題があっても良いと思いますがいかがでしょうか。
(村瀬先生)
できる限り設問数を多くしたいと思っています。特定の個所ができなかったから失敗したとか、ヤマをかけて当たったから合格したという形にはしたくないですからね。難しいことでしょうが、塾の助けを借りずに自分の力で訓練して合格する生徒が出る問題にしたいということもあります。
(中山)
塾に通っていなくて合格した生徒はいるのでしょうか。
(村瀬先生)
とても少ないですが、毎年、1人、2人いるようですね。
(中山)
2002年の入試の試験科目の順序を事前に発表されました。これはどのようなお考えからでしょうか。やはり情報の提供ということの一環なのでしょうか。
(田中先生)
そうです。先ほども触れましたが、今まであまりにも何も知らせてこなかったので、公表できるものからまず始めたということです。可能な限りの情報開示を進めていこうと考えています。
(中山)
伝統校ほど情報開示に積極的ではないように思われます。女子学院は田中先生のお考えが反映されたのでしょうか。
(田中先生)
そうです。学院長がかわったことはひとつの良いきっかけだと思っています。やはり長くひとつの学校にいると、ずっとうまくやってきたからということで変化の必要性を認識できない面もあります。私という「よそ者」が飛び込んできたことで少し刺激を受けてくれれば良いと思います。
(中山)
学校の良さはその学校が発信しない限り、なかなか伝わらないようにも思います。私たちのこのサイトはそういった意味で受験生やその保護者に生の偏りのない情報の提供を常に念頭において発信しています。女子学院だけでなく、他の学校にも田中先生のお考えが伝わっていくことを希望しています。
(田中先生)
さてどうなるでしょうか(笑)。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆田中学院長は就任2年目。女子学院の生え抜きではないという立場で、新たな女子学院の構想の実践を担っていると窺える。長い伝統の中で培われた教育の優れた点、改めるべき点を従来とは違った視点から判断されているようだ。土台となっているキリスト教主義教育の伝統を重んじながら、柔軟な試行として情報の公開を始めた。それは徐々に進んでいる。内外からも評価の高い指導スタッフの力量とあいまって教育内容はいっそう充実していくだろう。今後とも注目は更に集まるものと思われる。
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