2002年10月23日(水)訪問: 光塩女子学院は杉並区高円寺の住宅街の中にある。青梅街道と環状7号線という交通量の多い通りに近いが、閑静な学習環境が造られている。キリスト教(カトリック)の理念に基づいた人間教育に加えて、小規模校の利点を活かして生徒個々の状況にあわせたきめ細かい教科指導にも定評がある。結果、難関私立大学への高い現役合格率を達成し、さらに国公立大学への合格状況も大きく伸びている。2003年には完全な4教科入試に移行する。今後評価がさらに高まってくると思われる。学校長尾崎越子先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「生徒が校長就任を拍手で歓迎してくれた」

(中山)
尾崎先生は今年(2002年)の春に校長に就任されたのですね。
校長職に就くことが決まった時はどんなご感想をお持ちになりましたか。
(尾崎先生)
正直言ってびっくりしました(笑)。他の先生たちもきっと同じだったと思います。
(中山)
それはどうしてでしょうか。
(尾崎先生)
本校の校長には定年がないのです。ですから、前々任の校長は30年以上も続けておりました。辞めるときにはみんなびっくりしましたが、高齢で体調の問題もあるからだろうとその時は納得しました。前任の校長は、今も初等科の校長をしていますように、とても元気なのです。突然のことでしたので私も含めてとても驚いたのです(笑)。
(中山)
システムが変わったということでしょうか。
(尾崎先生)
そうです。
従来、幼稚園から高等科まで園長・校長は1名だったのです。それを分割して担当することになったからです。以前にも、役所からは分けた方が良いのではという勧めもありました。が、各学校の現場にいろいろな主任がいることやすべての学校が隣接していることなどの理由から1人で全てを担当していたのです。
(中山)
そのシステムが見直されたのはどのような理由からでしょうか。
(尾崎先生)
社会情勢の変化に適応するためです。生徒の成長の時期に応じて対応をより綿密に行いたいからです。校長への就任の話があったときにもそのような理由からでした。ですから私も納得できました。
(中山)
現在はどのように変わったのですか。
(尾崎先生)
幼稚園の園長、初等科の校長、中等科・高等科の校長という3人の園長と校長がいます。ただ、なぜ私が中等科・高等科の校長に選ばれたのかという疑問はありますね(笑)。
(中山)
なぜだとお考えですか。
(尾崎先生)
よくわかりません。
(中山)
生徒の皆さんにお聞きなったことはありませんか。
(尾崎先生)
そんなことはとても聞けません(笑)。
ただ、生徒は私が校長になったことを歓迎してくれました。
(中山)
どのような形で表示されたのですか。
(尾崎先生)
昨年度の終了式の際に前校長から校長の交代が発表されました。私は当時、校務主任といって他の学校では教頭にあたる仕事をしていました。それでいろいろな時にマイクの前に立つのですが、発表の直後にもマイクの前に立ちました。生徒がそのときに、ワーと言って拍手で迎えてくれました(笑)。
(中山)
それは素敵なお話ですね。先生の人柄の素晴らしさが伺えます。
(尾崎先生)
それはどうかわかりませんが、光塩の生徒の温かさ、優しさを強く感じました。
(中山)
そうですね。
(尾崎先生)
新しく校長として務め始める際に、しらけた反応をされれば気力がそがれてしまいますよね。生徒たちはそのことがわかっていたのでしょう。だからあのような温かい反応で迎えてくれたのだと思います。
(中山)
特にどの学年が喜んで迎えてくれたのですか。
(尾崎先生)
担任をしていた今の高3ですね。後で「先生は私たちの仲間だと思っていたので、校長になられると聞いて本当にうれしく思いました。しかし、よく考えると来年から担任ではなくなるんだとわかって少し寂しくなりました」と言ってくれました。
(中山)
それは良いお話ですね。やはり先生の優しいお人柄を感じます。
(尾崎先生)
いえいえ、生徒にはいろいろ無茶なことも言います。ほんとに厳しいことも言いますよ。そうした仲であってもそのように言ってくれたのは、生徒の心の温かさからでしょう。
(中山)
いえいえ、それはご謙遜です。
(尾崎先生)
そんなことありません。ただ自慢できることは、いやならないかな(笑)。私はとても忘れやすいのです(笑)。生徒に言わせると「厳しく叱られるようなことをしても次に会った時には忘れていてくれる」だそうです。
(中山)
なるほど。生徒は何度も言われるのは嫌でしょうから、そのさっぱり感が魅力なのですね。
ところで先生は何をお教えになっていたのですか。
(尾崎先生)
社会科です。高校の世界史などを教えていました。校長になると現場を離れるので生徒と直に接する機会が減り寂しくなります。

「光塩で初めて修道服姿でない校長になった」

(中山)
就任が発表されてからのお話をもっと伺えますか。
(尾崎先生)
そうですね。式が終わってから生徒が何人かやってきて、「先生、校長先生になったらあの服を着るんですか」と尋ねてきました(笑)。
(中山)
「あの服」とは何でしょうか。
(尾崎先生)
修道服です。代々の校長はシスターですから修道服を着ていました。私もシスターですが、ずっと私服で仕事をしていたのです。就任が決まったとき、私が私服の校長の最初だなと思いました。でも、生徒や保護者、卒業生にとって光塩の校長のイメージは修道服でしょう。それが私服では違和感があるのではと思っていましたので内心では不安もありました。
(中山)
その生徒たちに何とお答えになったのですか。
(尾崎先生)
残念な気持ちも込めて「着ないよ、残念だけど着ないのよ」と答えました。すると歓声が上がったのです。生徒が歓迎してくれたのです(笑)。
(中山)
それは良かったですね。
(尾崎先生)
そうですね。「なぜ」と尋ねると、「親しみやすいから」「身近に感じられるから」だそうです。
なるほどと思いましたね。
(中山)
今回の取材でもカトリックの学校だから校長先生は修道服でいらっしゃるだろうなと思っておりました。実際にお目にかかって、私服をお召しなので尾崎先生が新しく学校を変えていこうとされる意気込みを感じました。
(尾崎先生)
そうですか、ありがとうございます。
他に、校長の呼び方も変えました。カトリックの学校の多くは伝統的に「校長様」と呼ぶことが多いのです。しかしこれも他校と同じで良いだろうと、「これからは『校長先生』と呼んで」と伝えました。これも拍手と歓声で迎えられました。
(中山)
伺っておりますと、先生の試みがエネルギーを生んでいるように思います。
(尾崎先生)
この呼び方もいろいろと考えた末のことだったのですが、生徒たちは受け入れてくれました。
温かさを感じましたね。あまりにも大きな歓迎だったので、初等科から通ってきて長く光塩にいる生徒には「なぜこんなことで大喜びするのかがわからない」と思った生徒もいたほどでしたね。
(中山)
他にも校長という立場に立たれて大きく変わったことはありますか。
(尾崎先生)
これまでもわたしは割と気軽にいろいろ言ってきたのです(笑)。
「校長、○○については変えた方が良いと思います」とか「あれではダメだからこうしましょう」などとよく言ってきました(笑)。
(中山)
そうですか。これまでのいくつかの変更のもとだったのですね。
(尾崎先生)
そうかもしれませんね。でも、その頃は校長に判断を任せることができる立場だったので気軽にいろいろなことが言えたと思います。実行するかどうかは校長が判断して決まったものですから。
(中山)
校長という立場に就かれるとそうはいかないのですか。
(尾崎先生)
そうですね。よく考えて言わないといけないなと感じています(笑)。単なる思いつきで言ってしまったことが現実になってしまいますからね。
(中山)
お困りになったこともあったのですか。
(尾崎先生)
困ったと言うわけではありません。内容は詳しくお話できませんが、ある問題点が持ち上がっていろいろ考えた結果、「こうしたら良いのではないか」と話しました。すると着々と準備が進んで「これでいかがでしょうか」と実行できる状態になり、とても驚きましたね。
(中山)
先生方に力がある証拠ですね。
(尾崎先生)
そうですね。先生たちはとても協力的でよく助けられています。ですから余計に思いつきでものを言ってはいけない、ブレーキをかける役目の人間がいないのだということを学びました(苦笑)。いろいろな提案をした時に反対されたらどうしようという気持ちはあるのですが、とても協力的で助かります。
(中山)
しかし、校長自らいろいろなことを考えて言われることは学校が変化していく上では大切だと思います。
(尾崎先生)
そうですね。これからもいろいろなことを提案して実行していきたいと考えています。

「今通っている保護者に対する情報公開も進めたい」

(中山)
校長として現在取り組まれていることお伺いします。
(尾崎先生)
今通っている保護者に対する情報公開を進めようと思っています。
(中山)
それはどうしてでしょうか。
(尾崎先生)
受験生やその保護者に対してはホームページの開設、学校行事の開放、説明会や資料作成などでかなり充実したものができていると思っています。しかし、よく考えてみると在校生の保護者には十分ではないなと感じました。
(中山)
具体的な取り組みとしては何か始められたのですか。
(尾崎先生)
授業参観を始めました。今までやってなかったのです。私は学校行事以外での生徒の姿や学校の様子を見ていただくのは大切だと考えました。
(中山)
なぜ今まで実施されなかったのでしょうか。
(尾崎先生)
なぜでしょう。おそらく授業に支障が出るからでしょうね。授業参観の際には保護者の出入りが多くなり、生徒が授業に集中できないことが大きな原因だと思います。授業をとても大切に考える学校ですから。
(中山)
校長先生が「やりましょう」と言われたのですか。
(尾崎先生)
そうです(笑)。ただし、授業に支障が出ないようにしなければならないと考えました。
参観に適した授業内容に変えるのでは全くの本末転倒になります。普段の授業の通りにできるようにと、まずは余裕のある中等科から始めることにしました。時間割を考えて授業に支障が少ない日を選んで提案しました。
(中山)
先生方の意見はいかがでしたか。
(尾崎先生)
みんな賛成してくれて、積極的に取り組んでもらえました。情報を公開することは大切なことです。受験生への情報公開も含めて今後もできる限りのことはしてきたいと考えています。
(中山)
情報公開のために専門のスタッフを置かれるということもお考えですか。
(尾崎先生)
そこまでは考えていません。昨年まで私が担当していた役目を引き継いでやってくれる者がいますが、それを専門にすることはありません。授業も持ちながらよくやっていますね。
(中山)
わかりました。
さきほど「担任ではなくなるので寂しい」と言ってきた生徒のみなさんのお話がありましたが、校長室に生徒が自由に尋ねてくることもありますか。
(尾崎先生)
そうですね。校長室が高3の教室の近くにあるので、受験勉強の疲れや愚痴を言ったり、いろいろ陳情に来たりします(笑)。
(中山)
陳情ですか。
(尾崎先生)
ええ。たとえば学園祭「光塩祭」の行事についてです。生徒にはいろいろな希望があります。当然、理由があってできないことが多いのですが、まずは内容を聞いて職員会議に諮りました。きちんとした対応することが必要だと考えたからです。
(中山)
その後、どうなりましたか。
(尾崎先生)
やはりできないと決まりました。が、生徒たちがわざわざやってきて「職員会議にかけてくださってありがとうございました」と言ってくれました。
(中山)
きちんと対応してもらったことがわかったのですね。
(尾崎先生)
そうですね。生徒の日常や気持ちを知ろうとしなかったり、生徒の考えを知らずに動こうとするのでは、校長は単に学校を管理運営する職にだけなってしまいます。生徒とも疎遠になるでしょう。私はそれは避けたいと思っています。
(中山)
先生のお気持ちはわかります。それが生徒にも伝わっているのでしょう。
(尾崎先生)
そう願っています。先日、バスケット部が1回戦を勝ち抜いて2回戦に進んだんです。その試合が日曜日でした。中間試験の直前にあって、これまでですと参加できなかったのですが、担当の先生から相談があって「いいですよ」と答えました。するとメンバーが次の休み時間にお礼を言いにきました。
(中山)
うれしかったのですね。
(尾崎先生)
そうですね。私は最初何のお礼か分からずに「なあに?」って言ったんです。そうしましたら、「試合に行かせてくださってありがとうございます」って。中間テストのこともさすがに心配そうにしていますので、ちょうど良い機会だなと思って「勉強もがんばってするのよ」と話しました。
(中山)
反応が素早く、きちんとした生徒さんたちですね。
(尾崎先生)
そう思いました。こんなに喜ぶのだとも改めて思いました。試合には残念ながら負けてしまいましたが、結果も報告に来ました。

「総合教養演習では今日的な問題を生徒に投げかけて考えさせる」

(中山)
教科指導についてお伺いします。失礼な言い方かもしれませんが、わずか1学年130~150名という人数を考えると質・量とも素晴らしい進学実績だと思います。
(尾崎先生)
ありがとうございます。
(中山)
何か特別な講座などを実施されているのでしょうか。
(尾崎先生)
直接には大学入試と関係ないのですが、総合教養演習という講座を高2の第1・3・5土曜日に2時間続きで実施しています。単位上では国語の1単位ですが、小論文対策も兼ねているのでとても幅広い内容に渡ります。今日的な問題を生徒に投げかけて考えさせたり意見を書かせたりするものです。担
当教師によると8年がかりで準備したものだそうです。
(中山)
検討を重ねて作り上げたものなのですね。大きな成果が上がりましたか。
(尾崎先生)
直接に関係があるかははっきりしませんが、東京芸大にある評論家を養成するための美術学部芸術学科、定員20名の中に光塩生が2名入りました。独自の切り口で問題に対処することができる生徒が増えてきていると思います。
(中山)
そのような見方ができる生徒は稀ですね。指導の賜物でしょう。
その他には何かありますか。
(尾崎先生)
高1までは文系・理系という枠組みで考えないで基礎学力の養成を図っていることや高2からの細かい選択授業でしょう。選択授業では1時間の授業が6クラスほどに分かれます。生徒の志望に合わせた対応ができていると思います。
(中山)
1時間を6クラスに分けると、20名前後の少人数になりますね。
(尾崎先生)
そうです。そのくらいの人数であればレポートを見るときにもコメントをつけたり、添削などもできたりします。担当者も生徒の理解度がよくわかります。
(中山)
今年(2002年)の卒業生の合格状況は大きく伸びたように思われます。どのような生徒たちだったのですか。
(尾崎先生)
お祭り騒ぎが好き(笑)な生徒たちでした。学力的には他の学年の方が上だと言われていましたね。2学期になってから勉強したのではないかと思われるほどです。
「今頃こんなことやってちゃ、ダメよ」などと担任が言っても、「コンチキショー」(笑)という調子でがんばりましたよ。
(中山)
「コンチキショー」はとても愉快ですね。私どもでも保護者や生徒には「受験はお祭りだ」と言って進めていきます。
(尾崎先生)
そうなんですよ。試験の結果1つ1つに保護者が一喜一憂しているようでは成功しません。保護者のその気持ちはよくわかりますが、本人はそんなに気にしていません。どっしり構えてくださいと言っています。
(中山)
最後に入試についてお伺いします。完全に4科入試にすることを発表されています。日曜日が入る関係で他校の入試日の変動が多くなる2003年から完全に移行される理由は何かあるのでしょうか。
(尾崎先生)
他の学校の入試については考えていません。実はいつから移行するのかということは懸案事項だったのです。2科の受験生でも入学後に伸びる生徒が多かったので、そのような生徒に門戸を閉ざすことは良くないだろうと思っていました。
(中山)
ではなぜ2003年からなのでしょうか。
(尾崎先生)
受験生が4科を勉強してくるのが一般的になったからです。それに早めに発表しておけば準備ができるでしょう。ですから2年前に発表し、2科4科の選択を1年挟んだ後で移行することに決まりました。ただし帰国生だけは主に2科で判定しています。
(中山)
4教科ともとても手間をかけた問題で良問が多いと思います。特に単純な知識問題になりがちな理科・社会の出題はよく工夫されたものです。これについて特に配慮されている点はありますか。
(尾崎先生)
そうですね。単純な知識問題、社会で言えば「江戸幕府を開いた人物を答えなさい」というようなものは出さないようにするという申し合わせがあります。受験生は一生懸命準備をしているわけですから全く出さないわけにはいきません。が、それだけを出すと言うのではテストの意味がありません。入学後にきちんと教えますから。
(中山)
わかりました。これから同じように工夫された問題を出し続けていただきたいと思います。
(尾崎先生)
ありがとうございます。できる限り続けていきたいと思っています。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆尾崎校長はエネルギーを感じさせる話し方である。気軽な雰囲気で場を和やかにさせ、新しい学校についての考えを率直に力強く語られた。大きな受容力を感じさせる。実力ある教務スタッフを抱え、キリスト教の理念に基づく人間教育や生徒の指導に合わせた進学指導もさらに充実していくだろう。
光塩URL