2004年11月30日(火)訪問: 攻玉社中学・高校は2度目の訪問である。品川区西五反田の住宅地にあり、最寄駅東急目黒線(旧目蒲線)「不動前」から1・2分と交通の便が良い。難関大学への進学を目指す受験生が集まり、卒業生の大学合格実績が大きく伸び、進学校としての評価が高まった。また、前回の訪問の後、最新式の施設を備えた新校舎が完成し教育環境の整備が一層進んでいる。さらに目黒線と地下鉄「南北線」「三田線」の直通により通学可能な範囲も大きく広がった。一層の難化が見込まれる。学校長菊池正仁先生、生徒募集担当主管高橋隆也先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「まず自分からできるように」

(中山)
菊池先生は今年(2004年)から校長に就任されました。校長としてどのようなことをなさろうとお思いですか。
(菊池先生)
いろいろと思うところがあります。が、まず「学校は生徒がいるから学校である」ということを基本に考えて進めていきたいと思っています。
(中山)
実際にそうなのですが、あまり伺ったことがないお話です。
(菊池先生)
生徒が学校にどのような期待を持っているかを、直接、生徒と接する中ではっきりすることが大切だと思います。
(中山)
生徒の期待を知るためにどのようなことをなさっていらっしゃるのですか。
(菊池先生)
朝、門で生徒を出迎えることから始めます。10年ほど前、最初に都立高の校長になった時からやっています。
(中山)
ずいぶん長くお続けになっていますね。
(菊池先生)
その学校の卒業式の時に、ある生徒が「何度もやめようと思ったけれど、先生の姿を毎日見たから学校が続けられた」と話してくれたことがあります。長く続けてきた原因のひとつです。
(中山)
良いお話ですね。
(菊池先生)
もちろん、それだけが理由ではないでしょうが、お互いに顔を合わせて何か話しかけることはとても大切だと思っています。
(中山)
攻玉社ではどのような形でなさるのですか。
(菊池先生)
本校では毎朝打ち合わせがありますので、生徒を迎えることができるのは、その打ち合わせが終わってからの8時20分から40分までです。
(中山)
生徒の皆さんの反応はいかがですか。
(菊池先生)
明るく挨拶してくれる生徒もいれば、仕方なしに小声で言って通り過ぎる生徒もいます。でも大きな声で挨拶を交わすことは元気の始まりだと思ってやっています。
(中山)
毎朝、生徒の皆さんをご覧になっていかがですか。
(菊池先生)
こちらを観察しているように思います。まだ校長になって短い期間ですので「今度の校長はどんな人なんだろう」というところでしょうか(笑)。こちらに来る前に校長をしていた都立武蔵高でも同じように感じました。学力の高い生徒の共通点なのでしょう。武蔵も進学校なので相当に勉強した生徒が入ってきてましたからね。
(中山)
そう思います。高い学力を持つ生徒が集まる学校はどこも同じようです。特に男子校ではその傾向が強いように思います。最近の攻玉社の生徒に関してはどのような印象をお持ちですか?
(菊池先生)
能力が高く大人しい生徒が多いですね。ただ、言われなくては何もしないように感じられることは残念です。
(中山)
攻玉社の生徒はフットワークが良いというイメージがありますので、そのお話は意外です。
(菊池先生)
そう評価してもらえるのは嬉しいことです。本当に自分から進んで物ごとに取り組める人間に育ってほしいと思います。言われればきちんとできるので、能力が高いことはわかるのですが、全体として受け身な感じが強いのは残念なことです。
(中山)
最近の子どもによく見られる傾向です。心配なことです。
(菊池先生)
本校には帰国生のクラスがあります。その生徒たちと比べると大きく異なりますね。
(中山)
生活環境の違いでしょうか。
(菊池先生)
彼らの授業中の様子はとても積極的です。何でも発言しようとするし、質問も頻繁です。時には続けて同じ質問もあります。教員が「さっき○○君が同じ質問をした時に答えたじゃないかい」と言うと、「あれは僕の質問ではない。僕の質問に答えて欲しい」などと返してきます(笑)。
(中山)
先生方も大変ですね。
(菊池先生)
いやいや。彼らは日本に帰って来て、慣れない環境で人間関係を新たに構築している最中なのでしょう。その点では他の生徒も同様です。攻玉社という新しい環境の中でいろいろなことを吸収していけば良いと思います。
(中山)
同感です。
(菊池先生)
今の子供にはお互いがぶつかり合うような遊びやけんかが少ないと思います。だから、帰国生の持っているエネルギーは合同したクラスでは他の生徒に良い影響を与えていると思います。国際学級の存在はとても大きなものだと思います(微笑)。

「6年間で生徒は大いに成長する」

(中山)
生徒の様子についてさらにお伺いします。高橋先生は攻玉社で長く指導をされていらっしゃいますね。以前と比べて生徒が変わったなとお感じになることはありませんか。
(高橋先生)
本校で、もう30年も勤めてきました。最初の頃と比べると、生徒の学力はとても高くなったことは感じます。授業の内容の理解度が高くなってきました。反面、校長の話と同じようなことですが、逞しさはなくなってきたように思います。覇気がないというか、ひ弱というか(苦笑)、とても残念なことです。
(中山)
前回、大野前校長が「新入生は体力が落ちているので、最初は体を鍛えることから始めることが必要だ」とおっしゃっていたことに通じますね。
(高橋先生)
実際にはやり遂げる力は持っています。持久走など、ほとんどの生徒が脱落しないで最後まで続けることができます。体力がないのではなく気力の問題かもしれません。やりたいこと、挑戦したいことを早く見つけることができると逞しくなると思います。
(中山)
話は少しそれますが、前回の取材の際、校舎の写真を撮っていましたときに、笑いながら「肖像権の侵害だーい」と声をかけてくる生徒のグループがいました。男子校らしいやんちゃな様子で愉快でした。そのような発言があるのは面白いと感じました。
(菊池先生)
そのような言葉が出てくるのは、いろいろなことに関心があるからでしょう。学力の高い生徒には当然備わっていることでしょう。でも、それだけでは不足です。
(中山)
それはどのような意味でしょうか。
(菊池先生)
単に「言葉として知っている」ことではなくて、「意味をよくわかって表現できる」ようになることは大切だと思います。本校ではそれを目指して指導していきたいと考えています。互いに議論できる言葉の力とエネルギーは必要でしょう。
(中山)
なるほどそうですね。最近の子どもたち、特に男の子たちは以前に比べて迫力がなく、残念に思います。攻玉社の生徒も同様だということですが、原因は何だとお考えですか。
(菊池先生)
なかなか自立できないということでしょう。良くも悪くも保護者が大きな期待をかけながら、我が子を見ています。期待され過ぎるのは子どもにとっては難しく思われる状況が現在は多くあります。それは「勉強してのし上がる」という東アジア型の考え方が通用しなくなったからだと思います。
(中山)
なるほど。
(菊池先生)
自立というのは、自分の中に自分を冷静に見ているもう一人の自分をつくることだと思います。家庭と学校とでそこまで育てていくことが必要なのでしょう
(中山)
本当に難しいことだと思います。
(菊池先生)
そうですが、深く考え取り組まなければいけません。大きな流れの中で成長を見守る姿勢が大切です。達成感や充実感を感じることが成長を促します。具体例を挙げれば漢字検定や英語検定ではそこそこの点を取ります。その際にまず認めれば良いのです。
(中山)
自信を持つことが大切なのですね。
(高橋先生)
はい。本校では黙想で授業を開始するのですが、自信がない生徒はそれが姿勢に表れます。自立できている生徒ほどどっしり構えていると思います。
(中山)
最近の小・中学校では女子の方が元気が良いので、そのような状況も反映しているのでしょうか。
(高橋先生)
生徒に「なぜ男子校を選んだのか」と尋ねると、「こわい女子がいないから」という答えが返ってきました(笑)。男子どうしの方が会話がしやすいようですね。
(中山)
そのような状況から出発してたくましさを感じる生徒に育てるのはたいへんなことです。先生方のご努力が感じられます。

「学年が進むと大きな変化が見られる」

(中山)
校長先生のいろいろな想いをお伝えになることは生徒にとって、大切だろうと思います。菊池先生は直接に生徒とお話をする機会は多くあるのでしょうか。
(菊池先生)
朝は挨拶程度です。校長室に生徒が訪ねてくることが多いので、直接話すのはそのときですね。
(中山)
校長室は入って来やすいようにされているのですね。
(高橋先生)
はい。本校では、校長が学級日誌に必ず目を通します。菊池校長もかなりの時間をかけて見て、その日誌に返事を書いています。
(中山)
それは珍しいシステムだと思います。生徒の文章を読んでどのようにお感じになりますか。
(菊池先生)
中1のころは長い文章を書いてきます。やはり「良い子ちゃん」タイプの文章(笑)が目立ちます。格好だけつけて中身がない傾向が多いのは気になります。
(高橋先生)
試験が終わった際の反省にも「○○ができなかったから、今度は頑張ってやります」という言い方が多いのも同様ですね。
(菊池先生)
だから、ある程度まとまった文章を書くことはできます。が、深い内容の文章が書けるようにするにはそこから脱皮させなくてはなりません。
(中山)
やはりそうなのですか。別の学校で、保護者とりわけ母親の対応がそのような「良い子ちゃん」状況にさせがちであるという指摘がありました。
(菊池先生)
そうかもしれませんね。学年が進むにつれて何も書かなくなります(苦笑)。でも、受験が近づいた高2・高3のあたりになると、いろいろと内容のある文章が出てきます。こちらも気を入れて読まなくてはなりません。
(中山)
どのような文章でしょうか。
(菊池先生)
今、特にしっかり読まなくてはならない文章を書く生徒が2人います。1人は小説を書き、もう1人は論文を書いています。簡単に読んでコメントができるようなものではないので、持ち帰って読んでからコメントしています。
(中山)
それはすごいことですね。
(菊池先生)
高校生になると文章を書く力がずいぶん付いてきますね。本人が成長して意識が高まり、指導とうまくかみ合い進んでいくのでしょう。
(中山)
最近の小・中学生では国語力の低下がはっきりわかります。ニュースなどでも取り上げられていますがそのような状況を考えると、文章表現力が伸びていくのは実に喜ばしいことです。
(菊池先生)
青少年期の成長の過程で、それぞれ自己の思いを実現していきます。その途中の大きな流れの中で、個性がぶつかり合っていくことが大切だと思います。最近の生徒は自分たちで動いていこうとする力がちょっと弱いので、学校でもいろいろな場を設けていくことが必要でしょう。
(中山)
なるほど。
(菊池先生)
生徒どうしだけでなく、教員とのコミュニケーションも重要です。その中で自己を表現する力を伸ばしていこうと思います。
(中山)
それがうまく行えているのですね。
(菊池先生)
まだまだ不十分です。贅沢な望みだと思いますが、相互にもっと適切な形で自分の思いを伝えることが必要ですね。
(中山)
そのようにお感じになる事例があるのでしょうか。
(菊池先生)
今、ある生徒と議論していることがあります。「災害地でボランティアをしたい」という希望を持つ生徒がいます。「親とけんかをしても行きたい」「今しかできないことだ」と言うのです。が、その生徒には「今は自分をつくるために勉強をしなくてはいけない」と伝えています。
(中山)
なかなか積極的な生徒ですね。
(菊池先生)
そうですね。ただ、「自分が真に逞しくならねば何もできない」ことも知ってほしいと思います。「自分が本当にできることで手助けすることが大切だ」ということもわかってくれると良いと思います。そのようにメッセージを伝えています。
(中山)
本当にそうですね。
(菊池先生)
本校では教員がそれぞれ生徒に対してメッセージを持ち、伝えていきたいと考えています。「気持ちの良い挨拶をしよう」という考えをもって、自分たちから生徒に挨拶していくのも、その一つです。
(中山)
「メッセージを伝える」という表現から攻玉社の生徒に対する姿勢が感じられます。

「進路指導には情報の提供が大切」

(中山)
保護者や受験生は、まず攻玉社の進路指導・進学指導に期待して受験をする場合が多いと思います。どのような方針で指導をおすすめになっているのかお伺いします。
(菊池先生)
いろいろな情報を提供して、自分がやりたいと思うことを見つけた上で、大学を選ぶことが基本です。学校としては東大に多数入ってくれることは嬉しいことです。が、やりたい内容が東大にはなく、東工大にあるならば、もちろん東工大を選べば良いわけです。
(中山)
本当にそうなのですが、進学校の判断基準がまず東大何人、次に早慶何人というのは現実です。
(菊池先生)
一般的にはそうかもしれません。しかし、例えば東工大は創設時から理科系ではもっとも進んだことをやっている自負を持っており、現在でもその姿勢を保っています。学校はそのような点を伝えていくことも必要です。
(中山)
おっしゃるとおり、大学進学を目指していても生徒はあまり大学の内容を知りません。
(菊池先生)
そうですね。法学部といえばみんなが司法試験を目指すものだと考えるようでは困ります。本校では外国の大学を含めて情報を提供しています。学校としても大学側に情報の提供をどんどん求めていきたいと思います。
(中山)
具体的にはどのようなことが情報として求められていますか。
(菊池先生)
特に卒業生の進路ですね。例えば、中央大法学部は司法試験に強いと言われていますが、実際、何名が司法試験を受けてその中の何名が合格しているのかというような情報です。
(中山)
大学によってはなかなか公開できないことだと思います。
(菊池先生)
最近の慶応大学や早稲田大学のパンフレットが良くなっていると感じているのは、その点がしっかり書かれているためです。もちろん進路に自信があるからだとは思いますが、各学部の学生の実際の様子を知る上では大切な情報です。
(中山)
現在、大学付属の中学・高校では大学の授業を見る機会もたくさんあるようです。
(菊池先生)
そうですね。本校でも慶応大学のご協力を得て、研究のようすを知る機会を持つことができました。生徒も大学での研究を身近に感じられたと思います。他にもいろいろな方法を実施していこうと考えています。
(中山)
最後に入試に関してお伺いします。
特別選抜で国語・算数のいずれか1科目で入試を行っていらっしゃいます。とてもユニークなもので、入学後の生徒のようすなどに興味を持つ保護者も多いと思います。
(高橋先生)
ご承知のように、算数の力が秀でた生徒に合格のチャンスを与えるところから始めました。論理的に思考していく力、考えの過程を表現する力など、一般的な入試ではなかなか発揮できない力を診ようと考えました。
(中山)
最近聞き取る力が低下している小学生が多いことを感じていますので、国語で出される音声問題には特に関心があります。
(高橋先生)
国語を加えることには学校内でいろいろと議論がありました。どのような内容の試験にするのが良いかなど、いろいろ考えました。最初の頃は選択問題で読み上げた場所で鉛筆が動くので、他の生徒の解答がわかってしまう問題点がありました(苦笑)。その後、いろいろと改良しています。今はメモを取りながら本当に集中して解いているようです。
(中山)
小6からのいわゆる「駆け込み受験」の生徒が増えています。4教科は無理でも、国語や算数だけなら誰にも負けないという生徒もいるはずです。今後もぜひ続けていただけることを希望しています。
(菊池先生)
1科目での入試を行うことは創立者近藤真琴の理念にも通じます。彼は選抜の際に自分が得意とする科目で試験を受けることを許可していました。彼は一流の蘭学者であっただけでなく、漢籍・工学などいろいろな学問に造詣がありました。そのような事情から現在の特別選抜の原型とも言える入試を行うことができたと思います。
(中山)
近藤真琴先生は当時の教育に貢献された方だと存じてはいましたが、そのような試験をなさっていたのですね。当時としてもとても斬新な教育に取り組んでいたのですね。
(菊池先生)
当時は教科書もありませんから、自ら教科書も作るなど、新しい日本を担う人材の養成に情熱を傾けた方ですね。その考えは継承していきたいと思います。
(中山)
試験に関して残念に思うのが、合格発表の関係もあるのか特別選抜以外で記述形式が少なくなったことです。
(高橋先生)
確かに内容を変えています。算数など、以前は記述形式でした。採点の都合もありますが、特別選抜とのバランスも考えて作問しています。いろいろなタイプの生徒を迎えたいという気持ちもあります。
(中山)
試験の形が異なるといろいろなタイプの生徒が入ってきます。それは生徒どうしにとっても良いことかもしれませんね。
(高橋先生)
特別選抜で入学してきた生徒は良い成績の生徒も多くいます。国語で入学した生徒はまだ卒業していませんが、算数で入学した生徒には難関大学へ進学した生徒も多いですね。
(中山)
今後も、力があり逞しい生徒を育てていただけることを期待しています。
(菊池先生)
努力していきましょう。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆菊池先生の言葉には生徒をしっかり育てていこうという熱い思いが感じられた。自らホームページを手がけるなど、方針の実践は迅速である。創立者近藤真琴先生の教育に向ける情熱が学内で連綿と受け継がれ、一層レベルの高い教育が生み出されることが期待される。
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