2000年11月08日(水)訪問:国府台女子学院は千葉県を代表する女子校で、70年以上の伝統を持つ千葉県で最初の私立女子校でもある。小学部・中学部・高等部を持ち一貫教育を進めている。東京都の東部から千葉県にかけての女子校としては抜きん出た大学合格実績を誇り、県内で私立中学の新設が相次ぐ中でも安定した人気を保っている。県立千葉・東葛飾高などレベルの高い公立高が多い千葉県でも、仏教(浄土真宗)を基盤にした人間教育や大学受験に向けてきめ細かく丁寧な進学指導をすことで評価が高い。学院長平田史郎先生、中学部長尾川百里幸先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「主体的に行動できるのが女子校の良さ」

(中山)
千葉県では最近になって中学受験が広がって来ました。これは共学校の新設や以前からの男子校の共学化が大きなきっかけになっていると思います。女子校としてこの共学化の志向の強まりをどのように思われますか。
(平田先生)
確かに共学化は大きな流れではありますが、本校は女子教育を目標として作られた学校です。ですから、女子校という基本は堅持していきたいと考えています。女子校の優れた点を発展させていきたいと思いますね。
(中山)
女子校が共学校と比べ優れているのはどのような点でしょうか。
(平田先生)
女子が主体性をもって行動できる点でしょう。共学校の先生とお話しすると、どうしても男子を頼ってしまう傾向があるそうです。特に学園祭などの大がかりな行事の場合に、「大工仕事」(笑)のようなものもあるわけですが、そういう作業などは、共学校では男子が中心になるようですね。
(中山)
国府台女子では当然女子生徒が取り組むのですね。
(平田先生)
そうです。本校では運動会に仮装行列があるのですが、これは衣装だけではなく小道具も自作します。今年の仮装行列の最優秀賞はこの写真にある「沖縄人(ウチナンチュウ)」で、バックにある「守礼之門」は廃品をを利用して作り上げたものです。
(中山)
写真からも見事なものであることがわかります。
(平田先生)
そうでしょう(笑)。その他にも行事の企画や運営、業者との交渉も自分でやらなければならないようになっています。
(中山)
たいへん難しいことまで取り組むのですね。
(平田先生)
本校だけの特色でしょうね。先ほどのお話ですが共学校には共学校でしか学ぶことができない人間関係というものがあるでしょう。 私は私立学校は個性的であるべきだと思っています。ですから、本校では女子が主体的に行動できる環境を、女子校で過ごす中学・高校の6年間あるいは高校の3年間だけでも設けたいと思っているのです。
(中山)
女性の社会進出が一般化して久しくなりますが、永年にわたって女子教育に携わっていらっしゃって、「最近の女子中学生や高校生は変わってきたな」と思われることはありませんか。
(尾川先生)
私が本校に来てから30数年経ちますが、その頃と比べると表面的には大きく変わりましたね。社会の変化を背景に様変わりをしてきたのですが、本校生は、こうあってほしいと願う教育には変わりがありません。6年間をかけて本校らしい生徒に変わってほしいとの思いで指導を続けています。
(中山)
具体的にはどのような生徒になってほしいとお考えなのでしょうか。
(尾川先生)
最近の子どもはわがままだとか、自己中心的だとか言われます。本校の生徒には、穏やかだけれどもきちんと自己表現のできる生徒に育ってほしいと考えています。

「本校はいわば『仏教系ミッションスクール』である」

(中山)
最近の子どもたちは自己中心的だとなぜ言われるとお考えですか。
(平田先生)
基本的には子どもたちは昔も今も同じだと思いますが、自分の欲求を実現できる可能性が大きくなっているからでしょう。欲しいと言えばたいがいが手に入るという社会の中では、自分の欲求をコントロールすることはあまりないでしょう。それに伴って、よりよい自己表現の必要もなくなってきます。
(中山)
国府台女子で言われる自己表現力とはどのようなものですか。
(平田先生)
表現力という言葉にはいろいろな解釈があると思うのですが、私たちが考えるのは「ものを考える力」のもとである想像力と、「考えたものを実行する力」である勇気ですね。
(中山)
表現力を育てるのはなかなか難しいことだと思います。具体的にはどのようなことに取り組んでいられるのでしょうか。
(平田先生)
文章での表現や絵画での表現を重視しています。 文章や絵画で表現するためには周囲の状況まで想像して書くことが大切でしょう。他人に理解してもらうことが前提ですから、自分自身の快不快の感覚だけでは表現しきれるものではありません。 正邪の感覚のように、他人とも共有できるものを基に表現しなくてはならないでしょう。さらにそこから他人の気持ちを思いやって行動できるところまで育ってくれればと思いますね。
(中山)
お話を伺うと大きな基盤として仏教の考え方があるように思われます。
(平田先生)
そうですね。私も僧侶なのでいろいろ話をしますし、仏教の時間もあります。 仏教に関して話をしても、今の子どもたちはあまりいい顔はしません(笑)。私は、お釈迦さまや親鸞上人の一生を学んでいく中で、行動の基準をつくってほしいと思っています。そういう点で仏教は本校の教育の根底に生きていますから、生徒には「本校は『仏教系のミッションスクール』だよ」(笑)と言っています。
(中山)
今回初めて仏教系の女子校にお伺いしたのですが、入学直後の子どもたちの反応はいかがでしょうか。
(平田先生)
「変なところに入って来ちゃったなあ」(笑)と思っているのでしょう。 それが普通の反応でしょう。4月に入学した直後の8日が花祭りの行事ですから。 日本の文化とは面白いもので、子どもたちの周りには、仏式で葬儀を行いお経を読まれてお墓に入るという現実がある「仏教国」なのに、12月25日がイエス様のお誕生日あることは知っていても、4月8日がお釈迦様のお誕生日であることは知らないのです。まあ、イエス様のお顔と仏像のお顔を見てどちらがカッコ良いかくらいで決まのかもしれません(笑)。
(中山)
仏様のお顔がカッコ悪いと思われてしまうのでしょうか。
(平田先生)
(笑)。ただ、欧米文化に対するある種の憧れが、日本の社会や文化にある点は見逃せないでしょう。さらにテレビなどで変なお坊さんが出てくる(笑)ので、余計に変なイメージを抱いてしまうこともあるでしょう。 そのような誤解を解いてから現代にも通用する仏教の考え方を教えていくのです。
(尾川先生)
学院長は新入生全員をこの部屋に呼んで「茶話会」を開きます。ひとりひとりの生徒に仏教の考え方を伝えたり簡単な礼儀作法を指導したりしています。生徒も楽しみにしています。
(中山)
そこではどんなお話をなさるのですか。
(平田先生)
「縁起」というような考え方は科学で言う「生態系」という考え方につながるものだよとかを話したりしています。最近の社会で関心を持たれている事がらと関連づけて話していきます。

「学校は勉強の場。学習とは積み重ねである」

(中山)
教科指導の面についてお伺いします。先ほど表現力を伸ばす指導というお話は伺いましたが、その他に国府台女子を特色づける授業としてはどのようなものがありますか。
(平田先生)
本校には予備校の名物教師のようなカリスマ性を持った教師がいるわけではありませんし、特殊な方法を駆使した授業をやっているわけではありません。「学校は勉強の場で、学習とは積み重ねである」という認識で地道に授業を進めているだけなのです。 根底にあるのは」日々の内容は絶対にその日のうちに定着させるという目標を持って指導に当たることですね。
(中山)
しかし、高い合格実績を生み出すのには、優れた取り組みがあると思いますが。
(平田先生)
定着度を上げるために宿題も出し、小テストや豆テストなども頻繁に行います。不合格ならば再テストを繰り返しします。英語では1クラスを2分割する授業もあります。でもこれらは他の学校でもおやりだと思いますね。
(中山)
先取り学習はいかがですか。
(平田先生)
「中高一貫」ですので、当然中3では高1の内容に入ります。ただし極端な先取りはしていません。数学では習熟度別の授業を採用して、生徒の定着度に合わせて授業をしています。 高等部でも習熟度別やコース制を採用して希望進路や定着度に応じて指導をしています。不採算部門(笑)なのですが、美大の現役合格を狙うデザインコースも用意しています。
(中山)
生徒に合わせた指導が進学実績につながるわけですね。
(平田先生)
そうですね。もうひとつ言うならば「手を使って覚える」ということでしょう。 英単語や熟語、漢字の暗記の際にどんどん書かせます。簡単なものでも1単語についてノート2行分書いてくるという宿題もあります。面倒かもしれませんが基礎的な知識を定着させるにはとても効果があります。 こうして中学時代に身につけた基礎力は大学入試の段階でも生きてきているようです。
(尾川先生)
生徒たちはたいへんだと言っています(笑)が、確実な勉強が高等部で花開いて実を結ぶと思っています。 他には「百人一首」の暗唱も挙げられますね。ふつうなら年末に行うのでしょうが、古典の基礎学習と考えて4月から取り組んでいます。
(中山)
高校でのコース制のお話が出ましたが、以前から英語科のコースをお持ちですね。
(平田先生)
英語科を設けたのは首都圏では本校が最初です。 亡くなった前学院長が「新しい普通科」というコンセプトで始めたもので、10数年経ちます。 普通科のカリキュラムはオールマイティーであることが要求されるものですが、そんな生徒がそんなにいるはずがないのです。英語が得意ならばそれを活用して進路を決めれば良いと考えて設けたものです。 ただ最近は「いろいろな科目をやっていた方が無難だろう」と考える保護者や生徒が多いようで、普通科の方がはるかに人気がありますね。
(中山)
適性に合わせた指導が受けられるのに何か残念な気もしますね。そうすると中学部からは英語科には入りやすくなったわけですね。
(尾川先生)
その通りですね。 今は5科の総合成績が上位から半分程度の生徒まで進学が可能ですね。

「一般受験の8割が4科を勉強してきた」

(中山)
2001年の入試から一般入試と二次入試を2科4科選択にお変えになりますが、これはどのようなお考えからですか。
(平田先生)
調査結果でわかったのですが、最近はほとんどの受験生が4科で勉強してきています。一般受験では受験生のだいたい8割くらいです。合格者になるとほとんどがそうです。 本校が第1志望の生徒でもほとんどが4教科を勉強しています。それならば4科で判定してあげる方が理科・社会が得意な生徒にも合格のチャンスを広げることになるだろうと思いました。 あわせて面接も廃止しました。面接で合否判定はしないのですが、気にされる方もいらっしゃいますので。
(中山)
合否の判定方法はどうなりますか。
(平田先生)
いろいろ研究しました。 結局、最初に合格者の8割を2科の合計得点順に決めて、残り2割を2科の得点で合格できなかった4科受験生の中から合計得点順に決めるという方法に落ち着きました。
(中山)
最終的には4科に移行されることもお考えですか。
(平田先生)
今回決めた2科4科の選抜方法が最良とは思っていません。最後は2科で選抜されるわけですからね。 ゆくゆくは4科とも思いますが、当面は考えていません。理科・社会の問題作成が難しいので合理的な判定ができるようになるまで研究を続ける必要がありますから。
(中山)
問題作成にあたってのご苦労がおありのようですが、どのようにして問題作成がなされるのですか。
(平田先生)
問題作成担当がいて教科ごとに作成しています。国語と算数で難度の差がありすぎて受験者平均点に大きな違いが出ることがありました。それが問題になることもありました。
(尾川先生)
原稿の段階でチェックをしましたが、4教科受験生を対象にすることで、入試問題検討委員を置いています。
(中山)
算数・国語の得点差が大きい生徒はどちらかで足切りがあるのでしょうか。
(尾川先生)
総合点で判定します。ただしボーダーゾーンではバランスの取れた学力を考えますね。 国語の得点が極端に低い場合、授業内容を理解する上で支障になり本人もつらいだろうと思いますからね。
(中山)
算数・国語の出題の傾向に変わりはないのでしょうか。
(尾川先生)
特に変える予定はありません。 最近の問題はオーソドックスで良い問題だと評判が良いもので(笑)。 理科・社会については模擬問題を作成して受験生にもわかりやすくしています。
(平田先生)
国語の文章を書かせる問題はふだんからどれだけ文章に触れているかを見たいので、文をうまくつなげてひとつの文章を作る問題などを出したいと考えています。
(中山)
最後に受験生と保護者にメッセージをお願いします。
(尾川先生)
2002年からの指導要領の改訂など、いろいろな問題もありますが、全力で生徒ひとりひとりが希望を実現できるような力を付けていきます。意欲的に6年間がんばってくれる生徒を待っています。
(平田先生)
自分を高めるための勉強を続けてほしいと思います。 受験勉強はたいへんかもしれませんが、勉強は入学で終わりではありません。本校で自分を高める勉強の第一歩を踏み出して欲しいと思います。

以上

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☆付記☆平田校長は教育者として宗教家として懐深く、生徒を導いている。柔軟な対応が個々の適性に合わせた指導につなっがっているようだ。尾川中学部長以下の経験豊富なスタッフに支えられて広く高い成果が生まれている。
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