2000年5月24日(水)訪問:國學院大學久我山中学校・高等学校(以下國學院久我山)は、井の頭線久我山駅から商店街を抜け、玉川上水の脇を通って10分ほど歩いた、緑に恵まれた住宅・文教地区の中にある。國學院久我山は國學院大學の付属校だが、卒業生の多くは他大学を目指す「受験校」である。また、何回も全国制覇を果たした高校のラグビー部をはじめ、野球部、陸上部など体育系クラブや、吹奏楽部など文化系クラブの活動も盛んである。学校長川福基之先生、入試対策部主任笠井誠司先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「緊張が子どもを高める」

(中山)
最初に、校長先生の簡単なプロフィールからお聞かせください。
(川福先生)
何から話したら良いでしょうか。出身は横浜です。少年時代がちょうど太平洋戦争の最中から終わりにかけてでした。戦後は、マッカーサー元帥が広めた民主主義な教育の影響で、子どもたちの間で野球がたいへん盛んになりました。「六・三制、野球ばかりがうまくなり」(笑)などと揶揄された時代です。私も野球に明け暮れていました。
(中山)
スポーツ少年だったわけですね。
(川福先生)
そうですね。けれども本は好きでした。父親の本を読んだり、遠くの友だちの家まで本を読みに出かけたりしたものです。
(中山)
その頃の経験で現在に繋がるものがおありですか。
(川福先生)
よく言われることですが、本を読むことで想像世界が広がり、内面的に豊かになるような気がします。読書に目覚めてから野球とは離れるようになりました。
(中山)
それ以降はスポーツとは縁遠くなられたのですか。
(川福先生)
大学時代は山登りが好きになりました。こちらの笠井も山好きで、本格的に山登りをします。山が好きな人間は、なんとなく自分勝手でヒロイックな気分に浸るところがある(笑)んですが、私は一人でおとなしく(笑)山に登ります。そのような経験もあるので、中学生の自然体験教室には山登りをさせています。
(中山)
どんな山に登るのですか。
(川福先生)
今年は日光白根に登りました。高さは2500mを超える山で、関東以北では最も高い山です。山頂をきわめたときの達成感は素晴らしいものでしたね。ただ、ときに落石などがあってなかなか怖い山なのですよ。
(中山)
危険な山登りに反対の意見がありませんでしたか。
(川福先生)
教員の間では危険ではないかという反対の意見は出ました。確かに危険はあるのですが、この緊張が子どもたちを高めるのがわかります。慎重に登っていく中で緊張感を持ち続ける体験が子どもたちを成長させるということもあります。熟慮の上、私が判断して決めました。
(中山)
最終的な責任は校長先生がとられるということですね。
(川福先生)
そうです。でも、充分な準備をして臨んでいますので心配は要りません。

「最近の子どもたちは遊びの中での工夫が足りない」

(中山)
校長先生のプロフィールの話から山登りが子どもたちを成長させるという話に進みました。ここでお聞きしたいことがあります。実際に子どもたちを指導をされていて困ったとか、心配だとかお感じになることはありませんか。
(笠井先生)
他人との付き合い方が下手になったということを感じます。ちょっとした諍いが、もめごとやケンカに発展することはよくあることでしょう。しかし、そのような問題を解決していく能力は自然と身についていくものですが、それが身についていないと感じます。同じ年代の子どもどうしのふれあいの場が少ないのが原因でしょうね。
(中山)
それは受験勉強が原因とお考えですか。
(笠井先生)
そうは思いません。むしろ受験勉強は成長していく上で必要なものだと思います。
成長していく上での大切な試練だと考えています。
(川福先生)
私は環境が整いすぎていることが大きな原因だと思います。昔は、空き地さえあれば野球をしたものです。人数が足りないときは三角ベースをしたり、ボールも母親に頼んで作ってもらったりしました。遊びの中でも何か工夫してやろうとしたものですが、最近はないことですね。
(笠井先生)
バドミントンの新入部のためのミーティングで、新入生のスポーツ経験を調べたのですが、出てきたもの見てびっくりしてしまいました。スイミングスクールに通っていた、スポーツジムに通っていた、というようなものがほとんどです。自分で創意工夫をしたものではなく、大人がある程度セットしてくれたものばかりでしたので。
(中山)
自分の頭とからだを使って何かをしてきた経験が足りないのですね。
(川福先生)
そうですね。さらに驚くことには、かたい食べ物というと「ご飯」と答える生徒がいることです。以前は「きゅうり」という子どもが多かったらしいのですが。
(笠井先生)
それではもう流動食しかないわけです。
(川福先生)
ご飯がかたいと思うようでは生きていけません。久我山では強い子を育てていきたいと私たちが思う理由にもつながります。
(中山)
先の自然体験教室に力を入れられていることにも繋がるわけですね。
(川福先生)
そうですね。クラブ活動も大切ですね。他人との付き合い方も学ぶことができますから。例えば挨拶。挨拶というものは人の心に灯りをともすようなものです。自分も他人も元気になる出発点ですから大切にしていきたい。無愛想な子どももいますが、本校の生徒はよくできている方でしょう。外部の方からも言われます。

「グランドの興奮を授業に持ちこまない」

(中山)
クラブ活動についてお伺いします。全国制覇を何度もされた高校のラグビー部をはじめ全国レベルのクラブが多いのですが、学校として相当な力を入れているようですね。
(川福先生)
ラグビー部に注目が集まりますが、運動系のクラブだけでなく文化系のクラブも全国レベルのクラブが多くあります。しかし、スポーツの特待生はいないし高校入試の推薦も1クラス45名しかいません。また、ラグビー部であっても活動時間はフリーではありません。
(笠井先生)
高校のクラブ活動は18時10分を完全下校にしていますが、ラグビー部だけは特別に、18時30分です。でも、それはシャワーを浴びることが必要なので認めているだけなのです。
(中山)
そのような制約の中で素晴らしい成績を挙げるのにはなにか特別のノウハウがあるのでしょうね。
(川福先生)
この場では説明することは難しいのですが、効率化された練習など、いろいろな工夫があります。それが体系化されているのです。それが、「久我山でラグビーをしたい」と全国から志願者が集まる理由ですね。
(中山)
中学生のクラブ活動の状況はどのようになっていますか。
(笠井先生)
週4日、17時50分完全下校で活動しています。ほとんどの生徒が加入しています。國學院の精神性というものを身につけて欲しいので、茶道、華道、筝曲に関しては兼ねて活動することを認めています。そのため、女子の加入率は100%を超えます。
(中山)
クラブ活動に参加していないのは、どのような子どもたちですか。
(笠井先生)
遠距離通学の子どもたちです。さすがに通学に片道2時間かかると体力的に厳しいでしょう。
(川福先生)
勉強とクラブの両立とよく言われますが、全国レベルのクラブ活動をしていても学ぶことはきちんとさせたいと考えています。中学生でも1日2時間の勉強は確保させたいと思います。
(中山)
実際のところはいかがでしょうか。
(笠井先生)
少し厳しいようですね。
(川福先生)
努力が要るでしょう。でもそれができたら、子どもたちはもう一段飛躍できるわけす。今後も働きかけていきます。
(中山)
クラブ活動が子どもたちに与えるプラスの効果について、人との付き合い方を学ぶこと以外で何かありませんか。
(笠井先生)
私はこの学校の出身者なのですが、当時を振り返ってみますと身近に全国的に活躍する仲間がいるのは素晴らしいことだと思ったものです。全員が晴れの舞台に立つことができるわけではありませんが、応援の場などを通じて感動を共有できるのです。さらに、自分は晴れの舞台に立つことができたなかったのに、仲間は立つことができた、その違いは何だろうと考えることもできます。これは何にも代えられない学習だと思います。
(川福先生)
でも、グランドでの興奮を授業内に持ちこんではいけない、と厳しく戒めています。もちろん勝負にこだわることも重要です。努力の末に達成感を味わうことだできますから。生徒たちには、メリハリがある生活と意識をもつこと、自己コントロールをして意識の切り替えをできることも大切なことだと話しています。クラブ活動を通じて人生の基盤づくりができると考えています。

「着眼点や考え方の工夫をみる問題を作る」

(中山)
最後に入試についてお伺いします。2月1日の特別選抜を廃止されて、2月2日以降、3日連続の入試となりました。この変更についてお話しください。
(川福先生)
2月1日の受験をやめたことで、「1日から退却したのは…」といろいろと言われました(笑)。そもそも、2月1日の算数の1科目入試は、校内で「数学の指導のあり方について考えて欲しい」、という目的を持って始めたものです。カリキュラムを大学受験センター試験用の国公立型に変えていくとりかかりとして、従来の入試で入学した子どもたちとはまたタイプの違う、「算数の強い子ども」に入学して欲しいという思いがありました。
2月1日の入試でカリキュラム面などでめどが立ちましたので、2日以降に戻しました。しかし、学校としてさらに力がついた時点で改めて2月1日参入するかもしれません。
(笠井先生)
データの上でも2科4科の選択、特に4科選択の子どもたちが充分な学力を持っていることが分かりました。それなら、混乱を招くような特殊な入試にしなくともいいのではないかという点もあります。さらに、永らく2日の受験校として定着していましたので、入試を混乱させないという点でも2日以降3日間の受験の方が良いだろうと考えたわけです。
(中山)
久我山の問題は独特な問題が数多くありますが、入試問題の作成の基本方針についてお話ください。
(川福先生)
作成担当者には質だけは落とさないといことを頼んでいます。ただ、国語の問題についてはいろいろと悪口を言われます(笑)。
(中山)
受験生のためにも、入試問題は学校独自のものを出されるのが良いと思います。理科の問題では、分野別の問題を加えて科学総合の問題を出されていますが、あの問題は良い問題だと思います。
(笠井先生)
日常的に起こるできごとの中にもとても難しく、深い考えを要求する題材があります。そのようなものに目を向けていく、解決を図る、などという作問は4教科ともに取り組んでいます。 入試直前講座と称して、特徴あるこの1問として取り上げた問題は、着眼点や考え方の工夫などを評価するものにしました。
(中山)
理科という教科の特性で特色がはっきりとしとわかる問題になるのでしょう。
(笠井先生)
理科の授業では実験や観察が多いのが特色です。絶対にやりっぱなしにはしないで、計画段階から目的を明確にして進めていきます。後のレポートの添削もとても細かいのです。 そのような指導を進めたいから、どのような入試問題にするか決まるのでしょう。
(川福先生)
国語の問題作成も他の教科を見習わなくてはならないようですね(笑)。国語の教員は自己満足的な変な文章を選ぶところがあるから。
(中山)
でも、そうでもしない限り難しい文章を読んで、想像を広げたり論理的に思考したりするなどということは少ないと思いますので、国語の入試問題で難しい文章を読ませることは続けて欲しいと思います。 最後に、久我山を受ける、受験したいと考えている保護者や生徒にメッセージをいただきたいと思います。
(笠井先生)
「きちんと青春」という中高一貫の第1期生が後輩に送った言葉があるのですが、その通り久我山で青春を送りたいと熱く思ってやってきて欲しいですね。
(川福先生)
私学の場合、入学金や授業料など高い費用をいただくことになります。 その代わりに、学校生活の経験を通して、人間として成長させるという「約束手形」を発行します。「人間としての資産作り」のために一生懸命、頭と心と体を使っていきます。
この、学校と志を同じくしてもらえる方をお待ちしております。

以上

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☆付記☆川福校長は一般企業を経て教職に就かれたそうだ。従来の枠にとらわれないで学校を引っ張っていく意欲と実践力が溢れている。学校のものとしてはデザイン、コンテンツとも充実しているWEBサイトなど、時代の趨勢を知り、新しいものに積極的に取り組んでいる笠井主任などの、スタッフの若々しい力も勢いを感じさせる。
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