「生徒や保護者に満足してもらえる学校にしたい」
(中山)
片桐先生はお父様のあとを受け継がれて9代目の校長先生となられたと伺っておりますが、校長先生に就任されてもうどのくらいになりますか。
(片桐先生)
昭和63年6月からですから、まる14年になります。前校長が高齢になって学校も休みがちになりましたので、年度の途中から引き継いだのです。
(中山)
ある意味では突然、校長になられたわけですね。それ以前はどのようなお仕事をされていたのですか。
(片桐先生)
実は最初から教師を目指していたわけではないのです。大学も政経学部で卒業後、一般企業に勤めていました。学園の理事など、いろいろな人たちから招かれて明大中野に来て教職に就きました。それが昭和53年、ちょうど40歳のときでした。
(中山)
当時の明大中野の様子を教えていただけますか。
(片桐先生)
八王子の郊外にグラウンドを建設した時で、「グラウンドだけではなくて学校もつくろう」という機運が、学園全体に盛り上がっていました。一般企業とは違ったエネルギーが満ちあふれている印象を持ちました。
(中山)
永く勤められた一般企業を辞めて学校へ入られるのですから、たいへんなご決心をされたのではありませんか。
(片桐先生)
実はそうでもありません(笑)。小さい頃から人を育てることに深く関係した環境に育ったからでしょう。できるかどうかわかりませんでしたが「とにかくやってみよう」と決めたのです。
(中山)
お父様が行われていた教育を身近でご覧になっていたわけですね。
(片桐先生)
そうです。学校の一角に校長の住まいがありましたので、学校を肌で感じていました。
職員会議で停学や退学という処分を受けた生徒を自宅に引き取っていたりしましたので、いつも2階には3、4人の生徒がいましたから、余計に身近に感じていたかも知れません。
(中山)
一般企業を経てから学校に入られた校長先生のお話を伺ったことが何度かありますが、どの先生も「一般企業での経験はとても役に立つ」という趣旨のことをお話になりました。先生はいかかでしょうか。
(片桐先生)
大学を出てすぐに教師になって、学校というひとつの社会しか知らないで育つのも、ある意味では良いかも知れません。私の場合も、他の方がおっしゃったように別の社会を知ってその中で経験したことは、教師になってからもいろいろな機会に役に立っていると思います。
(中山)
どのような点で活かされているとお感じでしょうか。
(片桐先生)
まず第一に、生徒や保護者からの評価を高めることを考えるときです。
生徒や保護者に「この学校に入って良かったな」と評価してもらえることを実施する。それは一般企業でも常に念頭に置いていることでしょう。
また、そのような評価を得るためにも中野と八王子2校の教職員が「この学校に勤めて良かった」と満足してくれることも重要です。
私は先代の校長のような率先垂範型ではないのですが、この周囲の気持ちを考えながらどのように目標を達成していくかを考えるとき、一般企業での経験が役立っていると思っています。
(中山)
なるほど。校長は授業をお持ちですか。
(片桐先生)
残念ながら授業は持っていません。式典や学校行事の際に生徒に話す機会があるだけです。中野と八王子の2校の校長をしていることもあって、いつも中野にいることはできません。
生徒と話をする機会がなかなか持てないのは残念です。
(中山)
それはとても残念なことですね。
(片桐先生)
でも、最近の子どもたちはおもしろいですね(笑)。
数は多くないのですが、直接に校長宛に電話をくれる生徒もいます。保護者から「校長先生に電話をかけてみたら」と勧められたらしいのです。
昼休みに校長室にやってくる生徒も出てきました。そのときに得た情報を教頭や担任に伝えて、いろいろな行動を起こすことができますね。
「明大への推薦と他大学の受験との『二頭立て』で進む」
(中山)
校長が多忙だということで、日常の教務システムを運営する上でいろいろと工夫をされていると思いますが、いかかでしょうか。
(片桐先生)
毎朝、教頭、部長、学年主任が集まった連絡会があります。さらに各種の打ち合せや会議はかなりの数になります。その点は教頭の方が詳しくお話しできるでしょう
(神田先生)
校長がお話しした通り、朝7時50分から20分くらいの打ち合わせを行っています。その日その日の確認を行います。他には月1回の教務委員会で翌月の予定を決めています。
その他には、八王子校との連絡のために学期に1、2回集まります。お互いに良いところ、悪いところを指摘し合い、学校をより良くしようと努めています。
(中山)
両校の間で話題になるのはどのようなことですか。
(神田先生)
地域的な違いを考えた上で指導をどのように展開していくべきかということが話題になります。中野は男子校で、生徒は必ず繁華街を通って来るのに対して、八王子は共学校で、生徒は緑に囲まれた自然の中をスクールバスを利用して通って来ますね。このような違いは生徒の意識の大きな違いになっていきます。
(中山)
どのような違いですか。
(神田先生)
そうですね。例えば進学や進路に対する意識の違い等が挙げられます。保護者の関心の最も高いことがらですから、お互いに刺激し合いながら対応を練り結果を出していこうとしています。
(中山)
それは他大学の進学に一層力を入れていくということですか。
(片桐先生)
少し違います。同じ付属でも明大明治のように大学と同じ法人ならば、全員の内部進学もできるでしょう。明大中野の場合、50%、二部を含めても70%ほどの推薦枠です。生徒が自分の特性を発揮できる進路を選べるようにするために、他大への進学も必要だろうと考えているということです。
(中山)
今後、明大への推薦枠が大きくなるということはないのですか。
(片桐先生)
生徒や保護者の希望も多いので、その希望を叶えるために大学と何度も折衝しています。
今のところははっきりしません。その他の進路指導の件は教務部長がお話しします。
(峰岸先生)
進路指導の点では明大への推薦と他大学の受験を同等に考える「二頭立て」の態勢で進めています。推薦に関しては、付属校として「明大の核になる人材を育てていく」という役割があります。単純に明大へ進学させれば良いということではないので、生徒には「明大に進んで何をしたいのか」までも考えてほしいと思って指導しています。
(中山)
具体的にはどのような試みがなされているのですか。
(峰岸先生)
ちょうど今日(6月4日)から1週間、高3の生徒たちが明大の公開授業に参加しています。
公開授業は秋にもあり、大学生と一緒にいろいろな授業を受けます。
他に、高2では1日がかりの進学講座、学部の見学会や夏のオープンキャンパスなどへも参加します。いろいろな機会を通じて明大を知る場を数多く設けています。
(中山)
それでは他大学受験への取り組みはいかがですか。
(峰岸先生)
教科指導のシステムではコース制の採用や選択科目の充実は当然のことですが、進学情報の提供にも努めています。
予備校から講師を招いての大学受験に関する講演会を実施すること、校内と外部の公開模擬試験を併用して生徒にいろいろな資料・データを提供することで、目標を定めて学力を伸ばすことにつながっています。
それが効果を上げてきていますので、他大学の受験にも力を入れているという評価を受けるようになってきたと思います。
「明大中野を選ぶ受験生や保護者は男子校に期待している」
(中山)
いろいろな男子校や女子校で共学校に変える動きが見られます。明大中野ではそのような計画はないのでしょうか。すでに八王子で実施された指導でノウハウの蓄積もおありですから。
(片桐先生)
都心部から八王子に通うのは難しいのでまったく考えていなかったわけではないのですが、この場所に共学校を建てるというと施設の面で無理がありますからね。
(峰岸先生)
明大からは「女子を入れてくれ」という要請はあります。以前、一部で論議ががありましたが結論は出ませんでした。そのとき一番積極的に「共学にしようじゃないか」という話をしたのが、実は校長だったのですよ(笑)。
(中山)
そのときのお話を伺ってもよろしいですか。
(片桐先生)
世の中では共学校が良いという考えが一般的です。私も男子と女子が一緒にいるのが自然だろうと思っていました。この校舎もいずれは老朽化します。時代に即した新しいものに建て替えなくてならないでしょう。そのときは、学園として大きな方向転換を考えねばならないだろうと考えたのです。
(峰岸先生)
ただ現実の問題としては早急に共学化するのは難しいでしょうね。高校の定時制には女子生徒もいたのにかかわらず、男子の教員が女子生徒に不慣れですから(笑)、精神的に抵抗があるのですね。
(中山)
共学校である八王子との人事面での交流はあるのですか。
(片桐先生)
中野と八王子の間では異動があります。八王子から中野に来るのは特に問題ないようですが、中野から八王子に移った教員は「女子生徒をどのように育ていけば良いのか」と気苦労が絶えないという話を聞きますね。
(峰岸先生)
教員も男子校の出身者ばかりなもので…。
でも生徒の方は問題なく馴染むと思いますが…。
(石川先生)
私も男子校の出身です(笑)。生徒はそんなに気にしないでしょう。
女性の教員の授業でもごく自然に取り組んでいます。
(神田先生)
共学化に関して忘れてならないのは保護者の意向でしょう。
保護者と話をすると「息子を男子校で育てていきたい」という考えを持っている方が多いことがわかります。明大中野を選んでくれる保護者は男子校に対する期待が強いようですね。
(中山)
男っぽさというか、バンカラというか、明大に対する独特なイメージがあるからでしょうか。
(峰岸先生)
関係あるでしょうね。それに、この学校が勉強とクラブの両立、つまり文武両道を目指してきましたから、そのことが認められている部分もあるのでしょう。
クラブで活躍している生徒が、桜山祭などの学校行事でもリーダーシップを発揮してくれます。そういう点では私たちも苦労が少ないですね(笑)。
(石川先生)
そういう生徒も共学への希望が結構あるようですが、「共学になると、そんな恥ずかしい格好じゃいられないぞ」と言うというと困ったように笑っていますよ(笑)。
(中山)
最近の生徒には珍しいタイプの子どもたちが多いのかも知れませんね。
(片桐先生)
いや、以前に比べるとおとなしい子どもが多くなりましたね。昔はもっと男っぽかったように思いますが。
(神田先生)
質実剛毅というか、男っぽいというか、そのような面はだんだん失われてきていますね。これは明大中野に限ったことではないように聞いています。残念なことですね。
「明大に外部の受験でも合格できる力をつけたい」
(中山)
明大中野には中学入試と高校入試という2つの入り口があります。どちらの入試で入ってきたかによって、高校生の段階ではかなりの違いがあると思われますが。
(片桐先生)
公立中学と併設中学とでは環境がかなり違いますからね。お尋ねのことは高校の授業を担当している石川が話します。
(石川先生)
併設中学からの生徒はどうしてものんびりしてしまいます。高校から入ってきた生徒はかなり勉強して入っています。その点は明らかに違いますね。
(中山)
単純に学校の偏差値ランクだけをみると高校入試は相当高いレベルにあります。実際のところ、支障はないのですか。
(石川先生)
併設中学では、外部から入ってくる生徒が力を入れてきた英語、数学、国語の3教科に関しても、負けない基礎学力をつけるための指導に時間をかけて取り組んでいます。中学入試で入った生徒の力も高いので、最終的には上位の生徒25人の中でだいたい4分の3が併設中学の出身者になりますね。
(中山)
そうですか。高校でのクラス編成はどのようになっているのですか。
(石川先生)
併設中学の出身者も外部の中学出身者もまったく混合してクラスを編成しています。全員に対して「明大に外部の受験でも合格できる力をつけたい」と考えて指導しています。
(中山)
ここで、入試についてお伺いします。
まず、1回目と2回目で入試の科目が異なりますが、1回目も2科4科の選択にされる予定はありませんか。
(峰岸先生)
2回目の入試で入学した生徒の成績を調べてみると圧倒的に4教科の生徒の方が高いのです。だから4教科を勉強してきた生徒に入ってきて欲しいですね。
それならば、なぜ2教科で受験できるようにするのかというと、受験勉強の取りかかりが遅く2教科で頑張ってきた生徒や野球やサッカーなどに打ち込んで2科しか勉強ができなかった生徒にもチャンスを与えるということです。それに2科で頑張ってきた生徒は入学後に鍛えていけば学力は伸びるという考えもあります。
(中山)
なるほど。チャンスの幅を大きくしているということですね。
次に入試問題について伺います。4科の中で国語だけ突出して難しいことがありました。最近は以前と比べてやや易しくなっていますが、それでも文章の表現や言葉に難しいものを多く出されていますね。これはどのようなお考えのもとでしょうか。
(神田先生)
難しくしようという意図はないのですが(笑)、問題作成者が構えてしまうのでしょうか。
問題作成委員会で検討しているうちにだんだん難しくなってしまう傾向があるようです。問いたい内容がいろいろ出てくるからでしょう。
(峰岸先生)
平均30点というのが一度ありましたね。「何とかして欲しい」と文句を言ったことがありましたね(笑)。
(中山)
難しい文章は受験生に言わせると、頭の中が真っ白になってどうすることもできない状況になってしまうようです。
(神田先生)
以前は文章が2題でしたからね。でも今年(2001年)の問題などは標準的でかなり取り組みやすかったと思いますね。外部からもそのような評価を頂いています。当分は現在の出題の方針で進めます。
(石川先生)
入試担当者としてお話しさせていただくと、入試問題に対していろいろな意見を伺うのはありがたいことです。入試問題は学内でいろいろな検討を加えて作りますが、「問いたいから出す」ということで出題に妥協がないという点は、この学校の男らしさというか、頑固なところかも知れませんね(笑)。
(片桐先生)
外部の方から見て、他の教科、特に算数についてはどうでしょうか。
(中山)
標準的な正確な知識を問うものから応用力を問うものまでバランスよく出されていると思います。理科、社会を含めて努力の度合いが結果に反映されると言う点では良い問題ではないのでしょうか。そのために国語が余計に他の教科と違う印象を与えてしまいます。しかし、ある方向性、それこそ頑固に(笑)出題されるというのは良いことだと思います。最近はことに国語力が低下してきていますので、入試問題が難しいのは個人的には大歓迎です。
(片桐先生)
なるほど。そのような考えもあるのですね。
(中山)
最後に、校長先生から受験生や保護者の方にメッセージをお願いします。
(片桐先生)
本校が夢を実現できる場所だと信じて入学して欲しいと思います。ご家庭でいろいろな情報を集めて、それを比べた上で本校ならば夢が実現できるとお考えになったらぜひ入学してください。
以上
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