2001年9月28日(金)訪問:日本大学第三中学校・高等学校は東京郊外の町田市の高台にあり、近年開発が進んだものの周囲には豊かな自然が残る。広大な校地にも緑が溢れ、その中にさまざまな施設が整っている。日本大学の特別付属校として内部進学への指導を進める一方、他大学への学部受験も積極的に展開している。また、高校は各種スポーツの強豪校として知られ、2001年に全国制覇を果たした硬式野球部など、東京・神奈川の小学生や中学生が目指すクラブも多数ある。学校長駒井壽明先生、教頭堀内正先生、教頭補佐(教務主任)塩沢文敏先生、入試広報主任本多匡博先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「のんべんだらりの中学生活を送らせたくはない」

(中山)
駒井先生は今年(2001年)から校長に就任されたと伺っております。これまでの経歴を簡単にお話しください。
(駒井先生)
昭和39年に大学を卒業してこの学校に就職しました。2年間、中学校の教頭を務めた後、校長に就任しました。
(中山)
校長に就任されて、それまでと大きく変わった点は何でしょうか。
(駒井先生)
軽々しく自分の考えを言えなくなったことですね。実際はいろいろ言っています(笑)が…。 以前は「これは学校が悪い」とか「こうしなくてならない」とか、わりに気楽に言えたのですが、校長という立場になると言ったことがそのまま学校の意見や考え方になってしまいます。 ですから、学校内外での言動には注意しています。
(中山)
責任の大きさを実感されているのですね。
(駒井先生)
うーん、そう言われるとごく当然のことですね。言い方が適切ではないかもしれませんが、自分が校長の間に学校が左前になったりしたら、72年の伝統を潰してしまうことになります。伝統や実績を維持して、それを発展させることが校長の責任だと考えています。
(中山)
よくわかりました。では、伝統や実績を踏まえて駒井先生が目指される学校の姿はどのようなものでしょうか。保護者の中には日大三中・三高は純然たる付属校を目指しているのか、進学校を目指しているのか、その姿がわかりにくいという意見もあります。
(駒井先生)
生徒の進路が多様になりますから外部受験にも力を入れていきます。現役で大学に進学する生徒の半数を超える者が他大学に進学できる体制づくりをしています。
(中山)
進学校としての特色を強く打ち出されるということですか。
(駒井先生)
いえ違います。わかりやすく言えば、日本大学への内部進学と他大学への外部進学を両輪にして学校を運営することです。日本大学は総合大学で、しかも社会的な評価も高い学部・学科を数多くかかえています。それを目指して入学してくる生徒もとても多いので、進学校ということを前面に打ち出していくことではありません。
(中山)
付属校としての良さを今後も重視されていくわけですね。
(駒井先生)
そうですね。日本大学という名前を冠しているわけですから、外部進学者が内部進学者よりはるかに多くなるようなことにはしたくはないですね。仮に80%が現役で大学に進むならば、40%弱が日大への内部進学、40%強が外部進学する体制を基本に考えています。
(中山)
純然たる付属校を目指していかないのはなぜでしょうか。
(駒井先生)
現在、私学には進学校を目指すという風潮が強くあります。それは受け入れなくてはならないでしょうが、そのような受け身の理由ではありません。のんびりしただけの付属校にはしたくないという気持ちが強いからです。
(中山)
具体的にお話しください。
(駒井先生)
いろいろな機会に「日大三中・三高は伸び伸びした良い学校ですね」と言われます。確かに伸び伸びした面はあると思いますが、のんべんだらりの中学校生活にはしたくないのです。毎日の生活の中で緊張感を持って勉強や行事などに向かっていくことが大切ですから。
(中山)
進学校に近い勉強もさせていくということでしょうか。
(駒井先生)
勉強についての細々した縛りつけや到達度別や学力別のクラス編成などの厳しさではありません。毎時間の授業に対する厳しさと言えば良いのでしょうか。きちんと学力を身につける勉強をする生徒づくりということです。これは指導する教員にも強く求めていることです。
(中山)
生徒が緊張感を持って向かっていく姿勢をとおして、先生自身が嬉しく思われたことはありますか。
(駒井先生)
そうですね。勉強の面ではすぐに変化は見られないでしょうが、行事への取り組みでは感じられることがあります。先程も、体育大会に向けての応援合戦の練習を中3が中心になって屋上でやっているのを見ました。生徒が実に生き生きとしていて嬉しかったですね。永年、特別活動や行事ではそのように積極的な取り組みをさせていきたいと考えていましたから。
(中山)
永年、お考えだったとのことですが、具体的にはいつごろからですか。
(駒井先生)
教頭になる前、中学で担任をしていた頃からです。中・高合同の体育祭だったのを独立させたりいろいろと行事を充実させたりして、子どもたちが生き生きと活動できる中学生活にしたいと考えてきました。自分が校長になって、やっとひとつのスタイルとして花が咲きつつあると感じましたね。それが今の一番の私のやりがいでもあります(笑)。

「授業の評価を生徒にしてもらう」

(中山)
本多先生は駒井先生の熱い思いを側でお感じになっていらっしゃるのですね。
(本多先生)
ええ。歴代の校長は遠慮しがちに取り組んできた面があるのですが、駒井校長は思い切って口に出すので(笑)やりやすい面があります。さきほどの話の通り、校長となればうっかりものが言えないということはあるでしょうが。ちょっとオーバーな言い方かも知れません(笑)が、学校が変わっていくとさえ感じますね。
(中山)
学校を変えていくというのは傍目から見ても難しいことだろうと思います。特に伝統や実績がある学校の場合には尚更そうだと思うのですが、具体的にはどのような取り組みをされているのですか。
(駒井先生)
当たり前すぎて恥ずかしいような気がするのですが、先程も少し触れました通り教員の授業の力、指導力を高めることに取り組んでいます。ここ2、3年内に結果を出したいと考えています。
(中山)
具体的にお話くださいますか。
(駒井先生)
校内だけでお互いの授業について批評し合うだけでは効果がないと思います。ひとつには外部の研修会に出かけたり他の学校の授業を参観したりして、刺激を受けることです。もうひとつは、ユーザーという言葉は馴染まないかも知れませんが、ユーザーである生徒や保護者の授業に対する感想や満足度を確認することです。
(中山)
生徒に授業を評価してもらうということですか。
(駒井先生)
その通りです。私も今持っている数学で授業評価をしてもらっています。「俺の授業は絶対に良いんだ!」(笑)という自信を持っていたのですがね。
(中山)
いかがでしたか。
(駒井先生)
生徒の評価は「厳しすぎる」「宿題が多すぎる」などというものでした。「そうかな、じゃ宿題を押さえようか」(笑)などと考えるようになります。学校を変えたいと思うのならば、教員が変わらなくてはなりません。教員を変えたいならば、まずトップである校長が変わらなくてはならないというのが私の信念です。
(中山)
内部進学にも外部進学にも適応できる学力を養成するためには教師の指導力の向上は不可欠ということでしょうか。
(駒井先生)
そうです。現在は教科指導力をイメージしているのですが、それだけではなく進路指導力の向上も考えています。生徒を一人の人間としてどのようにその人格を育てていくことができるか、そのような力がなくては内部進学と外部進学を両輪にしていくなどとは言えませんからね。
(中山)
なるほど。教師の指導力というお話がありましたが、生徒の人間力を高めていく指導も重要だろうと思います。生活面はどのように指導されていますか。
(駒井先生)
本校には「品性のある人格を磨く」という教育の基本があります。それにふさわしくない姿、例えば、髪を染めない、ピアスをしてはならない、ズボンをずり下げてはいけないなど、いろいろな指導項目があります。努力はしていますが正直言って苦労しています。
(中山)
生徒や保護者の考え方が多岐にわたってきていますから、なかなか難しいことでしょうね。
(駒井先生)
はい。本校の生徒は「他の学校の生徒に比べて乱れていない」と言っていただけるのですが、私個人は大いに不満ですね。確かに「髪を染める者は悪い人間だ」と決めつけることはできませんが、本校は人間を育てる教育を掲げて創られた学校なので、「品性は高く」を生活指導の基本としていきたいと考えています。
(中山)
共学校の場合、男女の違いもあって特に女子に対してはなかなかうまく指導ができないということも伺いますが、日大三中ではいかがでしょうか。
(本多先生)
元々が男子校だったので初めは大変だと感じましたが、最近はあまり意識していません。そんなに厳しくしないでも、生徒と教員の心が通じ合うようにしていけば良いのではないでしょうか。校長は毎朝玄関に立って生徒と挨拶を交わしていますが、そのようなことも要因として考えられますね。
(中山)
毎朝、玄関にお立ちなのですか。
(駒井先生)
高校の校長と交互に50分ほど玄関に立ちます。男子の場合、服装が乱れた生徒でも、ちょっと肩をたたいて「おはよう。おい、服装をちゃんとしろよ」と言うと「わかったよ」というような反応があります。女子の場合は大部分の生徒は向こうから挨拶をしてくれるようになりましたが、こちらが挨拶しても無視をする生徒もいますね。
(中山)
そのような生徒にはどのように対応されるのですか。
(駒井先生)
時々、その生徒の前に立って「おはよう」と言うのですが、やはり無視されてしまいました(笑)。確かに女子の指導には難しさも感じます。が、個人的にも女の子の父親ですので、それが成長の一過程であることは十分わかります。気負いすぎず、でも真摯に受け止めて、教職員の意識をまとめていろいろな形で対応していくのが校長の務めだと考えています。

「中学で入学した生徒も爆発力を持つようになった」

(中山)
校長先生から学校の改革や指導に対する熱い思いを伺いました。広報担当の本多先生は、改革に伴って、仕事には何か変化がありましたか。
(本多先生)
はい。「広報は『営業マン』でなくてならない」という方針での意識改革が進んでいます。これからは教師が表になって学校の良さを伝えなくてはならないと意識するようになっています。
(中山)
「営業マン」という言葉には抵抗をお感じになりませんでしたか。
(本多先生)
正直ありましたね。乗り越えるのには1年以上(笑)かかりました。しかし、広報担当となって学校外に出てみるといろいろなことが見えてきます。ですから入試時には受験生や保護者の立場で考えられるようになりました。「自分が親だっらどうして欲しいのか、何を知りたいか」という視点ですね。
(中山)
具体的な効果はいかがですか。
(本多先生)
残念ながらまだ不十分だと思います。これからの努力次第でしょう。
(駒井先生)
外部の説明会に伺っても「日大三中・三高はおとなしすぎる。他の学校はいろいろな改革を打ち出している」という耳の痛い指摘を受けます。ただ、嬉しいことに兄弟姉妹の入学が多いのです。その点では本校の教育は受け入れられていると思いますね。本校を目指してくれる生徒や保護者には感謝しています。
(中山)
今後は大々的にPRをしてください。
(駒井先生)
そうですね。ぜひやりたいものです。
(中山)
今年(2001年)、夏の甲子園で日大三高が全国制覇を果たしました。その影響が大きく、ぜひ日大三中へ入りたいという受験生が増えています。このような活躍も広報活動につながると思います。
(駒井先生)
とても良い時期にあたりましたね。ありがたいことです。 ちょうど今参りました2人のうちの堀内教頭が野球部の部長なのです。
(中山)
優勝おめでとうございました。ベンチの中で優勝の瞬間を迎えられた時はいかがでしたか。
(堀内先生)
ありがとうございます。 よく聞かれるのですが、何が起こったのか実感がなかったですね(笑)。戻ってきてから実感が湧きました。自分が部長の時にこのような幸運に巡り会えて、前の部長だった本多先生には申し訳ないように思っています。
(本多先生)
私の時は弱かったから(笑)。甲子園出場も難しかったし、まして優勝なんて考えられませんでした。
(堀内先生)
本多先生の時に土台づくりができていたから花が開いたと思います。
(中山)
堀内先生は教頭になられたのは今年からですか。
(堀内先生)
ええ。前は高校の教頭をしていましたが、今年から中学の教頭に替わりました。
(中山)
中学からの進学者と高校からの入学者との違いはありますか。高校は中学に比べてレベルが高いと言われていますが。
(堀内先生)
高校は推薦枠もあり一般受験の枠が小さくなっていますから、数字の上では差があるのでしょう。でも、内部生は外部から来る生徒に負けないように頑張っていますので、上位の成績を取る生徒も数多く出てきました。以前とはずいぶん違います。
(中山)
学習指導の面での充実が最近特に感じられます。強い運動部入部を目標にして受験勉強をする生徒もいます。そこでお伺いしたいのですか、例えば高校の野球部などでは内部進学者の状況はどのようなものですか。
(堀内先生)
なかなかレギュラーになれませんね。ベンチ入りがやっとというところでしょう。でもみんなレギュラーを目指して頑張っていますよ。
(駒井先生)
高校からスポーツ推薦の生徒がいますから、なかなか難しいですね。
(堀内先生)
でも、付属だからという甘えは以前に比べて少なくなりました。爆発力とでも言いますか、パワーを持った生徒が多くなりました。そのような生徒に対してどのような指導をしたら良いかを考えて取り組んでいます。
(中山)
それにはカリキュラムやシラバスなど、教科指導の充実も含まれますね。
(堀内先生)
そうです。生徒の希望に応え、生徒のパワーを引き出すために指導力を高めることは必要です。難しいことを承知で他大受験にチャレンジしてみようと思っている生徒には、手助けをしてやりたいと思いますからね。
(駒井先生)
指導のレベルが上がってくれば、結果として外部進学の割合が高まりますが、内部的な充実を待っているのでは、なかなか達成できません。だからまずアドバルーンを打ち上げて引き返せない状況にしなくては成功はない、と確信してやっていきます。

「良い環境の中で人間形成を」

(中山)
次に授業体制についてお伺いします。以前、指導のレベルアップを果たすためにも、午前中4時間、午後3時間の時間割が組めるようにしたいと説明がありましたが、その後この点はどのようになっているのでしょうか。
(塩沢先生)
通勤や通学の関係でその時はどうしても実現ができなかったのです。本校が赤坂にあった頃の8時半の始業にすれば時間的な制約がなくなるという思いを持ち続けていますので、いずれは実現したいと考えています。
(中山)
バス通学というのが大きな障害になっているのですか。
(塩沢先生)
そうですね。バス会社が違っているのでなかなか交渉がまとまらないですね。とりあえず始業を15分を早めました。段階的に進めていって最終的には8時半にするという方向で進めています。
(中山)
わかりました。次に入試問題についてお伺いします。ここ何年か続けて出題内容に変化があるように思われますが、適切な問題を探す目的などがあるのでしょうか。
(塩沢先生)
一応、各教科に出題は任せていますので、教科の担当が打ち出した方針に沿って作問されています。年ごとに傾向が変わってしまうと、説明会などでお話ができにくいので、担当者にはできる限りそろえてほしいと伝えています。
(中山)
それでも変わっているように思えます。なぜでしょう。
(塩沢先生)
教科によっては新しい考え方で作問をしてみたいという気持ちがあるのでしょう。2教科時代の算数のように気張って問題づくりをして、かなりの難問を出し、その結果学力の差を反映しないようなこともありましたが、最近はないと思いますが、いかがでしょう。
(中山)
1999年の算数は問題形式が変わり、受験生は難しかったと感じたようですが。
(塩沢先生)
申し訳ありません。あの年は「例年通りです」とお話ししたところが、基本的な計算問題をカットして文章問題ばかりになってしまいました。いろいろな方面からご注意を受けました。
(中山)
その反動でしょうか、ここのところかなり易しくなっています。私見ですが、ある程度は難しくても、出題内容に大きな変化がない方が受験勉強をする側としては取り組みやすいのですが。
(塩沢先生)
それはそうでしょう。しかし、最近特に文章の内容をつかめない子どもが増えてきていることを考えますと、それでは入ってきてから困ってしまうだろうと考えます。そのような生徒は受験勉強を良いきっかけにして欲しいという意図があったと思います。
(中山)
また、出題内容が大きく変わる可能性はあるのでしょうか。
(塩沢先生)
一気に難しくはならないでしょう。小学校のカリキュラムが易しくなってきています。本校としては塾に通っていなかった生徒でも合格できるような問題づくりを考えていますから。
(中山)
現実問題として塾に通わず、家庭教師の指導も受けず、合格した生徒はいるのでしょうか。
(本多先生)
塾の名前を書かなかった生徒は追跡調査をしてもほとんどいませんね。
(駒井先生)
小学校だけの勉強で合格できる生徒はまずいないでしょう。
(中山)
特に小学生の国語の学力低下は心配しています。読書量の不足は言うに及ばず、語彙の不足から文章読解ができない、記述表現の機会があまり無くなっているのでどう書いて良いかわからないなどの現実があります。
(駒井先生)
そういうレベルならば殊に難しいですね。
(中山)
以前は日大三中は詩歌の問題が必ず出されましたね。なくなって残念に思っています。あの問題は「このような生徒が欲しい」という学校からの熱いメッセージだと考られました。学校からのメッセージが生徒や保護者にはっきりと伝わる、問題や情報の発信を希望しています。
(駒井先生)
そうですね。よくわかりました。
(中山)
最後に各先生から受験生ならびに保護者にメッセージをお話ください。
(本多先生)
野球で優勝したこともあって学校全体が燃えています。入学した生徒諸君が、さらに燃え上がらせよう!と思って欲しいですね。
(塩沢先生)
学校の情報をいろいろと伝えていきます。いろいろなご要望に応えられるように学校の改革を進めていきますので、たくさんの受験生にきてほしいと思っています。
(堀内先生)
三中・三高に入って何をやりたいか、どうなりたいか、目的意識をはっきりさせて入ってきて欲しいですね。何度も足を運んで自分の目的を見つけておいて欲しいと思います。
(駒井先生)
入試ですから合格することが大きな目標でしょう。しかし、保護者の方には、合格をするためだけの勉強をさせるのではなく、何のために私立中学に入れたいのかを考えた対応をしてほしいと思います。きっと「良い環境の中で人間性を磨かせたい」という思いであるはずです。人間形成の上でマイナスにしかならないような取り組み方をしないよう留意して欲しいと思います。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆駒井校長は率直に、熱く改革への意欲を語った。実現のための多方面からの情報の収集、真摯な取り組みは学校全体を引っ張っていく強力なリーダーシップが窺える。堀内教頭以下のスタッフで熱い息吹を持ってそれを共に支え、学校全体をまとめ上げ、改革に邁進しているのが感じられた。
日大三URL