2000年10月11日(水)訪問:日本女子大学は幼稚園から大学・大学院までつながる総合学園で、目白と西生田にキャンパスを持つ。附属中学校・高等学校のある西生田のキャンパスは、大学(人間社会学部)と一体となった広大なもので、豊かな自然に恵まれ四季折々に自然の動植物の観察ができる。理学部(1992年設立)も有し、中学・高校とも文系だけでなく理数系の指導が充実している。中学受験では多くの「女子大付属校」が人気を落とし応募者の減少が見られる中、依然として上位の受験生が集まる実力校である。学校長久保淑子先生、中高課職員吉川良子さんにインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「生徒の楽しそうな様子を見てほしい」

(中山)
中学受験では、付属校、特に女子大の付属校にとって厳しい状況が続いています。日本女子大附属中の場合、高いレベルの生徒が集まっていますが、受験生や保護者に対して何か働きかけをなさっているのでしょうか。
(久保先生)
特別なことを行っているということはありません。 ただ、中学受験を取り巻く状況を考えると、今後、もっと学校からいろいろな情報を発信していくことは必要だと思います。
(中山)
どのようなことを情報として発信しようとお考えですか。
(久保先生)
教育の現場には「良い教育をしていけば必ずわかってもらえる」という信念があります。 しかし、これだけの情報化社会ですから、こちらから「どのような教育をしているのか」を伝える必要があります。 関心を持っていただくために、まず説明会を充実をさせること、回数は増やしていないのですが、特に教育の内容と現状の紹介を充実させています。
(中山)
情報の発信に積極的に取り組まれてから具体的な変化は見られますか。
(久保先生)
先日の十月祭(注:学園祭・文化祭)には多くの生徒や保護者の方々にお出でいただきありがたく思いました。 「百聞は一見に如かず」ではありませんが、学園祭や授業公開などのイベントに来て実際に生徒の様子を見ていただくことが、学校にとっては教育の実際を紹介する最良の方法ですから。
(中山)
特にどのような点を見てほしいとお考えですか。
(久保先生)
子供たちの楽しそうな様子ですね。今の中学生は本当によく笑いますから(笑)。 学校に来るのが楽しいと感じてくれることが、良い教育が行われている証だろうと思います。保護者の方々が付属校を選ばれる目的は2つあると考えています。 言い方は良くないかもしれませんが、1つは大学までのパスポートを得ること、「エスカレータ」という言葉は適切な表現ではないと思いますが、確かに厳しい受験勉強がいらないわけで利点ではあるでしょう。 もう1つは受験勉強がないこともあって、6年間一貫して楽しく充実した学校生活が送れること。最近はこちらが以前よりもずっと重要になってきていると感じます。 だからこそ生徒の様子を見てほしいのです。
(中山)
生徒が生き生きとしているのですね。ただ、最近は私立中学でも、入った後に魅力を感じない生徒が増えて、通えなくなる状況が以前よりも多く聞かれるようになりました。このような状況についてどのようにお考えですか。
(久保先生)
不登校については公表されているデータでしか判断できないのが現状ですが、私が中学生の頃に不登校の生徒がいなかったかというと、必ずしもそうではなかったと思います。ただ、今の子供たちは単純ではない中で暮らしている分大変だなと思います。 大人たちから不景気だ、リストラだ、という暗い話を、いろいろな場で聞かされているわけで、それだけでも相当な圧迫感があるだろうと感じます。 子供には「夢中になれるものを持てる」という特権がありますから、学校の中でそれを見つけるようにできると良いと思っています。
(中山)
大人が悪いんだという考えも聞かれますが
(久保先生)
以前は見えなかったものが表面化して、これは情報が行き渡りすぎたという言い方もあるかもしれませんが、その分やはり子供たちは大変かなと思います。

「友達から評価されることが励みになる」

(中山)
価値の多様化した社会の中で、子供たちが夢中になれることを見つけるために、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
(久保先生)
当たり前かもしれませんが、クラブ活動や文化祭、運動会などの行事、そして授業を充実させていることですね。
(中山)
公立中の場合、行事に参加する生徒と参加しない生徒ができてしまい、なかなかうまくいかないという話も聞きますが、そのような心配はありませんか。
(久保先生)
全員が参加しています。確かに生徒によって得手不得手があるわけで、それぞれの生徒が活躍できる場面は違っています。いろいろな場面があるなと感じます。 私はそれだから良いと思っています。
(中山)
ご心配なことがないのはすばらしいですね。
(久保先生)
指導要領の改訂は気になります。本校は大学受験を目指す学校ではありませんので、もともとカリキュラムの面で余裕はあります。しかし、行事の問題だけでなく、必要な基礎学力を身につけること、音楽を活かした情操教育などの伝統的な教育をすすめることなど、大切なことがらが数多くありますからね。
(中山)
週5日制の問題が影響していますか。
(久保先生)
そうですね。でも、本校の場合すでに週5日制を採り入れています。 もともと行事を土曜日に集中させていましたので、「授業と行事の棲み分け」のようなことができていました。今後の課題として、限られた授業数の中でどのようにアクセントをつけた時間配当にするかということが挙げられます。
(中山)
それに対してはどのようなことをお考えですか。
(久保先生)
2001年度から書写を減らし音楽の一部を選択にして、英語の時間を増やしました。
これは単純に時間数をいじった訳ではなくて、将来どのような方面に進むにしても、中学時代に身につけておく必要がある最低限のものは何だろうか、という検討や議論をした末に決めたものです。 偏差値がいくつの学校に入学できるというような内容を基礎学力とはしていないので、わかりにくいかもしれませんが。
(中山)
具体的な取り組みをご紹介下さい。
(久保先生)
先ずかなり本を読ませています。これは従来から方針としては定まっていたものですが、私が実際に見てとても驚いたほどです。
(中山)
どのような点で驚かれたのですか。
(久保先生)
ただ読むだけではなく、中1が「高瀬舟」、中2が「奥の細道」についてまとめあげていたのです。それを見て驚きました。他にもいろいろな作品を学年で取り上げてまとめて掲示しています。
(中山)
感想文ではなくてレポートですか。
(久保先生)
「高瀬舟」は感想文、「奥の細道」は芭蕉の足跡をたどるというレポートです。 実に見事なものでした。
(吉川さん)
調べた内容はその都度廊下に貼りだしていますから、より印象が強かったと思います。
(久保先生)
意欲的に勉強に取り組めるようになるには友達からの評価も重要だろうと思います。
私自身の経験にもあることですが、みんなから「すごいな」と言ってもらえると励みになりますからね。
(中山)
評価を受ける機会があることで、意欲的に取り組めるでしょうね。
(久保先生)
そうだと思います。他の学校でも取り組まれているかもしれませんが、中3が「卒論」という形でいろいろなことを調べてまとめています。
(吉川さん)
生徒は多少の指導やアドバイスを受けますが、ほとんどすべて一人で取り組んでいます。
(中山)
すばらしいことですね。

「知的な好奇心が日々の地道な勉強につながることを希望する」

(中山)
付属校の良い面は大学までの長い期間を活かした教育ができるということだと思います。
こちらでは日常的にどのようなことが行われているのでしょうか。
(久保先生)
今年からの新しい取り組みですが、大学の先生方に専門研究について話してもらう特別講義があります。
(中山)
どのくらいの期間の講義ですか。
(久保先生)
今年は1コマでしたが、生徒にも好評だったし先生方にも刺激になったようです。 「またやりたいのでぜひ機会を設けてほしい」(笑)という話がありました。
(中山)
特別講義が設けられたのはどのようなことからですか。
(久保先生)
日本女子大では学長が召集し、幼稚園から大学までの代表者が集まる「一貫教育を考える会」が毎月開かれています。そこでどのような方針で一貫教育を進めていくのかを検討してします。それに基づいて教員全てが参加する「学園一貫教育研究集会」の場で、方針を具体化する一つの試みとして特別講義の実施が決まったのです。
(中山)
将来の進路にも関わる事がらと思いますが、生徒が進路を決めるきっかけになるとお考えですか。
(久保先生)
話が面白かったからこの学科に入ろうと生徒が決めることは、全く考えていません。ただ大学での研究とは面白いものだとわかってくれたと思っています。 私は数学の教師ですから、特に「数学がこんなところに結びつくとは思わなかった」の感想のように、意外に感じて知的な好奇心を持ってくれたのはうれしかったですね。 日々の地道な勉強への意欲的な取り組みにつながるとさらに良いと思っています。
(中山)
校長は授業をお持ちですか。
(久保先生)
中学・高校では持っていませんが大学では週1コマの数学の授業を持っています。
(中山)
校長になられて半年と伺いますが、授業を持たずにいらっしゃると別のご苦労もおありかと思いますが、いかがですか。
(久保先生)
校長の話とかはやっています(笑)。 朝礼は面白いですね。話しているときに染みこんでいく感じがあるとあがらないのですけれど、最初の時は生徒も興味津々だったようで、割合と気が弱いものですから(笑)跳ね返されるような気がするとあがってしまいましたね。面白かったです。 校長というのは組織上の役割なのですが、生徒が言う「校長先生」というのは単なる役割ではなく、ひとりの人間としてとらえているわけです。大変な役だと思いますが、取り繕っても仕方がないので、ありのままというか私はこれだけだし、すべてぶつけるから一緒にと。 自分のすべてをぶつけて取り組んでいこうと思っています。

「生徒自身で適性を考えて進路を選んでいる」

(中山)
次は進路指導についてお伺いします。女子大の付属校の中でも内部進学率が特に高いのですが、中学での進路指導はどのように行われていますか。
(吉川さん)
従来から中3では「キャリア教室」というものを行ってきました。 これは卒業生だけではなく社会の各分野で活躍している方をお招きして、お話を聞いたりディスカッションをしたりするものです。 将来を考えるきっかけになります。
(中山)
日本女子大は全部で15学科がありますが、すべて生徒の希望がかなうのでしょうか。
(久保先生)
生徒の希望を優先します。一部の学科に集中すると困るので調整は必要ですが、一部の学科に集中することはほとんどありません。 生徒は友達を評価する中で自分自身の能力や適性をよく分かっています。また、面談をする中で自然に分かれていきます。
(中山)
では日本女子大にない学科を目指す場合はいかがでしょうか。 特別な対応はあるのでしょうか。
(久保先生)
大学までの一貫教育を前提としていますので、特別な受験指導は行っていません。
しかし、自分の適性を考えた選択を妨げるつもりはありません。 医学部や法学部に進みたいと考える生徒は他の大学を受験する必要があります。 そのような生徒にも担当の先生が対応したり、選択科目をうまく組み合わせて勉強ができるようにしたりしています。
(中山)
自分で取り組むことが重要になりますね。
(久保先生)
ただ基礎学力をつけることは内部進学であっても重要です。 英語や数学は受験のためだけに重要なのではありませんので、充実した授業を行うことで受験にも対応できる学力も備わると思います。
(中山)
予備校の利用はいかがですか。
(久保先生)
外部の受験をする場合では自分の相対的な位置の把握が重要でしょう。そのデータを得たり、受験テクニックなど身につけたりするために予備校を利用している生徒もいます。

「試験の時間は当日に発表する」

(中山)
最後に入試についてお伺いします。要項の変更を検討されていることはありませんか。
(吉川さん)
日程、試験科目、配点など、大きな変更の予定は今のところありません。
(中山)
面接についてはいかがでしょうか。 生徒の負担を考えておやめになる学校が増えていますが。
(久保先生)
当分変更する予定はありません。
(中山)
特殊な試験時間についても同様ですか。
(吉川さん)
最終的には試験当日の発表になります。 今の段階ではお伝えできませんが、大きな変化はないと思います。問題の難度や採点方法など、いろいろな原因で変わっているようです。
(久保先生)
問題の難度についてですが、教科ごとに作成した後、入試の委員会に入ってきます。 あまり標準的な分布になるのは選抜試験としては困りますので配慮しています。 平均は50~60%程度になるように設定はしているつもりですが、実際にやってみるとなかなか思うようにならない点が多いですね。(笑) 教師にとって問題は作品ですから、いろいろ考えて作りますけれども。
(中山)
最後に受験生や保護者の方に贈るメッセージをお話下さい。
(久保先生)
元気なみんなに会うことを楽しみに待っています。

以上

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☆付記☆久保校長は就任1年目だが、学園で一貫教育の在り方を検討してきた経験を活かし、エネルギッシュに取り組んでいる。多様化する価値観を受けとめる許容の深さを感じた。教務や事務のスタッフも経験豊かな実力者がそろっている。
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