2006年5月25日(木)訪問:東京農業大学第一高等学校・中等部は世田谷区桜にある。周辺には東京農大・馬事公苑など、緑が多く恵まれた教育環境である。2005年春に開校した中等部は保護者や生徒の期待も高く、初年度からとても多くの受験生を集め、一般の予想を大きく超える難度の高い入試になった。他校と併願しやすい入試設定に加えて、開校に向けたスタッフの取り組みが評価されたのが大きな原因である。今後の展開が注目される。校長吉羽雅昭先生、入試広報部部長村上修一先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「新校舎にふさわしい教育として中高一貫教育を考えはじめた」

(中山)
開校当初から農大一中は、多くの受験生や保護者から注目されました。私どものサイトにも「どのような学校なのか」という問い合わせが多数寄せられています。それらのお尋ねにお応えするためもあって、本日訪問させていただきました。よろしくお願いします。
(吉羽先生)
こちらこそよろしくお願いします。中学入試をお考えの保護者は実に熱心に情報集めをされていますね。
(中山)
本当にそうですね。最近は特にそれを感じます。我が子のためにより良い教育をどの学校がしてくれるのかを考えて、説明会やインターネットなどで情報集めをしています。
(吉羽先生)
中学入試は高校入試とは全く違うものだ(笑)ということをとても強く感じています。
(中山)
まずは、開校に至るまでのいきさつやご苦労などについてお伺いします。農大一高が中学を開校されるという話を伺ったときには、正直なところ「なぜこの時期に」と思いました。
(吉羽先生)
そうでしょうね。開校を発表した際にも、いろいろな方面から「少子化が進む中、中学を開校するのはどういう目的や勝算があってのことなのか」(笑)という質問をよく受けました。
(中山)
塾の立場からみてもそうです。センセーショナルなことであるという印象をもちました。詳しくお聞かせください。
(吉羽先生)
首都圏、特に東京都内には本当に多くの私立中学があります。多くの方は「農大一高が今更、中学を開校しても本当に生徒が集められるのか」という疑問もあったことでしょう。
(中山)
埼玉や千葉方面では中学入試への関心が高くなっており受験生の増加が見込めます。が、都心部はすでに飽和状態に近く、これ以上受験生が増えることがないだろうと判断できます。
(吉羽先生)
そうですね。東京都内では、ここ10年近くは休眠中の私立中学の再開はあっても、全く新規で中学校を開校することはありませんでした。
(中山)
そのような中で開校をお決めになったのは何か強い意思をお持ちだったからと思います。
(吉羽先生)
農大一高の校長に就任して、教育を充実させるには何が必要なのかと考えました。まずは校舎の改築に取り組みました。が、その時点では中学校を開校することは念頭になく、完全な高等学校用の校舎を計画しました。
(中山)
そうでしたか。校舎の改築計画と中学の新設や再開は同時並行で行われることが多いので意外なお話です。
(吉羽先生)
高校の校舎の改築が始まり、できあがっていく過程で「この校舎でどのような教育を進めていけばよいのだろうか」と強く考え始めました。
(中山)
その時点でも中学校開校はまだお考えではなかったのですね。
(吉羽)
しばらくたってからのことです。ですから、実際に中学を開校する際に、「どうすればこれらの校舎をうまく使えるのか」を、一から考えなくてはなりませんでした(笑)。
(中山)
高校校舎の改築の過程で、具体的には、どのようなことをお考えになったのでしょうか。
(吉羽先生)
1つめには、小学校から私立中学へ進む割合が一層高くなり、首都圏全体で15%にもなろうかという状況になってきたことです。成績の優秀な生徒の多くが私立中学へ進み、残った公立中学の生徒のうちで学力の高い生徒の多くが公立高校の上位校へ進みます。
(中山)
高校だけでは優秀な生徒を集めるのがますます難しくなるとお考えなったのですね。
(吉羽先生)
そうです。高校単独で募集する私立高校で、どのようにすれば、レベルの高い人材を育て、真の教育ができるのかと考えました。敢えてもっと言うならば、農大一高が受験生や保護者にどのようにアピールすれば生き残れるのだろうかという気持ちでした。
(中山)
高等学校の経営に強い危機感をお持ちになったということですね。なかなかお話しいただけない内容です。
(吉羽先生)
2つめには文部科学省が公立の中高一貫校の創設を勧めるようになり、東京でも学校がいくつかできました。これからの教育の方向性としては6・3・3制ではなく、6・6制になっていくと考えました。本校でも教育システムの基本を中高一貫に据えなくてはならないだろうと考えたことです。
(中山)
確かに中高一貫教育は時代の流れだと感じます。公立の中高一貫校は今まで中学受験に関心がなかった層も取り込み、多くの受験生を集めています。
(吉羽先生)
3つめには、大学で指導している際に最近の学生は目的意識が乏しいと感じたことです。「なぜ東京農大に入ったのか」「なぜこの学科を選んだのか」「なぜ私の研究室に来たのか」と学生たちに尋ねると、「なんとなく」という回答が多くなっています。つまりは「どこでも良かったんです」という答えです。「高校で進路指導がしっかりなされていない」と思ったのです。
(中山)
生徒に目的意識を持たせるような指導は中高一貫でなければできないということでしょうか。
(吉羽先生)
そう思います。高等学校の3年間で「目的意識を持って大学を選べるように指導がしたい」と考えていました。しかし、実際に農大一高に校長としてやって来ましたら、「この高等学校での3年間は短すぎる」(苦笑)と実感しました。最初の1年間は学校に慣れる、次の1年間は部活動などで充実した高校生活をおくる、最後の1年間はもう大学受験のための勉強をする、この状況では無理があるかとも感じましたね。
(中山)
大学受験のために高校を選ぶということが一般的になり、大学や学部の内容を知らないで、受験する生徒が増えたという話はよく耳にします。
(吉羽先生)
私は「○○の研究をしたいから、その研究でトップの□□大学△△学科へ進みたい」というような生徒に育ってほしいと思い続けています。そのような夢を持った大学選びをできるようにしたいと思っています。中学校から高等学校へと続く6年間はとても良い期間だと思います。これらの理由から中高一貫指導を始めることこそが農大一高ができる改革だと思ったのです。

「外部から人材を招き改革を進めた」

(中山)
中高一貫教育に対する、先生のとても強いお気持ちがよくわかりました。実際に開校されるまでには、組織として、同じ目標に向かって動くことが重要だと思います。その点ではいろいろとご苦労があったのではないかと拝察いたしますが、いかがでしょうか。
(吉羽先生)
そうですね。農大一高は東京農大の付属校として創設されたので、大学に生徒を送り出す役割を担ってきました。開校当時は大学に進むことは今とは比べものにならないほど難しいものでした。農大へ進むことは生徒や保護者にとって魅力的なことだったはずです。しかし、今は状況が違います。意識を変えなくてはいけません。
(中山)
確かに他大進学を目指して入学する生徒が多いと思います。
(吉羽先生)
現在では4分の1ほどが農大進学で他の多くの生徒は他大学へ進むようになっています。その希望をかなえることができる指導をしなくてはなりません。しかし、校長赴任当時、現場の教員の意識は以前のままのように感じました。
(中山)
他の学校でも、改革を進めるには現場の意識改革が重要だというお話を伺いました。
(吉羽先生)
中学校をつくり6年一貫教育を始めることは、同時に高等学校の生徒にもレベルの高い指導をできるような体制づくりにつながらなくてはならないと考えます。中学校の創設が高等学校へ刺激を与え、学校全体の意識改革につながるだろうと思います。
(中山)
改革は順調に進んでいるとお思いですか。
(吉羽先生)
うーん、そうですね。私は順調に進んでいると思っています。理事会に「中学校をつくりたい」という構想を提案したとき、学園内外の理事から「中学が成功するかしないかは教員次第だ。教員たちが一緒に取り組み、教員自身もスキルアップして生徒のやる気を引き出すような教育が本当にできるのか」という指摘を受けました。
(中山)
確かにいろいろな面で高等学校とは全く異なる指導が必要になります。
(吉羽先生)
他校も訪問されてお分かりのことと思いますが、私学は一度採用されると退職まで学校を替わることはほとんどありません。いわば温室的な環境です。教員はぬるま湯につかった状態から抜け出せるかどうかが、今回の改革のポイントだったのです。私は教員の3分の1が賛成してくれればうまくいくだろうと思い、また改革がうまくいかなければ高等学校は生き残れないと、理事会で強く訴えました。
(中山)
そのような状況で一連の取り組みがなされたわけですね。
(吉羽先生)
そうです。高等学校も変わったのだということをはっきり示すため、中学校の開設に合わせて高等学校に難関進学コースを導入しました。「3年間で仕上げて国公立・難関私大に送り込みます」と保護者や受験生に示したものです。
(中山)
現場の先生がたにかかるプレッシャーも大変でしょう。
(吉羽先生)
教員には「実現できなかったら、校長は保護者の皆さんにうそをついていることになる」(笑)と話しています。「担当する教員たちに3年後の結果が以前と変わりがないならば、校長である私は当然だが君たちもどうやって責任を取るんだ」と発破をかけています。
(中山)
大変なことです。指導スタッフに具体的に示して危機感を共有なさっているのですね。
(吉羽先生)
ええ。教員も変わってきていると思います。その点で順調だったと思います。ただこれからが正念場でしょう。人は次第に慣れてきて、ともすると当初の思いを忘れてしまいがちですから。
(中山)
多くの学校では外部からスタッフを招いて改革を進められます。農大一高ではいかがでしょうか。
(吉羽先生)
実際のところ、今の高等学校の教員とだけならばこのような改革を進めることはできなかったと思います。他の学校を全く知らない状況では新しい学校を立ち上げることはとても難しいと思います。ですから外部から他校の状況や中学入試全般をよく知っている人材を何名か招くことにしました。
(中山)
実際にどのような方を招かれたのですか。
(吉羽先生)
入試広報を担当している村上もその一人です。私の大学時代の後輩でとてもよく知っていました。農大一高で講師を勤めた後、大手の進学塾で中学受験に携わっていました。中学校を新しくつくるためにはとても大きな力となる人物なので、「ぜひ来てくれ」と言って誘いました。「家族は全員反対しています」(笑)と言いましたが、「母校が中学を開校するのだから」ということで来てくれました。
(中山)
先生の心意気を感じたのですね。
(吉羽先生)
大変なことだったと思いますよ。ほかにも、中学校は義務教育なので教育行政に関して詳しい人間が必要でした。私の高校・大学の同級生で公立中学校の校長を退職した人物にも来てもらいました。さらに中学校の教員は外部から人材を招きました。
(中山)
それは公募ですか。
(吉羽先生)
そうです。その教員がヒットでした(笑)。私たちの考えを理解して努力してくれています。加えて、ここに勤めている教員で「一高は変わらなければならない」という気持ちで加わってくれた者もいます。そのような人材が集まりプロジェクトが始まりました。その段階で私は「もう大丈夫だ」と思いました。ですから、そんなに大変だったとは思っていません。
(中山)
中等部にかける校長先生の思いが強く伝わってきます。実際の担当スタッフとしてはどのようにお感じになりましたか。
(村上先生)
たいへんですね(笑)。やるべきことが多くていくら時間があっても足りないほどです。ただ、校長が精力的に改革に取り組んできたので、この学校に来た当初と比べると雰囲気はかなり変わってきました。まあ、変わってこなければ校長は「もうやめた」と言って大学での研究に戻ったかもしれませんが。

「保護者への授業公開は1週間続ける」

(中山)
いろいろな改革を推し進めていらっしゃいますが、指導の面での大きな改良点は何でしょう。
(吉羽先生)
前にも述べたとおり指導の充実には教員の意識改革が不可欠だと考えます。毎日の授業が充実しているかどうかが、まずポイントになります。毎日、2時間もかけて通学してくる生徒もいるわけですから、そんな生徒たちが「来て授業を受けるのが楽しい」と思える授業をしなくてはなりません。
(中山)
まずは研修制度の充実ということなのでしょうか。
(吉羽先生)
そうですね。研修をしてもらうことは大切ですが、まずは「授業を受けて生徒が満足したかどうか」ということを教員だけでなく、生徒からも評価してもらうようにします。生徒は真剣に評価してくれます。それに基づいていろいろな研修を受けてもらうこと、場合によっては担任から外れてもらうことがあります。
(中山)
なるほど。
(吉羽先生)
授業は受ける生徒によって変わります。いろいろな要因で教員に対する見方は異なります。同じ教員に対してクラスによって全く異なる評価がでてくることもあります。1つのクラスでの評判で教員の授業を判断できないこともわかりました。
(中山)
授業公開などもなされるのですか。
(吉羽先生)
保護者を対象に年2回1週間かけて行います。保護者はその期間内はどの授業でも自由に授業を観ることができます。そして授業に関してご感想やご意見を書いていただきます。すぐに整理して教員に渡して次の研修の材料とします。
(中山)
1週間とはかなり長期だと思いますが、どのようなお考えからですか。
(吉羽先生)
ご両親とも仕事をしている場合が多いことが理由の一つです。また、特定の授業だけを参観するのでは構えた授業になります。普段の授業と異なるものでは意味がありません。1週間も毎回、毎回、構えて授業をすることはできないので、普段の教員や生徒のようすがわかります。
(中山)
参観状況はいかでしたか。
(吉羽先生)
高等学校の場合には生徒に「来るな」と言われるのでしょう(苦笑)。出席率はあまりよくなく、記入も型どおりの内容が多いと思います。中等部でもそのようなことを言う生徒もいるでしょうが、出席率が高く記入の内容も厳しいものが目立ちます。
(中山)
差し支えなければ保護者のご感想やご意見の内容についてご紹介いただけませんでしょうか。
(吉羽先生)
「あの授業では我が子には力がつかない」「この点を改めてほしい」などですね。参観者はお母さまが多いのですが、ご自分でもしっかり勉強してきた経験があり、教員よりも勉強量が多い保護者も多くいらっしゃるからでしょう。参考になることが多数あります。
(中山)
今後もそのような取り組みを続けていただけるとありがたいと思います。厳しい指摘ということに関連して伺います。少子化の影響もあるのか、以前に比べて、保護者、特に母親は「自分のこどもばかり観る傾向が強まってきた」ということをご心配になる校長先生も多くいらっしゃいます。
(吉羽先生)
確かにその傾向はあると思います。中等部の保護者には1週間すべての授業をご覧になった方がいらっしゃいます。お母さま方は、失礼な言い方ですが「子どもの追っかけ」とも思えるほどです。
(中山)
「子どもの追っかけ」(笑)とはわかりやすいですね。
(吉羽先生)
「一人っ子」が増えてきていることや、環境が変わり「子どもへの投資」とも言えるでしょうが、お金も時間もたくさんかけている状況が原因でしょう。もう少し子離れをしてほしいと思うことはあります。
(中山)
同感です。子離れができない親の状況には私も危惧しています。
(吉羽先生)
高等学校の保護者が公開授業の参加率が悪く、アンケートにも回答が少ないのは、子どもから「来るな」と言われることもありますが、「農大一高に任せている」という気持ちもあるようです。そういう点では、子離れができていると思います。
(村上先生)
中学受験と高校受験との違いが大きいでしょう。中学受験の場合、早ければ小1・2ぐらいから、遅くとも小4ぐらいからは受験勉強に取り組みます。反抗期の前ですから、子どもは何でも言うことを聞くので、母親が関与できることも大きいのです。しかし、高校受験の場合には同様に関与しようとすれば、子どもは「うるさい」と思います。ひどい場合には「ババア」呼ばわりでしょう(苦笑)。親が関わることはできにくいこともあるでしょう。
(吉羽先生)
子どもが親離れをしているので、必然的に母親は子離れしなくてなりません。
(中山)
追っかけのお母さんほど、子どもを伸ばしていないように感じられて残念に思います。教科の成績には強い関心があるが、日常生活で大切なルールやマナー、あるいは集団で何かを成し遂げるための方法や手順など、ぜひ身につけておいてほしいものが備わっていない生徒が増えているのが気がかりです。
(吉羽先生)
公立の小学校や中学校でしっかり教育を行うことができていないことが背景にあるでしょう。私学の校長が言うのはおかしな話ですが、本当ならば「家の近くの公立中学校に進み、近隣の子どもたちと集団で行動する中で学んでいくべきだ」と思います。しかし、公立中学校の教育環境が良くない状況では、「なんとしても良い教育環境の私学へ入れて安心したい」と思うのも宜なるかなです。
(中山)
そうですね。
(吉羽先生)
ですから、子供たちの中には学校から塾へ直行し外では遊ばない。極端な話では、家でゲームをしたり、塾で友だちをつくったりするだけになります。保護者もその重大性を感じていないから教えない、と感じます。
(中山)
同感です。
(吉羽先生)
中等部ではその点を留意して、いろいろな機会で教えていきます。特に挨拶が重要だと考えているので、担当の教員たちと取り組んでいます。ずいぶんできるようになりました。

「自分で勉強の内容や方法を考えて取り組ませたい」

(中山)
東京農業大学は生物分野の研究で日本をリードしてきた大学です。我々はその大学の付属ということで教育内容に期待するものがありますが、最近の保護者はいかがでしょうか。
(吉羽先生)
理系への進学を考えて選ばれた保護者が多いと思います。特に男子には生物に興味を持っている生徒が多いようです。「校長室で金魚を飼うことにした」と話したら、数人の男子がやってきて「僕たちが準備をします」と、そこにある水槽などを準備してくれました。
(村上先生)
こちらが予想した以上に東京農大という大学に良いイメージがありましたね。農業に対するイメージが変わってきているようで、以前のマイナスイメージはなく、「バイオテクノロジーに関心があるから」「生物学を研究したいから」などという志望動機もあるようです。
(中山)
大学の研究と関わるもので、何か具体的な取り組みは中等部でもされているのでしょうか。
(吉羽先生)
「ダイズとイネから学ぼう」という総合学習があります。「ダイズやイネを栽培することのどこが総合学習と言えるのか」とお思いでしょう(微笑)。公開授業の際に導入として私が講義をしました。
(中山)
どのような狙いがあるのでしょうか。
(吉羽先生)
生徒に対しては「『いただきます』という言葉の大切さは、植物を育ててみればよくわかるよ」と言います。「残念なことに人間は生きるための栄養分を作ることができないが、植物は太陽の光を浴びて自分で作り出すことができる。それをいただいて初めて自分の栄養にすることができる」「君が食べなければ種子となって次のダイズが生まれる。君はダイズの命をもらって生きている。それに対して『いただきます』と言うのだ」というように話します。作物や家畜を育ててくれた農家の方や料理してくれたお母さんへの感謝の気持ちは当然ですが、もうひとつ食べることによって植物や動物の命をいただいていることへの感謝の気持ちが大切だと思うからです。
(中山)
大切なことですね、以前は小学校でも自分たちが栽培した野菜などを実際に食べ『いただく』ことを実感したものですが、最近はほとんどありません。
(吉羽先生)
作物を育てることだけでなく、宗教と関わりがあるので、手を合わせて「いただきます」と言うのはダメだという議論も起こるそうです。これはとんでもない勘違いだと思います。命をいただくことへの感謝の気持ちは命の大切さを学ぶことです。このような話や行動はどこの家庭でもできることなので、ぜひやってほしいですね。
(中山)
同感です。最後に募集に関してお伺いします。中学受験では大学進学を考えた学校選びが基本となっています。正直なところ、農大一高の大学進学状況はあまり良いとは言えません。募集面でご苦労も多かったと思います。
(村上先生)
その通りです(苦笑)。この学校にやってきた時に「このままではとても優秀な生徒が入ってくることはないでしょう」と話しました。それでまず、大学進学の目標を具体的に掲げることにしました。
(中山)
それが「国公立・早慶上智に50%」のフレーズなのですね。
(村上先生)
そうです。具体的な目標を示すことで保護者へのアピールをすることが必要でした。特に第1期生の場合、入試の準備を始めた小4や小5の時には農大一中が開校することは知らなかったのですから、特に重要なことだと考えました。この目標は教員に対しても「意識を変えて取り組まなければならない」ということを強く示す意味もあります。
(中山)
率直なところ、従来の農大一高の状況からとても考えられない数値だと思いました。
(村上先生)
ほとんどの方がそう思ったのではないでしょうか(苦笑)。いろいろな指導を研究し実践しなくてはなりません。だからとてもたいへんだった(笑)のです。これを掲げることで教員の間で指導方法などに関して、より具体的な話がなされるようになりました。確かに変わってきたという実感があります。
(中山)
要項やHPを拝見すると、短期間の到達目標を設定して行われるテストが進学実績を伸ばすためのポイントのひとつだと感じました。
(村上先生)
そうですね。到達した生徒はより発展的な内容を学び、未到達の生徒は多くの時間を使い補充・補強をしたいと考えています。
(中山)
同様な方法は国立大への進学者が多い学校で行われています。塾でもよく採る方法です。
(村上先生)
塾にいた際にも同様のシステムでテストを行いました。しかし、生徒や保護者が偏差値や席次ばかりを気にしてしまうのが弊害でした(苦笑)。本当は「○○はよくできたからさらに伸ばしたい」「□□はあまりできなかったから集中して勉強しよう」と考えてほしいと思っていました。生徒も教員も自然にそのように考えられるようにしたいと思います。
(中山)
指導に関わるものがいつも念頭に置いておかねばならないことですね。
(村上先生)
生徒が自分で勉強の内容や方法を考えて取り組んでいければ本当に良いと考えて実践している途上です。
(中山)
楽しみですね。入試についてもお伺いします。2年間の入試結果を考えて、募集方法や出題方針をお変えになることもあるのでしょうか。
(村上先生)
将来的にはわかりませんが、基本的には変えないと思います。第1回の2月1日午後の入試は時間的な制約から出題の方針が少し違いますが、他の2回は農大一中が求める力を示しています。
(中山)
記述を減らす学校が多い中で記述を盛り込んだ出題はとても良い問題だと思います。特に算数の出題はユニークなものがあります。どのように解答すればよいのかわかりにくいものがありますが、これは意図的に作られたものでしょうか。
(村上先生)
そうです。最近の生徒は正誤だけに注意がいきがちです。仕方がないのかもしれませんが、受験生がどのような学力を持ち、これからどのように伸ばしていけるかを考えるには、単純に答を出すだけの設問ばかりではいけないと考えています。
(中山)
これからも工夫された良問の出題を楽しみにいたしております。本日はどうもありがとうございました。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆吉羽校長は率直に力強く学校の改革について話された。上に記した内容以外にも意欲的な取り組みを熱く語られた。高等学校単独の時と比べて、学校の雰囲気が変わってきたのも実感できた。村上先生などのスタッフの意欲や実践力も高く、新たな農大一中・高が誕生したと感じた。
農大一URL
/