2000年6月21日(水)訪問:大妻中学・高校は都心千代田区にある。周辺の、四谷から九段下にかけては、私学の伝統校(主に女子校)が集まる「学校の街」である。大妻中・高は、大妻女子大・女子短大の完全な付属校でありながら、他大学への進学者の多い学校として知られる。完全な6年一貫教育体制が整ってからは、一層、早慶などの他大学への志向が強まっているようだ。評価の高い伝統的な道徳教育と進学指導とで人気がある学校である。学校長岡谷恭子先生、入試対策広報部副主任橋本繁先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「知性の星よ、淑女たれ」

(中山)
まず、校長先生の簡単なご経歴についてお伺いします。先生は大妻の卒業生でいらっしゃいますね。
(岡谷先生)
そうです。
私が大学に進んだ頃には大学進学率がとてはとても低い時代でした。女子はだいたいが家政系に進むという傾向で、私も大妻女子大の食物学科に進みました。
卒業後、大妻高校に就職しました。その後、家庭と仕事を両立しながら勤め続け、教頭を経て校長になりました。
(中山)
校長先生になられてどのくらい経ちますか。
(岡谷先生)
3年目になります。
(中山)
学生として大妻女子大で学ばれ、さらにに教師として大妻中・高で長くお勤めになっていらっしゃいます。その経験を踏まえ校長先生として子供たちにどのようなメッセージをお伝えになっているのでしょうか。
(岡谷先生)
大妻で過ごす間に、深い知性と気高い品性を身につけてほしいと思います。 以前から「知性の星よ、淑女たれ」というメッセージに思いをこめてきました。知的好奇心の高い生徒たちのキラキラ輝く目が「知性の星」です。 これからの国際社会で活躍できるのは、知性と気品を備え、男性が相手でも他国の人が相手でも対等に会話ができる、そんな女性だと思いますから。
(中山)
昨年、大妻多摩中学校に伺った際、安川校長先生は、生徒に対して「これからの社会に貢献できる女性には、男性と対等に競い合う積極性が必要だから、これまで社会的に考えられていた『女性らしさ』は捨てなさい」というお話をしてくださいました。強烈なメッセージを伝えられているなと感じました。
(岡谷先生)
安川先生は、「『女性だからこれは許される』という甘えや『男性と競い合うのはどうも・・・』という消極性について」お伝えになりたかったのだと考えます。言葉としてはずいぶん異なる印象を与えるかもしれませんが、私も基本的には同じように考えています。ただ、女性であることは厳然たる事実ですし、そのことを除いては女子教育はなり立たないと思いました。女性らしい思いやりの心そして知性と気品が大切であることもぜひ伝えたいので、「淑女たれ」と表現しているのです。この私の淑女観は、私の幼い頃から私の心の中で芽生え育ち、その思いがふくらんで、生徒へのメッセージとなりました。これは第一級の女性であってほしいという願いです。
(中山)
メッセージは生徒たちにどのように伝わっているのでしょうか。
(岡谷先生)
短期間でははっきりとした形にはなりにくいことだとは思いますが、強い目的意識を持って社会に貢献しよう、という意志を持ってくれる生徒が多くなったと思います。それと同時に、登下校の生徒を見て、大妻の品性や賢そうな雰囲気を高く評価して下さる外部の方は沢山います。昨日まで教育実習があったのですが、その実習生からも強く感じました。
(中山)
具体的にはどのようなことからでしょうか。
(岡谷先生)
以前は「取れるものなら教員資格を取っておきましょう」と考える方が多く、実習生はずいぶん多くの人数でした。今回は18名で大部分はここの卒業生でした。 その中に社会人が3名いました。小学校の教員をしながら中・高の教員資格をとるために来た卒業生などです。社会に出てからの経験の中で、「自分の力量を高めて社会の役に立ちたい」と思ったそうです。社会に貢献しようという意識がはっきりしていていましたし、教壇でも毅然とした中にも生徒への思いやりや言葉遣い、態度にも品位が感じられとても嬉しく思いました。

「『恥を知れ』という校訓に基づいて努力している」

(中山)
最近の中学生や高校生、特に女子生徒につきましては、教育に携わっている先生方はたいへんご苦労されているのではないかと思いますが、大妻では如何でしょうか。
(岡谷先生)
大妻に入ってくる生徒たちには、非常に伸びやかで明るく、何かに打ち込む時には一生懸命やる子どもたちが多いのです。だから、苦労は少ない方だと思いますね。
また、校訓である「恥を知れ」という教育方針に基づいて指導していることも大きいと思います。
(中山)
「恥を知れ」という言葉は、大切な言葉のひとつだと思っています。が、最近,あまり聞かれなくなっているようにも思います。
(岡谷先生)
「恥を知れ」という言葉は、他人を非難する言葉ではなく、自分自身に向かって「人間として恥ずかしい行いはしないようにしよう」という言葉なのです。 正しくない行いをしたことを恥ずかしいと思うのは当然ですが、勇気がなくて正しい行いができなかったこともたいへん恥ずかしいことなのです。 「恥ずかしい行いを自覚し、二度と繰り返さぬように努力しましょう」という思いが込められているのです。
(中山)
とても難しいことだと思います。大妻では先生方のご指導を通じて、校訓が生徒たちや保護者の方々にも浸透しているということですね。
(岡谷先生)
繰返し話すうちに、校風として徐々に浸透していっていると思います。ただそれを伝える側も、口でいうだけでなく自分自身もそうあるべく努力すべきだと思いますし、やはり私自身も至らない、至らないから磨こうと努力しているのですよ。
(中山)
校訓で示される教育は、具体的にはどのような形でなされているのでしょうか。
(岡谷先生)
道徳教育を重視しています。
公立校の場合は、指導する先生方は年齢や経験などで、同じものを指導するにしてもかなり異なります。そこで、大妻では経験が豊富な担当者が道徳を担当しています。 現在、茶道を通じて、立ち方や座り方、畳の上の歩き方、お座布団の出し方など、きちんとしたマナーからの指導です。
日本の伝統文化を感じ取る良い機会にもなりますね。これから国際化が進むと、自国や相手国の文化を知ることも大切になりますから。

「オリエンテーションでは生徒どうしが熱心に討論する」

(中山)
続いて教科指導についてお伺いします。完全な6年一貫教育の体制を敷かれてから、さらに大妻女子大以外の大学に進みたいと考える生徒が増えたように思われます。教科指導はどのように進められているのですか。
(橋本先生)
具体的にはカリキュラムを組む上で配慮しています。 高1のオリエンテーションで具体的な進路を考えることから始まります。もっとも高1では共通で履修する科目が多いのですが。高2から理系と文系に分けることで選択科目の幅が広がり、高3では自由選択の科目と時間をとても多く採っています。 例えば、英語を集中的に多く取ることも可能です。
(岡谷先生)
高1でのオリエンテーションについて少しお話しましょう。 泊り込みで行うものなのですが、生徒は事前に、どんな大学があり、その大学はどのような特色があるのか、あるいは、どのような職業があり、その職業はどのような特色があるのか、を調べてきます。
(中山)
本格的なものですね。
(岡谷先生)
そうです。校長、進路指導、生徒指導からの話の後、ディベート形式の討論会も行います。活発な討論になります。従来の女子らしくという枠を越えて、社会参加をしたいという意欲が旺盛ですね。相手を説得するための理論構成も勉強してきますから。
(中山)
昔ながらの女子校のイメージではありませんね。 他に補習や補講という形での授業はいかがですか。
(橋本先生)
夏休みなどには補講や講習を実施します。中学では基礎学力の充実、高校では生徒の進路に即した学力の強化を目指しています。
(岡谷先生)
それとは別に、中学で道徳の授業の中で進路指導をします。 自分を見つめ、自分の特性を見つけ、将来の夢を考えることが主です。 他には、先取り学習もかなり採り入れています。国語の場合、中1で百人一首を利用して古文に触れたり、中2では高1レベルの古典も扱います。
(橋本先生)
数学でも中3の2学期の後半からは高校の内容に進みます。 その他、英語ではネイティブの先生による通常のクラスを2分割した授業以外に、英検2級や準1級を目指すレベルの講習、英会話のクラスも設けています。
(中山)
予備校を利用する生徒も多いのでしょうか。
(橋本先生)
新しい受験情報を得るために、模試を受ける生徒はかなりいます。他は、問題集や参考書の繰り返しをして受験に備える生徒が多いようです。
(岡谷先生)
難関大学に合格した卒業生が高1・高2に体験を語る機会を設けているのですが、そのときには「大妻の授業をきちんと受けると、必ず基礎力がつきます。授業をきちんと受けていなければ、仮に予備校で一生懸命勉強しても力がつきません」と言ってくれます。
(中山)
それはそうですね。
(岡谷先生)
補習や講習で不足分を補い、さらにレベルアップができていますので、難関大学への合格者は徐々に増えています。 今度(平成13年度)の受験生は高1から大学受験に備えたカリキュラムになりましたので、また難関大学への合格者が増えるだろうと期待しています。

「入試日の変更も視野に」

(中山)
中学入試に関してお伺いします。平成12年度から2月1日の入試を始められましたが、これはどのようなお考えからですか。
(橋本先生)
大妻はずっと2月2日に入試日を設けてきましたが、実際には2月1日に入試をしたいという希望はありました。 ただ、受験生に迷惑がかかるので、いきなり2月1日に変更というわけにはいきません。 まず、1回の入試を2回にし、さらに2科入試を2科・4科選択にして、状況を見てきたわけです。 ようやく平成12年度から第1回入試として2月1日の入試を行うことに踏みきりました。
(中山)
将来は2月1日の入試を中心にされる予定でしょうか。
(橋本先生)
第1回入試ついては、こちらが予想した以上の応募者があり、入学者のレベルも高かったので、「募集人員をもっと増やして欲しい」という要望があります。しかし、「大妻は2日の2教科校」というイメージが定着していますが他大進学率も急増し、中学入試では4科目も導入しているので、徐々に変更することも視野に入れています。
(中山)
入試の内容についてお伺いします。算数は計算過程を書く問題になっています。合格発表までの時間との関係で、算数の出題形式を変更されることはありませんか。
(橋本先生)
数学科では「考え方の過程を見ることが必要だ」という考えがあるので変更はないでしょう。 他の学校の状況を見ても、「客観問題を増やして合格発表を早めよう」という流れと「考え方を見る問題を増やすために必然的に合格発表が遅れる」という流れの2つがあるようですが、本校は後者の方です。
(中山)
平成13年度の入試から面接を廃止されることになりましたが、これはどのようなお考えからですか。
(岡谷先生)
今までも面接で不合格には絶対にしないというのが基本方針でした。面接を続けてきたのは、「よく頑張ってきましたね」というねぎらいの言葉をかけてあげたいと思ったからです。 それでも、面接の時に上手く答えられない受験生もいるわけで、「面接がうまくいかなかったから不合格だった」と思ってしまうのはかわいそうです。それに、面接の時に見られる個人差は成長段階の差で、6年も経てば全く変わってしまうので、あまり意味がないこともあります。
(中山)
受験生には、面接のあるなしの差で負担も違うようです。
(岡谷先生)
受験生は何日も続けて緊張の中で試験を受けるわけです。面接がなければその分早く緊張を解いてあげることができます。 入試日に校門で受験生を出迎えますが、そのときの受験生の表情を見れば充分だと思いました。大妻に入学してくださるならば、勉強の面でも人格形成の面でも、教員の責任において全力でやっていきましょうと、学校内で一致しているのです。

以上

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☆付記☆岡谷校長は「淑女たれ」の鑑を見るような熱意を内に、粛然としたお話しぶりであった。大妻の教育への自信と実践が窺えた。同席の橋本副主任からは気負いなく指導にエネルギーを向けている姿を感じた。岡谷校長のリードの下、伝統に裏打ちされた質の高い教育が展開されているようだ。時代の変化に今後どのように対応していくのか、注目したい。
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