2000年11月22日(水)訪問:立教新座中学校は2000年の開校。立教学院の教育改革の一環として、従来の立教高等学校(立教新座高等学校に改称)に併設された。立教新座中学・高校は大学(観光学部、コミュニティ福祉学部)の武蔵野新座キャンパスに隣接し、中高のみで約3万坪もの広大な敷地を有する。池袋から電車で20分と近いにも関わらず、周囲には武蔵野の面影も残り恵まれた環境が広がる。新校舎の建設による施設の拡充や大学と連携した独自の教育の進展により、教育面で一層の充実も期待される。学校長松平信久先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「中学1年生の体格の差には驚いた」

(中山)
立教新座中学校は2000年4月に開校されました。開校に至るまでのお話をお伺いしたいと思います。
(松平先生)
池袋の中島先生のインタビューにもありました通り、立教学院全体で、建学の精神とこれまで実践してきた教育を再確認し、現在の教育状況の中でどのように具体化し再活性化できるか、というテーマで検討しました。いくつかのプランが検討された結果、メインの改革の1つとして、中高の教育段階の改革を考えることになりました。
(中山)
その結果が、池袋と新座に別々の中学校・高等学校を設けることだったのですね。
(松平先生)
そうですね。もともと池袋に中学、新座に高校がありましたが、一貫校ではあっても、教育の面で日常の連絡や相互の理解が不十分だったと思います。やはり人間形成の上で一番大切な6年間ですから、時間をかけて生徒と知り合いながら教育をすることや、カリキュラムもより統合の取れたものにすることが必要だろうと考えたわけです。
それから、高校には従来1学年が500人近い生徒がいましたので、高校を2つに分けることで減らしたいという考えもありました。
(中山)
高校で1学年が500人近くいるということは指導の上でやはりたいへんなのでしょうか。
(松平先生)
教師にとって自分が担当する生徒以外でも、同じ学年の生徒ならば顔と名前が一致するサイズが理想的だろうと思います。1学年を半分くらいに減らせば、学年全体として生徒を理解した上での指導ができる体制をつくることができると考えられますね。
(中山)
現在の高1はほぼ半分の人数ですが、思った通りの状況になっているのでしょうか。
(松平先生)
まだ1年も経っていませんが、教師と生徒の関係が密になり、学年としてのまとまりが随分良くなったと感じています。行事などでの集中度も増したように感じます。
(中山)
どのような行事でそうお感じになったのでしょうか。
(松平先生)
学年ごとの礼拝で特に強く感じます。高校生が500人もいると静かに礼拝ということがなかなか難しい(苦笑)のですが、300人になると随分静かに集中して話を聞くことができます。
(中山)
高校生に加えて、新たに中学1年生が入ってきてどのようなことをお感じなりましたか。
(松平先生)
発育段階の差でしょうが、生徒の体格の違いには驚きました。高校生と比べても全く遜色ない体格の子どもから、小学校低学年と言ってもおかしくないくらいの体格の子どもまでいますからね。まあ、6年経てば差も目立たなくなってくるでしょう。これからの肉体的、精神的成長が楽しみですね。
(中山)
高校生と違った点で困ったことなどはありますか。
(松平先生)
ちょっとした喧嘩や元気余って教室の壁を破ってしまうことなどは、しょっちゅうあります(笑)。若いエネルギーの発散ですからね。奨励はできませんが、あまり押さえつけることは考えていません。失敗も学習の過程のひとつとして大目に見ることも必要でしょう。

「いろいろな場を通じて自己表現力を伸ばす」

(中山)
学習指導に関してお伺いします。立教池袋と同様に「テーマを持って真理を探求する力を育てる」という学習目標を掲げられていますが。
(松平先生)
そうです。立教学院全体で考えて実践しているものです。中学生には大袈裟すぎるテーマかも知れませんが、中学生ならば中学生の、高校生なら高校生の理解のしかたや実行のしかたがあるでしょう。そのようなものを具体化していこうとしています。
(中山)
学習目標をもとに実際の授業ではどのような方針で指導されているのですか。
(松平先生)
基礎力の養成をポイントにしています。 記憶したもの、習得したものも当然大切なのですが、自分で問題を見つけ、解決し、何かの形にまとめ上げる力をより大切に考えています。
(中山)
どのような指導でその力を身につけていこうとされていますか。
(松平先生)
核になる授業は1クラスを2分割した少人数制の授業形態で行います。 そのような授業のひとつに国語表現があるのですが、文章を読み、その文章に基づいてディスカッションしたり、資料を調べてレポートしたりするものです。 国語表現という名前ですが、教科としての国語という狭い限定されたものではなく、表現する力はすべての学習を貫く最も基礎的な力だと考え、それを養う場だと考えています。
(中山)
最近の子どもたちは文字化も、口述も表現することがとても不得手になってきていると言われますが、こちらではいかがでしょう。担当の先生はいろいろとご苦労がおありだろうと思われますが。
(松平先生)
初めから高度な要求をしても無理ですので、まず気楽に自分のことが表現できる雰囲気作りが大切だと思います。そこで最初の授業は自己紹介の3分間スピーチから始めました。これは話しやすいようでした。
(中山)
立教には自分をアピールするのが上手な生徒が多く集っているように感じますが。いかかですか。
(松平先生)
そうかも知れませんね。5月のオリエンテーションキャンプでも、各クラスのパフォーマンスは、歌を中心にいろいろなアクションを付けてなかなかのものでした(笑)。 その他には、英語のスピーチコンテストがありました。これもアクションなどもふくめ、総合的に表現力を審査するものなのですが、なかなか見事にやる生徒もいましたね。
(中山)
表現ということでは学校行事、特に文化祭は重要な場でしょうね。中学1年生だけの今年の文化祭はいかがでしたか。
(松平先生)
教科の発表とクラス別の企画という2本立ての内容でした。 教科の発表は美術と工芸の作品展や、キリスト教についての調査報告などもありました。 クラスの企画はコント風の出し物や辞書の早引き競争など、それぞれ趣向を凝らしていました。
(中山)
調査報告という内容がありましたが、「総合学習」につながる内容もあるのでしょうか。
(松平先生)
総合学習に関してはまだ検討中です。ただ、理科・社会では随分と校外学習もしています。築地の立教学院の発祥地を訪ね、あわせてウォーターフロントの探索をしたり、利根川沿いの工業の発達を調査するため、野田の醤油工場周辺を見てきたりしています。
年に5、6回ありますが、生徒は行き先を選択して取り組んでいます。現地集合でグループ単位で回ります。

「宗教行事には違和感なく参加できるようにしている」

(中山)
立教には独特な活動として保護者のための講座があるということを伺っていますが、どのようなものですか。
(松平先生)
月に1度ですから、それほどのものはできません。今年、前期は私が担当しました。
専門分野の児童文学からアメリカの女性文学者の作品を取り上げ、アメリカの家庭像、母親としての生き方、子育てなどについてお話しました。 後期は、今の若者の心の状態をどのように理解するかというテーマを設けて、大学の先生やカウンセラーの先生などにお話をしていただきます。
(中山)
保護者の反応はいかがですか。
(松平先生)
難しい時期の子どもたちをお持ちのお母さん方が多いですから、子どもたちをどのように理解したら良いかということには関心が高いように感じられます。
(中山)
やはり不登校の問題などの心配ごともあるからでしょうね。生徒がカウンセラーのところへ行くことも多いのでしょうか。
(松平先生)
あまり多くはないと思いますが利用はされています。不登校気味の生徒もいないわけではありませんし、家庭での問題を抱えている生徒もいますから。
(中山)
キリスト教に基づく教育についてお伺いします。実際にはどのようなことが行われているのでしょうか。
(松平先生)
中学校の場合、学年全体で週1回、チャペルでの礼拝を行います。聖歌を歌い、聖書を読み、それから短いお話を牧師さんから聞き、お祈りをします。それから、その週に誕生日を迎えた人たちのお祝いをします。
(中山)
礼拝や宗教行事に生徒はどのように参加しているのでしょうか。
(松平先生)
できるだけ生徒に参加してもらうことを心がけています。生徒に聖書を読んでもらうこと、聖歌を歌ってもらうこと、ろうそくを立てること、そのようなことに積極的に参加してもらう、さらに生徒が自分たちで作っていくということもしています。
(中山)
普通の生徒にとって慣れるまでなかなか大変だろうと思いますが、生徒のうちでキリスト教信者はどのくらいの割合でしょうか。
(松平先生)
信者はごく少数です。この状況は他のキリスト教の学校も同様でしょう。ただ、立教小学校・中学校から進学してきた生徒たちは、礼拝やその他の宗教行事に向かう姿勢はできています。他の4分の3の生徒にも違和感なく参加できるように配慮していますから、今ではだいたい定着してしますね。
(中山)
キリスト教を基にしたその他の活動、たとえばボランティア活動などへの参加はいかがでしょうか。
(松平先生)
ボランティア活動とは言えませんが、夏休みに山村サマーキャンプを行いました。 高校生と一緒で希望者だけだったのですが、山の下草刈りや田の雑草抜きなどの体験をしました。苦しさや喜びを体験して働くことの意味を感じて欲しいと思ったのです。ただ、慣れないことですからなかなか喜びにまではいかなかったようですが。
(中山)
中学生にとってはきつい労働だったのでしょうね。
(松平先生)
そのようです。働くというところまでは行きませんでしたね。今後はボランティアのようなことも考えていきたいと思っています。 先日はザンビアで難民の救援活動をされている現地の方にお話をお聞き質問する機会がありました。生徒はマラリアを感染させる蚊を避けるための蚊帳や地雷に触りました。そのような経験から「自分が何かしなくては」と思う気持ちが少しずつ育ってくることを期待しています。

「多様な生徒がお互いに学び合うというのが理想」

(中山)
最後に入試についてお伺いします。初年度の入試に関して事前の予想と実際の結果を比べてお気づきの点はありませんか。
(松平先生)
非常に多くの方から関心を持っていただき、実際の応募者も多かったのでとてもありがたく思いました。 試験日をどのように設定するか、歩留まりをどのくらいに予測して合格者数を決めるかなど、初めての経験だったのでいろいろと苦労がありました。これはもう1、2年は模索が続くと思います。
(中山)
2001年の入試でも変更される可能性もあるということですね。
(松平先生)
そうですね。2000年には1回目の入試を1月の前半に行った結果、試し受験という生徒も多かったようです。それはそれでありがたいことでしたが、2001年には志望校が固まった後の1月下旬に試験を行うことにしました。
(中山)
合格者の発表に関しては、繰り上げ合格の有無などで1回目と2回目では異なりましたが、これにも変更があるのでしょうか。
(松平先生)
2000年と同様ですね。
(中山)
ボーダーゾーンの場合、通学圏内の生徒を優遇されるようなことはありませんか。
(松平先生)
テスト以外の要因で判定することはありません。 通えるか通えないかの判断は生徒の気持ち次第ですから、学校としては是非とも立教新座へ通いたいと思うのであるならば問題にはしません。
(中山)
出題内容についてはいかがでしょうか。過去には、初年度の問題と随分変わる学校が多いのですが。
(松平先生)
ほぼ同じ傾向で出題されると思います。各教科で作成しますので、詳しい内容はわかりません。ただ大体同じ傾向でいこうとみんなが考えていますから。
(中山)
学校として入学してほしいとお考えになる生徒はどのようなタイプの子どもでしょうか。
(松平先生)
特定のタイプの生徒というよりもいろいろなタイプの生徒に集まってきて欲しいと思っています。多様な生徒がお互いに学び合うというのが理想ですね。
(中山)
言葉としては余り適切ではないかも知れませんが、このごろよく言われる「何でもあり」という捉え方でよろしいでしょうか。
(松平先生)
そうですね。少し上品すぎるかも知れませんが、「強くしなやかな個性と品格」を持った生徒ということを基本的に願っています。繰り返しますがいろいろなタイプの生徒が集まって、そのエネルギーが響き合うというのが良いですね。
(中山)
最後に受験生やその保護者にメッセージをお願いします。
(松平先生)
私たちの学校は高校からの入学者もあり、純粋な意味での一貫校ではありません。しかし、それは他の学校にない大きなメリットです。そのメリットを生かしたカリキュラムで指導をしていきます。6年後にどのような生徒に育っているのかまで考えて、学校選びをして欲しいと思っています。

以上

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☆付記☆松平校長の穏やかな口調の中には立教学院の教育に対する自信が込められている。開校初年度の緊張感よりも、どんなことにも動じないという余裕が見える。熱心なスタッフにも支えられ、男子校特有のエネルギーだけでなく、何か落ち着いた教育環境が生み出されている。
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