「このままじゃ学校がつぶれる」
(中山)
校長先生は就任以来、数々の改革を進められています。それにはどのようなきっかけがあったのでしょうか。
(櫻井先生)
神奈川の県立高校や教育委員会を経て本校に教諭としてやってきた時に、職員室のようすを見て「このままじゃ学校がつぶれてしまう」
と感じまし た。公立学校の悪い面がそっくり真似されていたんです。例えば勤務時間が終わると生徒がいてもサッサと帰ってしまう。生徒がせっかく質問に来ても「時間が来たから後は自分でやりなさい」と言って帰るんですよ。その他にも、とても言えないような話せないような情けない状況がいくつも見られました。
「これは何 とかしなければ」
と思いましたね。前校長もいろいろな改革を試みようとしたのですが、手がつけられない状況だったようです。
(中山)
何が原因だったのでしょうか。
(櫻井先生)
上に短大がありますからね。力がある生徒はそこに行けばよいという気持ちが強かったわけです。それが教科、教材の研究をして指導力を高めると
いう意欲をなくしてしまう大きな原因だったと思います。
(中山)
具体的にはどのようなことから手をつけられたのですか。
(櫻井先生)
ここにいる前田教頭など一部の教職員の協力を得ることができたので、教員の意識を変える方策として授業の公開を始めました。
校長を含めて別の教師が授業を見たり、保護者や外部の方が授業を見たりすることができるようにしました。あわせてシラバスも導入して指導内容の整備を図りました。それまでは、同じ教科を同じレベルの生徒に指導するのに、内容も進度もバラバラでしたから。
熱心な教師にあたれば力が伸びるが、やる気のない教師にあたると全く力
がつかないわけです。生徒は教師を選べないわけですから本当にかわいそうなことだと思います。
(中山)
授業の公開やシラバスの導入は順調に進んだのでしょうか。
(櫻井先生)
校長になる前の教頭の時から準備を進めていました。
初めの頃は職員室で教員と激論を交わすこともたびたびありましたね(笑)。
(前田先生)
あまりに凄いので周りの教師は首をすくめてはらはらして見ていた
ほどです(笑)。
(櫻井先生)
改革の中で古い教員がやめていきました。残ったのはすべて意欲的
な教員ばかりです。
そして公募で新しい教員20名を採用しました。おかげで教員のほぼ3分の1が入れ替わり、現在はみんな積極的に取り組んでいます。
「問題が生じたら校長室にご招待」
(櫻井先生)
前田先生、シラバスを持ってきてください。
(前田先生)
これが今年のシラバスです。これで4冊目になります。
(中山)
ずいぶん厚いものですね。
(櫻井先生)
中学高校だけでこれだけのものを持っているのは珍しいんじゃない
かな。ひとつひとつの授業の内容だけでなくテストの内容まで示されていますか
らね。
(前田先生)
最初のところは学期ごとの授業内容になっています。その後に、1回ごとの授業の内容が書かれています。
(櫻井先生)
あわせて各教師には学期ごとに達成度を別に提出して貰い、チェ
ックの上返すようにしています。毎年、生徒のレベルが違うわけですから、手直
しも必要なんです。
(中山)
これだけのシラバスはつくるのも大変でしょうが、実際に指導に活かすためには教師の指導力が重要になると思いますが。
(櫻井先生)
その通りです。これも珍しいことですが、「先生を指導する先生」
を新たに採用したんです。
(中山)
それはどのような方々ですか。
(櫻井先生)
神奈川県立高校などで校長を務めた後、定年退職した先生方をスカウトしてきました。
力量が高く意欲を持った先生たちは「普通の教員としてもう少し現場でやりたい」という気持ちがあります。そんな先生方を「教師を指導する教師」として採用したんです。現場で見事な授業をしていますし生徒への対応も実に上手いですね。
そして、先生たちをいろいろな面で指導してくれています。毎月の初任者研修もそんな先生が担当しているんです。
そして、教員の顔ぶれが大きく変わったことも上手くいっている原因でしょう。
(前田先生)
それに櫻井校長が教師の指導に目を光らせています(笑)から。
授業を見ることはもちろん、この校長室はごらんのように門のすぐ横にあってしかもガラス張りですから、教師の出勤や退出の様子はすっかりお見通しと言うわけ
です(笑)。教師たちの勤務状況に応じた厳しい指導があるので、教師は校長室に呼ばれることを恐れています(笑)。
(櫻井先生)
「校長室ご招待」は叱るためだけではないんだけどなあ(笑)。ただ、教科指導や生徒指導の面で問題が具体化したときは、すぐにご招待してかわ
いがりますよ(笑)。
「マナーを身に着けさせることは学校の大きな役割」
(中山)
教科指導の面以外での変化はありますか。
(櫻井先生)
本校の創立者は敬虔なクリスチャンでした。「謙愛」の精神を基本に人間教育を進めようと学校を創設したのですが、私が来たときにはすでにとんでもない状況でした。原点に戻って謙愛の精神に基づいた人間教育をしなければ
と思いました。
私学としては人間教育を重視するのは当然のことでしょうから。
(中山)
どのような点に力を入れていらっしゃいますか。
(櫻井先生)
人間としてのマナーとして「あいさつ」をきちんとさせようと思っています。
最近はずいぶんきちんとしたあいさつができるようになりました。あいさつ、身だしなみ、言葉づかいなどを正しくしつけることは、本当は家庭でやることなんでしょう。しかし、きちんとしつけができない親もいるし、子どもの生活の半分が学校であることも考えると、学校でもきちんとやらなければならないことでしょう。
(中山)
そうですね。
(櫻井先生)
それから、学校のルールを守る姿勢を持たせたい。社会へ出たときにも守らなければならないルールが必ずありますからね。
ただ、数多くのことを 「ダメだ、ダメだ」と禁じることは好きではないので、「これだけはダメだ」と絶対に許さないというようにしています。
その他に、人間教育として音楽によって感性を磨くことを考えています。また、中学・高校合同の部活動で上級生を敬
い下級生をかわいがる経験を積ませる中で、優しさや思いやりの気持ちを育てたいと考えて奨励してきました。
その結果、現在では80%以上の生徒が参加するようになりましたね。他には、校長室や職員室の開放を進めて、生徒が入りやすい環境をつくることもありますね。
(中山)
校長室に生徒が来るようになっていかがですか。
(櫻井先生)
「お弁当を一緒に食べましょう」と言って生徒が来るようになって、
毎日の弁当の準備が大変だと女房に叱られました(笑)よ。
お弁当を食べながら話をすると、生徒は先生たちを実に正しく評価していることがわかりました。授業中のいろいろな様子がわかりました。「あの先生は実力があるよ」、「あの先
生はやる気がないよ」とかいろいろな情報を持ってきて、こちらも参考になりました。
(中山)
そのような取り組みの結果、子どもたちの様子は変化しましたか。
(櫻井先生)
ほとんどの生徒が学校に楽しんできているようです。授業が楽しい、部活が楽しい、友だちが多くできる、などが理由のようです。
ただ、友だちと簡単にくっついたり切れてたりしてしまうことが心配ですね。このようなことは最近の中学生、高校生に共通のことのようですが、中学、高校の間に長い間付き合える本当の友だちをつくって欲しいと思いますね。
「2001年入試から出題傾向を大きく変える」
(中山)
入試についてお聞きします。
まず、国語で詩の問題を出題されています が、これは今後も変わりませんか。
(前田先生)
2000年度は詩の出題をしますが、2001年度からは長文2題に変わり
ます。論説文と小説・物語文になります。
詩の問題は感性を見るのには良いので すが、点をつけにくい面があるのでやめることしました。入学後、詩歌の指導に力を入れていますので、そこで感性を磨いていきたいと思います。
(中山)
詩の出題が減っていくのは残念ですね。
2科・4科選択入試では、2科生と4科生の学力差を気にする学校もあるのですが。
(前田先生)
入学者の6割以上の生徒が6年の夏まで4科で勉強していたようです。そのため、入学後の4教科の学力テストでもあまり差は感じられませんでした。生徒は2科・4科の選択で点が取りやすい方を選んだようですね。
(中山)
理科・社会の指導内容の上で変化がありますか。
(前田先生)
今年の中1から理科・社会のカリキュラムを大きく変えました。中学に高校の内容が入って来ます。
中3の理科は化学Ⅰを、社会は政治経済の教科書を使用する予定です。他の教科もそうですが、無理をして早く進めるわけではなく、時間数が多いので早く高校内容に進むことができるんです。
ただ、教科書は参考書程度の扱いで、大部分は自主教材になりますが。
(中山)
その他に出題の上で変更はありませんか。
(前田先生)
2001年度からですが、算数は均等配点をやめて傾斜配点にして応用問題の配点を増やします。また、4科の試験をする場合の国語・算数も試験時間
を50分に変える予定です。
「2000年度からの週休2日制で逆に学力アップを図る」
(中山)
今後の改革についてお聞きします。指導要領の変更、完全週休2日制の徹底など、独自の教育を進める私学にとって、いろいろな点で変更を迫られていると思いますが。
(櫻井先生)
週休2日制は世の中の流れです。また、親、特に父親とのふれあいのためには良いことでしょう。だから、「やりたくない」と突っ張っているだけではダメでしょう。
週休2日制を採用しながら、実質の授業時間を確保するだけではなく、かえって増やす方策はないものかと検討しました。
その結果、2000年度から70分授業1日5コマ、2期制の採用を決めました。
(中山)
指導の形態が大きく変わるわけですが、順調に移行できそうですか。
(櫻井先生)
即座に前田教頭を中心にして計画を進めることに決めました。
先生方から質問が多数出ることを覚悟していましたが、何も出ませんね(笑)。それどころか積極的に計画を練っていますよ。生徒は塾で70分以上の授業を経験していますから問題はないでしょうから、先生の意識の切り替えが重要になるでしょ
うね。
(前田先生)
前向きな質問が多く出ています。一部の先生は補習で70分授業を経験し研究もしています。
校長はいろいろな発想で引っ張っていきますから、教師
も自然と積極的になっていきます。
(櫻井先生)
最終的に責任をとるのは校長ですから、先生方にはいろいろと新しい取り組みをしてほしいと思っています。
失敗したらその都度修正していけば良 いです。今までもそうしてきましたから。
2000年には新校舎も誕生します。
その新校舎で21世紀に向けた 新しい洗足学園がスタートします。期待してください。
以上
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