1998年11月5日(木)訪問:訪問校は渋谷教育学園渋谷中学校(通称:渋渋)。創立3年目の新しい学校だが、兄弟校である幕張高等学校・同附属中学校(通称:渋幕)での成果を活かして、新しいタイプの進学校を創り上げつつある。まだ高校卒業生がいないため、大学合格実績など具体的な結果を出していない。それにもかかわらず多くの受験生とその保護者から注目され、「異常」と言われるほどの人気を集めている。学校長田村哲夫先生、入試対策部長佐藤康先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「共学校で、男女がお互いを認め合い競い合うことが自然である」

(中山)
開校初年度から人気を集め、2年目、3年目と順調にレベルアップを果たされています。この状況や原因をどのようにお考えですか。
(田村先生)
この学校が目指している新しい学校の姿が、現在の受験生や、その保護者に好感をもって受け入れられているからだと思います。 私の父が大正13年に女子校を造りましたが、当時は、男女が同じ教室で同じ内容の勉強をすることなど考えられませんでした。男女が別の学校で学ぶことが当たり前でした。現在では、男女が同じ教室でお互いの特性を認め合い競い合うことが自然だと考える保護者が多いと思います。
中高一貫教育の中で、21世紀に活躍できる、国際性を身につけた有能な人材を育成することができる、新しい姿の学校を目指しています。 まず、千葉市幕張に、昭和58年幕張高等学校、次いで附属中学校を開校し、中高一貫教育を始めました。幕張中学・高校はいわば「郊外型」の男女共学の進学校ですが、この渋谷には「都市型」の学校を造ってみたいと思っていました。都市の景観にマッチした高層ビルを建て、幕張で進めてきた人間教育や教科指導を、いろいろな検証や反省を含めながら、渋谷でも進めています。ですから、私たちはこの学校が新設校であるとは考えていません。受験生やその保護者もそのように感じ期待されているのではないでしょうか。

「学校に対して魅力や好感を持ってもらう努力が評価された」

(中山)
具体的にはどんなことがなされたのでしょうか
(佐藤先生)
新しい学校ということに関連して、受験生を抱える保護者は男女共学が当たり前のものだと考える世代になっています。しかし、男女共学であれば良いというわけではないはずです。受験生や保護者が、この学校に魅力や好感を持ってもらうことが必要です。 校舎や設備、教育過程の充実は当たり前ことですが、それ以外に、例えば願書の提出や試験の際、保護者に暖房が入った体育館や温かい飲み物を用意し、お待ちいただくようにしています。伝統校では、寒い中で並んで待つのは仕方がないと、保護者の方が諦めてしまうでしょうが、渋渋では同じことをやったら許されないでしょう(笑)。 従来、あまり気にされていなかったようなことにも、気を配る姿勢も、入学後への期待を保護者に持ってもらうことにつながっていると思います。パンフレットなどもなんとか従来のパターンを変えたものにしたいと試みました。スタッフの心意気を感じてもらえればと思いましてね。

「6ヵ年一貫教育は本当のエリート教育である」

(中山)
校長先生は麻布学園のご出身で6ヵ年一貫教育を体験されています。また渋谷幕張では実際に6ヵ年一貫教育を実践されています。それらが、具体的にはどのような形で活かされているのでしょうか。
(田村先生)
本来6ヵ年一貫教育は大学に向いている教育です。自分自身の希望を実現するために高等教育を受けるわけですから、夢の実現の手助けを学校が果たしていけるように準備をします。しかし12歳から18歳の時期というのはアイデンティティーを確立する時期にもあたります。そのような時期の生徒に教育を行うわけですから、他人と競って学力を伸ばすだけでは意味がありません。他人からも評価されるような素晴らしい能力を身につけていくための教育、つまり本当のエリート教育をしなくてはなりません。
まず、生徒の成長過程を考え、6ヵ年を2ヵ年ずつの3つのブロックに分けました。渋幕の成果を採り入れて指導を進めていますが、中1・2は30人学級による指導を進め、個々の性格や性質を把握しつつ、その後の指導の土台づくりを行っています。ただ法律で教室の大きさが決められている日本では30人学級に適応した大きなサイズの机や椅子がなくオーストラリアから取り寄せなくてはならなかったのは予定外(笑)でした。 中3・高1から40人学級で習熟度別の授業展開となります。渋幕では均等クラスなのですが、まだ学力水準に開きがあるのでやむを得ず導入しています。
教科の指導においては、国際性を身につけるための英語の指導を重視していますが、カリキュラムの面で、相互の関連性を考えて指導内容の組み換えを積極的に行い、系統的に学習できるようにしています。パンフレットで、数学についての概念図を示していますので、参考にしてください。
さらにシラバスを配布して生徒や保護者にもその関連性を理解してもらった上で、授業を進めています。定期テストの問題などでも渋幕と情報交換をしています。 
学校内だけでは教育は完成しないと考え、校外学習も重視しています。「自調自学」の方針を実践するために敢えて現地集合など、生徒自身による事前の準備が必要な予定にしています。仏像と一日中向き合う、奥深い筆作りの工房を訪ねる、などユニークな計画もあります。中には間違えて目的地に止まらない電車に乗ってしまったため車掌さんと交渉としてただで目的地まで戻ってきた(笑)などという経験をした生徒もいます。 自分から解決策を見出していくことも素晴らしい学習経験でしょう。

「当面は完全4教科への移行は考えていない」

(中山)
受験生にとって、入試に関しての最大の関心は「近い将来に完全に4教科受験になるのか」ということです。この点を含めて入試についてお聞かせください。
(佐藤先生)
当初は渋幕と同様に完全に4教科受験にすることを予定していました。しかし、受験の間口を広げていろいろなタイプの生徒に入ってほしいということ、不景気の影響で中学受験をする生徒の数が減少しつつあることなどを考え当面は4教科受験に一本化するということは考えていません。 
入試問題については、国語などで難しい問題が多くなっていると批判がありますが、担当者が手探りで出題しているのが現状でしょう。説明会で基本的な方針をお伝えしていますので、それを参考にしてください。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆校長は、他の職務を兼務されて多忙にもかかわらず中学生の「道徳」の授業を担当されているという。毎回の授業でのレポート処理が大変なようだが、最近の社会情勢を考えて人間教育を重視されている表れであろう。また、「新しい学校を創る」という熱意が穏やかな話し方の中からも感じられた。手厚い特待生制度や、校舎設備の改善など学校経営にはかなりの負担になるはずだが、それを全く感じさせない。スタッフは学校教育の場以外からも広く求められているようだ。スタッフ一丸となって学校づくりにまい進する気概がお二人から感じられた。
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