「制服の変更は『改革』のひとつにすぎない」
(中山)
校長になられてから、制服の変更などの一連の変化に取り組んでいらっしゃいますが、品川女子の人気が上昇するきっかけになったと思われる制服の変更について、そのいきさつをお話ください。
(漆先生)
制服に関してはよく聞かれますね(笑)。
確かに制服は外からもよく見えるものですから目立つのは当然でしょう。本校の場合、学校のそれまでの流れを点検した結果の、「改革」と言っては大げさですが、一連の変化のひとつにすぎません。
はっきり見えるもので言えば、制服の変更が平成2年、校名の変更が平成3年、新校舎の完成が平成8年と進めていきました。
(中山)
大きく変えようとお考えになって実際にそれを進めていくのには、たいへんなご苦労があったと思いますが。
(漆先生)
そうですね。うちだけに限らないと思いますが、学校というところは長い間抱え込んできたものがあります。それを変更することにはいろいろな面で思い切りが必要でした。
(中山)
どのような点で思い切りが必要だったのですか。
(漆先生)
教員の意識というか、教員特有の体質というか、変化することへのためらいのようなものがあるのです。
制服を例にすれば、セーラー服でずっと通してきたわけで、教員の中にも卒業生の中にもそのセーラー服に愛着があり、郷愁のようなものも感じていました。それをまったく別のものに変えるわけです。「これが制服か?」という感じを与えたくらい斬新なもので、当然、反対意見もありました。
それを「着るのは生徒だ」と、生徒主体に考えて押し切った訳です。
(中山)
生徒主体に学校のあり方を変えるというのは大変なことだと思いますが。
(漆先生)
世の中は激しく変化しています。学校だけが旧態然とした体制ではいけないはずです。学校のあり方を、学校サイド、教員サイドだけで一方的に決めるのではなく、生徒の気持ちやニーズに目を向けて考えて、改めていくことが必要だと考えます。
「新人研修として1年間の企業研修を行う」
(中山)
外部へ向けての情報発信も「改革」の一環だと思いますが、中でも品川女子学院のホームページは内容がたいへん充実しています。どのようにして作成されているのですか。
(漆先生)
広報担当の長谷を中心にうちのスタッフが作ります。
これも「学校を変えていこう」という共通認識が校内ででき上がり、教員どうしの協力体制が整ってきたことの現れでしょう。
皆さんに評価をいただいているシラバスも、それぞれの教員が意欲的に取り組んだ成果だと思います。内容もかなり充実したものになりました。
(中山)
各先生は普段の授業以外に、いろいろな仕事を取り組んでいらっしゃるわけですね。そうすると、それぞれの先生に対するスキルアップのための指導も重要になると思います。そこでですが、先生方の採用の仕方に関してお聞かせください。
(漆先生)
確かに教員の研修、研鑽が重要になりますね。学校が望む教員を迎えることができるかは大変大切です。
私立学校の場合、必要以上に多くの教員を抱えることはできませんので、教員が必要になった段階で慌てて採用するということが多くなりがちです。
都内では他にはないのではないかとと思いますが、本校では毎年、定期採用を行います。
3次試験まで行い、多数の応募者の中から最もふさわしいという人を教員として採用しています。時にはだぶつくこと(笑)もありますが、それを怖がっていては良い結果はでません。
(長谷先生)
採用試験について補足しますと、専任として採用されるのは2人か3人ですが、昨年(平成11年)までは800名くらいの応募がありました。今年から、ホームページ上に教員採用ページを設けメールのみの受付としました。そのため、応募者が絞り込まれて300名くらいになりました。
(中山)
そのように多数の応募者の中から採用された新人の先生たちに対して、どのような研修をなさるのですか。
(漆先生)
まず1年間の企業研修をします。研修をするところもあると思いますが、1年間というのは本校だけででしょう。学校に入る前に違う社会を体験してもらうことは、本業の教員として教壇に立つ際に必ず役立つと信じて実施しています。
(中山)
研修の場所としてはどのような職種があるのですか。
(漆先生)
レストランやホテル、外回りの営業、あるいはサポート校での教員などですね。
(中山)
そのような研修を受けることに、途惑いを持つ人もいるのではないでしょうか。
(漆先生)
研修後に本音を聞いてみると、「エッ、研修があるの?嫌だな」と正直なところ思ったようです。しかし、研修を経て教壇に立つようになって、「あの研修はとても良かった、と本当に思った」と言っています。
(中山)
研修の良い点をどのようにお考えでしょうか。
(漆先生)
教員の場合、若いうちから自分の親ほどの年齢の保護者からも「先生」として扱われます。「ありがとうございます」、「お世話になります」、「どうもすみませんでした」などと、頭を下げて言われることはあっても、自分から言うことはほとんどありません。その結果、相手の立場に立って考えるということができにくくなることもあります。
しかし、本校の場合この研修によって自然にできるようになります。
また、私のように学校以外の世界を知らない人間にも、研修を受けた教員から刺激を受けることが多くありますね。相乗効果とでも言いましょうか。
(中山)
なるほど。
その後は学校で教科の研修か行われるわけですね。
(漆先生)
そうです。教科会議で計画した研修や学校団体の開く研修会に参加したり、相互に授業参観をしたりします。学校内に研修担当が設けてあり、そこでも研修を企画します。
「厳しく管理すると学校から生徒の気持ちが離れる」
(中山)
充実した研修体制が教務力の強化に繋がっていることがよくわかりました。次に、生徒たちについてお聞きしたいと思います。
最近、どの私立学校でも生徒の様子が大きく変わり、いろいろと心配ごとが増えているようです。いかが思われますでしょうか。
(漆先生)
本校でも生徒がかなり変わりました。先日、中1の教室で、茶髪について尋ねてみたところ、「将来してみたい」、「自分はしないけれども、やっても構わない」と思う生徒が半分ほどいました。正義感の強い中1でも茶髪を否定しない者が多くいるわけです。良いか悪いかの価値判断が変わってきているのでしょうね。
(中山)
そのような場合、どう対応するのが良いとお考えですか。
(漆先生)
私立学校によっていろいろな対応の仕方があるでしょう。最も簡単なのは校則で厳しく定めて生徒を管理して、マニュアル通りに停学、退学などと対応することでしょう。すっきりして時間もかかりませんから。
しかし、本校ではそのような管理的な手法を用いて指導するということは原則としてありません。処分を受けた生徒だけでなく、まわりの生徒の気持ちも学校から離れてしまいます。
また、うわべだけを取り繕っただけで、実態は何も変化しない、むしろ悪化するばかりということも考えられます。
(中山)
それではどのように対応されるのですか。
(漆先生)
授業やホームルームの活動、クラブなどの学校内での活動を通じて、「そんなことはバカらしい」と思わせるようにしていきます。短時間で完全になくそうとすると無理がきますので、徐々に変えていきます。ご家庭からの支持もあるので、生徒が自分で軌道修正できる場合が多いようです。
(中山)
心配ごとのひとつに、学校に通えなくなってしまうという「不登校」の問題もあるようですが。
(長谷先生)
本校でも不登校の生徒がいます。全校で0.5%くらいですから、学年に平均1人くらいいます。不登校になった生徒全員が小学校時代にも不登校だった生徒です。小学校時代に不登校だった生徒の半分は、本校に入学して環境を変えてもやはり不登校になっています。残念ながら、これが現実ですね。
(中山)
どのような原因で不登校になるとお考えでしょうか。
(長谷先生)
親子関係の問題が最も多いですね。
具体的なお話で言いますと、髪を切りすぎて学校にいけなくなってしまった例もあります。
まわりの目を必要以上に気にする場合です。極端に自意識が強いのでしょうね。
(中山)
対応はどのようにされるのですか。
(長谷先生)
不登校の生徒には保健室とカウンセリングルームでの対応が中心です。
しかし、予防のためには、担任の関わりも重要です。親子ともに心配ごとを書きこめる連絡帳を設けています。全員のものを回収しますので、誰が書いて提出したのかが分からないようになっています。
後は、欠席連絡は必ず担任に回すようにしています。欠席が続くともう登校できなくなる場合もありますから、担任が状況を確認しているのです。
「今後は独自性を入試問題に盛りこみたい」
(中山)
入試についてお尋ねします。かなり早い時期から2科4科選択の入試を実施されていますが、最終的に4科に移行されるということもお考えなのですか。
(長谷先生)
志願者の動向によります。まだまだ2教科の受験生が中心ですから、当分はないでしょう。
そもそも2科4科選択の入試にしたのは、入学者のレベルが上がってくるにつれて、国・公立大学の志望者が増えてきたためです。入学後の教科指導で鍛えることも大切なのですが、入学時までに4教科を勉強してもらうことも必要だろうと考えました。
(中山)
それでは、他の学校のようにいろいろなタイプの受験生を受け入れるためというわけではないのですね。
(長谷先生)
そうです。入試は、どのような生徒を求め、どのような方向で指導をしていくのかを示すものだと思います。2教科入試だけでは、「国・公立大学への進学は目指していない学校」というイメージを持たれてしまう可能性があります。本校の目指す指導とは異なってしまいます。
(中山)
入試問題や入試要項の上での変更点はありませんか。
(長谷先生)
平成13年の入試から、「各教科で20%分の問題は独自の問題を出そう」という方針で作問します。例えば、算数では「計算や式の過程を書くようにして、中間点を与える問題を出すこと」、国語では「記述をもう少し増やしていくこと」が決まっています。
そのため、採点の時間も考えて、当日発表を翌日発表に変更します。
(中山)
なぜ、問題を変更されることになったのですか。
(長谷先生)
受験生の学力の伸びが大きいからです。10年ほどの間、受けやすい問題をということで問題を作成してきたのですが、その間に各模擬試験の合格基準偏差値は15上がりました。
もう独自の問題を出しても大丈夫だろう(笑)という思いがあります。
(中山)
特別入試の問題は独自な問題でしたね。
(長谷先生)
国語1教科の入試ですから独自色を出すことができます。論理的な思考をする力を見る問題を作成してきました。かなりの量の記述もいれています。
(中山)
形式だけではなく文章の内容も独特ですね。特に、日米のボランティアを比べた文章は印象に残っています。
(長谷先生)
そう言っていただけるのは、とてもうれしいことですね。入試問題が学校を語ると思って問題文にする文章を必死に探します。
(中山)
最後に校長先生から品川女子を希望する受験生や保護者の方にメッセージをお願いします。
(漆先生)
入学試験には面接がありませんが、期せずして本校に合う生徒を面接して選んだようにとても明るい生徒が入ってきます。それは、本校の様子を実際に見たり、発信する情報を見たりした上で、気に入って受験されているからだと思います。
本校に入ると、本人だけではなく保護者の方も「何でもやってみよう」という気持ちを持っていただけるようです。そのような気持ちを持っていただける方々を、私たちは「品川ファミリー」と呼んでいます。受験生には自分も「品川ファミリー」に加わりたいと思って受験していただきたいと思います。
以上
学校風景1、学校風景2、学校風景3