2001年9月18日(火)訪問:白百合学園中学校・高等学校は都心部の九段にある。一帯は、JR線や地下鉄線が集まり交通の便の良いところである。ビジネス街であると同時に、多数の大学・短大、中学・高校が立ち並ぶ文教地区でもある。北の丸公園や靖国神社などの緑にも恵まれ、都心と思えない教育環境にある。カトリックの理念に基づく伝統ある教育を進める一方で、少人数の利点を活かしたきめ細かな進学指導は評価も高い。ハイレベルな受験生を集めて東京では2月2日受験の最難関校となっている。併設小学校を持つことを考えると進学実績もトップクラスと言え、医学部などの理系への進学者も多い。学校長佐久間富士子先生、入試委員長辻るり先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「大掃除が『力が入る行事』の上位にランクされる」

(中山)
白百合学園は、次代を担っていく女性を育てていらっしゃるという印象を受けています。校長先生が教育の上でお考えになっていることをお話しください。
(佐久間先生)
私どもは創立以来ずっと女子教育を行ってきました。世間一般には、女性は弱い、受け身である、男性の後をついていくもの、などというイメージで捉えられているところもあります。 しかし、本校では神からいただいた自分の人生を社会に役立つように自分の能力を開発し、他者のために奉仕できる女性を育てたいと考えています。
(中山)
教育の中で生徒が社会に役立つための仕事を持ちたいと自然に考えるように教育をされているわけですね。
(佐久間先生)
そうですね。ただし、それだけではないのですよ。 本性的に女性の持つ使命というものも大切にすることも教えています。 温かさや思いやりなど、まとめて母性愛とでも言いましょうか、女性が本当にしっかりして、家庭を持ち、家庭の土台をつくる力を持つことも必要です。 つまりはバランスの取れた人間教育を進めています。
(中山)
バランスの取れた人間教育ということですが、その基本となると思われる宗教教育についてお伺いします。
(佐久間先生)
本校の教育は基本的にみな宗教教育と言えます。 「神様からいただいた命や能力は人のために使われることが望まれている」 という考えのもとに教育が進められます。
(中山)
生徒にとってかなり難しいことなのではないのでしょうか。
(佐久間先生)
そうですね、能力というのは見えないものですからね。 自分をよく知ろうとする努力が必要です。一生懸命にものごとに取り組んでいる中で初めて自分の能力が見えてきます。だからいろいろな機会を通じてそのことを伝える努力をします。
(中山)
例えばどのような機会を通じてでしょうか。
(佐久間先生)
今は学園祭が近いので、その中で与えられた仕事を誠実にやってみましょうと話しています。男子がいないので、当然大工仕事とか力仕事も自分たちの責任でやらなくてはなりません。これなどはやり遂げたときに「自分にはこんな力があったんだ」と気づき喜びが生まれるものの一つと言えるようです。
(中山)
学校行事が大きな意味を持っているのですね。
(佐久間先生)
そうですね。行事は自分を磨く場になりますから生徒にも評判が良いですね。
(中山)
おもしろい行事、独自の行事など、ご紹介ください。
(佐久間先生)
年3回の学期末の大掃除は楽しいものですよ。
(中山)
大掃除ですか。
(佐久間先生)
ええ。生徒と先生だけで行うものですが、生徒会のアンケートでも「力が入る行事」(笑)の上位に大掃除が入っています。
(中山)
それは珍しいことです。最近の生徒、特に女子には掃除が嫌いで下手な生徒が目立つようにち見受けますから。「大掃除は」どのように進められるのでしょうか。
(佐久間先生)
生活委員会がプランを立てて進めます。実に細かいところまで決めてやります。プランづくりには教師はほとんど手を貸しません。
(中山)
その大掃除プランについてもう少し詳しくお話しください。
(辻先生)
まず、必要な用具の数を割り出し、不足するものは注文書を提出して調達します。
そろったら自分たちでそれぞれの場所に配布します。終了後は回収と後片付けのチェックもします。少々のアドバイスをすれば後は自分たちでてきぱき進めていきます。
(中山)
それは大変なことですね。最初からそのようにできるのでしょうか。
(辻先生)
中1での指導が肝腎ですね。担任は教室の掃除からトイレの掃除まで一緒に行います。中には箒を使ったことがない生徒、雑巾を絞ったこともない生徒もいます。当然やりたくない生徒もいます。
(中山)
そのようなときはどうなさるのですか。
(辻先生)
自分が使ったところは掃除するものだと教えながら進めます。でも、嫌なことでもみんなでやれば楽しくなるので、何よりも掃除が好きだという生徒も出てきますね。
(中山)
まあ、それは素晴らしい。
保護者のみなさんに掃除の指導を協力してもらうこともありますか。
(校長先生)
ありません。 トイレ掃除がうまくできるようにして下さいなどとお願いすることもありません。(笑)
(中山)
それはそうでしょうね。すべて学校生活の中で身に付くのですね。
(校長先生)
そうです。トイレもきれいですよ。床に座っても良いくらいです(笑)。

「保護者会には欠席がない」

(中山)
能力を見つけ伸ばすという点では学力を伸ばす指導も重要です。白百合学園は進学校としても高い評価を得ていますね。
(佐久間先生)
私たちは特にそれを意識しているわけではありませんが、最近の生徒は自分の能力を伸ばし生かしていくことに目覚めてきたように思います。 ですから将来の道を自分で切り開いていくための指導、いわゆる受験指導にも私たちも力を入れています。
まだまだ完全ではないと思いますが努力を続けています。
(中山)
先生は謙遜されていらっしゃいますが、卒業生の数を考えると見事な大学合格状況だと思います。受験生や保護者が白百合学園を選ぶ大きな要素になっていると思いますが、いかかでしょうか。
(佐久間先生)
大きな条件の一つでしょうね。中学校からの入学者だけでなく小学校からの内部進学者も皆同じでしょう。先輩たちがどこの大学に入ったからと自分自身に発破をかけて熱心に取り組む生徒が多いのが本校の特色でしょうね。
(中山)
進路指導にはどのような基本方針があるのですか。
(佐久間先生)
本校の場合、バランスの取れた人間教育の一面として受験指導があるので、東大へは何名、あるは京大へは何名を入れようなどと考えて指導はしません。データは結果としてそうなるものです。進路指導にあたっては本人の意志を最も大切にします。
(中山)
保護者の意向も確認されるのでしょうね。
(佐久間先生)
担任が保護者との面談を行います。その席では。「お子さんはどのように考えているのですか。最終的には本人の意志が重要ですよ」とお話しします。そうでないと、例えば「お医者さんの子はお医者になる」などと決まってしまうことになりますものね。
(中山)
確かにそうですね。
(佐久間先生)
それでは、生徒に自分の希望に反して医学部に向けての勉強を強いることになります。
(中山)
それでも保護者としてはそうあって欲しいという希望もあるのではありませんか。
(佐久間先生)
保護者に尋ねると「ウチでは自由にさせています」と返答されることがほとんどです。
ところが「自由にして良い」と言われると、かえって子どもの方から「医者になる」などと言い出す場合が多いようです(笑)。どうも人間にはそのような心理があるようです。
(中山)
面白いことですね。進路指導だけではなく、保護者に学校の教育方針を理解してもらうためにいろいろな働きかけをされていらっしゃると思いますが、いかがでしょうか。
(佐久間先生)
まず保護者会ですね。保護者会は学年ごとに行います。中1は3・4回、後の学年は最低2回です。
(中山)
やはり最初の学年での教育方針の理解は重要なのですね。
(佐久間先生)
ええ。その通りです。本校では保護者会でほとんど欠席者がないのは自慢できますね。たまに1・2名の欠席がありますが、必ず前もって連絡があります。後日お話しをします。
(中山)
欠席がないというのは素晴らしいですね。
(佐久間先生)
その他に、年1回、お父様とお母様と別々に講演会を行います。白百合学園の教育、カトリックの学校の教育というテーマでお話しします。そして、月1回の宗教講話会もあります。今日ちょうど女性、つまりお母様向けのものが開かれています。こちらも皆勤の方がいらっしゃいます。
(中山)
お父様、お母様を別々にされるのは特別な意味がおありですか。
(佐久間先生)
別にご一緒でも良いのですが、時間的な都合がありますから、お父様は仕事が終った後の時間帯で行います。保護者会などのいろいろな行事にはお父様の参加も多数あります。
(中山)
教育を進める上では、お父様にも関心を持ってもらえることは重要なことですから、配慮されているわけですね。このごろよく聞かれることですが、お父様からお嬢さんとの会話がなくなって寂しいとか、どうしたらだろうかというような相談などは白百合学園でもおありですか。
(佐久間先生)
そうですね。成長の過程で普通に起こる現象ですから、中1の保護者会などでも私どもの方から6年間にどのようなことが起こるかお話ししています。
(中山)
どのように対応するのが良いとお話しされるのですか。
(佐久間先生)
お父様には「一時期離れていても高3の頃になると信頼関係が築かれて、また会話が始まりますから、しばらくお待ち下さい」と話します。また、「その間はお母様が支えになってお父様の存在を感じさせるように接してください」とも話します。

「子どもは評価されることを待っている」

(中山)
価値観が多様化してくるとご家庭の教育に対する考えもいろいろです。その結果、うまく子どもの教育を進めることができないご家庭もあります。最近いろいろな問題をかかえる子どもが増えています。白百合学園の生徒はいかがでしょうか。外見的な例を申し上げれば、「茶髪」などがあげられますが。
(佐久間先生)
やはり問題はありますよ。程度の差はあるものの、人間の持つ弱さからいろいろな問題が起こります。
(辻先生)
いろいろな生徒がいて、いろいろな刺激を受けて来ています。ですから茶髪などに関心を持って道から外れる時期もあります。そのような場合、価値観を押しつけるのではありませんが、ご家庭と連携してあるべき姿が何なのか気づくまで指導を続けながら待ちます。
(中山)
指導の結果、あるべき姿に気づくのですね。
(辻先生)
そう思います。そのような生徒も好奇心からやってみたというレベルで止まっています。大多数の生徒はそういうことには関心がないので逆に浮いてしまうように感じるのでしょう。日々の生活の中で修正ができます。もちろんこのような事例は深刻でない場合のことですが。
(中山)
白百合学園の生徒にはあるべき姿に気づく素地があるのでしょうか。
(佐久間先生)
素地があるからでなく愛情の問題だと思います。 子どもは親が自分を愛していると感じていれば必ず気づくものです。 だから、何か問題があるときはまず保護者に話しをします。「お子さんと話し合ってください。真夜中でも夜を徹しても良いですから、話し合って愛情の接点を見つけてください」とお話しします。 子どもは親の姿を見て育つわけですから、親が自分のためにこんなにしてくれると感じると立ち直ることができます。深刻な事態になるまでに抜けだすことができます。
(中山)
外見的な問題以外にもコミュニケーションの能力の不足などから引き籠もりになっていく子どもも増えています。
(佐久間先生)
幸いなことに本校ではほとんどありません。稀にあっても周囲が温かく見守っていくことで卒業できるまでになります。しかし、このことについては私もたいへんな問題だと思います。内面的な問題なのでなかなか気づかない場合があります。そのうち深刻な状況になっていくわけですから。
(中山)
せっかく頑張って入学した学校も辞めてしまったような場合など、保護者の悔恨や心労はたいへんなものです。何かアドバイスがありましたらお話しいただけないでしょうか。
(佐久間先生)
具体的などなたかを前にせずに、私の立場で何かが言えるものではないと思います。
ただ、困難なことに出会ったときは、慌てず、焦らず、自然に愛情を示していくことが大切だと思います。幼い頃のように自分が愛されていると感じられる、生活の基本のところから愛情が確認できるように接することが必要なのではないでしょうか。
(中山)
「スキンシップ」と言われることでしょうか。
(佐久間先生)
それもあるでしょう。ある精神科のお医者様のお話の中に、十代の傷ついたお子さんの対応に、幼児期の排泄のしかたから取り組んでもらったというお話を聞きました。
(辻先生)
当事者にしてみればとても大変なことでやりきれない気持ちになるでしょう。以前ならば「怠けているからだ」とか「親が悪いからだ」とか非難をされ、最悪の事態になっていました。
しかし、以前とは異なって大学に入るのさえいろいろな選択肢があります。私はこれまでの価値観にとらわれずに子育ての課題だと考えて、どっしり構えて取り組まれれば良いと思います。決して特殊なことではなくなっていると思いますね。明るさを失わないことも大切です。
(中山)
悲観視しすぎないようにすることですね。お母様方は特に責任を感じてしまいますもの。
(佐久間先生)
誰か一人に責任があるというそんなことはないのです。考えすぎないで将来に希望を持って望むことが肝腎です。
(辻先生)
乗り越えられたら人間的にも成長ができるはずです。乗り切るためにどんどん褒めて認めることが大切だと思います。核家族になって評価してもらえる機会が減りましたね。本校の生徒を見ても皆認めてもらいたいと思っています。どんな些細なことでも構わないから認めて褒めることが必要だと思います。
(中山)
白百合学園の生徒でも認めてほしいと強く思っているのですね。良いお話をありがとうございます。先生方の熱いメッセージは悩んでいる方々に大きな力になるでしょう。
(辻先生)
お掃除の楽しさは授業を離れて雑談したりしながら一時を過ごすことにあります。生徒と距離が近くなる分、生徒にとっては認めてもらえる機会が増えることになります。
特にトイレ掃除は閉鎖的だから(笑)、余計そうなります。
(佐久間先生)
トイレで会いましょう(笑)ですね。担任の先生が羨ましい点はそこですね。校長の立場では特別に生徒と親しくするのは難しいので残念です。

「国語の出題には自信がある」

(中山)
生徒の活動状況、例えば部活動などはいかがですか。
(辻先生)
33クラブあります。 活動時間があまりとれないのですが、密度の濃い活動をしていると思います。 運動系のクラブが強くなってきましたね。
(佐久間先生)
第1支部の大会で上位に入るクラブが増えました。しばらくなかったことですね。
(中山)
文化系のクラブはいかがですか。
(佐久間先生)
最近は廃部になる学校が多い茶道部が部員が多いですね。 他には華道部、演劇部、ESS、器楽部も部員が多いですね。 ここ数年、文化祭でESSと器楽部が合同で英語劇をします。これは注目ですね。
(中山)
活動時間はどのくらいですか。
(佐久間先生)
下校が5時なので1時間半あるかないかです。
(辻先生)
運動系が週3日、文化系が週1日の活動です。
(中山)
中学生はクラブ活動に全員参加ですか。
(佐久間先生)
そうですね。高校は自由参加になるのですが、高3でも運動系のクラブで活動している生徒もいます。
(中山)
運動がきちんとできる生徒は大学合格率は高いと言われますが。
(佐久間先生)
その通りですね。メリハリよく日常を過ごせるからでしょう。
(中山)
最後に入試に関してお伺いします。国語、算数の2教科と理科、社会の2教科とでは出題方針に違いがあるように思われます。記述で考え方を重視する問題と知識主体の問題とかなりの違いが見られます。意図的なものでしょうか。
(辻先生)
出題は各教科に任されています。全体として、難解すぎるものや突飛なものは出さないということでは統一されています。ただ、教科の特色があるので問題の基本構成はちがうことになります。
(中山)
国語の問題は記述力を要求する良問なのですが、記述嫌いの生徒が増えてきたために、中学入試全体では記述が減る傾向にあります。問題内容の変更を検討するということはありますか。
(辻先生)
国語もこちらの望む生徒を選抜できる出題を続けていくと思います。
(佐久間先生)
本校の国語は伝統的に考えさせる問題が多く出されます。 読書量の多い生徒が受験しますので、この傾向は変えないと思います。
(中山)
それを伺って安心しました。
(佐久間先生)
宗教教育と語学指導が本校の特色だと謳っています。特に国語はとても大切だと考えております。すべて学力の基本となるものですからね。 以前は「こんな問題を小6に出して良いのかしら」と思ったこともありますが、今は自信を持って出題しています。
(中山)
よくわかりました。次に面接について伺います。 白百合学園の受験に関する相談は「相談メール」などでも多数あります。その中で面接時の服装に関することが特に多いのです。
(佐久間先生)
今でもあるのですか…。
(中山)
内容は「面接時の服装は紺の上下でなくてはいけないのか」というものです。 デパートでそのように言われたということのようですね。
(佐久間先生)
塾の指導ではないでしょうか。
(中山)
私どもでは、立ち居振る舞いや言葉遣いが適切であれば良いと答えるのですが、一部の保護者の間では先ほどの服装については当たり前のように言われているようです。
(佐久間先生)
説明会でもっとはっきり言った方が良いですね。実際のところ、寒い時期なのでズボンで来る生徒もいます。相談を受けた場合にはそのように答えてください。
(中山)
はい。そういたしましょう。 最後に佐久間先生から受験生や保護者にメッセージをお話下さい。
(佐久間先生)
学校のことをよく知るためにいろいろな機会に学校においで下さい。そしてこの学校が気に入って、是非入りたいと思って来てください。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆佐久間校長は親しみやすい話しぶりで聞く者を引きつける。どんなことにも正面から深い愛を持って取り組む大きさが窺え心温まる時間であった。従来の閉ざされたイメージを持っていた白百合学園はなく、良い意味で変わりつつあることを感じさせる。教務スタッフの力量も豊かで高く、充実した教育の場となっている。
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