「他がやらないことをしなければ枠から抜けられない」
(中山)
頌栄は進学校として高い人気を集めていますが、
どのような取り組みを されてきたのでしょうか。
(岡見如雪先生)
今日の頌栄ができあがるまでは改革の連続だったよ。
私の祖父が創立者だったため、永年続けた会社勤めをやめて頌栄にきてね。
最初、学校というところは非常に遅れていることに気づいてとても驚いたもんだ。
当時は私立学校が最低の時期 で公立に入れない生徒の受け皿のようなものだったからね。そこで、それまで会社でやってきたように
「他がやらないことをしなければ枠から抜けられない」
と、新しいことを計画するんだが、その度に学校内では反対されてね。
でも私立校の校長会でも話がほとんど合わないことばかりだったから(笑)頌栄だけのことではなかったんだねえ。
(中山)
どのようなことを実行されたのですか。
(岡見如雪先生)
中学校に力を入れようと、木造の校舎を壊して鉄筋3階建の校舎を建てた。先生たちには気が狂ってるんじゃないか(笑)と思われたようだけど、
こっちは真剣だったね。
最初は入学者が少なくてがら空きの教室があってね、思案の末にベニヤで仕切って授業をしたこともある。それが今の小教室に残っているかな(笑)。
そうだ、その当時、麻布の教頭先生に「頌栄も麻布のようになりたい」とアドバイスを求めて、そのアドバイス通りに、受験生が少なくても全員合格にはしない方式をとったのもみんなの猛反対にあったよ。それは、学校経営
の面からも大変なことだったから当然だけれど、結果として入学者のレベルが上がり、中学受験がうまくいくようになったからね。
大きな改革をしないとだめなんだと思うよ。思いきってね。
(中山)
他校に先駆けてカラフルなデザインの制服を採用されたのも同様な考えからですか。
(岡見如雪先生)
うれしいね。いいだろう?制服の改革も大変な反対があったんだ。
誰一人賛成しない中で、制服を変えることになったのは、英国頌栄(ウイ
ンチェスター頌栄カレッジ)の学長が日本に来た時に、
「東京中でどこにも頌栄 の生徒がいますね」
と言ったことがきっかけになった。
当時はどこの学校もセーラー服で、女子中・高生はまるでカラス(笑)のよう。頌栄の生徒にはチャーミ
ングであってほしいし、学校や制服に対して特別な思いを持ってほしいと強く思ったからね。思春期の大事な時期に制服は重要だからね。
(中山)
皆さんが反対では、実行は難しいのではありませんか?
(岡見如雪先生)
この時も「幼稚園児みたいな制服では入学者がいなくなる」と
猛反対。そこで、私と定年を迎える女性の先生と新任の女性の先生と3人で制服委員会を作り、いろいろ考えて他にはないものを採用したよ。
(中山)
現在は他の私立学校でも頌栄を模範に新しい制服を採用するようになりましたが。
(岡見如雪先生)
私立だけでなく公立でも同じような制服が増えたね。
他校に影響を与えたことはうれしいねえ。
「帰国生は堂々と意見を述べることができる」
(中山)
頌栄は帰国生を数多く受け入れる学校として知られていますが、
何かご苦労はありませんか。
(岡見如雪先生)
私の姉2人は帰国生で、私も19歳の時に第2次大戦前のアメ
リカに行き、考え方や生活のちがいなど、自分でも身をもって体験してきている。そんな経験があって、帰国生を多数受け入れることに不安はなかった。
日本で育った生徒はシャイな反応をすることが多いが、帰国生は堂々と自分の考えを述べ
るのが良いよ。この部屋には、ドアにピノキオがかかっていると入ってきて良い印
になってるんだが帰国生は人で入ってくるけれど、日本で育った生徒はたいがい付き添いつき(苦笑)で何人かで入ってくるんだなあ。
(中山)
どのような話をされるのですか。
(岡見如雪先生)
いろいろだねえ。
以前、帰国生の一人が、入ってくるなり「私、今日痴漢に遭いました」と言ってきたんだよ。
そこで、これからは「画鋲を持っていて、また遭ったときは刺してやろう。そして、大声で
『痴漢です』と叫べば大丈夫だ」と痴漢撃退法を説明してやったよ。最後に「チャーミングな子は痴漢に遭うんだよ」と言ったところ、「私ってチャーミングなんだ」と素直に喜んで帰ったよ。帰国生でなかったら、なかなか言ってくることができないじゃないかな。
私が83歳だから、何を聞いても大丈夫と思っているようだがね。どんなことにもたいがい応えられるし(笑)。もちろん、困った大人がいることはべつに大問題だがね。
(中山)
ところで、英語の授業では、帰国生は一般生と同じクラスになるのですか。また、一般生の中にも英語を小さい頃から勉強している生徒もいますが、そのような生徒はどのように指導されているのですか。
(岡見清明先生)
英語の授業では帰国生と一般生は分けて別の教室で行います。
ただ、英語に自信がない帰国生は一般生のクラスに、英語の力がある生徒は帰国生のクラスに入り勉強することができます。
「不良にするのはやさしいことだ」
(中山)
頌栄を目指す受験生の保護者へのアドバイスなどありましたらお願いし
ます。
(岡見如雪先生)
勉強はしっかりやってもらうのは当然。ここでは入学後の生徒や保護者に伝える内容を話すので、参考にしてもらうといい。
生徒には「8時間寝て、8時間勉強して、8時間遊びなさい」という話をする。「本当にこんなに寝ていいのか」という反応もあるけれど、「きちんと眠らないと早く老人にな
るぞ」と脅かすんだ(笑)。日本人は夜更かしが多いようで、「電車の中でも平気で居眠りする人が多い」とイギリスからきた大学教授が驚いていてね。イギリスでは、子どものときから「眠くても我慢して他人には絶対に寝顔を見せない」
ように教育されていからね。
(中山)
懐かしいですね。私もそのように教育されたものですが。
(岡見如雪先生)
そうだろうとも。残念ながら、だんだん親が手抜きになってきて、なんでも学校任せにするようになってきているのも問題だねえ。本来、教育とは家庭と学校が協力して行うものなんだが。それを保護者には理解してほしいものだね。過保護や放任では子どもは育たない。
頌栄の保護者には最初に「我が子がかわいいのは自分の子だからで、教師にとっては我が子は自分の子ではないということを忘れないでほしい」とはっきり伝えているよ。
受験する生徒にも最低限のマナーは身に付けておいてほしいと思って
いる。
(中山)
それでは、マナーを身に付けるために校則は多いのでしょうか。
(岡見如雪先生)
校則とは社会生活を営む上でのルールだから。家庭には、文章化されたルールは最近は特になくなっているのが現状だ。そのようなルールを守る訓練は学校の教育のひとつと考えているから、無意味と思われる校則はどんどん廃止し、社会生活を営む上で必要なものばかり残した。その点では、必ず守ってほしいね。
また、生徒や保護者にこれだけ要求する訳だから、教師にも厳しい要求をしているよ。時には私自身が1時間も説教や指導をすることもあるんだよ。先生も大変だ(笑)。でも当然のことだろう?。
(中山)
それは厳しいお話ですね。
(岡見如雪先生)
子どもを一人前の社会人にするためには、まわりの大人がしっ
かりしていなくてはならないだろう。子どもを不良にするのは簡単なことだから
。お金を与えて好きに使わせ、親は家に居ない。この二つだけで簡単にいわゆる不良になることはできる。目標を持ち努力をすることを教育するのは、難しいことだが、それを教えていくのが大人の義務だと考えている。
(中山)
8時間遊びなさいということも、受験を経た保護者はかなり驚くものだと思いますが?
(岡見如雪先生)
机に向かってばかりいては、勉強内容が教科書の範囲に限られてしうことも多い。いろいろな体験の中で得られるものも多いと知ってほしい。
柔軟な思考力を持った大人が社会には必要だからね。下地になるのは十代だよ。
「面接は即座に答えるのが良い」
(中山)
最後に、入学試験についてお聞きします。年度や実施回によって入試問題のレベルにがかなりちがいがありますが、何か特別なお考えがあるのですか。
(岡見清明先生)
特に考えて問題を変えていることはありません。各教科で出したいと思う問題を出しているとお考え下さい。
当面、出題の方針を変えることはありません。また、各教科100点の配点を変更したり、足切りをする基準点を設けたりすることも考えていません。問題量が多く、難しい問題もありますが奇問はありませんので、しっかり勉強して入試に臨んで下さい。
(中山)
他校でよく見られるように、第1志望で2回とも受験した場合や身内に卒業生や在校生がいる場合は有利になりますか。
(岡見如雪先生)
合格者の選抜は成績上位から順に並べて、ある人数になったと
ころできる。そのラインは私が決めて、補欠合格者や繰り上げ合格者は教育的な面から考えて一切出さない方針を採っている。
第2回では第1回を受験した生徒が上位で合格している例が多いけれど、これは緊張などから第1回に失敗した教科があったためだと思えるね。
面接については、答えた内容にもよるが、問われたことに即座に答える方が有利だと思っていたら良いかな。
孫2人が中学受験をした際にも、予想外の質問に考え込んでなかなか答えられずに失敗した子と、即座に答えて合格した子に分かれるけれど、面接をある程度重要視する学校はどこも同じではないかなあ。
以上
学校風景1、学校風景2、学校風景3