2003年12月1日(月)訪問:浦和明の星女子中学・高校はさいたま市の住宅街の中に位置する。駅から広い歩道のある道路を通って10分弱で緑に囲まれた学園に到着する。従来、高校と短大を持つ学園であったが、短大の閉鎖にあわせて中学を開校した。併設高校は女子校としては全国的にも有名な進学校で、入試難度もトップレベルである。県内では県立浦和一女の併願校としても知られるが、難関私立大の合格状況では浦和一女をしのぐ。2003年に中学を開校し、この入学生が高校に進む際には高校募集が停止され、完全6年一貫になる予定である。都内の最難関校との併願者も多く、期待通り順調にスタートを切った。学校長武田恵子先生、広報部長小磯敦先生にインタビューした。
ほくしん教務統括 中山秋子

「中高一貫校の開校は開設時から夢だった」

(中山)
中学入試は初年度から大きな注目を集めました。最難関レベルを志望する受験生が集まり最高のスタートだったのではないかと思います。中学開校の基になったお考えとそこに至るまでの経緯をお話しください。
(武田先生)
埼玉に開校した時から中高一貫校にしたいと考えていました。本学園はもともと青森にありました。埼玉が属するカトリックの教区から招かれて新しい学校を開校したのです。青森では中学もありましたから埼玉でも同様にしたかったのですが、当時は事情が許しませんでした。
(中山)
その事情とはどのようなことでしょう。
(武田先生)
まずはベビーブームが終わり小学生が減少していたことです。そして私も学校を回って強く感じたのですが、埼玉では「私学は公立の下の下である」「私学は公立に落ちた生徒の受け皿である」という意識がとても強い土地でした。そのような状況で中学を開く意味があるのだろうか、またどのくらいの生徒が来てくれるだろうか、という不安がありました。
(中山)
それで中学は見送りになったのですね。
(武田先生)
そうです。「まずは高校から始めよう。私どもの教育が広く認められたら中学も開校しよう」という結論になりました。ですから中学開校は長年の夢だったのです。
(中山)
再び中学の開校が話題に上ったのはいつ頃でしょうか。
(武田先生)
その後も中学開校の話は持ち上がりました。12、13年前、当時の学校長の下で検討がかなり進んでいましたが、結局は見送りになりました。
(中山)
今回は開校の機が熟したということですね。
(武田先生)
そうです。外部的には文部科学省が率先して公立の中高一貫を推進する時代になったのが大きな原因です。私どもでも中高一貫校を開校するよいチャンスだろうと考えました。内部的には短大がその使命を終えたということで閉鎖が決まったことです。その結果として設備にゆとりが生まれましたので、そこで中学を開校して活かしたいという考えもありました。
(中山)
埼玉県内でも私学への期待、特に6年一貫教育への期待が高まっている中で開校は実にタイムリーだったように思われます。
(武田先生)
いえいえ、埼玉は東京・神奈川とはまだかなり違います。首都圏のカトリック学校の学校長の集まりではその違いがはっきりとわかりますからね。いつも栃木や静岡の校長先生と「こちらとは状況が違う」と話しています(苦笑)。
(中山)
このように高く評価されるまでには、いろいろなご苦労がおありだったのですね。
(武田先生)
そうですね。明の星では長くカトリックの色を前面に出さないでやってきました。埼玉という土地柄を考えると、公立中・高とともに伸びていく必要があったからです。
(中山)
ホームページにある「カトリックミッションスクール」という表現もあまり使われなかったのですか。
(武田先生)
それを強く打ち出したのは中学を始めることになってからですね。中学を始める時に「この学校は何なのか」と改めて考えてみました。するとやはり「明の星はカトリックミッションスクールだ」という結論になったわけです。ですからそれまでは「明の星は公立くさい学校だ」(笑)とよく言われていました。
(中山)
カトリックの学校はとてもきちんとした指導をすると考えています。その点ではいかがだったのでしょうか。
(武田先生)
本当にやらなくてはならない点はきちんと指導しました。が、ぎゅうぎゅう縛ることはありませんでした。公立のもっている良い面、自由な雰囲気は明の星にもあったと思います。
(中山)
その自由さはどこから来たものでしょうか。
(武田先生)
学校長がアメリカ人で、副校長は本当に自由人でした(笑)。だから私もそれに影響されている部分がありますね。カトリック・ミッション・スクールとは言っても、従来通りの自由な雰囲気の中で「自律心」そして「自立心」を育てていこうと考えています。現実は難しいでしょうがこれが理想ですね。
(中山)
その理想を目指して邁進されているご様子が伺われます。

「『伝えたい』という思いがあれば本質は伝わる」

(中山)
埼玉の最難関校が中学入試を始めるということで大きな話題となりました。多くの学力の高い受験生が集まったと思います。実際に中学生をお迎えになってどのようにお感じなりましたか。
(武田先生)
素直な子どもたちが多いと思います。学ぼうという意志も備えた子どもたちです。
(中山)
武田先生は生徒の皆さんとどんな時にお話しなさるのですか。
(武田先生)
毎朝、放送朝礼があります。その際に必ず話をします。
(中山)
生徒のみなさんの反応はいかがですか。
(武田先生)
初めのうちはやはり「なにやら大切なことを言っているようだけれどよくわからない」という感想でした。聞こうとする気持ちは感じられましたが。
(中山)
最近はいかがですか。
(武田先生)
もう難しい話もわかってくれている感触を受けます。「目指していることには間違いはなかったなあ」と改めて感じます。
(中山)
それはどのような時にお感じなったのですか。
(武田先生)
高校生と同じように4月にオリエンテーション合宿をします。その時に話した内容が11月の修養会の際に神父さんのお話と関わりがあるようになっています。その時に4月の話をしっかり覚えてくれていました。とても嬉しく思いました。
(中山)
それはよかったですね。
(武田先生)
そうですね。本当に手応えを感じました。
(中山)
先ほど「目指していること」とおっしゃいましたが、それは何でしょうか。
(武田先生)
建学の精神です。そして、その精神を表す校訓の「正・浄・和」です。これがなければ私学というのは存在価値がないし、教育を担当するスタッフの基盤となるものです。それを伝えていくことが大切だと考えています。
(中山)
放送朝礼でのお話の内容はどのようにしてお決めになるのですか。
(武田先生)
校訓の「正・浄・和」のひとつを年間のテーマにして話しています。中学生は2度同じテーマで話すことになります。2003年は「正」がテーマです。「正しさといっても単に法律を守れば良いというわけではなく、愛のある正しさが大切である」「正義は慈しみの心を持って行われる」ということを伝えたいと思っています。
(中山)
ホームページなどで武田先生が日々お考えになっていることをお伝えになるご予定はありませんか。
(武田先生)
今のところありません。ただ、小磯から「何か書いてほしい」と用意をさせられる(笑)ことはあります。覚え書き程度のものから始めて文章化することはあります。
(小磯先生)
それらは説明会などの資料としてお渡ししています。
(中山)
何かお話の際に工夫をされているのですか。
(武田先生)
はい。特に心がけていることがあります。こちらの思いがなかなか伝わらない部分もあるので、国語科の教師に相談したところ、「ふつうの話し方で話したら良いですよ。難しい表現は避けて『大和ことば』を使って話すと伝わりますよ」というアドバイスを受けました。その点は注意しています。
(中山)
宗教に関係されている他の学校でも同じように、伝えたい内容が十分に伝わらないのでご苦労されていると伺っています。
(武田先生)
中学生には難しい内容でなかなか解らないかもしれませんが、大切なことなのでしっかり伝えたいと考えています。「伝えたい」という思いがあれば本質は伝わると思います。
(中山)
本当にそう思います。
現在の中学生の状況はいかがでしょうか。まだ中2・3がいないということでお困りになることもあるのではないでしょうか。
(武田先生)
そうですね。部活動は中高一緒なので高校生に必死になってついていっているという状況でしょう。体力的にも精神的にも差がありますから。ただ高校生は中1の面倒をよく見ていると思いますね。そういう点ではうまくいっているでしょう。

「校長室の扉をひとつ生徒のためにいつも開けてある」

(中山)
武田先生は生徒と直接にお話される機会も多いのですか。
(武田先生)
よく廊下などで話をしますが、とても長くは話せませんね。この間、「チョー○○」と言ったら、「先生、その言い方は古い、古い」(笑)と言われてしまいました。このような会話では話せないことがあるでしょうから、校長室の扉2つのうち廊下側のものはいつも開けてあります。
(中山)
すると生徒は武田先生に直接いろいろな相談をすることもあるのですね。
(武田先生)
ええ。話の内容は必要に応じて担当の教師にも伝えます。
(小磯先生)
校長から我々が気づかない問題が提示されることもあります。それをもとに教師スタッフ全体で考えることもあります。
(武田先生)
学校としてどうしたら良いかを考えることは、関係する人間が人としてどうしたら良いかを考える基本になります。学校の教師集団全体で力を合わせて取り組むことが大切なのです。
(中山)
なるほど。
(武田先生)
ですから、トップダウンという形で、校長がつまらないところで煽り立てるようなことはこの学校ではありません。決まった方針には校長として責任を持ちますが、「ああせい、こうせい」とは言いません。
(中山)
先生方の責任も重くなりますね。
(小磯先生)
そうですね。しっかり考えないとできないことが多いので、私などは「十分ではない」と校長からよく叱られています(笑)。
(武田先生)
そんなことないですよ(笑)。みんな本当によくやっていると思いますよ。
(中山)
先ほどのお話に戻りますが,生徒が悩みを持ちかけることも多いと思います。いろいろな学校でうまく相談ができないで結局不登校になってしまう生徒の話を伺います。
(武田先生)
残念ながら明の星でもあります。いろいろな方法で対処します。すぐには解消されない場合には、「1年間、ゆっくり休んでいらっしゃい」と回復を待つこともあります。
(中山)
差し支えなければ、どのような対応をされるのかをお話しください。
(武田先生)
まず、保護者の意向ではなく本人の気持ちを尋ねます。最初は担任からですが、他のスタッフが加わることもあります。教育の場で対応ができる場合には教師スタッフが力を合わせて取り組みます。ところがそうでない場合もありますね。
(中山)
そのような場合はどうのようになさるのですか。
(武田先生)
学校教育では対処ができない場合には、医療の力も借りなければなりません。病院に通って専門家の治療を受けなくてはならない場合もあります。
(中山)
それはとてもご心配ですね。
(武田先生)
ええ。そのような状況になるのは社会の責任、私たち大人の責任です。塾の方を前にして失礼なことかもしれませんが、勉強させて良い学校に入れることのみを目標にして生徒を指導される塾も多いのはとても残念です。
(中山)
塾もよく考えなくてはなりません。宜しければ具体的な内容をお聞かせ下さい。
(武田先生)
校長室に話に来たのでわかったことなのですが、通っていた塾の教師が「○○へ行けるはずが明の星で止まった」と言ったそうです。そのことに長く悩んでいたそうです。心ない言葉で子どもたちを傷つけるようなことはしてほしくないですね。
(中山)
本当にそう思います。残念な発言です。そのような対応を絶対にしてはなりませんね。
(武田先生)
後は家庭の問題が原因になることも多いと思います。子どもの話を聞くことが少ないようです。そのことは良くないことだとわかっていただきたいですね。
(中山)
他の学校の校長先生からもたびたび指摘がありました。結果として過干渉か過放任のいずれかになりやすいと伺いました。
(武田先生)
学校の力だけでは十分ではないかもしれませんが、保護者会では頻繁にお話しします。役員会では役員となったお母様方と知り合っていろいろな情報交換をします。特に中学生の保護者、若いお母様方にはいろいろな機会を通じてお話をしています。

「進学実績を伸ばすために特別なことはしていない」

(中山)
入学者の学力を伸ばして、トップクラスの進学実績を揚げられているのは先生方の努力の結果だと思います。その方策をお話しください。
(武田先生)
学力を伸ばすことを目標にしてやっていることはあまりありません。
(小磯先生)
本当に普通のことしかしていません。進学指導のシステムとして特別にやっていることはないと思います。高2から大幅な選択制を採り入れ、基本的には授業の中で受験勉強もできるようにしています。受験をサービスの一つとして捉えていますので、学校がきちんと用意しなくてはならないと考えます。
(中山)
サービスという意識で取り組まれている学校はまだ少ないと思いますね。
(小磯先生)
特に新しいカリキュラムになって高3では自分が希望する大学の入試科目はほぼ採れるようになっています。補習も普通に希望制で放課後行っています。他の学校のように0時間目があるというようなこともありません。あくまでも生徒の自主性に任せています。他の学校より授業時間が特に多いということはないでしょう。
(中山)
授業以外では何か取り組まれていることがありますか。
(小磯先生)
進路指導部は「自分の人生設計から始めなさい」と指導しています。高2から選択授業が増えるので、その前の高1の秋頃から考えさせ始めます。「まず大学を目標として据えるのではなく、その先どのように生きていくのかを考えてから大学も考えなさい」と全体に話した後でクラス単位で指導していきます。
(中山)
人生設計からとは難しいのではないでしょうか。
(小磯先生)
考えさせる課程で生徒自身がいろいろと調べるわけです。「私にとって大学に進むことが必要だから頑張る」と主体的に進んでいけるようになりますね。後は友だちの影響があると思います。
(中山)
生徒の皆さんが自分自身で考えることが大切だとお考えなのですね。
(小磯先生)
そうですね。学校として「○○大学に何名」というような数字を追いかけません。結果としてどこの大学であれ「第1志望に受かりました」と言ってくれれば教師はみんな嬉しいと思っています。
(中山)
現場の先生方は授業をどのような方針で進めていらっしゃいますか。
(小磯先生)
上から数字のことが言われないので各教科とも本質的なことに費やせると思います。教師それぞれが自分の専門を持って勉強しています。そういう点ではレベルの高い指導ができると思います。
(中山)
なるほど。
(小磯先生)
各教師が本気で関わってくれるから生徒は自分で頑張れるのではないでしょうか。「○○の方面へ進みたい」と言って生徒が手を伸ばしたとしてもその手を無理に引っ張るようなことはしません。最大限サポートはしますが。
(中山)
小磯先生の授業ではいかがですか。
(小磯先生)
英語はどの分野でも必要とされる基礎力です。プレゼンテーションができてはじめて通用すると思っています。しかし、基礎ができていればこれも次第に身に付いていくでしょう。
(中山)
本当にそうですね。
(小磯先生)
英語は文法が間違っていても気持ちが伝わればよいという考え方もあります、一面では正しいのですが、明の星の卒業生はいろいろな方面で活躍していくはずです。そこで通用する正しい英語表現ができるようにしておきたいと考えていますね。
(中山)
よくわかりました。入試問題に関してお伺いします。初年度の入試問題は易しかったように感じました。実際に入学した生徒の状況を考えられて出題方針を変更されることはありませんか。
(小磯先生)
偏差値から捉えた入試問題のレベルは意味がないと考えています。当然、入試結果を踏まえて各教科で問題を作成します。その分析結果から判断して難度の調整を行っていくことになります。
(中山)
あえてこちらの希望を述べさせていただくと、文章をより深く読んでそれを基に考えをまとめる記述が多い出題をしてほしいと思います。現在の小学生は入試問題しか考え記述する機会がなくなっているように思えとても残念です。難度が高く影響力のある学校がそのような取り組みをしてくださるとありがたく思っています。 最後に受験生ならびに保護者へのメッセージをお願いします。
(小磯先生)
学校の持つ価値観や文化で学校選びをしてほしいと思います。他校の例として入ってから「こんなはずではなかった」という生徒や保護者の話はいろいろなところで聞いています。それは相互にとても残念なことだと思います。ですから明の星には実際に来て観ていただきたいと思います。そして「明の星は良い学校だ」と思われたら是非受験してください。
(武田先生)
「Be your best and truest self」ということですね。自分のベストであるように臨んでください。受かることだけを目的と考えると、結果だけしか価値がなくなります。悔いが残らないように、納得のいくように勉強して臨んでください。保護者の方は「あそこに入るのよ」と言って引っ張っていくのではなく、お子さんを理解し信頼して健康管理など必要なサポートをしていただきたいと思います。
(中山)
本日はどうもありがとうございました。

以上

学校風景1学校風景2学校風景3

☆付記☆武田校長は穏やかで温かみのある語り口で生徒や保護者に対する思いを語られた。高校開校当初からの数々のご苦労の結果、今日の明の星が築かれたことへの自負も感じられる。各方面から評価されるように指導力は高く、今後もさらにレベルアップが予想される。
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